THE BACK HORN×熊切和嘉監督、音楽映画『光の音色』にかけた思いを語る

THE BACK HORN | 2014.11.05

 THE BACK HORNの緊張感溢れるライヴと、荒涼としたウラジオストクで撮影された静謐なドラマを描く映像が、ぶつかり合い融合して行く異色の音楽映画『光の音色-THE BACK HORN Film-』。「鬼畜大宴会」で監督デビューし最近は「海炭市叙景」「私の男」などで注目を集める熊切和嘉が監督・編集したこの作品は、音楽と映像の新しいコラボレーションを実現してみせた。出会いから完成まで、そしてこの作品に向けた思いを、THE BACK HORNと熊切監督に語ってもらった。

EMTG:バンドと熊切監督はこれが初顔合わせだったそうですが。
熊切和嘉:実は僕のデビューと、THE BACK HORNの結成の年が同じで、PVをやらないかという話を戴いた事があったんですがスケジュールが合わなくて。だからTHE BACK HORNは初期の頃から聴いていたんです。15年くらい経ってまたプロデューサーから話を貰ったので、すごく縁を感じて、ぜひやりたいなと思って。
EMTG:以前から繋がりはあったんですね、じゃあ今回の作品を作るにあたり、新たにTHE BACK HORNのイメージを組み立てる必要も無く?
熊切:ライヴ映画なんだけど普通のライヴ映画にはしたくないという話だったので、ざっくりしたストーリーの中にライヴが入るというのは、ぼんやりと描いていて。あとは直接会って話しながら…。
松田晋二(Dr):12月ぐらいですね。最初にお会いしたのは。
菅波栄純(Gt):俺らは監督の初作「鬼畜大宴会」は見てて、その印象はあったんですよ。だから「海炭市叙景」とかの沈み込むような作品は、こういうの書けるってすげえなと思いましたね。曲じゃないから何というんですかね、描ける…映像見て信頼感を感じましたね。
EMTG:物語の主演のおじいさんがいいですね。
熊切:いいでしょう? ウラジオストク在住の酔いどれミュージシャン。この人に決めてから知ったんですけどね。おばあさんは元教師。犬は軍用犬らしい。すごい賢い犬でしたね。
EMTG:撮影場所も幻想的というか凄まじいところを選ばれてますが。
熊切:荒野とか廃墟のイメージは最初からあった。絶望した果てに音楽が生まれるというような出だしにしたかったんで。事前に現地のフィルムコミッションにいろいろ話して、ロケハンしてもらった写真を送ってもらって。ウラジオストクって意外に栄えている街なんで、撮影場所は市内から3時間ぐらいかかって大変でした。
EMTG:無言の物語と爆音の演奏、闇の中での演奏と野外ロケの光、老人の諦観とバンドの若々しい活力といった対比、過去と未来の繋がりといったものを感じたんですが、それはTHE BACK HORNのイメージと重なりますか。
熊切:僕は、THE BACK HORN全体のイメージと言ってはアレですけど、絶望の果てにあがいて遠くに希望の光を見出そうとするのは感じます。
松田:この映画は音楽の部分が無くなっても成立すると思う。でも曲に託してくれている部分もすごくあるなと感じますね。
菅波:監督の映像って生々しいリアリティもあるし、俺にとっては素晴らしい映像なんで、最初は曲・演奏が負けたらどうしようって思ってたんですよ。でも自分が試写会で見た時、すごく感動的に結びつきを感じたんですよね、シーンと曲が。「幸福な亡骸」という曲が出てくるシーンがあって、あの曲は自分の親父が死んだときの気持ちを書いたわけだから、過去というか終わった事に向けて書いたけど、曲に当てはめられているのは子供たちが出て来て遊んでる映像で、ある意味未来を感じさせるというか。自分としては最初に作った時と真逆なものがそこに重なってるんだけど、ジーンときた。そういうのが随所に今回はある気がする。
EMTG:演奏シーンは川崎チッタで撮ったそうですが、観客なしのライヴというのは、どうでした?
菅波:最初の打合せの時に、俺等も普通のライヴ映画にしたくないと言ってて、その時に自分たち含めて思いついたアイディアなんですよね。お客さんを入れないライヴの方が、自分等の内面と対峙して演奏するみたいな。それで引き出されるものがあるんじゃないかって。でも入り込むのにけっこう大変ちゃあ大変で。
EMTG:自分でスイッチいれるみたいな? お客さんがいれば相互作用もあるんでしょうけど。
山田将司(Vo):ホントそういう感じですよね。お客さんにスイッチをいれて貰ってワアーッてなったりするのがライヴではありますね。だから最初けっこう難しいかなと思ったけど。最初は目線とか困るじゃないですか、カメラは狙ってるんだけど、見た方がいいのかどうかとか。それは意識しなくていいというのが自分の中で消化できてからはけっこう。そこからが自分との対峙なのかもしれないけど。自分のライヴで、注いでた思いとかを信じて、曲に向かって行く。
岡峰光舟(Ba):カチンコ(映画の撮影で使う道具)がカチャってなると”始まった感”がすごいして。監督が大人しい人だと思ってたら、でっかい声で「シーン◯◯、用意!始め!」って言ったら、そこからすうっと入れた。気合い入った。本気の人を目の前にして、こっちも本気で入り込める。
山田:ぴりっとする、緊張感が。
熊切:演奏が始まったら、もう僕がどうこうってあれじゃないから。できるだけ自分なりに気合いを入れて撮って。波動は送ってた(笑)
菅波:波動は来てました(笑)。もうちょっとやれんじゃないみたいな(笑)。あんなに近く、目の前までカメラが来るというのは初めてで。ライヴはお客さんいるから、やらないし。照明の人ここ(すぐ隣)にいるし。最後は映っちゃってるし(笑)。あれテンション上がったな。
山田:丸裸になった見たいな(笑)。全部曝け出した感じ。
松田:緊張と緩和みたいなものが、すごい威力を発揮するなと思った。
菅波:監督が、感情を音に託すみたいのをテーマにしてたから、自然の音の中にも感情の音を交錯させて行きたいみたいな感じで、効果音もやってもらえたら嬉しいんだけどって。効果音、風の音とかは自然のなんだけど、蠅の音とかは、ギターの音とかベースとか、あとドラムで銃声とかを録ったり。将司もアイディア出して、”ブーン”とかやってたり。
山田:蠅の音はA♭なんだよって(笑)。
EMTG:その辺も物語をバンドと重ねいくということで?
熊切:そうですね、まさに、絶望の果てに、風の音だったり、メロディが生まれるみたいな出だしにしたかったので。そのところでもリアルな風の音から、演奏してもらってメロディぽくなって、そこから「月光」が始まる感じとか、けっこうポイントポイントでやってもらった。話しているうちに、そういう風にしたら面白いよねみたいな感じで、けっこうみんな乗ってくれてたんで、それはやりたかった。
菅波:あれは面白かった。
熊切:ホントに、変わった映画を作らしてもらってよかったなあって言う(笑)。この前、ウラジオストク映画祭でワールドプレミアがあったんですが、もちろんTHE BACK HORNを初めて見たロシア人のお客さんが、すごく感動したと言ってくれて。質疑応答とかでマイクを放さないおばさんがいて(笑)、「これは唯一無二の作品、シンプルなようで深い」と、僕が考えてる以上にずっと語ってくれましたね(笑)。
EMTG:日本での反応も楽しみですね。THE BACK HORNとしてこの作品を通して伝えたい事はありますか?
松田:THE BACK HORNとしては、1時間20分かけて監督と一緒に作り上げた曲みたいな感じがしてる。見てもらった人が、何がしか感じてもらえるきっかけになる映画になってると思う。皆の中で感じたものがあったとしたら、それが正解でいいんじゃないかなという映画だと思います。

【取材・文:今井智子】





【映画情報】
『 光の音色-THE BACK HORN Film- 』
監督・脚本・編集:熊切和嘉 出演:THE BACK HORN 他 音楽:THE BACK HORN
制作:コネクツ 製作:THE BACK HORN Film 製作委員会(松竹、ビクターエンタテインメント、日販)
配給:松竹メディア事業部+日販 宣伝:ビーズインターナショナル
2014 年/日本/ 85分/5.1ch/シネマスコープ/カラー/デジタル/(c)2014 THE BACK HORN Film Partners
11月1日(土)より、新宿ピカデリーほか全国ロードショー!

■解説
『鬼畜大宴会』で衝撃のスクリーンデビューを飾り、『青春金属☆バット』、『ノン子 36 歳(家事手伝い)』、『海炭市叙景』、『莫逆家族 バクギャクファミーリア』、『夏の終り』と誰にも真似の出来ない作品を発表し続け、最新作『私の男』が第 36 回モスクワ国際映画祭コンペティション部門で最優秀作品賞、最優秀男優賞をダブル受賞する快挙を成し遂げた今もっとも充実している映画監督“熊切和嘉”と結成以来 15 年に渡り全くぶれることの無い活動を続け『アカルイミライ』(監督:黒澤清)、『CASSHERN』(監督:紀里谷和明)、『ZOO』(原作:乙一)、『機動戦士ガンダム 00』(監督:水島精二)など、数多くの映画やアニメとのコラボレーションも行う至高のロックバンド“THE BACK HORN”。 映画『光の音色-THE BACK HORN Film-』はこの強烈な 2 つの個性が奇跡のタッグを組み世界のどこにもない唯一無二の映像世界に観客を誘おうとしている。互いに妥協を許さない制作の過程は静寂に包まれ、それ自体がドラマチックであるほどに何か新しいものが生まれる息吹を感じさせた。そして、撮影は海を渡りロシアのウラジオストックへ。現地で出会ったロシア人俳優セルゲイ・ペルミノフ、老犬“キッド”の迫真の演技はこの一輪の花のような物語にさらなる奇跡の水を与えることとなった。いま物語が始まろうとしている。

■物語
いつなのか、どこなのか分からない世界の果ての、世界の終わり―。
全てを失った夜に“光”は降りそそぎ、音楽を奏で始める。

鉛色の空、見渡す限りの荒野、見捨てられた場所ー。
老人が不毛の地を忌々しげに見つめながらシャベルで穴を掘っている。
レースに包まれた妻の亡骸を埋めるために。キラキラと光る波打ち際を写した一枚の古い写真。
それは、二人の故郷の海ー。愛する妻を埋めることなど出来ない。
ベッドは空しく月明かりに照らされている。
水の音、枯れ草の音、虫の声、音が音と重なる。
風さえも寝静まった夜の闇に再びメロディを奏で始めるように―。
光の音色とともに旅が始まる―。

tag一覧 対談 男性ボーカル THE BACK HORN

リリース情報

onair1602_200

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発売日: 2016年03月24日

価格: ¥ 1(本体)+税

レーベル: 1

収録曲

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「KYO-MEIツアー ~暁のファンファーレ~ ドキュメンタリー」

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お知らせ

■ライブ情報

KYO-MEI対バンライブ
2014/11/13(木)CLUBCITTA’川崎
出演:THE BACK HORN / クリープハイプ
2014/12/11(木)HEAVEN’S ROCK 熊谷 VJ-1
出演:THE BACK HORN / 赤い公園

マニアックヘブンVol.8
2014/12/22(月) DRUM Be-1 & SON
2014/12/25(木) 新木場STUDIO COAST

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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