確固たるアイデンティティと、音楽表現の柔軟性を同居させた、高橋優のニューアルバム

高橋優 | 2012.03.05

正直に書こう。私は高橋優のこのニューアルバムは、あの未曾有の東日本大震災後の作品だけに、もっと博愛的で、みんなが笑顔で協力し合ったり、励まされたり、応援し合ったりといった類いの楽曲が中心になるだろうと勝手に予測していた。しかし、実際に届けられた今作『この声』は、震災以後の風潮に左右されず、確固たるアイデンティを打ちたてようという意欲に溢れた楽曲ばかり。震災後もあい変わらず、自分の身の回りや日常に転がっている闇や悲しみに、明るい光を当てる楽曲が並んでいる。とは言え、それらはけっして前作の延長に留まっておらず、むしろ逆。前作アルバム以降に行なった2度の全国ツアーを経て、今だから表現したい要素や、取り入れたい試みが多数散りばめられている。
アーティスト高橋優の核を強固にしつつ、表現の幅とフレキシブルさが更に増した今作について、本人が色濃い言葉で語ってくれた。

EMTG:前作アルバムから1年のタームでのリリースですが、その間に2回の全国ツアーも挟んでいたし、よっぽど歌いたいことや伝えたいことが溜まっていたんですね(笑)。
高橋:(笑)。「1年以内に次のアルバムを出したい!!」と、当初から思ってはいたんです。だけど実際、1stアルバムをリリースした直後から、次に何を歌うか迷い出したり、ライヴの方に力を注がなくちゃならなくて。曲作りは一旦、お休みモードになっていったんです。そんな中、去年の年末頃から、ツアーを経て得たことや、前作アルバムをリリースした後のみなさんからのリアクション等が自分の中で溢れてきて、急にそれを放ちたくなった。「こりゃ、早くアルバムを出さないとヤバいゾ」と(笑)。そこからガ―ッと曲を書き始めて。なので、今回の収録曲の半分以上は、この12月から作り出したものばかりなんです。
EMTG:まさにリアルタイムシンガーソングライター!!ですが、正直僕は、今作はきっと東日本大震災以前に書かれた曲ばかりなんだろうと思ってました。と言うのも、あの震災以降、多くのメッセージ系アーティストの歌の伝え方や表現が、博愛や祈り、団結や守るべきものへと変化した中で、今回の高橋さんの歌は、歌っていることや伝え方が前作と変わってなかったので。
高橋:本当に、おっしゃるとおりです。実は震災以降、多くのインタビューで「震災以降に変わったことは?」と尋ねられて。まるで震災以降、意識や表現方法を変えなくちゃいけなかったり、変わってないのが悪いことでもあるような風潮で(笑)。だけど、実は僕、震災以降も、それほど変わらなかったんですよね。基本、自分がこれまで伝えてきたことって、大事件や大事故に関わらず、人のちょっとした悲しさや寂しさ、説明のつかない暗闇についてだったんで。震災でツラい思いをしている人はもちろん、その前から違ったことでツラい人たちは沢山いるだろうし。そんな人に対して、<そんなことはない、きっと光はあるんだよ>と歌ってきた自分としては、改めて今までやってきたことをやれば良いと逆に思ったんです。つまりは何も変わらない。それが自分の表現のアイデンティティなんじゃないかと。
EMTG:メッセージソングが期待される中、あえて今回も自分の根幹をブレないように伝えたところに大きな意義がある。
高橋:褒め過ぎですよ(笑)。だけど、僕もいつか、それ相応のメッセージを歌う時が来るのかもしれませんね。ただ今回は、それよりも自分にとって伝えたかったことがあっただけで。その芯の部分は、これからも変わらないかも。インディーズの頃から全く変わってないし(笑)。
EMTG:今作の制作を振り返ってみていかがですか?
高橋:「とにかく1枚目以上のものは絶対に作ってやる!!」的な意気込みで臨みましたね。1枚目のクオリティは確実にキープしつつ、そこで足りなかったところや、「今回はこれをやりたい!!」ってものもどんどん出てきたんで、その辺りは貪欲にいかせてもらいました。今作と前作の最も違うところは、2回のツアーでライヴをたくさん経験したことでしたから。そのライヴで得たこと、感じたことは、今作に多く活かされたかなと思います。
EMTG:主にどの辺りですか?
高橋:大きいところで言うと、くだけた部分やくだらない部分、気が抜ける部分が加わったことかな。それによって更に人間らしくなっただろうし。実際、僕は基本真面目なんだけど、真面目なところだけじゃないですからね。なので、1st以上に人間性や人間臭さを増すことが出来ました。
EMTG:「一人暮らし」「蓋」は、そういう歌ですもんね。
高橋:「一人暮らし」なんて、それこそ一人暮らしについて歌っただけですから(笑)。だけどこういうタイプの曲も発表しておかないと、それこそ自分の振れ幅がどんどん狭まっていく気がして。何についても歌えるようになりたいし、自分の周りに根づいている歌を大事にしているので、その為にもこういった曲は必要だったと今になって感じます。
EMTG:ライヴを経たもう一つの成果として、ダンサブルなリズムの導入や、サウンドのダイナミズムの増加も目につきますが。
高橋:その辺りも、2度のツアーで経験した盛り上がりやリアクションの影響が大きくて。今回は自分もアレンジに加わらせてもらった曲があって、それらに関しては自分がイニシアティブを取って、細部に至るまで色々と指示を出させてもらった。今回は、自分の頭の中で色々な音が鳴っていたんで、その辺りを忠実に抽出させてもらいました。
EMTG:「蛍」「雑踏の片隅で」「蓋」「絶頂は今」は凄くライヴ感がありますもんね。
高橋:歌入れの際にライヴでの光景が浮かんできたり、意識したりはしましたけど、それよりも重視したのが、楽曲のノリやカッコ良さ、高橋優らしさ。バンドとの化学変化を期待してというよりは、むしろ自分の音にこだわって、「これが俺のバンドサウンドだ!!」という意気込みで挑んだんです。
EMTG:「気ままなラブソング」「蓋」といったダンサブルな曲に関しては、歌っていても楽しかったんじゃないですか?
高橋:楽しかったですね。だけど、そういう曲の導入に関しては、ライヴで盛り上がるために踊れる曲が必要だからというよりは、<高橋優サウンド>を決めつけられるのがイヤだという方が強かったですね。高橋優はこんなことも出来るし、あんなこともやっちゃうゼ的なところも表わしたくて。幸いにもメンバーは僕一人ということもあるんで(笑)、その辺りは凝り固まらずにフレキシブルに演れますからね。ワクワクする、自分が聴きたいと思う音を目指しました。なので、あえて不安な方、不安な方へと進めた曲もありますよ(笑)。
EMTG:反面、突きつけられる歌もたまらないですね。「蛍」や「雑踏の片隅で」は、凄くリアルに響いてきます。
高橋:突きつけるタイプの曲がここ何作かの作品にはなかったので、今回は原点回帰してみました(笑)。自分の中の憤りや、未だある強い思いは、大切にしているところでもあるし、拭っても拭い切れないところでもある。自分らしさという意味では、やはりこういった面も外せない。シングルしか聴いたことのない方は、少し驚くかもしれないけど(笑)。
EMTG:高橋さんの凄いところは、ビートにきちんと日本語を乗せていて、しかも歌やメッセージが届くところだと僕は思っていて。
高橋:実際にそれを突き詰められているかは分かりませんが、いかに自由にビートの中で遊べるか、そこに何を乗せれば一番届くかを考えて曲を作っています。正直、簡単な英語も混ぜられますが、そうしてしまうと自分が自分でなくなってしまいそうで。大事なところで、Because~とかWhat you say?なんて、普段自分は使わないし(笑)。日本人に生まれて、これまで色々な日本語の歌を聴いてきて、親父も民謡歌ってたりするのに、英語風に歌ったり、途中に不用意な英語を交えて耳触りを良くするのは、ちょっと違うかなと。それよりは日本語ならではでドキッとさせる方や、字余りでもOKで上手くビートに乗せて言葉を発する方が自分らしいだろうし。それらも含めて、今作は到るところに自分らしさを入れることが出来たと思っています。

【取材・文:池田スカオ和宏】

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ビデオコメント

リリース情報

この声(初回限定盤)

この声(初回限定盤)

2012年03月14日

ワーナーミュージック・ジャパン

1. 序曲
2. 蛍
3. 誰がために鐘は鳴る
4. 雑踏の片隅で
5. 気ままラブソング
6. あなたとだから歩める道
7. 卒業
8. この声
9. 一人暮らし
10. 誰もいない台所
11. 蓋
12. 絶頂は今
13. セピア

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お知らせ

■ライブ情報
高橋優全国ツアー~この声って誰?高橋優じゃなぁい?2012
2012/05/25(金)札幌市教育文化会館 大ホール
2012/05/30(水)神奈川県民ホール
2012/06/03(日)福岡国際会議場 メインホール
2012/06/08(金)大阪 オリックス劇場
2012/06/09(土)広島アステールプラザ 大ホール
2012/06/16(土)仙台市民会館 大ホール
2012/06/17(日)横手市民会館
2012/06/24(日)名古屋市公会堂
2012/07/01(日)渋谷公会堂
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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