きのこ帝国、傑作誕生。2ndアルバム『フェイクワールドワンダーランド』

きのこ帝国 | 2014.10.24

 聴き手の耳元で囁いてくるような、あるいは、手を握って同じ目線で語りかけてくるような温かみのあるサウンドだ。既にライヴでも絶大な支持を得ている1曲入り先行シングル「東京」を含む、きのこ帝国の2ndアルバム『フェイクワールドワンダーランド』はバンドにとって大きな分水嶺となる傑作である。平易な言葉使い、シンプルなメロディを研ぎ澄まし、より多くの聴き手の懐にスッと入ってくる普遍性と強烈なオリジナリティを獲得している。今作に辿り着くまでに、どんな心境の変化があったのだろうか。作詞作曲を手がける佐藤(Vo/G)にじっくり話を聞いた。

EMTG:今作は本当に素晴らしいですね。きのこ帝国にしか、佐藤さんにしか表現できない世界観が確立されましたね。
佐藤:結構人間らしい作品になったなと。大げさすぎず、ネガティヴすぎず、すごく赤裸々に・・・いろんな情景をニュートラルに描き出せました。やりたいことはそこまで変わってないけど、受け取る側が新鮮な気持ちで聴いてくれるかもなって思います。いままでのイメージと違うと感じる方もいるかもしれないけど、いい風に新鮮だなと受け取ってもらえたらいいですね。
EMTG:聴き手を裏切りたい気持ちもあります?
佐藤:ありますね。毎回予想を裏切りたい気持ちがあるし、それプラス期待にも応えたい。
EMTG:ニュートラルと言ってましたが、今作からは平熱感みたいなものも感じました。それはいままでの作品の中で一番意識したことですか?
佐藤:冷静というとあれだけど、独りよがりじゃない表現をやりたくて。結果的に耳に残ったり、口ずさんでもらえたらいいなと。遠くで何かが起こって、それを物語のように聴き手が受け取るんじゃなく、同じ街並みの中で一緒に生きてる人間の呼吸を共有する感覚で聴いてもらいたくて。
EMTG:なるほど。曲作りでもっとも重視したことは?
佐藤:歌の部分ですね。メロディ・ラインはかなり意識しました。アレンンジやサウンドで仕上げるというよりも、楽曲の軸をしっかり作って、そこにより良いアレンジをみんなで付けようと。だから、ソングライティングに関しては自分で作り込んで、メンバーに持って行きました。
EMTG:そういう作り方は今作が初めて?
佐藤:今までも歌は大事にしてきたつもりですけど、以前はどこか、轟音感だったり、演奏重視のバンドに寄ったものを考えて作曲していた部分があったんです。でも今回はまず歌詞とメロディがある上で、それ以外のプレイはそこに付随する形で作ろうと。人が音楽を聴く時って、歌やメロディが最初に飛び込んでくると思うんですよ。曲を覚えて、口ずさめるものがいいなって。自分も好きな曲はすぐに覚えて、口ずさんじゃうから。誰でも、好きな曲は、つい歌っちゃうと思うんですよ。だから、メロディの強度はすごく意識しました。
EMTG:確かに全曲メロディが立ってますね。先行1曲入りシングル「東京」(今作にも収録)も素晴らしい曲ですが、特に「クロノスタシス」は名曲ですね!
佐藤:ビールのCMに使ってほしいと思ってるんですけどね(笑)。友達とブラブブラお酒飲んでる時に合う曲じゃないかなと。歌詞もアレンジも遊び心があるから、みんなに早くMVを観てほしい。
EMTG:「350ml(スリー・ファイブ・オー・エム・エル)」という歌詞の言い回しもすごく新鮮でした。
佐藤:みんなで「スリー・ファイブ・オー?♪」と言うのは、「YO!」的なノリで面白いかなって。全部クールで押すより、ちょっとおちゃめな部分があった方がバランス的にもいいんじゃないかなと。
EMTG:最初に聴いたときは、パリの街並みで缶ビール飲んでるような風景が頭を過ったんですよ。
佐藤:それかなりオシャレですね(笑)? そういう風に聴いてもらえる人がいると、嬉しいですね。
EMTG:「スリー・ファイブ・オー?」という言い方一つで、当たり前の日常がキラキラ輝いて映るなって。
佐藤:それは素敵な解釈なので載せてください(笑)。
EMTG:はははは。ほかに意識したことはあります?
佐藤:「あるゆえ」という曲はコード進行がいままにないトーンで、異質な雰囲気もありつつ、バンドのアレンジも押さえてるし、面白い曲になりましたね。
EMTG:バンド・サウンドがなくても成立しそうな曲ですね。
佐藤:デモを送った段階で、「出来てるじゃん」と言われました。がっつりドラムを叩くとかじゃなく、また遊び心の話になるけど、そういう抜きの部分もあっていいのかなって。
EMTG:ドリーミーでファンタジックな曲調に仕上がってますね。今はメンバー全員が同じ方向や風景を共有しているんですかね?
佐藤:聴いてる音楽はそれぞれ違うけど、みんなポップなものが好きだから。それで今回はノリ良くやれたのかなって。ウチのメンバーは9ボーダーレスにいいと思ったものを聴いてますからね。いい意味でこういうサウンドをやらなきゃ、みたいなこだわりもなくて。セッションで合わせると、轟音だったり、カオティックなものはすぐにできるんですよ。昔であれば今回のようにちゃんと展開があるものを仕上げる作業は簡単にはいかなくて。でも昔できなかったことが今はできるようになったし、みんな少しずつスキルアップしているので息が合ってきたのかなと。
EMTG:轟音は減ってますもんね。
佐藤:今回はほとんどないですもんね。
EMTG:歌詞の面でこだわったところは?
佐藤:時期もバラバラで、最近と昔のものでは意識したものは違うけど、結果的に集めてみたら、それほど遠くなかったので安心しました。最近書いた「東京」、「クロノスタシス」はリスナーにすっと入ってくる素直な言葉選びを意識したつもりです。情景描写は多いかもしれないですね。直接的な感情よりも、情景を順番に描くことで、結果的に感情が付随するみたいなことはやりたかったことの一つで。好きな詩人もいるので、そういうことができたらいいなって。
EMTG:好きな詩人というと?
佐藤:室生犀星が好きで、言葉がかっこいんですよ。感情を吐露するんじゃなく、風景や目の前の物事を淡々と書いてるけど、心にグッと来るんですよね。
EMTG:「クロノスタシス」はまさにそういうアプローチですね。歌詞全体からはまたここから始めよう、という気持ちが滲み出ているように感じました。
佐藤:音楽をやる上で覚悟が決まった部分があって。もしかしたら、それが反映されてるのかもしれない。
EMTG:というのは?
佐藤:バンドを、音楽を、いろんな人に聴いてもらうために広げていこう、という覚悟ですね。人と分かち合えたらいいなと。
EMTG:そういう考えに至ったのは「東京」ができたことが大きい?
佐藤:うーん、そうかもしれないですね。あの曲ができた当時はきのこ帝国でやっていいのか、自分でジャッジできなくて。いままでの曲と比べて、ずば抜けてキャッチーな歌やメロディだったから。
EMTG:自分でも周りの反響にビックリした感じ?
佐藤:素直な感情のままに出てきた曲なので、それを受け入れてもらえたのは単純に嬉しかったですね。
EMTG:以前はキャッチーなものに抵抗があった?
佐藤:そうですね。フェス・シーンが盛り上がってて、でも自分たちがそこに入るのには抵抗があったし、それはそのプロにまかせたらいいんじゃないかって思ってて。そこに寄せるよりも、自分たちの良さを掘り下げた方がいいなと。で、その先に何があったかと言うと、純粋にいい曲を書くことだったんですね。バンドのスタンダードなスタイルというか、そこに立ち戻ることがいい活動に繋がるんじゃないかなって。でもキャッチーで赤裸々な歌詞って、気恥ずかしいじゃないですか。バンドをやってると、クールに見せたい、ストイックに見られたいとか・・・あるじゃないですか。自分も、鎧みたいなものを付けたい気持ちがあったんでしょうね。それが年月を経て、逆に赤裸々で恥ずかしい部分こそ、リスナーの人たちの心に響くんじゃないかなって、考え方が変わってきました。そういう意味でも覚悟が決まったんですよ。やっとスタート・ラインに立てた感じはありますね。

【取材・文:荒金良介】

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ビデオコメント

リリース情報

フェイクワールドワンダーランド

フェイクワールドワンダーランド

2014年10月29日

DAIZAWA RECORDS/UK.PROJECT

1.東京
2.クロノスタシス
3.ヴァージン・スーサイド
4.You outside my window
5.Unknown Planet
6.あるゆえ
7.24
8.フェイクワールドワンダーランド
9.ラストデイ
10.疾走
11.Telepathy/Overdrive

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お知らせ

東阪リリースツアー「CITY GIRL CITY BOY」
2015/01/15(木)大阪・梅田CLUB QUATTRO
2015/01/21(水)東京・赤坂BLITZ

COUNTDOWN JAPAN 14/15
2014/12/28(日)、29(月)・30(火)・31(水)
※きのこ帝国の出演は12/30日(火)
場所:幕張メッセ国際展示場1~11ホール、イベントホール

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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