星野源のセカンドシングル「フィルム」。新録5曲でさらに広がる個性。

星野 源 | 2012.02.04

 曲、歌詞、楽曲のムード、そしてライヴーーと、どれをとっても無二の個性を発揮し、シンガー・ソング・ライターとして独自のスタンスを確立しつつある星野源。
 幾多のかけらが集まりひとつの形になったような、ゆらりと立ちのぼるその個性は、じつに濃密だ。
 どこかサラリとしたサウンドながら、知らぬ間にしっかり聴く者の五感に到達しているような独特の奥行きを持っている。
 星野源のセカンド・シングルが完成した。タイトルは「フィルム」。映画「キツツキと雨」の主題歌となったタイトル曲を含む、新録楽曲5曲を収録した今作。自ら「自分にとって大きな1曲となった」と言うタイトル曲について。そしてこの曲があったからこそ出てきた本作の“幅”について、本人に語ってもらった。

EMTG:映画「キツツキと雨」の監督さんから「星野さんの好きに作ってください」というオファーがあったと伺いましたが、その時、最初に考えた事は?
星野:単純に自分の新曲を作るような気持ちで作りました。ただせっかくの主題歌なので映画と全然関係ないよりかは、何かしら映画の匂いが入っている方が面白いだろうなと思って。僕……アニメすごい好きなんです。そこで考えると、完全に内容も歌詞に反映されているようなものが好きなんですよね。例えば「マジンガーZ」だったら、歌詞にも“マジンガーZ”って入っちゃってるような。そういう方が見る方としては好きなんです。でも今回は、書き下ろしなんだけど、たまたま映画とリンクしちゃったくらいの、そういうものになればいいなと思いました。エンドロールで、話全体を思い出したりとか、映画のシーンを思い出したりとかもできるし、映画を観ていなくても、曲として純粋に楽しんでもらえるような。そういうどっちでも成立してる形というのを、自分の中では目指しました。
EMTG:事前に完成前の映画を観られたりしたんですか?
星野:見ました。BGMが入っていない、フルの状態のものを観せてもらったんですけど、すごく面白かった。本当に面白かったんで、1人で家でスタンディング・オベーション(笑)しました。その高いテンションのまま、曲作りに入ろうと思ったんですね。まずメロディが、サビが出てきました。
EMTG:今までそういう、テンションが上がったまま曲作りに入る事はあったんですか?
星野:ありましたよ。でも、出てくる曲は結構暗かった。暗かったけど、自分の中では、面白がって作ってたんですよね。“この歌詞、暗いけど面白いだろう”みたいな。そういう歌が続いていたので、単純に明るい曲を作りたいって思いがずっとあった。メッセージも前向きなものだったり、メロディーも今までよりこう……楽しさがちゃんと入っているような……それが自分の中での課題としてあったんですよね。それを今回はクリアできたかなって感じがありますね。
EMTG:なるほど。自分の中では、別の段階へ進んだ感覚がある作品だと?
星野:そうですね。それは、すごくあります。
EMTG:タイトル曲だけではなく、作品全体を通して、これまで以上に音楽を楽しんで作っている印象がありました。
星野:このシングルはフィルムの他に新曲が4曲入ってるんですけど、ぜんぶ楽しみながら作れましたよ。
EMTG:星野さんが、こう……盛り上がっている中で、楽しみながら作っている状態って、どんな感じなんですか? 面白い、これも入れよう、あれも入れよう、みたいな感じ?
星野:んー……というよりも……盛り上がり方がいわゆる“ワーッ、楽しい”みたいな盛り上がり方じゃなくて、すごい真顔でカッて眼を見開いて集中して3時間、みたいな感じなんですよ。心の中では、ぐぉーって、すごく盛り上がっていて、すごい集中していて、気が付いたら何時間も経ってるっていう。その間、ご飯もいらないし。昨日の夜から始めたのに、気が付いたら昼になってる、そういう感じなんですよね。集中しすぎて、記憶にほとんど残っていない状態。テンションが高いまま、曲が出てくるのを待つってパターンなんですよね。その間、周りもほとんど見えていないし。
EMTG:音楽以外でも、ものを生み出す時は、そういう状態なんですか?
星野:わりとそうですね。でも、今言ったような……異様な集中みたいなのは、音楽を作る時がいちばん強い、深いですね。文章とかも時間がかかるんですけど、そことは違う感じがしますね。
EMTG:「フィルム」の歌詞には、星野さんの願望が入ってます?
星野:願望ですか?
EMTG:はい。希望、憧れ、こうなったらいいな、みたいな。
星野:願望は……入ってないです、今回のは。
EMTG:そうですか。聴いてて、願望、希望という印象を受けたので、伺ってみました。
星野:今回は、希望とか願望じゃなくて、わりと確信な感じです。“次にいい事が起こるの、俺は知ってる”みたいな。そういう自分の気持ちが入ってます。この前出したアルバムの『エピソード』(2011年9月リリース)が、結構辛い気持ちの中で作ったアルバムで。“辛いけど、次大丈夫かな……不安だけど大丈夫だって言おうぜ”っていう作品だったと思うんですけど、今回は“大丈夫だってわかった、やっぱり大丈夫だったよ”っていう曲だと思うんです。だから歌詞に関しては、自分以外の人達にも、大丈夫だよって、わりと自信をもって言ってる気持ちで作ったんですよね。人って、生きていると、やっぱり、何かを乗り越えていってるじゃないですか。で、乗り越えているんだけど、ピンチになると、ピンチのことで精いっぱいで、それまで乗り越えてきた事を忘れるんですよね。でも“じつは、そこをちゃんと覚えてるでしょ”って。乗り越えた後に“次がちゃんと待ってるはずでしょ”っていう、そういう歌詞になりました。
EMTG:「フィルム」以外の収録曲については?
星野:結構遊んでるっていうか……歌詞のつながりとかよりも、メロディと合うような言葉の響きを重視しました。1曲目がすごく自分の中でうまくできたって気持ちもあったし、シングルだし、カップリングに関しては、半分実験みたいな感じで、遊んでみようっていうコンセプトで作りました。歌詞も、つじつまよりも響きを大切にするっていうのを、自分の中で挑戦してみた。初めてそっちに寄ってみたんですよ。
EMTG:今作は、これまでのソロだけではなく、SAKEROCKでやってきた事、手法も出ていると思うのですが、ご自分ではどう感じてますか?
星野:今回はよく出てるかもしれないですね。今まで結構、わけて考えようとしていたので、かぶらないようにと思ってたんですけど、なんとなく“もういっか”って(笑)。今まであった枠を外して面白がって作りました。だから、アレンジがちょっと変わってたりとか、「落下」って曲が異様に暗いとか。そういう部分も遊びながら作りました。こんな感じをこれからもやってみたい、増やしていこうかなと思ったんですよね。まだね……こう……遊び満載って感じではないんですけど、ちょっと世界が広がった感じですかね。
EMTG:なるほど。「フィルム」は、星野さんの中ですごく大きな1曲になったんですね。
星野:そうですね。大きな曲になりました。歌は、とにかく素直にってテーマがあったんですよ。セカンドアルバムの『エピソード』は、すごくストイックに作ろうとしたんです。そういう気持ちだった。その反動ももしかしたらあるのかもしれないんですけど、これからは楽しむぞっていうか(笑)。自分に素直になるっていうのは、必ずしも楽しい部分だけじゃなくて、シビアな部分もどうしても出てくる。で、これは僕の……たぶん人間的にってことだと思うんですけど、楽しもうと思わないと楽しくならないってうか……。自分から何か面白い事を起こさないと、どんどん暗くなってしまうというタイプだと思うので(笑)。そこを意識的にやっていこうと思えたのは『エピソード』でストイックにやりきれたと思えたからなんですね。で、そう思っていた時に、タイミングよく今回の主題歌の話をいただいて。それで「フィルム」って曲ができた。僕、今回、初めて歌の伴奏でエレキギターを使ってるんですけど、聴いてる人は、そこまで印象が変わらないと思うんですけど、作っている方の印象は結構違ってきて。だからいろいろ自由に楽しんでる感じ。今は、音楽を作るのがすごく楽しいです。
EMTG:ちなみに。星野さんが、自分で聴いていて、面白いなと思う音楽って?
星野:そうですね……ポップなものが好きです。特に、ひねってあるものだったり、変な事してる場合は尚更。それから、楽しいとか元気でるとか、すごい暗い歌詞なんだけどそれを面白いって思えるもの根本にあるのは、やっぱりサービス精神だったり、ポップさ、だと思うんです。そこが自分の中でマストな条件としてあって、その中でどうやって遊ぶかみたいな。そこが、自分の中での面白さだと思います。

【取材・文:伊藤 亜希】

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フィルム(初回限定盤)

フィルム(初回限定盤)

2012年02月08日

ビクターエンタテインメント

1. フィルム
2. もしも
3. 乱視
4. 次は何に産まれましょうか (House ver.)
5. 落下 (House ver.)

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突発性肛門痛
以前“蟻のとわたり”って言葉、出したと思うんですよね。
寝てるとその辺が痛くて、病気を調べるために検索したって(一同爆笑)。それで答えが出なかったっていう。でも、いろいろ調べていったら、結構、僕と同じ症状の人がいるらしくて。それで病名もわかったんですよね。突発性肛門痛っていう。全然つまんねーな、っていう(笑)。
僕、病名わかるまで、自分で“モニカ病”って呼んでたんですよ。♪モ〜二カ〜♪ って歌う時の吉川晃司さんのポーズと、自分が痛がっている時の仕草が似てるなと思ったんで、そう呼んでたんですけどね……。モニカの方が全然面白いのにな(一同爆笑)。
■ライブ情報
「エピソード」発売記念ツアー「エピソード2以降」
2012/01/29(日)札幌 PENNYLANE 24
2012/02/02(木)仙台 Rensa
2012/02/04(土)新木場 STUDIO COAST
2012/02/07(火)名古屋市芸術創造センター
2012/02/09(木)広島 CLUB QUATTRO
2012/02/10(金)福岡 天神イムズホール
2012/02/12(日)大阪 サンケイホールブリーゼ
2012/02/14(火)恵比寿 LIQUIDROOM
2012/02/20(月)中野サンプラザ

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