ナオト・インティライミ、常に旅と寄り添っての制作だったニューアルバムを語る

ナオト・インティライミ | 2013.05.17

ナオト・インティライミの音楽がなぜ人を前向きにさせるのか? その大きな要素は、理屈を越えたフィジカルに訴えかける生々しい力にあると思う。音楽そのものが走ったり跳んだり、笑ったり泣いたりしているというか。そしてその源泉は彼の場合、身ひとつでコミュニケーションする未知の場所への旅。今回のアルバム『Nice catch the moment!』は、世界一周の旅から8年の時を経て、再び世界各地に飛んで撮影されたドキュメント映画「旅歌ダイアリー」の制作と分かちがたいものになった。感覚をよりオープンにしてあらゆるインスピレーションをキャッチして完成したニューアルバム。本人の体験と実感、思考を通して旅と音楽が感応したプロセスを訊く。

EMTG:ナオトさんの音楽にとってやはり旅は分かちがたいものでしたか?
ナオト:なくても…できたけど、(旅が)あったからできたアルバムになりましたね。
EMTG:8年前の世界一周と今の旅で違ったこととは?
ナオト:それがね、旅のスタンスは一切変わらなかった。大人になったからちょっとは物怖じしたりとか、人との接し方も変わったのかな? って、自分でも興味深かったんですけど、昔と同じような感覚でグイグイ行ってましたね。
EMTG:その、グイグイっていうのは?
ナオト:ギリギリ、人に迷惑をかけないところで自分の意志、あるいは気持ちを伝えていく作業。1コ1コ、言いたいけど言わないじゃなくて、今、伝えたいから伝える。そのチャンスをもらえるための、“I’m ready”になるまでの……いろんなステージに立つまでにどんなことをしていけば実現するのか、ってことを一つひとつしていこうってことかな。
EMTG:旅に行く前と帰ってきてからではアルバムに対するモードって変わりましたか?
ナオト:いや、もうね、帰ってきてから制作っていうよりは、9月にエチオピアに行って、11月にコロンビアでしょ、2月にトリニダードだから……この半年に“全部入り”でコトが起きたっていう。旅に行っては構想を練り始め、旅に行っては歌詞を書き始め、で、歌入れをしてミックスをしてマスタリングっていうのはこの半年に凝縮されてて。常に旅と制作は寄り添ってた感じですね。
EMTG:じゃあ「そろそろ旅に出ないと日本の現実に押しつぶされそう」とかではなく?
ナオト:うん。でも8年前に帰ってきてからも、いつでも旅に行きたかったし。ただ、デビューしてからは、時間的にまとめて行ける機会はなかったっていうのはあって。「押しつぶされる」まではなかったけど、「旅に行ったほうが絶対感じる」っていうのは常に思ってて。今回ありがたくも堂々と旅に行けたんで(笑)、それがアルバムと連動していく喜びっていうのは大きかったですね。
EMTG:ナオトさんが世間に登場したときはミュージシャンというより……。
ナオト:世界をほっつき歩いて(笑)、歌手より旅人が本業みたいなところはありましたよね。でも今もそれぞれが大事な側面なので。
EMTG:そういうワクワクする登場感みたいなものが今回のアルバムにも感じられて、それが曲のバリエーションの多彩さにも現れてると思いました。
ナオト:そうですね。いろいろやりたいことを並べて……30?40ぐらい並べてオーディションして残った……その他にもちろん何100のストックだとかやりたいことがある中で、予選通過した30?40の中で厳選した13(曲)になりましたね。だから今回の収録曲はオールスターズ。
EMTG:今回の創作意欲が半端なかったってことですか。
ナオト:いや、毎回それぐらいはありますね。ただ、今回はそれに輪をかけて旅に行くから感じるでしょ? いろんなことを。だからどんどん曲が出てくるってのはあって。エチオピアのハマル族の村に行く途中の移動の車の中で、2時間半ぐらいずっとギター持ってやってたら、20曲ぐらいできてましたね。舗装されてないデコボコ道を行きながら、ボイスレコーダー回してたらそれぐらいできてた(笑)。
EMTG:その中で今回生き残った曲やフレーズはあるんですか?
ナオト:その時のそのままではないけど、アフリカの景色を想像して「声をきかせて」のメロとかはできてるかな。
EMTG:この曲は旅のドキュメント映画のサントラにもなってるトラックが基(もと)なんですよね。でも、強豪の30?40曲の中に入るにはなかなか珍しいタイプの曲でもあって。
ナオト:これは最後の最後に他の曲を「どけっ!」って、ポンと入ってきて。もともとサントラだったけど、メロと雰囲気の個性は他に類を見なかったので、そこに歌をのせてみたらいいんじゃないか? みたいなことでやり始めたから。まぁ、歌が始まるまで1分半かかるし、歌が入ってくる前にピアノソロ始まるし(笑)。でもこの曲にしか出せない色を強く放っていたので入れました。
EMTG:それぐらい強い曲が多いですよね。たとえば「Brand new day」はソカとEDMの“ミックス”という言葉では表現できないぐらいユニークだし。この曲のアイデアはどこから出てきたんですか?
ナオト:もともとソカはね、デビュー曲が「カーニバる?」なぐらいで、前から好きな音楽で、特に性が合うっていうのがあって。それを発祥の地であるトリニダードで体感したかったというのはあって。それこそホントに1週間、カーニバルウィークの間中、浴びるように食らってね。で、向こうのアーティストとコラボして、ライブ飛び込みでやらせてもらったり、向こうのプロデューサーとレコーディングしたりとか、トラックメイクをしたりとか、そういうのがあって。でもやっぱ単にトリニダードのソカでは物足りない部分もあって、もっとイケてる、イカしてるバキバキの要素が必要だと。で、ガチンコでEDMソカを作りに行きましたね。
EMTG:トリニダードでソカを浴びまくってる、それは日常なんですよね?
ナオト:モロ日常ですね。カーニバルウィークを狙いすまして行ったんですけど、各地のイベント会場でライブもしてるし、中心の街では何10台のDJセットを積んだ爆音カーや、スティールパンなどのバンドを積んだ爆音カーが24時間スタイルで練り走ってるっていう。だからもう寝てるのか寝てないのか分かんない状態で、ソカ漬けって感じ。だからこっちに帰ってきてからカーニバル病にかかってて。寝てても踊ってるんですよ、「病気だな」と思って。
EMTG:そんなカーニバルホリックな中で書かれた「Brand new day」(笑)。
ナオト:そういうノリですね。歌詞もそれを思い出して書いたし。
EMTG:ナオトさんの音楽的運動能力はこれまでも高いですけど、さらに加速してるのはそういう経験からなのかも。「Balooooon!!」なんかは懐かしさとハイパーさが同居してて。
ナオト:老若男女が踊りだすような、イメージは高度成長期のデパートの屋上の遊園地感を出したかったんですよね。でも地味に2行だけ、こう…いいこと言おうとしてる、みたいな。
EMTG:おっ?
ナオト:「大切なものはなぜ失くしてから気がつく?」、ここ2行だけなんか無駄な抵抗メッセージ感みたいな(笑)。
EMTG:無駄って(笑)。風船にかかってるんですね。
ナオト:うん、でもひたすらライブで盛り上がるような……今回のライブの肝だなと思いながら作ってましたし、これはもう想像するとワクワクしますね。今まで、アゲ曲ってカリブ海のソカ的なものとか、そういう曲が多かったんで、そうじゃないオマットゥリ・ダンスチューンを作りたくて、こういうレトロ・エレクトロと呼んでるんですけど、新鮮に盛り上がれるのかなと思ってるんですよね。
EMTG:面白さの限界越えをしている曲がある一方、ラブソングも新境地がたくさんあって。「これは書けたなぁ」ってナオトさん的に手応えのあるラブソングを教えてください。
ナオト:2コあるかな。まず「君生まれし日」は、“このメロにのる「Happy Birthday to You」はどんなニュアンスだろ?”って考えたときに幸せなものじゃなかったんですね。君と離れて初めて迎える君の誕生日に、雑踏のなかで呟くように言う「Happy Birthday to You」なんじゃないかって。それと面白かったのは最後のサビまで本当の思いを言えないんですよね、この人。アウトロでようやく気持ちを爆発させるっていうのはこの主人公のキャラがよく出てるな、と。
EMTG:もう1曲は?
ナオト:「恋する季節」かな。今までとは違うタッチで書けたので自分でも新鮮な思いですね。
EMTG:初期衝動に溢れていますね。
ナオト:うん。衝動を歌いたくて。いわゆる自分ソングでもあるし、ラブソングでもあるんですけど、このシングルのリリースが春だったんで、“春ってどういう季節か?”もう1回思い返して。何か起こりそうなワクワクドキドキしてる街のムードもありつつ、1年の中でいちばん自分に向き合う季節でもあるだろうなと思って。日本じゃ新年度が始まる環境において、浮き足だちながらも「俺の夢ってなんだっけ?」とか「俺は戦えてっか? やれてっか?」って。その中で「このままじゃダメなんだ。よし、やらなきゃ!」って心の奥で暴れ出していく衝動だったり、あるいは出会いの季節のなかで、「君と出会って最初は好きかどうかわからない。でも気になる、なんか気になるんだよな。俺なんであいつのこと考えてんだろ。あれ? これ好きなのか? 好きか…好きだな」ってどんどん変わっていく感情も歌いたかったっていうのはありますね。
EMTG:13曲すべてステージングを想像するのが楽しみな曲ばかりですが、今回のホールツアーの展望はいかがですか?
ナオト:“移動式パワースポット”と称してるんですが。
EMTG:ハハハ!
ナオト:春から新しい環境に変わって、学校や仕事場に馴染めない人も沢山いると思うし、それこそ震災の爪あとがまだまだ残ってる中で生活してる人も沢山いるしね。そういった逆境とかつらいこととか悲しいことをみんな持ちながら生きてるけど、数時間だけはそういった気持ちから解放されて、夢中になれる空間を用意して待っていたいなっていう。そんな気持ちを持って挑みたいですね。

【取材・文:石角友香】

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リリース情報

Nice catch the moment!(初回限定盤) [CD+DVD]

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2013年05月15日

ユニバーサル・シグマ

ディスク:1
01. introduction〜Do whatcha wanna〜
02. Brand new day
03. 恋する季節
04. I’m chi-zu-ers 
05. 365 
06. 君生まれし日
07. ナイテタッテ
08. Ballooooon!!  
09. しあわせになるために
10. 未来スケッチ
11. 声をきかせて
12. I FEEL IT GOOD
13. Catch the moment

ディスク:2
1. ナイテタッテ [MUSIC VIDEO]
2. しあわせになるために [MUSIC VIDEO]
3. 恋する季節 [MUSIC VIDEO]
4. Yeah! (「ナオト・インティライミ アリーナツアー2012」) [Live at 横浜アリーナ on 2012.12.07]
5. Hello (「ナオト・インティライミ アリーナツアー2012」) [Live at 横浜アリーナ on 2012.12.07]
6. 君に逢いたかった (「ナオト・インティライミ アリーナツアー2012」) [Live at 横浜アリーナ on 2012.12.07]

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伊能忠敬(いのうただたか)
「I’m chi-zu-ers」の歌詞を書くにあたってwikiったよ。伊能先生なしには地図は語れないですからね。でも、”歩きまわってなんであの地図を作れたのか?”ってことは自分の知識内でした。まぁ確認作業というか通過儀礼ですね(笑)。

■ライブ情報

『ナオト・インティライミ LIVE キャラバン 2013@HALL Nice catch the moment!』
2013/05/25(土)三郷市文化会館
2013/05/28(火)神奈川県民ホール
2013/05/31(金)三重県文化会館
2013/06/01(土)静岡市民文化会館
2013/06/04(火)ニトリ文化ホール
2013/06/07(金)盛岡市民文化ホール
2013/06/12(水)NHKホール
2013/06/13(木)大宮ソニックシティ
2013/06/20(木)香川サンポートホール高松
2013/06/22(土)広島上野学園ホール
2013/06/23(日)広島上野学園ホール
2013/06/28(金)まつもと市民芸術館
2013/06/30(日)新潟県民会館
2013/07/02(火)郡山市民文化センター
2013/07/04(木)仙台サンプラザホール
2013/07/06(土)なら100年会館
2013/07/07(日)滋賀県立芸術劇場びわ湖ホール
2013/07/19(金)長崎ブリックホール
2013/07/21(日)大分・iichikoグランシアタ
2013/07/24(水)和歌山市民会館
2013/07/26(金)鳴門市文化会館
2013/07/28(日)島根県民会館
2013/08/02(金)神戸国際会館こくさいホール

『ナオト・インティライミ 日本武道館LIVE on ナオトの日 〜今年も?いや今年こそドカーンとやりますよ!〜』
2013/07/10(水)日本武道館

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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