レビュー

ネクライトーキー | 2019.07.24

 男女混成5人組ロックバンド、ネクライトーキーが絶好調だ。昨年3月に公開された「オシャレ大作戦」のミュージックビデオが大きな反響を呼ぶと、2019年のネクストブレイクを期待される筆頭バンドとして、異例のスピードで人気を拡大し続けているネクライトーキー。各地のサーキットイベントでは軒並み入場規制がかかる彼らは、昨年12月にリリースされた初のフルアルバム『ONE』を携えた年明けの全国ツアーが全8公演ソールドアウト。東阪で開催された追加公演も即日完売するという人気の加熱ぶりだ。ほぼ全曲の作詞作曲を手がける朝日(Gt)が生み出す、古今東西のロックへの愛情に満ちた遊び心溢れるバンドサウンドにのせて、女性ボーカル・もっさ(Vo/Gt)がキュートな歌声で紡ぐ鬱屈したポップワールドの中毒性が抜群に高い。

 そんなネクライトーキーが7月24日にセルフカバー・ミニアルバム『MEMORIES』をリリースした。今作は朝日が過去にボカロP「石風呂(いしふろ)」名義で発表した全8曲に、ネクライトーキーの演奏と、もっさの歌声で新たな命を吹き込んだ作品だ。これまでもネクライトーキーのライブでは、「ゆるふわ樹海ガール」や「夕暮れ先生」「きらいな人」といった石風呂曲が定番曲として演奏されていたが、音源化は初の試みだ。

 基本的な楽曲のアレンジは、石風呂時代の音源を踏襲しつつ、より個々の楽曲の持ち味を活かすかたちでブラッシュアップされた印象。結成から2年にわたり、全国でバンドのグルーヴを磨き上げてきた5人だからこそ鳴らせる肉体感のあるバンドサウンドへと進化した。なかでもファンタジックな気配が漂う「あの子は竜に逢う」の表情豊かなアプローチ、「ゆるふわ樹海ガール」の誰にも止めることのできない勢いと疾走感は、人間と人間の個性や息遣いがぶつかり合う生のバンドならでは。リード曲「音楽が嫌いな女の子」では、ベースの藤田が魅惑の低音ボイスでボーカルをとったフレーズも聴きどころだ。そして、今作を聴いて強く思ったのは、もともとVOCALOID用に作られた難易度の高い楽曲を、完全に自分のものにして乗りこなしてしまう、もっさのポテンシャルの高さだ。石風呂が惚れ込み、バンドへと迎え入れた天真爛漫なボーカリストの魅力を、今作は再認識させてくれる。

 前述の全国ツアー中に、それまでサポートだった中村郁香(Key)が正式メンバーに加わり、バンドとして盤石の体制が整ったこのタイミングで、その中心人物である朝日=石風呂の原点に全員で向き合ったという点でも意義深い今作。その楽曲たちを、誰もが納得できるレベルまで昇華してしまう力量が、今のネクライトーキーの無敵感を物語っている。

 ちなみに、石風呂時代の歌詞は、ネクライトーキーの楽曲に比べて、さらにネクラ度が高め。《小学校の先生も/中学の同級生も/みんな死んじゃえばいいのにな》と毒を吐く「きらいな人」など、その口調は身も蓋もないほどストレートだ。だが、決して卑屈ではなく、「あれやこれやもあるけど、生きるしかないっしょ」と割り切った明るさが痛快だったりもする。この作品の最後に収録された「ティーンエイジ・ネクラポップ」は、“ティーンエイジよ、ありがとう”“未来のことを睨みつけながら行こう”というフレーズで終わる。真意は定かではないが、今作で「石風呂」とネクライトーキーの融合を図り、ある種のけじめをつけることで、ここから朝日はネクライトーキーにすべてを懸け、さらに加速度を上げてゆくつもりではないだろうか。今作は、その布石のような気がしてならない。

【文:秦理絵】





ネクライトーキー mini AL『MEMORIES』trailer

リリース情報

MEMORIES

MEMORIES

発売日: 2019年07月24日

価格: ¥ 1,852(本体)+税

レーベル: Necry Talkie

収録曲

01. 音楽が嫌いな女の子
02. ジャックポットなら踊らにゃソンソン
03. 夕暮れ先生
04. あの子は竜に逢う
05. 浮かれた大学生は死ね
06. きらいな人
07. ゆるふわ樹海ガール
08. ティーンエイジ・ネクラポップ

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