レビュー

神山羊 | 2019.10.25

 シンガー・ソングクリエイター、神山羊(YOH KAMIYAMA)が10月23日に2ndミニアルバム『ゆめみるこども』をリリースした。神山は、2014年からネットシーンで“有機酸”名義で活躍していた知る人ぞ知るクリエイターだ。有機酸名義でのオリジナル作品はもちろん、3人組クリエイティブ・ユニットkolmeの「I’m alone 有機酸 Remix」(2018年)など、重厚な音の広がりを感じさせてくれるJ-POP感覚をアップデートするサウンドワークに魅了されたのだ。



 そんな彼が“神山羊”名義となり、2019年4月に1stミニアルバム『しあわせなおとな』で活動をスタートした。TikTokにて「YELLOW」がバズり、その結果YouTubeで再生回数が3,100万を突破するなど、その存在を、過渡期を迎えた音楽シーンに鮮烈に解き放った。

 発売されたばかりの2ndミニアルバム『ゆめみるこども』は、タイトルをみてもわかる通り1stミニアルバム『しあわせなおとな』と対となる作品だ。おとな時代とこども時代をループする記憶の断片、音楽による絵の浮かぶストーリーテリング。フィジカルでリリースした手に取れるCD作品も数量限定特殊パッケージ仕様で2パターン制作し、軸となる楽曲を気鋭のクリエイター / デザイナーを迎えて映像化するなどセンスとアイディアに富んでいる。



 何より注目したいのが2019年を代表する大名曲と言い切りたい「アイスクリーム」が誇るポップアンセムとしてのメロディーと言葉、オールドスクールなロックサウンドの強度さだ。先行配信された大人の色気を感じさせるダンサブルな「CUT」とは真逆のアプローチながら、そのメッセージ性にはドキッっとする毒も仕込まれている。何も持たないことに焦りを感じ、何かをつかもうとするのだが気が付いた時には若さは溶けていく。そんな青春期の葛藤が胸に響く。他にもハードなビートとパンキッシュな言葉が胸を刺す「Child Beat」、EDMライクなダンスミュージック「bunny」、メロウなサウンドが夜に溶けていく「夜を終わらせないで」、神山らしい音使いの愉快なギミッカブルなポップチューン「ヘルタースケルター」、東洋医学を映像に迎えた「おやすみ、かみさま」におけるシンプルなロックサウンドが物語を流麗に締めくくる。



 神山羊サウンドの特徴、それはシンガー・ソングライターとしての歌えるメロディーの強靭さ、サウンドクリエイターとしてこだわりのトラックメイクの繊細さだ。そのセンスは、海外ラップミュージックやインディーロックからの影響もうかがえる。



 令和がスタートした2019年という時代の転換期。昭和64年における歌謡曲の終焉、そして平成元年におけるJ-POP誕生から30年が経過した2019年。歌謡曲のイメージは、もはやデフォルメ化した“昭和歌謡”と同義と言えるかもしれない。J-POPのイメージも、ドラマ主題歌やCMヒッツなどCDバブル期に象徴される90年代サウンドの香りが色濃くなった。そんななか、デジタライズされたDAW環境の進化、流通=届け方の変わったストリーミング時代を迎え、作詞作曲から編曲を超えてトラックメイクまでもコントロールするシンガー・ソングクリエイターの誕生にあらためて着目したい。表現者であるアーティストの在り方が変わったのだ。その開拓者として名曲を生み出し届けてくれる存在、神山羊に注目したい

【文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)】

リリース情報

ゆめみるこども

ゆめみるこども

発売日: 2019年10月23日

価格: ¥ 2,000(本体)+税

レーベル: e.w.e

収録曲

01.Child Beat
02.アイスクリーム
03.bunny
04.Ope(Till that Time) ※instrument
05.CUT
06.夜を終わらせないで
07.ヘルタースケルター
08.おやすみ、かみさま

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