震災以降、より己に向き合い、周りに向き合った中から生まれた、BRAHMANのニューアルバム

BRAHMAN | 2013.02.18

 今回のBRAHMANの5年ぶりとなるニューアルバム『超克』が届き、一聴した際、思った。"あっ、彼ら、変わったな""より伝わりやすい方法論をとり始めたな"と。しかし、2聴目以降、徐々にその考えが揺らいでいく。そして5回目以降は、その考えは完全に変わっていた。"いや、変わったのは彼らではなく、むしろ彼らの歌を身体ごと受け止める、こちらの感受なのだろう"と。
3.11以降、色々な考え方や受け止め方、価値観が変わった。未来永劫も永遠も永久もないことを知った。そして、生の先には必ず死が待ち構えており、それは、いつ大きな口を開け、我々を飲み込んでくるかもしれないこと。加え、それに際する恐怖や備え、覚悟も覚えた。
BRAHMANは、描写こそ違えど、震災以前からその根底を歌っていた。ただ違うのは、死を覚悟しての生への視点だったものが、震災以後の体感から、生を通しての死への視点も合わさったところだろうか。そこには、歌われたり表されてはいない、愛しい人の存在や、手を離してはいけないものやことの重要ささえも強く感じさせるものが揃っていた。が故、これまで孤高で崇高な位置づけだった彼らの作品が、今作に於いてはより身近に、近づいてくれたとさえ思わせてくれた。
と、私は、このニューアルバムを受け止めたのだが、果たして当の彼らはどう捉えているのだろう?
ボーカルで作詞を担当するTOSHI-LOWにガッツリ向かい合い、その辺りを中心にじっくり聞いてみた。

EMTG:今回のニューアルバムで不思議だったのは、たぶん今までとメソッドや方法論は変わっていないんだろうけど、いつもと違って響いたところなんですよね。
TOSHI-LOW:いや、もしかしたら、それは逆かも。いわゆるメソッド自体が変わったというか。まっ、それは俺に限らずメンバー個人個人なんだけど。これまで演ってきて、自分の手癖や型みたいなものってあるじゃない。それを各個人がぶっ壊した感じは、近くから見ていて思ったよね。実際、けっして難しいことじゃないんだけど、これまで演ってこなかったことを今回は演ってみたり、これまで避けてきたものも、あえて取り入れてみたり、挑戦したり……その辺りは変わったかも。逆に変わってないところはやりたいことの本質みたいなところで。でっけえ音出してグワッときて、刹那や哀しみもあって……。その辺りは変わってないかもね。
EMTG:僕が言いたかったのは、若干それとは違っていて。基本BRAHMANって、これまで自分の内面に対しての苦悩や葛藤、戒めや闘いみたいなことは歌ってきたけど、けっしてそこには外に向けて、”さぁ、お前も一緒に…”なんてことは無かったし、今作でもその辺りは貫いているじゃないですか。だけど今作は、これまで以上に、突きつけられたり、問われたりしている印象を受けたんです。より、<親身>や<身近>になったというか。
TOSHI-LOW:なるほどね。そこは変わってないかな。相変わらず、自分に向けて歌ってる。言い換えると、例え相手に向けて歌ったとしても、それって結局自分に跳ね返ってくることも知ってるから。それはそれこそ、上りが先か?下りが先か?の話で。結局は行き着くところや目指すところは一緒だろうからね。だけど、その行き方がこれまでとは明らかに違うところはあるかも。
EMTG:では、「おまえも頑張れよ」とか、「俺がついている」「一緒に行こうゼ」等は、歌われてはいないのに、それを感じるのは何故なんでしょうね。
TOSHI-LOW:(笑)。なんでだろうね。それは人からの自分の見られ方や感じ方にも関係しているのかもしれない。俺、これまでその辺り、”自分は、こうじゃなきゃいけない!!”なんて信念を持って動いたり、歌ってきたけど、常にそこにギャップも感じていて。いわゆる<ステージ上での俺><それ以外での俺>ってさ、自分でセパレートしてた。元々30代に入った頃から、それを脱ごう脱ごうとは思ってたよ。もがいてたし。何だろう、人間以外のものに成りたかったくせに、結局は凄く人間になりたがってた自分が居たというか……。MCにしろ、やってもいないのに、”普通の人より笑わせる自信あるぜ、俺”とさえ思ってたし(笑)。その辺りは、素直になったかも。いよいよ30代最後の試練が来た気はする(笑)。
EMTG:その辺り、震災以降TOSHI-LOWさんがライヴ中にMCを入れ出したのにも関係がありそうですね。
TOSHI-LOW:いいキッカケだったかもね。あれ以降、ステージから真面目なことも言うし、くだらないと思われることを言うようにもなったから。だけど、これも自分では自分の一つの姿だと思ってる。ステージで狂ったように暴れまわりながら渾身の力を込めて歌うのも俺だし、ユーモアがあるのも俺。だから、MCは行き当たりばったりで喋ってるよ(笑)。時には、自分のずっこけ話も混じえて。そこには咎める(とがめる)ものは何もないし。昔は、”どっちかが出ちゃうと矛盾して映るんじゃないか?という恐怖もあって。自分像に自信がなかったんだろうね。だけど、今はもっと自分を大きく見てる。”誰が何と言おうと、これも俺だし、これも俺なんだ!!”って。で、俺のある部分を見て、「がっかりした」って言う人もいるかもしれないけど、それってたぶん俺のことがそんなに好きじゃないんだろうと思えるようになった。好き嫌いってそういった部分で判断出来ないと思ってるから、俺。
EMTG:バンドの動きにしろ、TOSHI-LOWさんの動きにしろ、今回の作品にしろ、明らかに3.11以降って気がします。ちなみに、震災以前に作品を出そうとしていたところ、震災があり、考えが変わって、一旦作っていたのをボツにして、作り直したりして、5年ぶりのアルバムになったとかは……?
TOSHI-LOW:それは無かったよ。正直、震災前は、曲の断片やまだまだ納得のいってない曲なら出来てたけど、具体的には何曲かしかできてなかった。なんか納得いく歌詞やメロディが浮かんで来なかったんだよね。そんな中、ギリギリで出てきたのが「霹靂」と「最終章」だった。
EMTG:意外ですね。これらの曲こそ、震災を経て生まれた曲かと思ってました。
TOSHI-LOW:みんな言うんだよね、予見していたとか(笑)。「霹靂」もさ、作った時はみんなあんまりピンと来てなくて、反応も良くなかったんだよ。ポカーン、みたいな。その時は、”俺はこう思ってるんだけど、それってみんなには引っかからないんだな……”、と思っていて。で、実際、後にそういった光景に遭遇したわけで。俺からすると、想定外じゃないもん、あのような状況って。特に震災に限らず、目の前にいる誰か友だちや知っている人が一瞬でいなくなる。それを歌にしてただけ。それを周りもようやくリアルに強く感じてもらえるようになったというか。でも、その時に出さなかったというのは、正直、自分でも出来た段階では自分の歌を疑っていたからだし。”みんな未来永劫、永遠に平和に生きていられると思ってるんだな”って、思ってたぐらい。で、結果、嫌なものは見ないで、いざ、あのようなことが起こると、”何故私が…?”とか、”信じられない…”ってなっちゃう。
EMTG:では、TOSHI-LOWさんの中では、常にそういったIfを持っていたと。
TOSHI-LOW:ありましたね。死に対する大きなIfみたいなものが。だって、それがないと生きていけないと思うんだよね。明日にでももしかしたら、終わってしまうかもしれない。だから今を懸命に生きるんだろうから。
EMTG:よくありますよね。コップに水が半分あって、”あと半分しかない”と思うのか?”あと、半分もある”と思うのか?って例えが。では、TOSHI-LOWさんは、あと半分しかないと思うタイプ?
TOSHI-LOW:いや、俺は、どっちでもない。
EMTG:えっ!?
TOSHI-LOW:半分の水、それ分だけあると思うというか。それ以上でも、以下でもなく、それ。<これだけある>という事実をそのまま受け止めるタイプ。まっ、こういったところが理解されづらいんだろうね。でも、震災以降、ポツンポツンとだけど、俺みたいなヤツが、被災地や色々なところにいたことを知ることも出来て嬉しかったよ。
EMTG:では話を戻すと。ニューアルバムの曲たちは、震災以降にガーッと。
TOSHI-LOW:自分でも揺らいでいたものが、あれ以降、ピタッと確信になったところはあるからね。そこからはそれを信じて作っていったかな。そのうち気づいたら今回の作品みたいになっていたというか。今まで下から見ていたものを上から見てみよう、今まで上から見ていたものを下から見てみようってなってたよね。その辺りは新しいことだね。今までは死から照らした生が多かったものも、逆に生から照らした死だったり、最後には必ず死があるというか、そんな歌も生まれてきたから。
EMTG:分かります。今までよりも、なんか作品全体に、<死に対して自分はどう生きるのか?>や哀しみ、そして、そこからの愛を感じるんです。相手が見えるようになったというか。「空谷の跫音」なんて非常にその辺りを強く感じました。
TOSHI-LOW:自分を照らすには、他の誰かが必要なわけだし。「自分の為、自分の為」って言ってきたけど、その<自分の為>の裏側には、自分の為の誰かがいるわけで。若いとなかなかそれに気づきにくいし、言葉や表現に出しにくかったり、表すと恥ずかしいなんてこともあったけど。でも、<自分以外の誰かに伝わって欲しい>というのは常に思ってたし。それは多くなくていいけど、むしろ深く刺さって欲しい。そして、それが自分がステージで表現するゴールとさえ思ってるから。
EMTG:いや、その辺り強く感じます。今作を通して、より新たな広がりが生まれると思うんですよ。
TOSHI-LOW:中には、「デビュー作みたいですね」って称してくれる人もいて。そう見えるのかな?って。
EMTG:では、最後に。先ほど「各々新しいことをやってみた」とおっしゃってましたが、その辺りをもう一度詳しく。
TOSHI-LOW:基本、自分たちの中にあって、今まで出して来なかったものも出してみたって感じかな、今作は。だから、元々自分たちの中では持っていたけど、作品としては出してこなかった面や部分というか。なので、今回は各自、今まで以上に各曲に向き合い、より根気強く色々と掘り下げていきましたよ。俺にしても、他のメンバーたちにしても。そして、その中から出てきたものが、今回の楽曲に各所に散りばめられているのかなって。
EMTG:確かに、新しい要素がある反面、更なる一丸性や一体感も感じさせますもんね、今作は。
TOSHI-LOW:作っていて、そこは強い支えになったよね。俺らももう19年目ですから。一緒の釜の飯を食ってきた時間や、震災の支援も一人で行くつもりだったけど、みんなで一緒に行ってくれて、その辺りも支えになったし、更なる信頼になった。それらを含め、全て作品に滲み出たのかなって。まっ、表立っては話したことないけど(笑)。その辺りも感じてもらえると嬉しいですね。

【取材・文:池田スカオ和宏】

tag一覧 アルバム 男性ボーカル BRAHMAN

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リリース情報

超克 (初回盤)

超克 (初回盤)

2013年02月20日

トイズファクトリー

ディスク:1
1.初期衝動
2.賽の河原
3.今際の際
4.俤
5.露命
6.空谷の跫音
7.遠国
8.警醒
9.最終章
10.Jesus Was a Cross Maker
11.鼎の問
12.霹靂
13.虚空ヲ掴ム
ディスク:2
1. TONGFARR
2. THE ONLY WAY
3. SEE OFF
4. BEYOND THE MOUNTAIN
5. CHERRIES WERE MADE FOR EATING
6. SPECULATION
7. 鼎の問
8. 露命
9. 警醒
10. ANSWER FOR…
11. 霹靂
12. 賽の河原
13. 初期衝動 (MV) (BONUS TRACKS)
14. 警醒 (MV) (BONUS TRACKS)

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お知らせ

■ライブ情報

Tour 相克
2013/03/12(火)Shibuya-AX
2013/03/18(月)山形ミュージック昭和セッション
2013/03/20(水)盛岡Club Change WAVE
2013/03/22(金)秋田Club SWINDLE
2013/03/23(土)青森Quarter
2013/03/25(月)仙台Rensa
2013/03/26(火)郡山Hip-Shot Japan
2013/03/29(金)水戸LIGHT HOUSE
2013/04/05(金)清水SOUND SHOWER ark
2013/04/07(日)長野CLUB JUNK BOX
2013/04/10(水)ZEPP Nagoya
2013/04/12(金)岐阜club-G
2013/04/18(木)横浜BLITZ
2013/04/20(土)金沢EIGHT HALL
2013/04/21(日)新潟LOTS
2013/04/23(火)高崎club FLEEZ
2013/05/01(水)ZEPP Namba
2013/05/03(金)神戸WYNTERLAND
2013/05/05(日)徳島club GRINDHOUSE
2013/05/06(月)高松MONSTER
2013/05/08(水)高知X-pt.
2013/05/10(金)松山SALONKITTY
2013/05/12(日)京都KYOTO MUSE
2013/05/17(土)札幌ZEPP Sapporo
2013/05/24(金)広島CLUB QUATTRO
2013/05/26(日)米子AZTiC laughs
2013/05/28(火)岡山CRAZYMAMA KINGDOM
2013/05/30(木)宮崎SR BOX
2013/05/31(金)鹿児島CAPARVO HALL
2013/06/02(日)ZEPP Fukuoka

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