andropの最新アルバム完成。全14曲に広がる至福のサウンド。

androp | 2014.02.28

 andropの魅力とオリジナリティが眩しいくらいに迫ってくる3rdフルアルバム『period』。彼らは昨年、精力的な作品リリースやライブ活動によってリスナーとの絆を深めたが、本作はさらに繋がることを求める気持ちの結晶だ。多彩な音色やリズムが躍動する絶妙なサウンドメイキング、生々しい息吹に満ちた演奏、胸の奥にまで届いてくる歌声、夢のように美しいメロディとハーモニー……耳を傾けているひと時は、何とも言えないほど心地よい。このアルバムの制作の背景、込めた想いなどについて、内澤崇仁(Vo・G)が語ってくれた。

EMTG:作品全体で「人と繋がる」っていうことをじっくり描いている印象がしたんですけど、まずその点に関してはいかがですか?
内澤:僕らが今求めていることがそれなんです。「聴いてくれる人と繋がりたい」というのをすごく求めているので。前作の『one and zero』が出来上がって、ホールツアーが始まるまでは曲が全然作れない時期だったんですよ。バンドをどういう方向に進めて行ったらいいのか分からなくなってしまって。でも、ツアーの初日。ステージに立った瞬間に、「僕らがこのステージに立てているのは自分たちだけの力じゃない。聴いてくれる人がいるおかげでステージに立てているんだ」と再認識したんです。そのことによって「Voice」の断片ができました。「空間を共有している人たちと一緒に歌いたい。もっと繋がりたい。そういう曲を作りたい」と思ったんですよね。
EMTG:やっぱりそこがきっかけだったんですね。「Voice」の取材の時に「お客さんと自分たちの間に壁がない、一緒になって歌えるような曲を作りたかった」っていう旨のことをおっしゃっていて。そういう想いが今回の1枚に貫かれているように感じたので。
内澤:はい。次のアルバムに向けての先陣を切ってくれたのが「Voice」なんですよ。
EMTG:パーソナルな部分から生まれた「Missing」をシングルでリリースすることになったのも、今おっしゃったような気持ちが生まれたからですよね?
内澤:そうですね。「Missing」は5年くらい前にできていた曲。おっしゃる通りプライベートな部分の歌だったので「歌えない」と思っていたんですけど、「Voice」によってお客さんに向って一歩踏み出せたおかげで歌えるようになれたんです。それまではずっとビクビクしていたんですよね。聴いてくれる人たちに対して「こう思われたい」とか、「こうじゃなきゃ駄目だ」とかがあったし、踏み込み過ぎると離れてしまうような不安もあったので。でも、少しずつ歩み寄ってみたら全然そんなことはなくて。むしろステージとかも心地よい場所で。「こんなに心地よい場所だったら、「Missing」みたいな曲を曝け出しても、ちゃんと聴いてもらえるかもしれない」って思えるようになったんです。
EMTG:そういう不安が長らくあったんですね。
内澤:はい。それは「自分たちの曲が否定されるかもしれない」という恐怖感でもあったし。あと、そもそも最初の頃はライブが大嫌いだったので。「納得できる音を届けられないかもしれない」という不安もあったので。でも、自分が納得できる音作り、プレイをして届けられるようになってきて、変わってきたんです。
EMTG:では、アルバムの曲の具体的なお話に入りましょう。まず、「One」が素晴らしいですね。「個=One」が繋がり合った時に生まれる大きなエネルギーを描いているという点でも、今作の象徴的な1曲だなと。
内澤:これは「Voice」の延長線上にある曲。2013年に感じたいろいろな想いを2014年に投げかけるような意味合いでの、僕らにとって大切な曲です。「Voice」は先程お話したような経緯で生まれたので、衝動的にできた曲なんですよね。その衝動から少し経って、少し俯瞰したところから見た曲が「One」だという気がします。
EMTG:「One」を聴いて改めて思うことの1つは、andropってすごく人力の演奏の熱量を感じるバンドだということなんです。「Melody Line」とかもまさにそういうサウンドですし。
内澤:「このシンセの音は?」と言われる部分が「それ、ギターの音です」っていうことがよくあるんですよね(笑)。打ち込みっぽく聞こえるけど、本当のドラムで叩いていることもありますし、シンセベースっぽいけど普通のベースだったり。
EMTG:抽象的な喩えになってしまいますけど……デジタル制御のマシンのようなカッチリした動きを見せるけど、中身が巧みな歯車の組み合わせによって構築された精密な機械。そんな感じのワクワクと迫力を僕はandropの音楽に感じるんですよ。
内澤:なるほど。デジタルだと100%で音が表現できるかもしれないけど、つまらなさを感じるというか。アナログ、人力でやることによる人間的な揺れ、ブレっていうものが出るからこそ、聴く人の感情を揺らすものが生まれるんじゃないかなと。そういうことを表現したいという想いがあるんですよね。
EMTG:そういうバンドだからこそ、「Light along」みたいなアコースティック色が強い曲もごく自然にアルバムの中に存在できるんでしょうね。
内澤:僕はちょっとひねくれたことをしたくなる性格なので(笑)、普段だったらストレートなバラードってあまり作らないんですけど、この曲でそこにチャレンジしました。楽器に変なこだわりを見せない作り方というか。歌を聴いてもらいたくて、それを活かしたアレンジですね。
EMTG:この曲や「Six」とかもそうですけど、「光」と「闇」みたいなモチーフは、多くの曲に入っていますよね?
内澤:そうですね。「Six」にもそういう要素が入っていますし、これも「繋がり」っていうことを描いています。なんでこのタイトルかというと、「6次の隔たり」っていう理論、仮説が下地になっていまして。「自分から6人の知り合いを介すると世界中の知らない人と繋がる」っていう考え方のことらしいんですけど。例えばライブに来てくれる人たちも、多分、6人を介すると繋がっているし、その人の隣にいる人も6人を介するとお互いに繋がっている……そう考えた時、「会場にいる全員と繋がっているんだ」と思えるようになって。「1人じゃないんだな」とも思ったし。そういうのを曲にしたくてできたのが「Six」です。
EMTG:描いているテーマ性という点だとラストを飾る「Stardust」は作品全体を総括しているように感じたんですけど、この曲順にはどんな意図がありました?
内澤:フルアルバムの1stと2ndって最後の曲がバラードだったんですよ。いつもしっとりと終わっていて。でも、今回は明るく終わりたかったんです。なぜなら「繋がる」っていうことがテーマになっていたから。だから繋がっているような明るい曲で終わりたくて。アルバムの始まりも「Singer」で、一緒に歌って繋がっている状態なので、最後もそういう形で終わりたかったんです。
EMTG:1曲目の「Singer」とラストの「Stardust」が1本の大きな柱となりつつ、他の曲が個々の存在感を伸び伸びと主張しているアルバムにもなっていると思います。例えば「RDM」は人力のノリを活かした強力なダンスチューンだなと。
内澤:ものすごくEDMにハマっていた時期がありまして。EDMは「エレクトロニック・ダンス・ミュージック」。それをバンドのパンチのある音で表現できないかなと思ったんです。だから「RDM」って「ロック・ダンス・ミュージック」の略(笑)。
EMTG:(笑)ロックという点だと「Lit」が強力ですね。これってヘヴィロックじゃないですか。
内澤:これはandropを始めるか始めないかの頃にはできていたんです。でも、andropには合わないだろうなと思ってずっと寝かせていたんです。去年末のライブでやったことによって成長しました。「ライブで成長させる」っていうトライも、今回、初めてのことでしたね。メンバーがちゃんと音を奏でて、僕が伝えたいことを歌うことによって、どんなものでもちゃんとandropの曲にすることができると思えたきっかけでもあります。
EMTG:意外性という点だと「Sensei」もそうですね。隙間の多いサウンド、怒りの感情が前面に出てくる点が新鮮でした。
内澤:これもandropを始めるか始めないかの頃からありまして、「andropじゃ絶対できないだろうな」と思っていました。
EMTG:すごく自由になってきていますよね?
内澤:ほんとそうですね。それはたとえお客さんにそっぽを向かれたとしても自分たちの方から走っていって振り向かせてやろうと思えるようにもなっているからですね。前だったらそういう風に追いかけることはできなかったですから。それくらい聴いてくれる人たちに対して「あなたたちが好きだ!」って言える状態になっている気がします。
EMTG:「Neko」も新鮮でしたよ。
内澤:「Sensei」と「Neko」は問題作ですね(笑)。「Neko」は今回のアルバムの最後にできた曲なんですよ。この曲にとりかかっていて、あと数時間遅ければ発売できないっていう状態だったんですけど。
EMTG:アルバムのリリースが延期になりそうだった?
内澤:そうです。メンバーは朝から待機している中、僕は家で作業をして、夜の7時くらいにできた曲を送りました。そこからセッティング、音作りをして、次の日の朝までかけてトラックを作って……という感じでした。そういう状態で歌詞も書いたからなのか、普段だったら入れないであろう《にゃー》っていう言葉とかが入っているんですよね。この時期、スタジオと家の往復しかしていなくて。癒しが「餌がねえよ」って寄ってくる猫くらいしかなかったんです(笑)。切羽詰まるからこそできる「良いな」と思える曲もあるんですね。
EMTG:「Neko」の後には「Time Machine」と「Under The Sun」が続きますが、アルバムの後半のこの辺りは特に明るくてリラックスしたムードを感じます。
内澤:「Time Machine」も結構前からあったんですけど、アレンジを3、4回くらい変えていまして。すごくバンドっぽいサウンドですね。
EMTG:デジタルサウンドをいろいろ駆使しつつも、やっぱりandropの根本はギターロック・バンドですね。
内澤:そうですね。僕は元々ギタリストだったんですけど、ギターの可能性は無限大だと思っていまして。ギターはシンセみたいな音も出せるし、自分の感情を音にすることもできるし。ギターに対する愛はすごくあります。シンセも使っていますけど、ギターでそういう音を出した方が揺らぎがあって、良いなと思う時とかもありますから。
EMTG:音色選びのこだわりは毎回すごいんじゃないですか?
内澤:昔からそうですね。1つのギターの音色を決めるにしても、まずギターを選んで。その後はピックアップ、アンプに繋ぐシールド、アンプの真空管、スピーカーのキャビネット、音を録るマイク、卓のヘッドアンプ……っていうのを全部選んでいると、本当に終わらないんですよ(笑)。
EMTG:(笑)そういえば……今までのアルバムのタイトルの頭文字は「a」から始まって(1stアルバム『anew』)、「n」(2ndアルバム『note』)→「d」(3rdアルバム『door』)という感じで、バンド名「androp」に使われている文字が順番に続いてきましたけど、今回の『period』でついに「p」ですね。
内澤:「p」まで行くというのは夢だったんです。最初の「a」のアルバムを出した頃には、いつまで音楽ができるかも分からなかったですから。もし「p」を出すまで音楽を続けられていたら自分で納得できる音を鳴らせるようになっているだろうし、納得できるバンドになっているであろう。そうなりたいという夢、願いがあったんです。もし「p」まで行けたら『period』っていうタイトルをつけようというのも考えていました。「p」に辿り着く頃には「これがandropです!」と胸を張って言えるようなアルバムを完成できるバンドになっているのであろうと。そういう願いが、このタイトルにはこもっていたんです。
EMTG:目標だったことの1つに辿り着いた今、この先に関して思い描いていることは何かありますか?
内澤:まだこのアルバムのマスタリングが終わったばかりなので、「やり切った感」でいっぱいで、ボーっとしているところです(笑)。
EMTG:『one and zero』の完成直後みたいな状況ですね(笑)。
内澤:そうですね。自分が選んだ道がこんなに大変なんだと、今回程思ったことがないくらいです(笑)。でも、苦労したからみんなに聴いて欲しいというわけじゃなくて、「曲ができたのもライブでいろんな人と一緒に歌ったり、聴いてくれる人がいたから。みんなからいろんな力を貰ったから、こういう曲ができました。だから聴いてください!」って言いたいんです。まずはこれを聴いてもらって、またライブに来てもらいたいですね。
EMTG:3月23日の代々木第一体育館のライブ、みんな楽しみにしていますよ。
内澤:僕たちも今、そこへと全力で向っているところです。あの場所で1万人と一緒に歌いたいです。そこでまた何か感じることがあるのかなと思っています。
EMTG:では、そろそろインタビューを終わりますが、最後に何かありますか?
内澤:そうですね……あっ、今回CDとは別にドキュメンタリーDVDが付くんです(初回限定盤に付属)。ドキュメンタリーが入るって初めてで、自分たちをそういう感じで観るのも初めてだったんです。「自分たちってこういう感じなんだ」と客観的にandropっていうものに触れた結果、曲に対する考え方がより深くなった気がしています。こちらもぜひ観て頂ければと思っています。

【取材・文】田中 大

tag一覧 アルバム 男性ボーカル androp

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リリース情報

period【初回限定盤】(CD+DVD)

period【初回限定盤】(CD+DVD)

2014年03月05日

ワーナーミュージック・ジャパン

[CD]
1.Singer
2.Voice
3.Lit
4.RDM
5.One
6.Light along
7.Six
8.Sensei
9.Melody Line
10.Neko
11.Time Machine
12.Under The Sun
13.Missing
14.Stardust
[DVD]
documentary
studio live
1.One
2.Lit
3.Voice

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猫がたくさいる島です。仙台の田代島と愛媛の青島というところです。いつか行ってみたいです。餌をあげるふりをして猫を寄せてみて、あげなかったりしてみたい(笑)。僕は猫を飼っていますけど雑種です。弱っていた状態なのを友だちの車の下でみつけたんです。拾ったのは生まれたての頃。拾った時は片目が見えなくて鼻も悪くて餌も探せない状態だったんですけど、今は元気になっています。


■ライブ情報

one-man live 2014 at 国立代々木競技場・第一体育館
2014/03/23(日) 国立代々木競技場・第一体育館

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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