アルバム・タイトルの『musium』(ミュージアム)とは“museum＋music”。音楽と博物館を重ね合わせた、スキマスイッチらしい造語だ。４thアルバム『ナユタとフカシギ』以来、２年近いインターバルを置いての今作は、そのタイトルどおり彼らのバリエーションに富んだ音楽を１曲ごとに展開。歌詞のテーマも、サウンドの探求も、実に多彩なアプローチを見せている。
　どっしりとした存在感を放つオープニング「時間の止め方」は、スキマスイッチからの“音楽への対し方”の提案だ。またポップシーンに対する皮肉たっぷりの「ソングライアー」は、自分たちの音楽愛の“純度”を試しているようで、ニヤリとしてしまう。そうしてアルバム終盤に置かれた最新シングル「晴ときどき曇」は、視線を日常に戻して、その大切さを歌う名曲。
　さて、大橋卓弥と常田真太郎の二人が、この“音楽博物館”に託した思いとは？

EMTG：「時間の止め方」は、どっしりしたオープニング・ナンバーですね。

常田：この曲の“仮タイトル”は「一曲目」だったんですよ。

EMTG：初めから「これがアルバムのオープニングだ」って決めてたんですね。それにしても、「音楽で時間を止める」っていうコンセプトはユニーク！。

常田：みんな、CDショップに行って試聴器で聴くとき、一曲目に限ってはそのCDに集中して向き合う。それって、時間が止まってるんじゃないかなって思ったんですよ。僕らのこのアルバムを聴いているときは、時間が止まっていて欲しい。卓弥の提案で、それを問いかけてみようっていうことになった。

大橋：アルバムをバラードで始める気はなかったけど、落ち着いた始まりにしたかったんです。元々、僕らはリスナーに音楽を押し付ける気はなくて、「これ、ちょっと聴いてみてくれない？」っていうスタンスなんですよ。それと、スキマスイッチは二人組なんで、最初に聴こえる音にはこだわる。僕らがどんな二人なのか分かってもらうために、ピアノのリフから始めたかった。で、「これから何が始まるんだろう」って思ってもらって、他の雑事をシャットアウトして、このCDで“あなたの時間”を止められたらいいなって。

EMTG：素敵な始まりだね。アルバム全体の制作の方向は？

常田：シングル曲にアルバム曲を混ぜてアルバムにするんじゃなくて、全曲シングルでもいいぐらいのつもりでアイデアを詰めて作っていきました。なので、結局、最後は曲順がなかなか決まらなくて(笑)。

EMTG：一曲目の「時間の止め方」以外は(笑)。

常田：そうです。

EMTG：５曲目の「ソングライアー」も面白かった。ヒットチャートの常連の心理を皮肉ってるみたいで。

大橋：っていうより、これは「自分のことなのかな？」っていう思いもあったんです。皮肉や怒り、いきどおりって、ひとつのパワーだなって思ってて。何かを消化吸収するとき、いいところだけを取って、抜け殻を捨てるわけだけど、それでも残っていくものがある。そのチリが積もって、また怒りになったりする。それは曲作りにもあって、ある種のストレスを吐き出すことでリセットしてる自分もいるんですよね。楽しいだけで音楽をやってる訳じゃない。僕らも人間ですから。

EMTG：そんなアーティストとしての思いを、ちょっと斜めから書いているんだね。

大橋：ただ、テクニックとして書いている訳じゃないんです。描きたくなるメッセージを、言葉にしてるだけです。聴いてくれる人と一緒にいたい。だから押し付けないで、「ちょっとこれ、聴いてみてよ」って思うんですよね。

EMTG：そうなんだ。そして僕は個人的にはアルバムのラストから２曲目の「晴ときどき曇」がいちばん好きだな。

大橋：ずっとやりたかったことができた。この曲を完成させて、自分たちに力が付いてきたのかなと思いました。

常田：ずっとやりたくて、４、５年前から目指していて、やっと今回、形になった。誰かが成功すれば、その一方で誰かが泣いてる。どっちも日常なんです。その二つの面を一つの歌詞にできないかなって思ってて。

EMTG：それを、季節の変化に託して描いている。二度と同じ日はない。季節は繰り返さないから、この日この時を大事にしようっていうアイデアがいいなあ。ところで、好きな季節は？

常田：朝晩、ひんやりしてくる“秋の初め”がいちばん好きですね。

EMTG：アルバムのラストの「またね。」は？

大橋：「時間の止め方」の♪さあいこう！♪で始まって、「またね。」で終われればいいかなって(笑)。「またね。」だから、“バイバイ”じゃないんです。

EMTG：アルバム・タイトルは？

大橋：今回、タイトルは早く決まってたんです。二人のライブラリーを合わせたようなアルバムにしたかった。二人の“カブってないところ”の幅が出たらいいねって話してて。ライブラリーより広く構えた“ミュージアム”、それも、museumではなくて、musicを連想するように”musium”にしました。

EMTG：なるほど！ありがとうございました。

【 取材・文：平山雄一 】