待望の最新アルバム完成。高橋優、『今、そこにある明滅と群生』を語る。

高橋優 | 2014.08.06

 4thアルバム『今、そこにある明滅と群生』は、とても胸に沁みる。ここで描かれているのは何かと悩んだり、迷ったり、疑ってしまったり……思うようにならない毎日の中でどうしても後ろ向きになってしまうごく平凡な人々の営み。そして、そんな日々の中でも何かを信じ、夢みようとする生命の圧倒的な輝きだ。抱える感情をありのままに反映しつつ完成されたのだという本作は、多くのことをあなたの心に語りかけるだろう。高橋優の生み出す音楽、響かせる歌声の魅力が、全篇で鮮やかに煌めいている。このアルバムが生まれた背景、こめられている想いについて本人が語ってくれた。

EMTG:作品全体からまず感じたのは、「何かに怯えたり疑ったりして、縮こまったまま生きるのはもったいない」というような想いだったんですけど。
高橋:まさしくおっしゃる通りの生き方をしようと自分自身も思っていて。去年から日常生活でそういう心掛けをしているんです。「心を開こう」と。僕はもともと他人も世間も疑ってかかるような感じ(笑)。そのことによってなのか、去年くらいから曲ができなくなっちゃったんですよ。書いても書いても同じようなものしかできなくて。「自分の日常生活のどん詰まり=曲作りのどん詰まり」みたいなことに僕はなる方なので、そこは変えないといけないなと思ったんです。
EMTG:なるほど。
高橋:だから「すぐ行くキャンペーン」を始めました。誘われたらすぐに行って飯を食うというキャンペーン(笑)。あと、こっちから誘うとか。誰かと話す時も「ここから先は話さない」というようなことはやめて、どんどん話していくようになりました。
EMTG:大きな変化ですね。
高橋:そうなんです。そういうことの素晴らしさに気づき始めた後に作った曲が多いので、おっしゃったような部分が出たんだと思います。こっちから相手のことを積極的に好きになったり心を開くと、案外向こうもいろんなことを話したり誘ってくれたりするようになるんですよね。僕は音楽でもそういうことをやりたいんだと思います。「こういうことを考えていて、見てもらいたい」って、こっちからできるだけいろんなことを公開して、電話番号も教えちゃうくらいの調子(笑)。それでみなさんから何かしらの反応が来るのを期待しているという状態ですね。
EMTG:1曲目の「BE RIGHT」は、まさに外に向って自分をどんどん開いていく姿勢の宣言ですね。取り越し苦労や臆病さをブチ破る痛快な熱量を感じる曲です。
高橋:取り越し苦労って多いですからね。でも、みんな悪い方向を信じがちなんですよ。これ、大学の心理学の授業で習った話なんですけど……死刑囚に刑を執行する時に、科学者が人の信じる力を実験したんですって。「プラシーボ効果」っていうやつなんですけど。死刑囚には「あなたの手の動脈を切って出血させて殺すことにします」と言ったそうです。で、目かくしをして執行することになったんですけど、本当は手の動脈を切らずにそんなような感触を与えただけ。それなのに、「俺は死ぬんだ」って信じた結果、本当に死んじゃったそうです……っていう話をするとみんな驚いて、「人の信じる力はすごい!」ってなるんですけど。
EMTG:驚きの結果じゃないですか。
高橋:そうですよね。でもその一方、「癌は治る!」って信じた結果、癌が治ったっていうような話をしてもみんな信じないんです。同じ「人の信じる力」の話ですけど、ネガティブな方をみんな信じがち。「BE RIGHT」で歌いたかったのもそういうことです。マイナスなテーマの話題が世の中には溢れていますけど、「マイナスな憶測とかが実際に起こるかどうかよりも、自分が行きたい方向へ歩んで、そこに何かがあると信じようよ」と。そういうワクワクする感じをこの曲で出したかったんです。ワクワクする力っていうのを僕は信じたかったんですよね。
EMTG:悪い方向を信じてしまいがちという視点は、「WC」や「旅人」からも感じます。その対極にあるのが「明日への星」ですね。光の差す方へと進もうとする意思を感じる曲ですので。
高橋:ネガティブな方を信じてしまうことに対する闘いっていうことですね。まあ僕も、未だにすぐに他人のことを疑おうとするし、臆病になりがちですけど。でも、「自分はこうだから」ってなり過ぎずに変化していく方が楽しいとも思うんですよね。
EMTG:音楽が表現できるものって怒りとか、攻撃的な方向性もいろいろありますけど、ワクワクする気持ちを加速するっていう部分も大きいですよね。そういう面も今回のアルバムではすごく発揮されていると思うんですけど。
高橋:僕もそっちの力に何度も救われてきましたから。音楽って言葉も大事ですけど、それだけではないとも思いますし。今回のアルバムって言葉によるメッセージっていうことだけにこだわらず、リズムとかテンポ感でも楽しいものにしたいということも考えていました。今回は編曲も全部携わらせてもらったんですけど、サウンド面もいろいろ考えました。「音楽の力で楽しく」っていうのをやりたかったので。それが今までで一番できたアルバムでもあると思います。
EMTG:例えば「裸の王国」は、骨太なギターリフを軸にしたサウンドも含めて、問答無用に盛り上がれる感じがありますよ。
高橋:今までにあまりやってこなかった感じかもしれないですね。
EMTG:実体がはっきりないのに、何となく漂っている時代のムードってあるじゃないですか。それこそネット上に流れているいろんな意見とかが醸し出すような。そういう空気を読み過ぎることの滑稽さ、危険性を描いている曲としても「裸の王国」や「犬」はハッとさせられました。
高橋:例えば情報ツールとかを上手に使って自分の人生を謳歌している人はいいと思うんです。でも、振り回されている人の方が多いように思うんですよね。便利な発明品によって、今まではなかったややこしさや悩みが生まれたりもしていますからね。そういうことに対する僕の想いから「裸の王国」や「犬」は発信されている気がします。
EMTG:「犬」のサウンドも素敵です。音数がそんなにものすごく多いわけではないですけど、交響曲のような神々しい壮大さがありますね。
高橋:これ、めっちゃ悩んだんですよ。イントロとか全体の構成も含めて。僕、弾き語りから曲を作って、そこからバンドアレンジにしていくんですけど、その上で今回一番考えたのがイントロ。なんとなく曲が始まって、「高橋優は詞さえ聴いてもらえればいい」っていうものではなく、ちゃんとサウンドとしての導入を作りたかったから。「楽曲として成立させるために、イントロだけでも成立させるものを書こう!」みたいな。「犬」は今回のアルバムの中でも最初の方にできた曲なんですけど、そういうサウンドのことを考えるようになったきっかけでしたね。
EMTG:僕、イントロっていう点だと「太陽と花」がすごく好きなんですけど。これ、テンションがめちゃくちゃ上がります。
高橋:ありがとうございます(笑)。
EMTG:高橋さんの音楽って歌詞がすごく良いから、そこに着目する人が多いのは自然なことだとは思うんですけど、今回のアルバムのサウンドって日本語が分からない国の人でも痺れるものになっているんじゃないですか?
高橋:マジですか?
EMTG:はい。サウンドもそうだし、やっぱり高橋さんの歌声ってグッと来ますから。
高橋:嬉しいですね。でも、「声」っていうことに関して言えば自分はありきたりだと思っているんですよ。実はデビュー当初に「声に特徴があるというよりも、やっぱり詞ですよね」と言われたり(笑)。だから声で勝負するというよりも歌い方、内容、バンドアレンジしかないなと思うようになっていたんですよね。
EMTG:声、歌い方、内容、アレンジが融合した結果、我々リスナーにはかけがえのない唯一無二の「歌」としてバリバリに届いて来ています。
高橋:そう言って頂くとすごく励みになります(笑)。
EMTG:(笑)このアルバムって前半は激しい面を表現したものが中心で、6曲目の「同じ日々の繰り返し」以降の後半は温かい作風が並んでいる構成だということも感じたんですけど、それは意図していました?
高橋:そうなんですよ。後半は「聴いてもらうゾーン」にしたかったんです。例えば「同じ日々の繰り返し」からその次の「ヤキモチ」になる部分って、1人のあんまり強くない、悩んだりコケたりしてばかりの男がどうにかこうにか歩いている感じが表れているのかなと。そういうところが聴いてくださる人と重ねられるものになっていたらいいなと思ったんですよね。何かが足りない人の方が、受け手と通じ合える部分があるんじゃないかなと。実際、僕も穴ぼこだらけの人間ですから。僕のそういう部分が表れた曲が誰かの抱える穴にハマったり、同じような穴を抱える者同士で共感し合えたら素敵なことだと思います。
EMTG:何の迷いもなく何かを高らかに歌い上げる感じではないですよね。
高橋:そうですね。例えば「愛は素晴らしい!」っていうようなだけの曲は、僕はまだ書きたくないんです。もちろんそういう曲に救われることもあるのは分かるんですけど、僕はまだそこまで人として行っていない。まだ無償の愛のようなものを持つことはできていないと思うので。疲れてしまったり、誰かに助けてもらいたいこともあるんです。今回のアルバムのタイトルは『今、そこにある明滅と群生』ですけど、それもそういうことなんですよ。「明滅」っていう言葉を使ったのも「ただ光だけではいられないことがある」っていうことで。それをネガティブに捉えるんじゃなくて、「欠落や穴ぼこを感じることで誰かと共鳴できたり、笑い合えることもあるんじゃないか?」と捉えている。「旅人」もそういう曲です。今までだったら「傷つけられた! どうしよう?」っていう曲だったかもしれないけど、これは「傷つけられた経験を語り合うことによって救われた。そこに光がある気がする。今となっては傷つける方が痛く感じる」っていう曲なので。
EMTG:闇、傷、ネガティブなことを踏まえた末に光を見据えるような姿勢は、アルバム全体の構成としても表現されていると思います。「犬」を経て「パイオニア」で闘志に火を点けられて、子守歌のような「おやすみ」へと至る展開とか、すごく穏やかな希望を感じることができますから。
高橋:「おやすみ」は友だちとしたLINEの内容を自分なりにそのまま曲にしたんです。リリースするとかは何も考えずに作りました。だからすごく個人的な、正直な想いを出したものになっていますね。「風邪早く直してね」「また飲もうね」「飯行こうね」っていう話をそのまま曲にしていますから。それが冒頭にもお話した「こういうことを考えていて、見てもらいたい」っていうものになっていると思ったんです。
EMTG:さて。アルバム1枚を語って頂きましたが、これを引っ提げてのツアーも、今までとはまた違った感じになりそうですね。
高橋:そうだと思います。まず思っているのは1曲1曲の完成度を高めたいっていうことですね。前まではライブの流れとか、全体としての盛り上げ方みたいなことを重視していたんですけど、それは考えつつも1曲1曲を大事に表現していきたいんです。どれも寝る間も惜しんで頑張って作った曲ですので。すごく練習して臨んで、もしかしたらライブで表現する音の方がいいと言ってもらえるくらいのものを目指したいと思っています。

【取材・文:田中 大】

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リリース情報

今、そこにある明滅と群生(初回限定盤)[CD+DVD]

今、そこにある明滅と群生(初回限定盤)[CD+DVD]

2014年08月06日

ワーナーミュージック・ジャパン

1. BE RIGHT
2. 太陽と花
3. 裸の王国
4. 明日への星
5. WC
6. 同じ日々の繰り返し
7. ヤキモチ
8. 旅人
9. 犬
10. パイオニア
11. おやすみ

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■ライブ情報

高橋優LIVE TOUR 2014-2015
「今、そこにある明滅と群生」

2014/10/17(金) 埼玉 戸田市文化会館
2014/ 10/26(日) 千葉 八千代市市民会館
2014/11/01(土) 神戸文化ホール 大ホール
2014/11/07(金) 札幌市教育文化会館 大ホール
2014/11/16(日) 神奈川 神奈川県民ホール
2014/11/22(土) 仙台市民会館 大ホール
2014/11/24(月・祝) 秋田市文化会館 大ホール
2014/11/29(土) 大阪 富田林すばるホール
2014/12/05(金) 福島 郡山市民文化センター 中ホール
2014/12/06(土) 茨城 駿優教育会館大ホール
2014/12/11(木)TOKYO DOME CITY HALL
2014/12/19(金)高知市文化プラザかるぽーと 大ホール
2014/012/20(土)岡山 倉敷市芸文館
2015/01/18(日)三重県文化会館中ホール
2015/01/25(日)栃木県総合文化センター
2015/02/01(日)愛知県芸術劇場 大ホール
2015/02/07(土)福岡市民会館
2015/02/08(日)鹿児島市民文化ホール第二
2015/02/11(水・祝)東京 NHKホール
2015/02/13(金)金沢市文化ホール
2015/02/15(日)新潟市民芸術文化会館・劇場
2015/02/27(金)静岡市民文化会館中ホール
2015/02/28(土)広島 アステールプラザ 大ホール
2015/03/07(土)大阪・フェスティバルホール

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