実際のところは典拠不明な、ほぼ都市伝説のようなものらしいのだが、かの文豪・夏目漱石が“I love you”を“月が綺麗ですね”と訳したというわりとよく知られたエピソードが、この曲を聴きながらふと頭に浮かんだ。この曲とはすなわち、12月11日より配信開始されたクリープハイプの新曲「愛す」（読み：ブス）のこと。“愛す”と書いて“ブス”と読ませるところからしてなんともクリープハイプらしく、ざっくりと要約するなら、愛しくて好き過ぎてブスとしか言えず、好き過ぎてブスとしか言えないことも伝えられないまま相手の手を離してしまった男（とも限らないが）の歌なのだが、“蕎麦の中の月”“見上げれば空には月”と歌詞に2度登場する“月”に抑えて抑えて抑えた“I love you”が滲んでいるように感じられたのだ。聞くところによれば夏目漱石という人も相当に偏屈だったそうだけれども、尾崎世界観によって綴られた、もはや巧みですらある捻くれた愛情表現は、歌い出しのワードの引用になるが“逆に”ストレートだとも言える。きっと相手も気づいていたのではないだろうか、彼の“月”を。

クリープハイプ - 「愛す」 (MUSIC VIDEO)

　それにしても、最近のクリープハイプはなんとも柔らかい。今年11月16日に現在のメンバーとなっての10周年を迎えた彼ら（先立って配信されている「バンド 二〇一九」も必聴）。バンド初の著作『バンド』刊行や、来年には過去最大規模となる10周年記念ツアーの開催が決定するなど、おそらく4人の間にはこれまでになくいい空気が流れているはずで、その充実が彼らの音楽をいっそう幅広く、懐の深いものにしていることが今作からも伝わってくる。アコースティックギターの音色と優しい歌声のアタマサビから始まり、ホーンセクションをフィーチャーして軽やかに展開するバンドアンサンブル、打ち込みのクラップ音もいいアクセントだ。ホーンセクションを取り入れた楽曲といえば、映画『帝一の國』主題歌となった「イト」も大きな話題を呼んだが、それとはまた異なる、ほどよく甘いソウル風味のアプローチも耳に心地よく、歌詞を読まなければ喪失感など微塵も感じないだろう。ひと言で言うならポップ、加えてキャッチー。今の彼らの音楽はポピュラリティに対峙して、なお揺るぎない強さとたおやかさに溢れている。そんなタフでハッピーなサウンドに、この歌詞を乗せて歌えるからクリープハイプなのだと思う。

　秀逸な言葉選びやその組み合わせなど尾崎の卓抜した筆致に関しては、あえてここでは触れずにおこう。受け止めたあなたの読み解き方で楽しみ慈しんでほしい。たぶん“バス（＝BUS）”は“ブス”に掛かっていると思うのだが……如何に。

【文＝本間夕子】

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10周年全国ツアー「僕の喜びの8割以上は僕の悲しみの8割以上は僕の苦しみの8割以上はやっぱりクリープハイプで出来てた」
2020/2/7(金)北海道 Zepp Sapporo
2020/2/15(土)宮城 チームスマイル仙台PIT
2020/2/16(日)宮城 チームスマイル仙台PIT
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10周年全国ツアー「僕の喜びの8割以上は僕の悲しみの8割以上は僕の苦しみの8割以上はやっぱりクリープハイプで出来てた」スペシャル
2020/3/15(日)千葉 幕張メッセ国際展示場9-11ホール
2020/3/22(日)大阪 大阪城ホール
フラワーカンパニーズ presents 『第二回ニワトリフェスティバル』(※尾崎世界観の出演)
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2019/12/27(金)大阪 インテックス大阪

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2019/12/31(火)千葉 幕張メッセ国際展示場1～11ホール、イベントホール

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