黒木渚が“黒木渚の定型”を破ったニューアルバム『自由律』。10月7日発売!!

黒木渚 | 2015.10.05

 前作から1年半ぶりとなる黒木渚の2ndアルバム『自由律』は、日々の暮らしのなかで紡がれた日記を題材にした私小説のような作品となっている。歌詞の題材がより身近でリアルになった分、目線はさらにシャープで深くなった。彼女が提言してくれるのは、私たちが拠って立つ世界の眺め方であり、生き方である。そして、アルバムのタイトル『自由律』には、自身の定型からの脱却とともに、彼女の音楽のなかで自分の感情を自由に解放しようというメッセージが込められているようだ。

EMTG:バンドからソロ活動をスタートさせてからの1年半は、どんな期間となりました?
黒木:きちんと黒木渚に向き合わなきゃいけないっていう時間の始まりだったと思いますね。自分自身にかまっていくという作業ですね。自分と向かい合うのは、鏡を見てうっとりするようで気恥ずかしい気持ちもあるけれども、それをやらないとソロとして立っていくことができない。だから、ちょっと照れつつではあるけれども、自分の魅力や欠点をもう一回、洗い直さないとダメだなと思って。
EMTG:自分と向き合う中で見えた“黒木渚“らしさというのは?
黒木:なにより率直であるべきだなと思いました。間違ってるとか間違ってないかとかではなく、“私は今、こういう思想で動いているよ”って勇気を持って言うことを期待されてるなって。私はそもそも軟弱な部分を持っている人間であって、臆病さやチキン具合もバレてると思う。それでも黒木渚は玉砕覚悟で先頭に立とうと言っている。そんな姿にみんなは小気味良さを感じてくれていると思うんですね。ただ、ソロの黒木渚ってこうなんだっていう法則性を見つける反面、そこに縛られすぎるといつか頭打ちがくるから、この1年半で学んだことはいっぱいあったけど、積み上げてきたものを全部忘れるっていうターンが、今で。
EMTG:それは、勿体無いというか、難しくないですか!? 試行錯誤の上にやっと自覚したオリジナリテーを放棄するというのは……。
黒木:難しいし、無謀でもありますね。長く付き合った彼と別れるみたいな感覚なんですけど(笑)、そうしないと絶対に頭打ちがくると感じたんですよ。その感覚というのは、アルバムのタイトルにした『自由律』という言葉に託していて。それは、定型があることを意識して、それでいて自由になるっていう感覚。ただのデタラメとは違っていて、ある程度のルールはわかった上で、そこから自由になりたいっていう。
EMTG:黒木渚らしさを十分に意識した上で、定型を抜け出して自由になりたいっていうこと?
黒木:うんうん、そういうことですね。スケールアウトみたいな感じです。
EMTG:確かに、サウンド的にはより自由度が増して、幅が広がった印象を受けました。
黒木:そうですね。サウンドは冒険したと思います。特にリード曲『大予言』はシンセがバキバキに入ってて。新しいサウンドに挑戦したことにたいして、嫌な受け取られ方をしなければハッピーだなと思う。そもそも、変化やチャレンジをしないと、『自由律』というタイトルをつけた意味がないし、そういうチャレンジをする勇気を持ってますという宣言でもありますね。
EMTG:一方で、歌詞に関して言えば、より普段の黒木渚さんに近づいてるなと感じました。前作(アルバム『標本箱』/2014年4月発売)が11人の女の物語を書いた連作短編集だとしたら、今作はもっと私小説的というか。
黒木:その感覚に近いかもしれないですね。(『標本箱』の)11人の女たちも結局は私の中から引き出されているけど、今回はもっともっと黒木渚になっていく曲が生まれてきて。別次元に飛んでいったりすることなく、日常生活とすごくリンクしてる。黒木渚が今、生きているこの世界で見て、吸収したものが直後に歌になって出てくる作品が増えたなって思います。特にアルバム用の新曲は制作期間中にリアルタイムで書いてたものが入ってるので、日記みたいに、その時々に何を感じていたかがすごく反映されてますね。
EMTG:アルバムのテーマとなっている「定型を意識しながら自由になる」ことも生活の中で感じたことですか? その名も「テンプレート」という曲もありますが。
黒木:そうですね。最初のきっかけは、ライブハウスのステージに出る扉に<ロックしてください>って赤字で書いてあったことで。それを見て、<お前のロックを見せろよ>って挑発されてるような気持ちになったんですよ(笑)。その時の感情や立場によって、同じ文面でも全然違う意味に見えるっていう発想からできた曲だったんですね。公式としてもらってる情報って意味とか考えないけど、そこに対するハテナは絶対に持ってるべきだと思うんです。公式の意味を考えなくなったり、問題提起をしなくなったら、ミュージシャンをやってる意味がなくなる感じがして。
EMTG:定型にたいして根本的な意味を問うっていうことですよね。リード曲「大予言」もいまの時代に対する問題を提起してますよね。
黒木:うん。私の発言が正しいとか正しくない以前に、発言することができますっていう意思表示です。発言したことによって、いろんなことが削がれていくかもしれないけど、私は絶対に折れない。私の魂は私以外の人には傷つけさせないし、それ以外だったら、なんだって持っていってどうぞって思ってるのは事実だっていう曲ですね。
EMTG:日記や私小説という視点でみると、自身の恋愛観を反映したシングル「君が私をダメにする」に加えて、「枕詞」「107」「白夜」という3曲のラブソングが入っていますが、これも実体験と言っていいですか?
黒木:そうですね。「枕詞」だけ、結構若い時に書いた曲で。思春期によくある、自分から湧き上がってくる欲望を一気に吐き出しちゃったあとの虚無感が表れているし、私がもってる中性的な感覚がすごく出てる曲だなと思ってて。男性はよく賢者タイムがあるっていうじゃないですか。あれ、私にもあるんですよね(笑)。黒木渚はどっちだろうねっていうことを率直に歌ってますね。
EMTG:「107」も日記ですか。
黒木:今の年齢になって思い出す、過去の恋愛未満の思い出ですね。発展しようと思えばできたのに、それを押しとどめたっていう、プラトニックな思い出に対する寂しい懐古。でも、それがいちばんエロい気もして。歌にはエロスというテーマは絶対に切り離せないと思うんですけど、フィジカルを通り越してプラトニックっていうのがいちばんエロい気がするんですよね。心も身体もかなり熟してるのに、もう一度、清らかなものに立ち返る状態。それがエロ~いっていう(笑)。
EMTG:(笑)タイトルにはどんな意味があるんですか?
黒木:当時、住んでた部屋の号数です。このくだりが行われた部屋の号数です。
EMTG:あははは。それがいちばん生々しくてエロい気がします。「白夜」はフィジカル寄りの快楽ですよね。
黒木:黒木渚のすけべさの種類を方向付けてる曲ですね。直接的であけすけな表現というか、際どいなっていうことも書いちゃったけど、つまり私はこういう具合に性的なことを解釈してるっていうことです。「107」の対極にあって、もっと欲望やカオティックなものに飛び込む力がある。お祭り騒ぎを楽しる私、ですね。
EMTG:「アーモンド」にも性的なメタファーは含まれてます?
黒木:いや、「アーモンド」は単純にあったものですね。私がいちばん孤独を感じてる時に食べたもの。これは、3年前に上京した時に、喉をちょっと壊しかけたことがあって。病院に行ったあとに、近くの公園でアーモンドをかじって休憩していたら、実際に喉がぼこって腫れたいびつな鳩がいて、アーモンドを投げてやったのがきかっけで。その時、すごく寂しかったんです。その帰り道に、東京駅でランドセル背負ってる迷子の女の子を見た時も切なさが倍増して。その子にアーモンドを一粒あげたのも事実なんです。その後、スタジオで大号泣しながら書いたんですけど、この曲は人に対して歌う情景がすごくクリアに頭の中にあって。しかも、インストアとか、お客さんと近い距離で、その人の目を見て歌い掛けるみたいなことがかなりリアルに思い描けてる。絶望の中の希望の歌で、応援歌の部類になるのかなと思いますね。
EMTG:「命がけで欲しいものひとつ」も応援ソングとして聞けますよね。
黒木:そうですね。働く人の通勤ソングとして、電車に乗りながら聴いてくれてるイメージで書いてます。クタクタな人たちに向けて、“死んだ顔してるんじゃないよ! この曲あるからさ”っていう。自分の仕事が好きじゃないというか、なにも感じてないでこなしてるのって、すごく辛い状態じゃないですか。その中に、命がけで欲しいものを発見できたなら、すごく強いし、生き生きするのにねっていう提案ですね。
EMTG:途中、ベートーベンの「第九」の第4楽章「歓喜の歌」が流れます。
黒木:実は、この曲のお尻には、ラベルの『ボレロ』も入ってるんですけど、『第九』には、働く人間たちと一緒に歌うみたいな勝手なイメージがあって。みんなで歓声あげて、大きい声をただ出すっていう、生きているっていう迫力をライブで感じられたらいいなと思ったんですね。ライブで歌うから、あの部分は、お客さんに対するデモというか、ガイドだと思ってて。
EMTG:ライブでみんなで歌うから練習しとけっていう。
黒木:そういうことですね。君たちのパートですっていう。早くライブでみんなで歌いたいですね。
EMTG:11月からワンマン全国ツアー「自由律」がスタートします。
黒木:この夏にやったフリーライブツアーでは、1時間半のダイジェストみたいなセットリストでやったんですけど、今回はもっと深い段階まで入ってきてもらう必要があるなって思ってて。ライブ全体に一貫したストーリーを持たせるという試みを深く突き詰めていって、怖がらせるくらいの勢いで……。
EMTG:ええっ!? フリーライブでは「私、そんなに怖くないですよ」って言ってたけど。
黒木:あははははは(笑)。そうですね。でも、怖いものってみたいじゃないですか。この人、訳がわからない。怖い、でも、知りたいみたいな。そのくらいの領域までさらけ出しちゃおうかなっていう勢いですね。引きずり込む感じで作っていこうって思ってます。

【取材・文:永堀アツオ】

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リリース情報

配信シングル「ララ・ラプソディー」

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配信シングル「ララ・ラプソディー」

発売日: 2019年06月25日

価格: ¥ 250(本体)+税

レーベル: UNIVERSAL MUSIC LLC

収録曲

01.ララ・ラプソディー

ビデオコメント

リリース情報

自由律(初回限定盤B)[CD+LIVE DVD]

自由律(初回限定盤B)[CD+LIVE DVD]

2015年10月07日

ラストラム・ミュージックエンタテインメント

[CD]
1. 虎視眈々と淡々と
2. 枕詞
3. 大予言
4. アーモンド
5. 107
6. 命がけで欲しいものひとつ
7. テンプレート
8. 君が私をダメにする
9. 白夜

[DVD]
2015.7.22 恵比寿LIQUIDROOM ライブ映像 全8曲収録

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お知らせ

■ライブ情報

黒木渚 ONEMAN TOUR 2015「自由律」
2015/11/22(日)福岡DRUM LOGOS
2015/12/06(日)大阪BIGCAT
2015/12/13(日)名古屋ボトムライン
2015/12/19(土)仙台MACANA
2015/12/20(日)札幌DUCE
2016/01/11(月・祝)東京EX THEATER ROPPONGI

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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