plentyの渾身の3曲を収録した4th EP

plenty | 2012.11.06

 4th EP『ACTOR/DRIP/ETERNAL』がリリースされる。エモーショナルなギターリフを軸に熱い音像を渦巻かせる「ACTOR」。開放的なサウンドで幕開けつつも、不穏な響きへと雪崩れ込んでいく「DRIP」。物憂げなムードが漂う中、胸を締め付けて止まない美しいメロディがじっくり展開する「ETERNAL」。3曲それぞれに深い魅力がある。リスナーのイマジネーションを豊かに刺激し、無限の思索へと誘う歌詞も素晴らしい。何度も聴きながら噛み締める喜びが広がる1枚となった。今作について江沼郁弥(Vo/G)が語る。

EMTG:まず、「ACTOR」のお話から行きましょう。前にお話した時に「速い曲を作るのが課題なんです」っておっしゃっていたんですけど、この曲はまさにそういう中から生まれたのかなと。
江沼:あっ、そんなこと言っていました?
EMTG:はい。
江沼:そうか。一応そういうのが頭の中にあったのかな。作った本人としてはあまり意識していなかったですけど。まあ、でもいろいろ作っている中での1個という感じだったので、意識したというほどではないのかなと。
EMTG:こういう風にストレートに熱いエモーションを突きつけるタイプの曲って、新鮮でした。熱い渦に巻き込まれる感覚になります。
江沼:リフ命の曲というか。やりたかった音像みたいなものがこういうものだったんですよ。
EMTG:人間って誰しも生活の中のいろいろな場面に応じて役柄のようなものを演じているんだよなと。この曲を聴いて感じたのは、そういうことでした。
江沼:いろんな風に受け止められるように書いてはいますが、ストレートに受け止めるならば「どうにでもなれよ」っていうような嫌なやつって感じなんですかね。《バカなふりなんてお手のもの》とか歌っていますから。だけど、最後まで聴くと「この人は嫌なやつそうだけど……なんかちょっとかわいそう」ってなるのかな。そういうニュアンスは出したかったです。あと、話が前後しますけど、この曲の前に今回の3曲目の「ETERNAL」が出来たんです。そういう繋がりも「ACTOR」の背景にはあるんですよね。
EMTG:plentyの曲って、「対照的なものが混じり合って、いろいろな矛盾も当たり前のように存在しているのが世界である」というような感覚がいつも根底にあるように思うんですけど、今回の3曲もそういうものでした。例えば「ACTOR」も状況に応じた役柄を演じている人を全面的に批判している印象はしなかったんです。それが仕方のないことであると受け止めてもいる。でも、肯定はしていないんですよね。「そういうのって悲しい。でも、仕方ない……だけど何か嫌だ」って、グルグルと2つの想いを行き来する「違和感」がありのままに描かれているように感じたんです。
江沼:うん。そうですね。その通りだと思います(笑)。
EMTG:正直言って僕も今「インタビュアー」という仮面をかぶってお話しているはずだし、江沼さんも「plentyの江沼さん」だと思うんですよ。
江沼:家に帰ったら全然違うかもしれないですからね(笑)。聴いてくれる人の中でも「こういう人だろう」っていうイメージが出来上がっているだろうし。俺は皆のイメージの中で生きているとも言える。だけどその「俺」は本当とは違う。そのズレ。そういうのはありますよね。でも「本当の俺を知って欲しいのか?」というと、それもちょっと分からない。かといって「このままでいいのか?」っていうと、それはそれで分からない。そういう意味ではこの曲は「渦」ですね。でも、そういう渦の中にいながらも、変わっていくことは受け入れているんです。《どうにでもなるさ》という開き直りの上で、そう思っているわけですけど。まあ、本当に今の感じが出ている曲ですね。
EMTG:リスナーそれぞれにいろいろな想いを巡らせて受け止められる曲ですよ。例えば中学生くらいのファンがはっきり解釈するのは難しいのかもしれない。でも、確実に何かかけがえのない気配みたいなものは伝わると思います。
江沼:いい作品って、感動した人を育てません? 別に上からな感じでそう言うわけじゃない。作る側の人も、受け止める人も成長するものであるべきだと思うんです。いろんな人の作品に触れることで自分のことが少し分かったり、変わっていったりするわけじゃないですか。何の話をしているのか分からなくなってきたけど(笑)。でも、最近そういうことをすごく思うんです。
EMTG:「DRIP」もすごく心に刺さりました。サウンドは柔らかな感じだけど、すごくピリリと皮肉が利いているなと。
江沼:たしかに皮肉な感じですね(笑)。これは結構前からあった曲で、それをアレンジし直して録りました。
EMTG:ここで歌われている通り、誰もが何食わぬ顔していながら、実は欲望の中毒者なわけですよ。ほんと、言い返す言葉がないです(笑)。でも、これも一方的に批判しているわけじゃないんですよね。自分もそういう存在の一部であることを認識しているスタンスを感じます。
江沼:「本来どういうものなのか?」って分かった上で行動するのって大事だと思うんです。何だか分からないまま行動すると何だか分からない結果になるから。例えば寿司屋に行って、「この寿司美味しいね。何ていう魚ですか?」って訊いて、大将が「いやあ……」って答えられなかったら、すっごく不安にならないですか(笑)?
EMTG:それは不安になりますね(笑)。
江沼:俺はそういうところを暴きたい。「本来こういうものなんじゃないか?」っていうところを。場合によってはきつい言い方かもしれないけど、そういう風にしたい。でも、曲としてはうやむやにしたい。そうじゃないとつまらない。何度も聴こうと思えない曲になるから。
EMTG:「DRIP」はそういうテーマをコーヒーで喩えて、キャッチーな質感になっているのがすごくいいですよ。豊かな香りのコーヒーだけど、実は毒入り(笑)。
江沼:「間口は広く、出口は狭く」っていう(笑)。
EMTG:(笑)次に「ETERNAL」の話に行きましょう。これはさっきおっしゃったように、「ACTOR」より先に出来た曲なんですね。
江沼:そうです。
EMTG:「人生っていろんな相反するもの、矛盾するもの同士が隣り合っている。それを出来る限り見極めたい」っていうような強い想いを感じた曲なんですけど。
江沼:なるほど。これはですね……イモムシの曲です。
EMTG:イモムシ?
江沼:はい(笑)。イモムシきっかけで書いた曲なので。今住んでいるマンションのベランダに、外にある木の枝が入ってきていたんですけど、そこにイモムシがいて。普段だったら退治とかしていたかもしれないけど、その時はなぜか「イモムシってかわいいもんなんだな。一所懸命生きてるんだな」って思って。だから放っておいたんです。そうしたら数日後に清掃作業があって。朝起きてカーテンを開けたら、清掃どころか、木が切り株になっていたんです(笑)。それを見て「うわあ、イモムシ……」って。そのことによって「永遠って何だろう?」って思って、「ETERNAL」っていうタイトルで書き始めたんです。だからイモムシの歌というより、イモムシきっかけの曲ですね。イモムシはもういない。そのことが何となく引っ掛かっていて、「じゃあ、俺が蝶にしてやろう」っていうような感じで「ACTOR」を作ったんです。
EMTG:なるほど。「ACTOR」には蝶が出てきますからね。
江沼:だから俺が勝手にあいつを蝶にしました。まあ、詞自体にはあんまり関係ないのかもしれないけど。
EMTG:いきなり突拍子もないことを訊いちゃいますけど(笑)……永遠って何なんですかね? 「永遠」っていう形のある言葉を与えてしまったら、それはもう「有限」なのかもしれないわけだし。あと、この曲には《死、生》っていう印象的なフレーズがありますけど、死と生って対照的なようでいて、片方があるからこそもう片方がある。「生きている」っていうことは、そういう矛盾で満たされているんだなと、この曲を聴いて考えちゃいました。
江沼:矛盾って誰しもが抱えている。矛盾こそ全てだとは思わないですけど、それっていろいろなものに存在している。矛盾って矛盾じゃないのかもしれないし。「じゃあそれって何なんだ?」って訊かれたら分からないから、そのこと自体も矛盾しているんですけど(笑)。矛盾ってチグハグなイメージだけど、ごく普通にいろいろなところにあるじゃないですか。じゃあそれは本当に矛盾なのか? 「一所懸命働いてます!」って人が「何のために?」って訊かれて「いやあ……」って答えられなくて。じゃあ、そういう人は死ぬべきなのかといえば、そうじゃないじゃないですか。だから矛盾は矛盾じゃないですよね。
EMTG:矛盾は常につきまとう自然な状態だとも言える。だから生きていると常にハッキリした結論に辿り着けない。ずっとモヤモヤに付き合い続けるしかない。plentyの音楽って人間につきまとう厄介な宿命をありのままに反映していると思います。そういう矛盾と向き合い、格闘し続けている音楽だと僕は思っているんですけど。
江沼:決着は絶対につかないですけどね。決着がついたら、もう曲は作らないと思いますよ。決着をつけたい気もするし、つけたくない気もする。それも矛盾ですね(笑)。
EMTG:どうでもいいことには決着をつけられるんですけどね。「カレーはチキンカレーに限る!」とか。
江沼:そういうことだったらいっぱい結論をつけられる(笑)。
EMTG:(笑)じゃあ、そろそろまとめに入ります。今年のplentyは、すごくアクティブでしたね。だって、アルバム1枚とEPを2枚出して、ワンマンツアーを2回やったんですよ。
江沼:地味に働いていますね(笑)。でも、そういう地味なのが大事だったりしませんか? 俺らの場合はステージ上でも地味だけど、ステージに立つ人って大体が華やかじゃないですか。でも、実は大事なのはステージ以外の地味なところ。私生活だったり、曲を作ったりしている時間。でも、華やかに見えるじゃないですか。変な仕事ですよね。
EMTG:今年はすごく充実した1年を過ごしているように見えますよ。
江沼:ツアーを回りながら曲を作るっていうようなスケジュール的なことにも慣れてきたというか、振り回されなくなってきましたし。状況に応じて何に集中するべきなのかも分かってきました。だから曲を作るペースも上がってきました。クオリティも上がってきたと思っているし。変化を恐れずに、これを続けてきいきたいです。それしかないんですよね。音楽活動って。

【取材・文:田中 大】

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リリース情報

4th EP 「ACTOR / DRIP / ETERNAL」

4th EP 「ACTOR / DRIP / ETERNAL」

2012年11月07日

headphone music label

1. ACTOR
2. DRIP
3. ETERNAL

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●江沼 郁弥(Vo/Gt)
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■ライブ情報

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