back number、究極のポップアルバム『ラブストーリー』!インタビュー[後編]

back number | 2014.03.26

 4thアルバム『ラブストーリー』インタヴュー後編。今回は収録されている様々な曲について具体的に語ってもらった。各曲にこめられた想いは、多くのリスナーにとって圧倒的なリアリティを感じるものであるはずだ。豊かな物語性が脈打つ全12曲の源にある人生観、back numberの音楽の核の部分も窺わせる内容になったと思う。

EMTG:前回のインタヴューで「主人公の体温を感じる」っていうようなことをお話しましたけど、そういう生々しさは今作の重要なポイントだと思います。例えば「003」。彼女との間に膜があるように感じられて、本質や本心に辿り着けないようなもどかしさを描いていますが、それって結構多くの男性が体験していることではないかと。
清水依与吏(Vo・G):女性の方が情や懐が深いように感じるので、いろんなことを隠すのが上手なんですよね。でも、一番深い奥底に到達した時にものすごい冷たい目をすることもあるし(笑)、「ここまで来ちゃったんだ……」っていう目をすることもある。そういう女性の神秘みたいなことは、男は多分一生解き明かせない次元のことなんだろうなと思って。そこを行き切った描写で書いたのが「003」です。
EMTG:「MOTTO」は自分の奥底を知って欲しい女性の心情を描いていますが、「003」と対になっている曲として聴くこともできそうですね。
清水:ああ、そういうのもありそうですね。実は男が膜だと思っていたものは、自分で勝手に作っていたものなのかもしれないし。女性側は「そこを入り込んでくるならば受け止めますけど?」みたいな。そういう攻防戦ですね。いやあ?、アダルトですねえ(笑)。中学生ぐらいの子が20歳くらいになって「こういう歌だったんだ!」ってもう1回じっくり聴いちゃうような。そういうことになったら音源としても素敵ですね。
EMTG:「003」の主人公、彼女との間にある膜を破れるんですかね?
清水:こいつ、多分、寸前のところで怖気づいているんですよね。弾を撃っていないですもん。
EMTG:003を『007』のジェームズ・ボンドに置き換えるならば、ミッションの遂行は厳しそうですね。
清水:このジェームズは駄目ですよ。男女の間にある膜って、もしかしたらシンプルなことなのかもしれない。超必殺技を繰り出せば、多分撃ち抜けるんですよ。でも超必殺技をかわされるのが怖いのか、滅多に撃てない弾だから勿体ぶりたいのか。自分が撃たないから結局は当然撃ち抜けない。そこに男は気づいていないという。そういうことなのかなと僕は思っています。全身全霊をこめた弾って意外と当たると思うし。それなのに男は立ち止まっていて、女性は「やっぱりそこで怖気づくんだ」って思っている。そういう男の不甲斐なさを結果的にえぐることになっているんでしょうね。で、こんなテーマを描いているっていうことは……つまり俺がそういうやつなんでしょうね。なんかそういう曲ばっかりだなとも思って(笑)。
EMTG:(笑)創作って、生み出したものによって自分の姿を知る作業でもあるんじゃないですか?
清水:そうですね。今回のアルバムはフィクションを多めに入れようと思っていて。でも、小説を書くような頭で綴っていくと、逆に自分が隠していた部分が出ていて。「うわっ、恥ずかし!」ってなるんです(笑)。登場人物の身体を借りると、本質みたいな部分が出てきますよ。お面を被ったり着ぐるみの中に入ると、いろいろな変な動きが出来たりするような感覚と同じなのかもしれないです。「あっ! 俺、こんな動きがしたいんだ!?」みたいな。それこそ「fish」で女性の身体を借りたことでそういうことができたように。今までも「幸せ」や「思い出せなくなるその日まで」とか「stay with me」とかで女性口調でやってきて、女性の身体を借りると素直になれるっていうことは分かっていたんですけど、まさかよりフィクションになることで自分を曝け出せるとは発見でした。
EMTG:ちょっと余談ですが……ふなっしーの中の人とか、自分を曝け出せている感覚があるんでしょうね。
清水:絶対あれ、本来の自分ですよ。
栗原寿(Dr):素顔だと言えないことを言えているんだろうね(笑)。
清水:ふなっしー、楽しくてしょうがないんだと思うよ。修学旅行で買った大仏のお面を被ってテンションが上がっていたやつ、いなかった?
小島和也(B):そういうやついたねえ。
清水:俺、今回その感じだった(笑)。
EMTG:今回の曲、清水さんの本質が出ているなと、身近にいるメンバーとしても感じました?
小島:勿論、依与吏が書いているという点で、そう感じる部分もあるんですけど、もっと「物語」っていうものを感じてもいて。『ラブストーリー』っていう本を読んでいたような感じになるというか。登場人物がたくさんいるアルバムにもなっていると思うので。1曲1曲に感情がすごくこもっているので、「この曲のここに自分を置けるな」って思ったり、自分自身を映すこともできますね。
栗原:自分を重ねられる曲が多いですね。「光の街」みたいな幸せな時は自分にもあったし。でも、「こわいはなし」のような幸せな時を過ごした人との終わりもあったし。「一歩引いてもし眺めたら、自分たちはこう見えていたのかな?」って思ったりもします。あと、「世田谷ラブストーリー」のように「あと一歩行ければ!」みたいな自分の押しの弱さを思い出す曲もあったり(笑)。主人公がいっぱいいるアルバムですけど、どの主人公にも自分がスッと同化できるんですよね。フィクションなのかもしれないけど誰かのリアルになるものになっていると思います。
EMTG:変なことを言うようですけど……このアルバムの曲たち、「清水さん、あの時の俺を覗き見してたんじゃないか!?」っていうような感覚にもなるんですよ。
栗原:そういうのもありそうですね(笑)。
EMTG:「こわいはなし」みたいなこと、なんとなく経験がある気がしますし(笑)。
清水:よかれと思ってやっている2人なんですけど、それが結果的には災いのもとであるという。「こわいはなし」は、そういうのって怖いなと思いながら書きました。恋愛って理不尽な話が多いですからね。だからタイトルは「こわいはなし」でいいやと思いました。
EMTG:恋愛ってホラー、怪談であるっていうのは、ひとつの真実だと思います。いろいろグロテスクですもん。
清水:ほんとそうですよね(笑)。
EMTG:だからこのアルバムって恋愛にまつわる事柄の「光」と「影」を描いている作品だとも言えるんじゃないでしょうか。それこそ「光の街」はまさに「光」だし、「003」とか「こわいはなし」は「影」。
清水:はい。そういうアルバムにもなっていますね。「こわいはなし」って実はこういう状況にある人は気づかないまま「言葉の鳴りがいい曲だな?」とか思って聴くんでしょうね。そして、「光の街」を「今のわたしたちみたいだね?」って聴いて。でも、後になって「こわいはなし」で歌っていることの意味が分かって、「早く言ってよ……」みたいな(笑)。細かいディテールを盛り込んで書いているので、既にそういう経験があるならともかく、意外と自分を投影できない曲ももしかしたらあるのかも。でも、したことがない経験でも想像したり憧れながら聴くこともできますからね。例えば群馬の少年少女には「世田谷ラブストーリー」は味が濃過ぎるかもしれない。群馬には「終電」という文化がないので。でも、「将来、自分も東京に行ったら、そういうことがあるのかもな」ってワクワクすることもできるはず。そういう角度から聴いてもらうのもいいのかもしれないです。
EMTG:リスナー各々なりの聴き方を楽しめるはずですよ。
清水:前までは「この曲をこういう風に聴いてください」とか思ってたし、言ってもいたんですけど、そういう感じではなくなっていますね。この前、「fish」か何かのインタヴューで「この曲をどんな風に聴いて欲しいですか?」って訊かれて、俺、「えっ!」って言っちゃったんですよ。「ない。そんなの!」って思っちゃって(笑)。もう明らかに「高嶺の花子さん」辺りからそういうのがなくなっているんです。あの曲の時、そういう質問を想定してひねり出したのが、「これを聴いて告白した方がいいぞ?」みたいなことだったんですけど、我ながら「中身がないなあ」って(笑)。そういうのを経て、今回のアルバムは「何処をどう切り取ってもらってもいいですよ」ってなっています。それは大きな変化な気がします。「どう聴いてもいいんじゃない?」みたいな。憧れるのもいいし、「こういうの懐かしいなあ」っていう視点でもいいし。いろんな視点を今回の曲たちは受け止めてくれると思うので。「どの角度からでもどうぞ!」みたいな気持ちは、前よりもある気がします。
EMTG:さっきの「こわいはなし」に関するお話みたいに、リスナーの状況によっても曲の印象は変わるでしょうね。
清水:知り合いの女性の「fish」への反応もそうでしたね。発売前に聴かせたんですけど、最初に1回聴いて涙が止まらなくて、「もう二度と聴けない!」って思ったらしいんですよ。まさにこういう体験をした時だったようで。でも、その後に男の人が戻って来たらしいんです。「やっぱりお前と一緒にいたい」みたいなことを言われて、結婚することになったそうです。そうしたら、この曲をまた聴き始めたらしいです。その話を聞いて、「ジャストタイムって聴けないもんなんだな」と。ジャストタイムでのこういう曲は、カサブタをめくった後に傷口に粗い塩を塗るってことですから(笑)。
EMTG:(笑)このアルバム、もし友だち同士で聴きながら飲み会でもやったら、脂っぽい体験談がいろいろ飛び出すと思いますよ。男同士で話したらすごいことになりそうです。
清水:いいですねえ。男の人にもうちょっと聴いてもらいたい気持ちもありますので。脂っぽい話、出てくるでしょうねえ。僕ら、年齢的にはどんどん脂っぽいものを食べられなくなってきていますけど。「エイヒレとか刺身でいいかな」って(笑)。
小島:なんだったら酒だけでもいい(笑)。
栗原:そういう風になってきたね(笑)。
EMTG:(笑)例えば「ネタンデルタール人」とか「高嶺の花子さん」って、絶対に男の共感ポイントが大きいですよ。「男のしょーもなさ」みたいなところが鮮やかに浮き彫りになっているので。
清水:多分、僕はそのままそういう主人公と一緒に大往生すると思うんです(笑)。どの曲も本質ですし、嘘はないんですけど、やっぱりこいつなんじゃないですかね。
EMTG:冴えない部分を持った男性像は、永遠の創作上の相棒?
清水:はい。こいつが歌いたくてやっているのがback numberな気がしますね。こいつが僕らの中にちゃんといるから、やれているんだと思います。「君がドアを閉めた後」の中にも、状況が変わって幸せになっている「光の街」の中にもこいつがいるんです。こいつがちゃんといるから、幸せな描写をしても単なるのろけにならないというか。だからback numberは、こいつと一緒に大往生だと思います(笑)

【取材・文:田中大】

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リリース情報

ラブストーリー (初回限定盤A)[CD+DVD]

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ラブストーリー (初回限定盤A)[CD+DVD]

発売日: 2014年03月26日

価格: ¥ 5,800(本体)+税

レーベル: ユニバーサル シグマ

収録曲

[CD]
1. 聖者の行進
2. 繋いだ手から
3. 003
4. fish
5. 光の街
6. 高嶺の花子さん
7. MOTTO
8. 君がドアを閉めた後
9. こわいはなし
10. ネタンデルタール人
11. 頬を濡らす雨のように
12. 世田谷ラブストーリー

[DVD]
2013年9月7日に日本武道館で行われたback number live at 日本武道館-stay with us-の模様を全曲ほか、メイキング映像も完全収録。

リリース情報

繋いだ手から (初回限定盤)[CD+DVD]

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繋いだ手から (初回限定盤)[CD+DVD]

発売日: 2014年03月19日

価格: ¥ 1,500(本体)+税

レーベル: ユニバーサル シグマ

収録曲

[CD]
1.繋いだ手から
2.003
3.遠吠え
4.繋いだ手から(instrumental)
5.003 (instrumental)
6.遠吠え(instrumental)

[DVD]
「繋いだ手から」music video
making of “繋いだ手から”music video
roots of back number 〜そうだ、群馬へ行こう。〜

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●清水依与吏
1952年製テレキャスター

今もフェンダーのテレキャスターを使っていて、フェンダージャパンとフェンダーUSAの1952年製タイプはもう持っているんですけど、「本当に1952年に製造されたやつはいくらするのかな?」と。テレキャスターっていう名称で最初に出たのが1952年なんです。それで値段を調べたら、まあそれなりの値段でして。車が買えるような値段なんですけど、「こいつ、走らないしなあ」って(笑)。容易には手が出ないなあと思っているところです。

●小島和也
花粉情報

「今日の花粉」みたいなことを毎日調べていますね。今年こそ花粉症を抑えるために体質改善をしようと思ってヨーグルトを試したりしているんです。今のところ「成果が出てる!」と信じています。今朝もくしゃみと鼻水が止まらなくて、「ついに来たか!」って思ったんですけど収まりました。モーニングアタックだったみたいです。もともと鼻炎なので、その影響なんだと思っています(笑)。

●栗原寿
たこ焼き器

この前、3人で僕の家で鍋パーティーをやって、「家飲みって楽しいな」って思ったんです。だから「次はたこ焼きパーティーをしましょう!」って言ったんですよ。ネット通販とか、家電屋さんへ行ったりもして、たこ焼き器を調べています。「大きすぎてもアレだし、小さ過ぎてもなあ」と。いろいろ調べつつもまだ買わないのが最近楽しいです。あと、「和也くん、たこ食べられないしなあ」とか考えたり(笑)。


■ライブ情報

FM802 25th ANNIVERSARY 802GO! SPECIAL LIVE -REQUESTAGE12-
2014/04/29(火)大阪城ホール

back number love stories tour 2014
2014/05/14(水)【群馬】太田市新田文化会館 エアリスホール
2014/05/16(金)【群馬】伊勢崎市文化会館
2014/05/18(日)【埼玉】大宮ソニックシティ 大ホール
2014/05/23(金)【鹿児島】鹿児島県文化センター 宝山ホール
2014/05/25(日)【福岡】福岡サンパレス
2014/05/31(土)【岡山】岡山市民会館
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2014/06/06(金)【静岡】アクトシティ浜松 大ホール
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2014/06/20(金)【新潟】新潟県民会館
2014/06/21(土)【石川】本多の森ホール
2014/06/28(土)【宮城】東京エレクトロンホール宮城
2014/06/29(日)【岩手】盛岡市民文化ホール 大ホール
2014/07/04(金)【大阪】オリックス劇場
2014/07/05(土)【大阪】オリックス劇場
2014/07/13(日)【愛媛】松山市民会館 大ホール
2014/07/15(火)【香川】サンポートホール高松 大ホール
2014/07/19(土)【愛知】名古屋国際会議場 センチュリーホール
2014/07/23(水)【東京】中野サンプラザホール
2014/07/25(金)【東京】NHKホール

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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