より“歌ってる自身の気持ち”が反映された作品となった、阿部真央のニューアルバム

阿部真央 | 2011.05.31

 待ちに待ったサード・アルバム『素。』が完成。全12曲にプラスして、震災直後に書き下ろされた「光」が加わった13曲は、ガツンとした聴き応え充分。
 進化したバンド・サウンドあり、深化した弾き語りあり。シンガーソングライターとしての自分の心の奥底に降りていって、つかみ上げた言葉とメロディは、光も影も濃厚な線をもって阿部真央の現在のエッジを描き出す。喉のトラブルを越えて復帰したその力強い姿は、いろいろな意味で聴く者をアッパーにしてくれる。
 ききたいことが、たくさんある。さあ、ロング・インタビューの始まりだ!


EMTG:アルバムの制作期間はどれくらいだったんですか?
阿部:「光」以外は全部、去年のツアー前に作ってました。7、8、9、10月の4ヵ月間ぐらいですね。
EMTG:『素。』っていうアルバムタイトルは、最初から決まってたの?
阿部:決まってました。
EMTG:『ふりぃ』『ポっぷ』ときて、『素。』って、初めての漢字タイトルじゃん。
阿部:そういえば、そうだ(笑)! そういう“流れ”はあんまり考えてなかったです。今回は、過去の2枚のアルバムに入れなかった、高校の時のストックと、あとはその時にあった何曲かの未完成な曲を仕上げてアルバムになりました。正直、忙しくてスケジュールがパンパンで、私の中で「もうこれしか出せません」みたいな意味も込めての『素。』です(笑)。
EMTG:あはは、それは大変だ(笑)。
阿部:よくも悪くも『素。』、っていうのもあるんですけど。あとは「痛み」とか「19歳の唄」とか、今まで入れてなかったタイプの曲が入ってる。今までは人間誰もが若いときに感じるキュンとする恋だったりを歌ってきて。それってどんな性別の人でも、どんな職種の人でも感じれたりするじゃないですか。
リスナーさんにとっては、歌っている阿部真央の苦しみとかそんなことはどうでもよくて。でも今回は、“歌ってる阿部真央の気持ち”を反映した曲が入っている。それしか書けなくて。だから、そういうのも“素”っぽいなと感じたんです。
EMTG:高校生のときに作った曲はどれ?
阿部:「じゃあ、何故」っていう唄と・・
EMTG:俺、この曲1番好きなんだけど。
阿部:マジっすか(笑)。あと「なめとんか」と、「走れ」ですね。あとは全部、上京後の唄です。
EMTG:高校生で「なめとんか」はすごいな(笑)。「じゃあ、何故」は、ストーリー・テリングがすごくうまくてびっくりした。
阿部:「ストーリー・テリングが上手」って言われてうれしいです。私もこの唄、好きなんですけど、理由が違ってて、唄入れのときにいい唄が録れたから好きっていう。感情を込めて、ちゃんと歌えてるって感じ。
EMTG:主人公が“僕”で、男の子の立場の唄なんだけど、こういう曲を高校生のときはけっこう書いてたの?
阿部:書いてましたね。高校生のときの方が書いてたかもしれないです。親友が男の子だったんですけど、これも彼の唄で、彼が猫目のかわいい女の子と付き合ってたんですけど、こういう感じでフラれるんですね。その相談を受けて、その直後に私もこの唄の男女が逆バージョンの体験をしてるんですよ。あたしが翻弄される。
「あたしもこういうことがあってさ」って後日相談して、「最悪だよね、うちら」って話をしてるときに、「曲にしてよ」みたいなことを言われて、「わかったよ、曲にしようか」みたいな。これはどうしても相手のことを“君”って言いたかったんですね。そうすると“あたし”じゃ合わないなと思ったから“僕”にしたんです。
EMTG:その男の子の経験でもあるし、自分の経験でもあるし。
阿部:そう、重ねて。こういうことを経験した男女どっちにも当てはまることじゃないですか、要は。それを書けば間違いないでしょ。
EMTG:今回、アルバムタイトルに『素。』と付けたわけだけど、自分がいちばん“素”だと思う曲はどれ?
阿部:……うーん。2種類ありますね。「痛み」っていう唄は、<痛い、痛い>ってしか言ってないんですよね。本当は苦しい唄、苦しみでしかない。それがこのアルバム制作時の自分を、全て映している感じなんです。「19歳の唄」になるともっと具体的に言ってる感じ。全部聴けば、大体わかるなみたいな。でも「痛み」はわからない。作ったあたしにも、ちょっとわかんないですもんね。まあ、わかるけど、書いたあたしにしかわからないことがあるなぁっていうことも含まれてるから。
EMTG:そういう唄をアルバムの1曲目に持ってくるのは大胆だね。
阿部:そうですか?
EMTG:わかりにくくても、いちばん色の強い唄を1曲目に置きたかったってことなのかな?
阿部:この唄の最初の♪Na-nanana♪っていうのを、いちばん初めにリスナーさんの耳に届けたかったんです。たとえば、ライブをこれで始めたかった。阿部真央のリスナーってたぶん、感情を阿部真央の唄に沿わせたり、共感したり感動したり、何かを感じるっていうことを求めていると思うんですけど、でもそういう聴き方だけじゃなくていいと思って。あたしの1枚目、2枚目のアルバムを聞くと、けっこう疲れるんですよ。だから、まずは♪Na-nanana♪だけ聴いてほしいっていう気持ちで、1曲目に置きました。
EMTG:<痛い>としか言っていない歌詞については細かく考える必要はなくて、♪Na-nanana♪の声質とかスピード感だけを聴いてほしいってことなんだ。
阿部:そうそう。
EMTG:おもしろい作り方だね。じゃ、“素”の曲を、もう1曲あげるとしたらどれだろう?
阿部:6番目の弾き語りの「ヤだ」です。すごく汚い感情、人に言ったらすごく引かれそうな感じじゃないですか。
EMTG:嫉妬とかそういう感情の唄だよね。
阿部:そう、妬みの感情なんです。「貴方の好きな人が、あたしはヤだ」って、当たり前のことじゃないですか。でも絶対に言わないでしょ、みんな。「彼に好きな人がいるみたいなのよね。すごい落ちこんじゃって」っては言うけど、みんな、理性で抑えてる。けど、あたしはあんまり理性とかないから。そんなの飛んじゃうんで、言っちゃう。
EMTG:そっか(苦笑)
阿部:だから「ヤだ」って、正直に歌ってる感じがしますね。「そんなところまで歌うの」っていうタイプの“素”。言わなくていいところまで歌ってる。でも共感する人は多いと思うんですよね。
EMTG:「ヤだ」は、唄と唄との間に入ってる♪ワーイワーイ♪っていうスキャットがすっごいおもしろいんだよな。
阿部:あたしも好きなんですよ。あの♪ワーイワーイ♪が最初に出てきたんです。
EMTG:そうなんだ、はぁ~。
阿部:そのときちょうど、手島葵ちゃんの歌を、脳の中で反復してたんですよ。あたし、葵ちゃんの声が好きで。きれいで脳が鳥肌立つ感じがするんすよ。レコーディングの休み時間のロビーで、ギターを練習しながら♪ワーイワーイ♪ってやってた。そういうのって手島葵ちゃんは上手そうじゃないですか。それで<ワーイワーイワーイワーイワーイワーイワーイワーイ>はすぐ出来て、そこから音を探っていきました。
EMTG:本当に感覚的に作ってるなあ。
阿部:感情のままに唄を書いて、ちょっとストーリーができたりすると、そのちょっと後に、それと全く同じ体験をするんですよ。
EMTG:自分が?
阿部:そう。多いんですよね。そのときに書いたつもりの感情なんだけど、自分でその唄を聴いてみて初めて見えてくる印象とかあるじゃないですか。ストーリーとか。そういうのを自分が追体験するんですよ。そういうのもおもしろいなぁと思って。
EMTG:それは不思議だわ。
阿部:それならハッピーな唄ばっかり書ければいいなって思うんですけどね。
EMTG:このアルバムの唄の8割方はフラれてるよな? それが阿部真央の“素”なの?
阿部:“素”ですよ。“素”だよ~(笑)
EMTG:(爆笑)
阿部:大変ですよ、本当に(笑)。
EMTG:あははは。で、「らいぶ夏の陣」では、こんなイメージでやりたいっていうのはあるのかな?
阿部:ただただ、ちゃんと歌えるようになりたい。まだ長く歌えないんですよね。声の出し方を変えてるんで、まだ慣れないんです。テレビ収録も緊張するんだけど、やっぱり復活して初めてのライブなんで、お客さんに「帰ってきたよ」っていう姿を見せたい。ただただ楽しみたい。ただそれが痛々しい歌声と姿だったら全く楽しめないじゃないですか。
EMTG:自分もお客さんもね。
阿部:ね。だからこそ、前のレベルに戻す。さらにプラスアルファで、ちょっとでもレベルを上げて、成長した姿を見てほしい。レベルアップしたいなっていう…ただそれだけが強いですね。
EMTG:そこで歌いたい唄は?
阿部:「貴方の恋人になりたいのです」っていう曲だけはやりたいですね、夏だから。このあいだ聴き直してて、自分で「いい曲だな~」と思って。
EMTG:じゃ、ぜひとも!
阿部:はい。歌いたい、夏だから。

【取材・文 平山雄一】

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リリース情報

素。(す)【初回限定盤】

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素。(す)【初回限定盤】

発売日: 2011年06月01日

価格: ¥ 3,334(本体)+税

レーベル: ポニーキャニオン

収録曲

[DISC:1]
1. 痛み
2. じゃあ、何故
3. モットー。
4. 19歳の唄
5. なめとんか
6. ヤだ
7. もう
8. TA
9. 走れ
10. ロンリー
11. for ロンリー
12. ストーカーの唄 ~3丁目、貴方の家~
13. 光

[DISC:2]
1. ロンリー -music clip-
2. 19歳の唄 -music clip-
3. モットー。 -music clip-
4. モットー。 -off shot-
5. 光 -documentary clip-

リリース情報

素。(す)【通常版】

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素。(す)【通常版】

発売日: 2011年06月01日

価格: ¥ 2,858(本体)+税

レーベル: ポニーキャニオン

収録曲

1. 痛み
2. じゃあ、何故
3. モットー。
4. 19歳の唄
5. なめとんか
6. ヤだ
7. もう
8. TA
9. 走れ
10. ロンリー
11. for ロンリー
12. ストーカーの唄 ~3丁目、貴方の家~
13. 光

ビデオコメント

INFORMATION

■ライブ情報

♪阿部真央らいぶ 夏の陣 in 東京
2011年8月14日(日)
日比谷野外大音楽堂
Open16:00/Start17:00
[問]FLIP SIDE
03-3466-1100

♪阿部真央らいぶ 夏の陣 in 大阪
2011年8月21日(日)
大阪城音楽堂
Open16:00/Start17:00
[問]GREENS
06-6882-1224


■マイ検索ワード

メロ
最近、“メロ”って書いてあるお弁当にハマってるんです。で、カタナカで“メロ”ってなんだろうって検索したら、“銀むつ”のことだった。メロは、漁業業界用語。カタカナの学名を省略して“メロ”。みんなにおろすときは“銀むつ”だったんだけど、“メロ”って呼ぶところも増えてるみたい。銀だらも好きだから、あたし、“銀系”なんだ。おいしいんですよ~。

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