小南泰葉、ミニアルバム『121212』について語る。

小南泰葉 | 2013.01.09

 今年5月にメジャーデビューした小南泰葉が、ミニアルバム『121212』をリリースした。「コペルニクス的転回」(=思想、価値観が180度変わってしまうこと)をコンセプトに持つ本作は、彼女がインディーズ時代から大事に歌い続けていたバラードナンバー「12月12日」を中心に制作された作品であり、リード曲である攻撃的なロックチューン「善悪の彼岸」や、旧知の仲であり、レーベルメイトである蜜とコラボしたアコースティクナンバー「お蜜会」など、彼女が持つ幅広い音楽性が発揮された作品になっている。本作のコンセプトを始め、発売当日に行なったリリース記念イベント「キダルナイト」、そして「12月12日」について、話を訊いた。

EMTG:『121212』、完成してみていかがですか?
小南:今年はミニアルバムを3枚出したんですけど、これが最高傑作だと思います。アルバムって、良い風を吹かせるために緩急つけた方がいいときもあるけど、今回は私のゴリ推し曲を入れたい!と思ったので、強い曲しか入れてないんですよ。
EMTG:収録曲はいつ頃出来たんですか?
小南:この2年以内に書いた曲がほとんどですね。「善悪の彼岸」はレコーディング前日まで歌詞構成をしていたので、この曲だけ新しく感じます。元々「堕落論」っていうタイトルだったんですよ。坂口安吾の“堕落しきったところに光がある”っていう話が好きだから、それについて書きたくて。でも、この1年間って「善と悪」とか「天使と悪魔」みたいに、相対するものって、どちらが正しいとは言えないっていうことを、ずっと歌って来たんですね。そういうものを踏まえながら、歌詞に本のタイトルとか、作家さんの名前を入れてたら、「善悪の彼岸」っていうニーチェのタイトルがピッタリだなと思って。
EMTG:「コペルニクス的転回」というコンセプトは、いつ思いついたんですか?
小南:曲をまとめたら全部そうだったというか。「12月12日」は私の死生観というか、地面がひっくり返った感じがあって。「視聴覚教室」は愛憎の転回だし、「お蜜会」は不倫の歌なので倫理観の転回、「善悪の彼岸」は価値観の転回で、「絶望に棲むキダルト達へ」は希望と絶望=「希絶望」っていうテーマで書いていて。でも、どれも不幸なんですよね。そういう自分のアンハッピーな部分が盛り込まれてるけど、救いのあるものにしたかったから、ひっくり返せば不幸は幸になるなと思って。それでジャケットまでひっくり返しちゃいました。
EMTG:サッチャー錯視のジャケット、かなりインパクトがあります。「お蜜会」では蜜とコラボしていますが、地元で活動していた頃から仲が良くて、ほぼ同時期に、しかも同じレーベルからデビューして、今回コラボするっていう。なかなかない話ですね。
小南:ビックリしましたね?。まさかEMIで会うとは! 蜜のライヴを見るたびに、自分のライヴはクソやなぁってイジけちゃうんですよ(笑)。すごく憧れているので。曲は、私が勝手に蜜の曲を書き下ろしちゃったんですね。もうウニ(木村ウニ。蜜・Vo.)のイメージしかなかったから、歌って欲しいと思ったんですけど、2人共忙しい時期だったんですよ。それでもお願いしてみたらすごいスケジュールの中で歌ってくれて。かなりエゲつないメロディーだから大変だったと思うんですけど(苦笑)。
EMTG:良い話ですね! ちなみに今日(取材日は12月12日)、リリース記念イベントもされていましたね。ニコ生でも中継されていて。
小南:とにかくドキドキしました! 緊張すると心臓の鳴ってる音がすごい聴こえるんですよ。お客さんが“10!9!8!”ってカウントダウンしてから歌い始めたんですけど、あの時は心臓がダーーン!ダーーン!ってベース音みたいに鳴っていて(笑)。そういう経験もあんまりないですし。そこは自分がこだわったからなんですけどね。2012年12月12日12時12分に「12月12日」を歌うっていう。
EMTG:歌ってみていかがでしたか?
小南:ちゃんと歌詞を噛み砕いて、飲み込んで歌ってたんですけど、気付いたらめちゃくちゃゆっくり歌ってました。この瞬間をずっと待っていたから、終わって欲しくなくて。「秘密結社Y人Y」(=小南泰葉と関係があると噂される秘密組織。ライヴアンケートに答えると入会可能)のみんなも、お母さんみたいな顔をして見守ってるんですよ(笑)。自分の大切な人のために歌を作って、それが広まって、これだけの人が集まってくれて……うん。
EMTG:「12月12日」はいつ生まれたんですか?
小南:2年前に友達が亡くなったんですけど、誕生日が12月12日なんですよ。誕生日を迎えられなかったんだなぁと思いながら、その2日前ぐらいに書きました。人間って、どれだけ傷つけられても、亡くなってしまうと感情がリセットされると今は思っていて。私の友達は自分をすごく大きく見せる子で、ウソもつくし、ケンカっ早いし、ドロドロした生活をしてるなと思って、ちょっと避けてた時期もあったんです。でも、もう会えないんだと思ったら、愛おしさしか残らなくて。でも、月日が経つに連れて、悲しかった感情が良い意味で穏やかになって。でも、会いに行くのもどうでもよくなってしまって、みんなの足が遠のくんじゃないかって。それってすごく仕方ないことなんですけど、すごく悲しいなと思ったんですよね。私は忘れられるのが本当に怖いんです。だから歌さえ残しておければ、自分が居なくなってもちゃんと命を刻んで形にすれば、ずっと残っていくと思っていて。そうすれば歌うたびに私は彼を思い出すし。だからその子の命日よりも、誕生日を覚えておいてあげようと思って、この曲を書いたんです。
EMTG:なるほど。
小南:自分の命を絶つことを、みんな当たり前に非難するじゃないですか。でも、死んでからもあれこれ言われたりしてるその子のことを守ってあげられないっていうのがすごいイヤだし、この世界が地獄みたいに悲しかったら、それを絶てるのであれば、そこに光はあるのかもしれないし。かと言って、遺族の方を見ていたら本当に辛そうだし。自分の家族には経験させたくないから「目指せ、親の死に目」ってことなんですけど。
EMTG:辛くても人生と戦わなければいけないと。
小南:そうですね。私は漠然と死に対して戦ってると思います。自分の血を流して、命を削って、曲を書きたい。でも、それと同じぐらいバカなことしか考えてなくて。0か100なんですよね。心穏やかに生きたくないというか。「秘密結社Y人Y」のみんなと一緒にバカなことして笑いたいし、彼らを幸せにしたいっていうことしか考えてないです。だから“死にたいな?”っていうことを考えてるわけではないんですよ。
EMTG:それを勘違いされることって多そうですね。
小南:よく言われますからね。“見てて痛々しい”とか(笑)。一回話すとね、絶対に分かってもらえると思うんですけど。でも私が伝えるのは歌であり、大半の人とは直接喋れないから、こういうインタビュー頼りになるんですけど。でも、取材1個とっても、話す内容によって自分の印象も全然変わってくるし。私があっち行ったりこっち行ったり、いろいろ話しちゃうからなんですけど(苦笑)。
EMTG:ははは(笑)。『121212』は様々な想いが詰まった作品になりましたが、それが最高のものになったのはすごく素敵なことだと思います。
小南:はい。あと、初めて渋谷のビジョンで自分を見たんですよ。
EMTG:スクランブル交差点の?
小南:そうです。「善悪の彼岸」と「12月12日」が流れてるのを今日見たんですけど、渋谷のスクランブル交差点って私の大嫌いな場所なんですよ。いろんなものが蠢いていて、人が上にのし上がるために頑張ってる街だと思うんですけど、そのギラギラした感じがダメで。その大嫌いな場所で、自分があんな大画面で、めちゃくちゃ大音量で流れてるのを聴いて、不思議でたまらなくて。
EMTG:そう考えると、嫌いな場所でも良い思い出なんですかね?
小南:良いというか、いろんな感情ですね。信じられないし、もちろん嬉しいし、めちゃくちゃ恥ずかしい。流れてるのを見たときにワー!ワー!って叫んじゃって。ハッ、恥ずかしいって……(苦笑)。
EMTG:ははは(笑)。今年はメジャーデビューも含め、激動の1年だったと思いますが、来年はどういう年にしたいですか?
小南:……今年は正月からずーっと筋トレしてたんですよね。
EMTG:ライヴの為に鍛えていたんですか?
小南:そうです。余分な物を削ぎ落とせば、自分の神経がどんどん尖っていくじゃないですか。断食するといろんな感覚が鋭くなる感じというか。とにかくバンドライヴがまだまだなので、ちょっとでも良いライヴをしたいと思って。だから2012年はお肉だったからどうしようかなと思ってたから、次は骨だ!って。2013年は骨量を増やしていこうかなと思います。
EMTG:期待してます!

【取材・文:山口哲生】

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ビデオコメント

リリース情報

121212

121212

2012年12月12日

EMIミュージックジャパン

1. 視聴覚教室
2. お蜜会
3. 「善悪の彼岸」
4. 絶望に棲むキダルト達へ
5. 12月12日

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ひよこミキサー
「検索してはいけない言葉」ってあるじゃないですか。あれがすごく大好きなんですよ。
ヒヨコってオスとメスを判別するんですけど、いらない方はポイって機械に乗せられて、ダーっと流れていって、その先にミキサーがあって、生きたまま巻き込まれちゃうっていう映像があるんですよ。
でも、選別してる人って、普通に働いてるだけなんですよね。そういう人が家に帰って、家族とワイワイ美味しい物を食べたり、映画を見ながら日々を暮らしているんだなぁと思って。だから全然残酷だと思わないんです。生活してるだけだから。ただ、動画の内容を知らなかったからビックリしました。
「ひよこミキサー」ってこんなに可愛い単語なのに。それについての歌詞も書きました。


■ライブ情報

小南泰葉 LIVE TOUR 2013
"コペルニクス的転回"

2013/02/10(日)大阪JANUS
2013/02/12(火)名古屋APOLLO THEATER
2013/02/16(土)新宿LOFT

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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