“人の営み”として当たり前のことを描きたかった

椎名林檎 | 2011.11.02

現在、東京事変のツアーの最中にいる椎名林檎が、久しぶりにソロ名義で新曲をリリース。NHK朝の連続テレビ小説の主題歌としてもオンエア中の『カーネーション』について、椎名林檎が語る。

EMTG:新曲『カーネーション』は同タイトルのNHK連続テレビ小説の主題歌ですが、朝の澄んだ空気にも、懐の深い内容にもぴったりな曲だなと思いました。
椎名:ありがとうございます。渡辺あや先生の脚本にあまりにも感激したんですよね。世界大戦前後の混乱や、登場人物の心情にもごまかしがないというか、誰のことも変に庇わずに明け透けに描いていらした。そういう思い切った作品って、今はなかなかお目にかかれないじゃないですか。映画ですらも、何かしら統制されてるものが溢れている。お金出す意味がないものが大半だと、個人的には感じてるんです。そんな中、NHKという公共の電波で、毎朝こんなに志の高いドラマが放送されるなんて、胸が踊りました。だから主題歌も、表面だけを捉えて小手先で描いても、たぶん合わないだろうと。自分のこれまでのキャリアとかそういうものも勿論全て差し置いて、ドラマに必要なものだけをお持ちしたかった。生き物として率直に、腹の底から描かないといけないと感じたんです。いつもそう思っていますけど、今回は特にそれを意識していた気がします。一切の雑味禁止というか。ろ過した部分だけを残したいと云う欲が高かったのかもしれません。
EMTG:だからなのか、「生きよう」という大きい言葉が使われていますけど、とてもすんなりと身にしみてきました。
椎名:仮面をつけることよりも、何でもない者へ帰ろうとすることのほうが難しいと思うんです。私はよく、「あんなに尖っていたのに、お母さんになって普通になっちゃったね」って言われるんです。特に男性に言われることが多い(笑)。でも、実はそっちのほうが難しいことだから「ありがとうございます」ってお応えします。奇異な感じを作ることは簡単。当たり前のことと逆のことを反対の場所に置けばいいだけですから……。じゃあ、ほんとに脱いでごらんよって言ったら、なかなかできないものですよ。「俺様はこうでござい」と主張することは容易いけれど、“何者でもないままで、何かをすること”は、難しいんです。
EMTG:『カーネーション』は母親の花でもありますけど、“母親として生きる”ことは、“何者にもならずに何かをすること”ですよね。
椎名:そう。他人の子どもを宿して産んで育ててっていうことは、“人の営み”としては、当たり前のことですけど、いちばん難しいことだと思います。でも、その営みのおかげで私たちはもれなく生きていて、こうしてくだらない話もしていられる……というところから丁寧に描きたかった。母親じゃなくても、みんな人の子ではあるわけですから、結局は一緒かなとも思いますし。人の営みの原点に帰ることができたら、もっと正しい答えがあると思って、そこを音楽にできたらなと。
EMTG:その思いは、いつ生まれたんですか?
椎名:仮面を脱ぎたいっていうのは、若い時からずっと思ってきたことですし、仮面や冠を取りはらうために、初めは一所懸命、(衣装で)制服を着たりしていたと思うんですけど(笑)。難しいですよね。思うことは一緒でも、あの頃よりはいまさまざまな経験をしたり、好きな人ができたり、こうして日常の中でお話しして影響を受けたりすることで、少しずつは表現できるようなってきたのかなと思います。この曲こそがその完成形というわけでもないんですけど、今の時点で出せる或るひとつの結論ではあります。
EMTG:曲の展開も、ドラマの中で流れる前半部分は敬虔とした美しさがあって、中盤、後半と静かに広がりながら、変化していくさまもドラマティックだなと。
椎名:そういえば朝に流れるということも考えましたね。明るくちゃかちゃかした音楽もいいですけど、朝はやはりリセットされていてほしい。<全く新しい私>、<全く新しいあなた>から出会い直してほしいと思うと、このほうがいいんじゃないかなと。
EMTG:演奏は、カップリングの2曲も含めて、全曲、事変のメンバーも携わっていますね。
椎名:主題歌のお話は、椎名林檎としていただいたんですけど、私としては、せっかくの新しい試みですから、事変のメンバーにはぜひ関わってもらいたいし、一緒に取り組みたいと思っていたんです。だから、今回の曲もソロ名義作品として別に作ったという意識はなくて、当たり前のようにメンバーに演じてもらいましたし、事変のライヴでも機会があればぜひ演奏したいと思っています。
EMTG:アレンジは、斎藤ネコさんとの共同作業ですよね。
椎名:最初にメロディが浮かんだ時、バックにはハープがあって、弦が入ってくるっていう編成も一緒に浮かんでいたので、やっぱりネコさんがぴったりだと思ってお願いしました。
EMTG:ネコさんには、今回どんなオーダーをされたんですか?
椎名:そういえば、言葉ではオーダーしていないですね。いつも言葉じゃないんですよ。デモに入れた材料で大体どういうものかを伝えているつもりですし、実際に伝わっていますから。デモの中にはじめからある情感やムードを汲み取ってもらっていて、作為的に何か変えたいということがなければ、言葉にする必要はありません。あとは具体的なフレーズをリクエストするくらいで、「どんな詞になるの?」と聞かれても、「書けてないから知らないよ」みたいな感じです(笑)。歌詞は今回も最後の最後でしたから。
EMTG:言葉にせずとも、伝え合えるってすごいことですよね。MVの児玉監督とも、言葉でのやりとりは少ないとおっしゃっていましたけど、作品の中ではすごく溶けあっているし。
椎名:それは、私のほうがビックリです。ネコさんも児玉監督も、曲だったり被写体である私たちをものすごくひいき目に聴いたり見たりしてくださっているんだと思います。粗探しをするような方だと、そうはいかないんじゃないですか。いろんな方とお仕事していく中で、結局いまご一緒してるレギュラーの方々は、それだけ私たちを大事に思ってくださっていると感じるので自然とリピーターになっているんだと思います。
EMTG:椎名さんの人を発見する選択眼のたしかさも素晴らしいと思います。
椎名:有難うございます(笑)。好き嫌いは、はっきりとありますね。人にも作品にも企業にも“惚れ込む”ってことは、仕事する上で本当に大事なことだと思います。このドラマの本にもその思いは強くあって、共同で何かを作る時は、お互いにいかに相手のいいところを好くかっていうか、慈しむかっていうことで、大方決まるんじゃないかと思います。

【 取材・文:芳麗 】

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カーネーション

カーネーション

2011年11月02日

EMIミュージックジャパン

1. カーネーション
2. 私の愛するひと
3. 人生は思い通り

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