『③rd EP』が示すplentyの新世界

plenty | 2012.08.01

 壮大なスケールで高鳴っていく「傾いた空」、洗練された明るいサウンドの向こう側から翳が覗く「能天気日和」、深みのあるギターの響きを主軸としながら憂いに満ちた空間を現出する「ひとつ、さよなら」。全く異なる3曲によって構成されている『③rd EP』。2月にリリースされたアルバム『plenty』を経て育まれた新境地が鮮やかに反映されている1枚だ。曖昧模糊とした人生をあるがままに受け入れる覚悟が滲む世界観も印象に強く残る。本作について江沼郁弥(Vo&G)、新田紀彰(B)に語ってもらった。

EMTG:今作はどういう意識で臨みました?
江沼:この前のアルバムを作ってからの期間は、1ツアーを挟むくらいしかなかったんですけど、「どうしよう?」と思って。ああいうことを歌った後だから、「変わってなきゃいけない」っていう期待が自分の中で勝手にあったんですね。そういう想いを抱きつつ、「どうしよう……曲書けねえや」と(笑)。それで辿り着いたのは、「それでも進まなきゃいけないんだ」ということ。そういう気持ちでいつも通りやってみたら、結果的に変わっていました。例えば「傾いた空」は自分の中から出てきた時からこういうスケール感があって。急にそういうものが来ちゃったから、自分でもびっくり。だから一旦置いておきました。それで次の曲を作り出したら「能天気日和」のイントロが出てきて、「俺、ヤバいぞ! 音楽家として終わったな」と(笑)。自分自身でその変化を上手く受け止められなかったんですよ。今までは「こういうものを作ろう」って思い描きながら作る方だったんですけど、「出てきちゃう」っていうようなことが起こりまして。それにとても戸惑いました。
EMTG:「出てきちゃう」って理想的な創作のようにも聞こえるんですが。
江沼:それは後から気づきました。最初はただただその変化に戸惑って、どうしたらいいのか分からなかったです。まあ、今までもそういうことは何度かあったんですけど。曲が自分の手元から離れちゃっている感覚というか。でも、こういうタイミングでそういうのが起きて、戸惑いました。そういうものに歌詞をつけるとなると、「こんなスケールのものに俺はどうしたらいいんだろう?」と。「今までと全く違うことを歌わなければいけないんじゃないか?」とか思ったり。でも、そういうことじゃなかったんですね。思っていることをそのまま吐き出せば、きっとそれが今の自分なんだなと。
EMTG:新田さんは今回の制作はいかがでした?
新田:一所懸命やるってことは以前と変わらなかったです。ベースラインはいろいろ考えたんですけど、結局はシンプルなものになっていきましたね。でも、それと同時に新しい引き出しも開けられたと思います。個人的には「もっと上手くなりたい」っていうのを前以上に思うようになっています。いろいろ音楽を聴くようにもしていますし。
EMTG:「傾いた空」は、大きく揺らぎながら展開するサウンドがものすごく気持ちいいです。こういうBPMの遅い、じっくり展開するサウンドって、plentyの醍醐味を強く感じます。
江沼:こういう遅さは、plentyの唯一の問題かも(笑)。速い曲が必要だとも思うから作ってみたりしているんですけど。
EMTG:濃厚な空間の中を漂う感覚になります。だからplentyのライヴを観終わった後って、夢から覚めたような感覚になるのかなと。
江沼:意識的ではなんですけどね。「夢見心地になってもらおう」とかは思っていないので。ただ自分がいいと思った曲を、いいと思った形で聴かせるのが自分たちの責任。それだけなんですよ。
新田:郁弥が持ってくる曲は、いつも新鮮ではありますけどね。今回はまさに自分の中で思っていたplentyとは違うものがいろいろ出てきました。「傾いた空」はスケール感がものすごい。僕にとっても新鮮な曲でした。サビのベースラインでもっとゴチャゴチャしたものを試したりもしたんですけど、シンプルな方向になっていきました。いろいろやり過ぎるとスケール感がなくなる印象がしたので。
江沼:自分が思う音楽って、ゴチャゴチャしていないんですよ。自分の感覚ですけど、音自体がそもそも、「無」を求めている感じがするんです。「音自体が無くなることを求めている」というか。だから「音がない時が一番カッコいい」とも言える。それが自分なりの美学のようなもの。だから曲に余計なものは要らないんですよね。
新田:「無」っていうのは何となく分かりますよ。例えば「傾いた空」は、ゆっくりな波を感じる曲ですから。ゆっくりだけど大きい。そういう曲ですね。
EMTG:音が鳴っていない瞬間にワクワクすることって、たしかにありますね。曲の狭間にふと訪れる間や溜めにドキドキしたり、簡素なアンサンブルの狭間からすごく豊かなエネルギーが発せられるのを感じたり。
江沼:そこに一番音楽を感じませんか? 「無い」っていう時に。
EMTG:何となく分かります。曲のノリってビートに対する間合いで決まるじゃないですか。つまり音が鳴っていない部分が実は心地よさを左右しているってことですよね。
江沼:例えばそういう部分がグルーヴに繋がっていくわけじゃないですか。だから曲は歌う内容も勿論大事ですけど、「何で大事か?」っていうと、曲が終わった時にカッコ良くあるため。そのためじゃないかとも思います。まあ、曲をゴチャゴチャさせてみたいなと思うところもあるんですけど。だから次はめちゃめちゃなものが出てくる可能性もないとは言えないんですが(笑)。でも、今言ったようなことが、plentyにゆっくりな曲が多い理由の一つなのかもしれない。
EMTG:「無」ってplentyの音楽のキーワードの一つかも。ライヴでもすごく豊かな「無」を感じますから。空虚なわけじゃなく、すごく実体のある「無」。気配みたいなことなのかな。なんか禅問答みたいになっちゃっているけど(笑)。
江沼:いや、分かりますよ。だからその内ライヴをしなくなるかも(笑)。チケットも販売するけど、存在しないチケット。「想像してごらん?」って。で、最後にみんなで「イマジン」を合唱して終わる(笑)。
EMTG:実現しないことを祈っています(笑)。曲の話に戻りましょうか。「能天気日和」もすごく新鮮さがありました。明るくてオシャレなサウンドですけど、すごく皮肉と翳のある曲だなと。《さぁ今日も始まるボクのふりのショー》とか、ドキリとしましたよ。
江沼:ああ、やっぱり分かります(笑)? 自分なりには素直なんですけどね。
EMTG:「素直」っていうのはその通りですね。だって、どんな人でも社会の中で「自分」っていう、周囲から期待されるものを考慮した仮面を被っているわけですから。
江沼:俺も今、「ミュージシャン風」ですからね(笑)。
EMTG:(笑)「ひとつ、さよなら」は、コード感が綺麗ですね。
江沼:この曲は今までに使ったことのないチューニングをしました。この曲にはそれがなんか良かったんですよ。ダルっとした感じが欲しかったので。
新田:曲を選ぶ「選曲会」っていうのがいつもあるんですけど、この曲はずば抜けて良かったのをよく覚えています。
EMTG:すごく惹き込まれる曲ですよね。世界観に関しては「あいという」に通じるものも感じたんですが。
江沼:ああ、そうですね。世界観的にはそうなんですけど、この曲は愛とか恋とかをそこまで描こうとは思わなかったんです。失恋ソングとして捉えてもらってもいいんですけど、この曲で感じてもらいたかったのは匂い。それを嗅いでもらいたかった。夏のあの感じの匂い。これを録ったのはまだ夏じゃなく、梅雨が来るか来ないかの時期だったんですけど、この曲を聴いて感じるのは夏の終わりの匂い。それを大事にしたかった。
EMTG:このリリースの後は夏フェス。秋のワンマンツアーも発表されましたけど、これに関しては何かあります?
江沼:ああ、そうか。まだ何も考えてないや(笑)。
新田:まだツアーモードになっていない(笑)。今また新しい曲を作っていますし。フェスが終わってからいろいろ考えようと思います。
江沼:新曲をやりたいんですよね。今回の『③rd EP』よりもさらに新しい曲をやりたい。間に合うかな?
EMTG:どうなるのかは、会場でのお楽しみということで?
江沼:はい。まだどうなるのか分からないので(笑)。

【取材・文:田中 大】



リリース情報

3rd EP「傾いた空/能天気日和/ひとつ、さよなら」

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③rd EP「傾いた空/能天気日和/ひとつ、さよなら」

発売日 : 2012年08月01日

価格 : ¥ 1,000

レーベル :
hedphone music label

収録曲

1. 傾いた空
2. 能天気日和
3. ひとつ、さよなら

tag一覧 シングル 男性ボーカル plenty

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●江沼
現在地 気温

暑くて、気温が知りたくなっちゃって。暑いから検索しちゃう。見たところで何も変わらないんだけど(笑)。夏が似合わないし。焼けないんだよね。でも、最近、逆に夏が似合うと言われるようになってきましてですね。あまりにも汗をかかなくて、涼しげで、風鈴みたいな(笑)。暑苦しくなくて……っていうのをこの前、知り合いに言われて、「ああ、夏も悪くないかな」って思っています。
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今、ベースのキャビを結構検索していて。今度ツアーがありますし。「キャビ」って、キャビネット。アンプの下の部分。スピーカーです。買いますね。


■ライブ情報

rockin’on presents
"ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2012"

2012/08/03(金)国営ひたち海浜公園 "SOUND OF FOREST"

"Talking Rock! FES.2012"
2012/08/09(木)大阪 Zepp Namba

ART-SCHOOL
「BABY ACID BABY」TOUR 2012

2012/09/25(火)鹿児島 SR HALL

plenty 2012年 秋 ワンマンツアー
2012/09/21(金)金沢 AZ
2012/09/22(土)新潟 LOTS
2012/09/28(金)浜松 Live House 窓枠
2012/09/30(日)仙台 Rensa
2012/10/07(日)広島 CLUB QUATTRO
2012/10/08(月・祝)福岡 DRUM LOGOS
2012/10/13(土)名古屋 Zepp Nagoya
2012/10/14(日)大阪 Zepp Namba
2012/10/21(日)東京 Zepp DiverCity
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