パスピエの魅力を満載した1stシングル『フィーバー』

パスピエ | 2013.03.19

 2ndアルバム『ONOMIMONO』をリリースして以降、ますます注目が高まっているパスピエ。初のシングル作品となる『フィーバー』は、2013年の活動に一層の勢いを与えるだろう。タイトル曲「フィーバー」は、抜群にキレが良いダンスチューン。今後のパスピエのライブに欠かせない1曲となること間違いなしだ。そしてカップリングの3曲も、多彩な魅力を煌めかせている。今作について大胡田なつき(Vo)と成田ハネダ(Key)に語ってもらった。

EMTG:ライブを積み重ねる中で自ずと欲しくなったものを具現化したのが「フィーバー」なのかなと想像したんですけど、どうですか?
成田:全くその通りですね。前作をリリースしてから一気にライブの本数が増え始めたんですけど、それを踏まえて今作を作ることになった時に、自然と出てきたのがこういう曲だったんです。
EMTG:アッパーなダンスミュージックでありつつ、透明感のある土くささ、ヨーロッパ辺りの民謡的っていうんですかね? そういう香りが仄かに漂っているのが独特です。
成田:僕はバックボーンがクラシックなので、そういうものが沁みついているんだと思います。パスピエはメンバー全員のルーツがバラバラ。それがいい感じで混じり合って、こういう曲になったんでしょうね。ギターの激しさもあり、スピード感もありっていう。
EMTG:歌詞も素敵ですね。《左目が溶け出した》とか、随所でパンチが利いていますし。
大胡田:歌詞の作り方は曲によって違うんですけど、この曲はサウンドと「フィーバー」っていうタイトルによるところが大きかったです。
成田:歌詞が付く前の仮タイトルが「フィーバー」だったんです。
EMTG:大胡田さんの歌詞って、グロテスクのギリギリ一歩手前で踏みとどまるフレーズを散りばめるじゃないですか。僕はそこがすごく好きなんですけど(笑)。
大胡田:そういうのは結構ありますね。この曲に関しても《ピンクのケロイド》とか(笑)。
成田:「ギリギリアウト」くらいのフレーズだけど(笑)。
EMTG:目を逸らそうと一瞬思いつつ、実はすごく気になっちゃうところを刺激する作風ですよ。単刀直入に訊きますが、どういう背景から生れているんですか?
大胡田:わたしの背景ですか(笑)? わたしは小さい頃から……何て言うんですかね?(成田に問いかける)
成田:小さい頃のことを知っているわけないでしょ(笑)。
大胡田:割合、生々しい事件のこととかを調べる子供だったんですよね。人間の生っぽいところで感じる生死とか、そういうものに対して感じる綺麗さって、昔から好きだったんです。それが歌詞に入っているのかもしれないです。ポップな感じで挟んでいるつもりです(笑)
成田:僕らはポップなものを目指しているんですけど、それが行き過ぎちゃうのも違うのかなと。女性ボーカルですし、「キュート」とか「かわいい」に走り過ぎちゃうと、バンドとしての迫力が薄れちゃうのかもしれないですね。だから、こういう風にひと癖ふた癖つけてくれるのは、すごくいいなと思います。
EMTG:インパクトが強い歌詞ですけど、突拍子もないことは言っていないと思うんです。誰もが潜在的に知っている感覚を掘り起こす作風だなと。
大胡田:人それぞれに共通している記憶って、あると思うんです。実際に体験したことはなくても、「なんか分かるな、これ」っていう。そういう景色を描こうと思っています。「フィーバー」も、わたし自身のことではないんですけど、こういう感覚って、多分みんな分かるんじゃないですかね。
成田:歌詞ひとつとっても、人によっていろんな捉え方が出来る面もあると思っていまして。そういう「含み」があるものを意識して作っている面もありますし、そこはこれからも追求したいなと思っています。
EMTG:あと、カップリングも充実していますね。まず「マグネティック」のお話から行きましょうか。
成田:最初はサビだけ出来て、「純粋なポップサウンドだな」っていうのが、あったんですけど、そこにやっぱりどうしてもひと癖ふた癖つけたくなって、こういうものになっていきました。シングルの2曲目なので、どう次の曲につなげるのかも考えましたね。シングルってタイトル曲がバン!とあって、カップリングはその他大勢って見られがちですけど、「このシングル、最後までどうなっていくんだろう?」っていう期待を持ってもらえることも念頭に置いたんです。
EMTG:この曲も、さっきおっしゃった「含み」がありますね。ラブソングとして捉える人もいるだろうし、あらゆる人間関係にまつわる運命の曲として捉えることも出来るだろうし。
大胡田:これは「磁石の歌にしよう!」っていうことを思っていて。そこから「磁石…コンパス…旅」みたいな感じで広げていきました。旅的な部分、人生、ラブストーリーだとか、人それぞれにとっての旅のイメージ挟んでいるつもりです(笑)
EMTG:「磁石の歌にしよう!」っていう出発点自体が、かなりユニークです(笑)。
大胡田:ほんと、なんとなくです(笑)。
EMTG:《セロハンテープで塞いだ傷跡 光るの》っていうフレーズが、すごく印象に残るんですけど。
大胡田:これね即席感っていうか……いろいろ深読みして欲しいです。
EMTG:面白い要素が混じり合っているバンドであることが、この曲にもすごく表れていると思います。
成田:マイナスの意味ではなく、「ある程度の距離感」みたいなのが、メンバー間にあるんです。例えば、歌詞とバンドが出しているサウンドも、ある種、お互いに距離があると思っていて。だから歌詞を乗せてもらう時も、曲に合わせた歌詞というよりは、大胡田の道で歌詞を書く感じで。「あっ、そういう歌詞になるんだ。じゃあ音のここはこうしようかな」とか。お互いに尊重し合いながら、でも、牽制もし合いながら……みたいなところがあるんですよね。どれだけバンドとして密に関わっていても、個々に別の人格を持っているのは事実。だから「踏み入っちゃいけないゾーン」みたいなものは、結構大切にしています。
EMTG:何て言うんだろう? パスピエの醸し出す雰囲気って、「混ぜるな! 危険!!」って感じなのかも。お互いに混じり合って、得体の知れないものが発生しているような。
成田:それはあるかもしれないですね。一緒にやっている以上は、どこか必ず混じっているわけだし。やっていても、それが楽しいです。
EMTG:カバー曲の「Eccentric Person Come Back To Me」(原曲は、大野方栄が1983年にリリースしたアルバム『MASAE A LA MODE』に収録)も、カッコいいですね。
成田:これは昔のパスピエのルーツをやってみた感じです。カバーは今までにやっていなかったですし。
EMTG:「Eccentric Person Come Back To Me」は、ジャズスタンダードの「Lover, Come Back To Me」のカバーですから、「カバーのカバー」ってことになりますね。
成田:そういうことですね(笑)。これは大野さんがスキャット的なところに日本語の歌詞をつけた曲で、サウンドのアレンジはカシオペアのメンバーの方。元の曲のいい部分は貰いつつ、でもただのコピーにはならないようにカバーしました。
EMTG:これ、カッコいい曲ですよね。
成田:ですよね。もっと知ってもらいたいです。
大胡田:歌っていても楽しいんですよ。あと、この歌詞の女の人は、結構危ない人だというのも思います。こういう状況をちょっと味わってみたいと思ったり(笑)。
成田:歌詞に時代感があるのもいいですよ(笑)。レコードが出てきたり。あと、《時計の針を止めて》っていう表現にも時代を感じます。こういう手製のアナログ感みたいなものにも惹かれます。
EMTG:カバーは今後もやります?
成田:やってみたいです。
大胡田:何やりたいかな? 英詞の曲とか。あと、小川美潮さんはわたしのルーツですし。他は……「ドナドナ」? 小学校に入ったばかりの頃に、歌の本を見て「なんて悲しい歌なんだろう!」って思ったことがあって。大好きで、1人で読みながら泣いていました。
成田:まあ、「ドナドナ」のカバーは、今の僕の気持ちとしては、ないです(笑)。
大胡田:ないそうです(笑)。
EMTG:(笑)あと、「アンドロメダ」は、インディーの頃の曲のリテイクですね。
成田:結成当初に出した自主制作盤に収録した曲なんですよ。現在のパスピエも、昔の自分たちがあってこそなので、1曲昔の曲を入れたくて、これを選びました。
大胡田:「この時は、この言葉を漢字にしてたんだな」とか、そういう面白さも、今回改めてやってみて感じました。
成田:僕も今回、やりながら、ちょっと照れくさい感じもありました。
EMTG:(笑)このシングルのリリース後は、初の自主企画「印象A」が予定されていますが、そこに向けての気持ちはどうですか?
成田:こういう大々的なイベントをやるのは初めてなんです。尊敬するアーティストばかりを集められたんで、僕らも楽しみにしています。『フィーバー』のリリース後ですし、今までパスピエのライブに来たことがない方々にも来てもらえたら嬉しいです。
大胡田:今年に入ってからいろんな新しいことをパスピエは始めているんですが、「印象A」もその1つですね。さらにいろんな人と楽しいことを共有出来たらいいなと思っています。
成田:「印象A」の時に、今後に関する発表もいろいろしたいと思っていますので、ぜひそこにも期待して欲しいです。
EMTG:パスピエはここからさらに面白くなるぞと?
成田:どうですか、大胡田さん?
大胡田:うんうん!
成田:じゃあそういうことにしておきます(笑)。

【取材・文:田中 大】

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リリース情報

フィーバー

フィーバー

2013年03月20日

ワーナーミュージック・ジャパン

1. フィーバー
2. マグネティック
3. Eccentric Person Come Back To Me
4. アンドロメダ

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駅までチャリンコで行っているんですけど、坂道が多いんですよ。しかも、歩いて30分くらいの距離があって、なかなか辛いんです。

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いつもエバーノートを使って歌詞とかを書いているんですけど、急にログイン出来なくなっちゃったんです。それで困って、エバーノートについて調べました。調べたので、もう大丈夫になりました。

■ライブ情報

「KAWAii!! MATSURi (カワイイマツリ)」
2013/04/21(日)東京体育館

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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