吉澤嘉代子の2nd Album 『東京絶景』は、妄想を振り切り “日常の絶景”を描いた「現実」

吉澤嘉代子 | 2016.02.08

 マーティ・フリードマン、中尾憲太郎、かみじょうちひろ(9mm Parabellum Bullet)、曽我部恵一、高田漣など錚々たるミュージシャンが参加した吉澤嘉代子の2ndアルバム『東京絶景』。小さい頃に「魔女修行をしていた」というユニークなエピソードを持ち、妄想と現実を行き来しながら中毒性の高い世界を作り上げてきた彼女だが、今作では日々の暮らしを舞台に、“日常”の絶景を描いたのだという。妄想から現実へと振り切った経緯、言葉に対するこだわり、彼女にとっての音楽とは――。

EMTG:少し前の話になりますが、昨年暮れの「秘密ツアー~8都市をめぐる秘密公演~」はご自身にとっても大きな手応えのある内容だったようですね。
吉澤:もともとは、曲ごとの主人公になりきって道化を演じるようなライブのやり方だったんですね。でもそのツアーでは、曲を作った最初の頃に戻って、曲を恥じることなく受け止めるっていうやり方で臨んだんです。これまでずっと、曲に食われてしまったら芸じゃなくなると思っていたので、常に俯瞰しなければいけないという思いだったんですが、今回はちょっと溺れてみようと。バンドのミュージシャンみんなに身をゆだねるような感じでした。
EMTG:いろんな人との関わりの中で、変化が生まれたんでしょうか。
吉澤:そうだと思います。今まで自分が「これがいいだろう」と思ってやってきたことが、また別の人と話したりすることによってひっくり返る。いろんな見方を教わったりすることで、自分が決めていたことがブレブレになってぐちゃぐちゃになる。そういうのって、大切だと思っているんです。私、どんどんブレていけばいいと思ってるので。どこかで決まっているものはあると思うけど、自分のやり方とか立ち位置みたいなのは、どんどん流されていいと思っているんですよね。
EMTG:そういう刺激の中で新しい作品を作っていくことは、何が生まれるかわからないワクワク感もありそうですね。それとも、作品はあらかじめ何か見えていたものがあった上で作っていくんでしょうか。
吉澤:何作かはデビューの前から自分で想定して、16歳から作ってきた中でこういう素材があるから、テーマごとにアルバムで色分け出来たらと思って作ってきたんです。今出来たものをホットでお届けするというよりも、いくつか選曲して、その中で全体を通して見える世界や1曲を通して見える世界を楽しんでもらえたらなと思っているので、自分の中で「こういう風にしよう」というのはいつもあるんです。
EMTG:今回もそうですか?
吉澤:はい。私は、「新しいもの」が「良いもの」という感覚があまりないんですよ。ある一定の時期から、全部横並びというか。今だから書ける曲みたいな感覚は持ちたくないなと思っているんです。いつ書いても、それがその時間を封じ込めた世界だと思っているから。自分を切り売りするような作品のタイプだとしたら、過去のものが嘘になってしまう時期が絶対くると思うんです。成長するので。だから、主人公の性格や年齢を決め込んで物語形式で曲を作ることが多いんです。もちろん、その時その時で滲み出てるものはあると思いますけど。
EMTG:今回の「東京絶景」はどういうところから形作っていったんですか?
吉澤:私の中でいくつか作風があるんですけど、どの順番でお届けするのが一番ひっかかるのかとか、その曲が生きるのかっていうのを考えた時に、最初はやはり自分の色であり、看板になっている“少女性”??自分自身じゃなく、曲の中のですけど、それを生かした滑稽さだったり、ドリーミーな感じとか、女の子のドタバタ恋愛妄想劇みたいなものなのかなと。でもちょっと天の邪鬼なとこがあるので(笑)、いつもそういうことをやっている人には思われたくない。じゃあ何か違うものを出そうと考えた時に、「妄想」から振り切った「現実」っていうものをやりたいなと思ったんです。
EMTG:その入り口となる1曲目には「movie」という曲があります。これまでとこれからを繋ぐような役割であると同時に、終わりと始まりを告げるような1曲のように思えたのですが。
吉澤:前作の『箒星図鑑』が、ずっと描きたいと思っていたその少女時代というものをパッケージしたものだったんですね。少女時代が、自分の「曲を作ろう」っていうことの源になっているから。「movie」はその『箒星図鑑』と『東京絶景』を結ぶ曲であり、自分にとってとても大事な曲なので、いちばん最初に入れたいなと思ったんです。
EMTG:大事な曲、ですか。
吉澤:はい。これは、夢の中では死んだ人と生きてる人の境界線がなくなるから、夢の中だけでは待ち合わせが出来るかもしれないっていう曲。私は子供の頃から何かになりたいという変身願望がものすごく強くて、魔女修行というのをしていたんです。お年玉で買ったホウキで飛ぶ練習をしたり、飼ってた犬にずっと話しかけて喋り返すのを待ったり。大人になって魔女修行のお供をしてくれていた犬が病気になったとき、ある日、うちに来てからこれまでのことを話してたんですね。ずっと引き止めてしまってるな、もう大丈夫だよって言ったら、その数時間後に死んじゃって。魔女修行してたのにうんともすんとも言わなかったし、全然魔法も使えなかったけど、最後に言葉が通じたのかなって勝手だけど思ったんですよね。たぶんそこで自分の中の少女時代が死んでしまったんですけど、それでもやっぱり、魔法がひとつ叶ったのかなと思って、その時に書いた曲なんです。
EMTG:魔法であり、ずっと消えない何かたしかなものを残してくれたのかもしれないですね。その子からのお土産というか。
吉澤:そう言ってもらえるとすごい救われます。なんでも曲にしてしまう自分がすごく怖くなったりするので、お土産だって思ったら、ちょっと救われました。
EMTG:ちょっと意味は違うかもしれませんが、「なんでも曲にしてしまう」というのは今回の曲のタイトルからもうかがえますね。「胃」なんて、たぶん曲のタイトルとしては初めて目にしました(笑)。
吉澤:(笑)。私はいつもタイトルから曲を作るんです。私にとって一番大切なのが言葉。言葉を残したいから音楽をやっていると言っても過言ではないくらいなんです。「この言葉の曲が歌いたい」というところから曲を作り始めるんですが、タイトルにすると、その言葉が自分のものになったような気がするんですよね。タイトルが浮かぶのは、ほんと日常の中から。本を読んだり、映画を観たり、会話の中から好きな言葉や惹かれる言葉をストックしています。
EMTG:では「東京絶景」はどんな思いから生まれてきたんですか?
吉澤:まずアルバムとしては、今回“日常の中の絶景”というのをテーマにしてるんですけど、美しくない景色や醜い場所、何でもない光景も、その人の瞳を透すから絶景に変わるというか、日常がドラマチックに変わるということを描いていきました。アルバムの最後には「東京絶景」という曲も入っているんですが、これに関しては、このアルバムの底になっている曲です。東京の空は星が見えないけど、夢を持っている人がたくさん集まっているから、その星で東京の空はいっぱいっていう。星の見えない空だったり、その日限りの出会いだったり、次の日には忘れちゃうような笑い話だったりとか、そういうのも東京独特のものかなと思うんですね。希薄な関係性だったりとかが。孤独な感覚と温かみを行き来する感じというか…、孤独だから温かくなる瞬間、そういうものを絶景という風にしたいなと思って書きました。
EMTG:吉澤さんは埼玉県川口市のお生まれですよね。
吉澤:はい。今も埼玉に住んでいて、東京はすぐに行ける距離なのでそんなに特別な感覚はないんですけど、友達が東京で一人暮らしを始めて泊まりに行った時に、ふと、その子の目を通して「東京」を感じ、プレゼントしたいと思って書いた曲なんです。東京のことを美化も卑下もしてないからこそ、書けたのかなって思うんですけど。
EMTG:このアルバムを引っさげて行われる「絶景ツアー“夢をみているのよ”」も楽しみです。
吉澤:今回は好きな曲をいっぱいアルバムに入れたので、私も楽しみなんです。自分もお客さんを見ることによって、絶景だと思える夜になったらなと思っています。

【取材・文:山田邦子】

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リリース情報

東京絶景

東京絶景

2016年02月17日

日本クラウン

1. movie
2. ひゅー
3. 胃
4. ガリ
5. ひょうひょう
6. ジャイアンみたい
7. 手品
8. 化粧落とし
9. 綺麗
10. 野暮
11. ユキカ
12. 東京絶景

お知らせ

■ライブ情報

2ndフルアルバム『東京絶景』発売記念イベント ミニライブ&サイン会情報
2/20(土)名古屋:HMV栄
2/21(日)東京:ヴィレッジヴァンガード下北沢店
2/27(土)東京:タワーレコード渋谷店 B1F”CUTUP STUDIO”
2/28(日)大阪:タワーレコード梅田NU茶屋町店
2/28(日)大阪:タワーレコード難波店
3/06(日)名古屋:タワーレコード名古屋パルコ店
3/13(日)福岡:新星堂キャナルシティ博多店

吉澤嘉代子2016年全国ツアー 『絶景ツアー "夢をみているのよ"』
4/09(土)札幌cube garden
4/16(土)岡山CRAZYMAMA KINGDOM
4/17(日)福岡スカラエスパシオ
4/23(土)仙台Rensa
4/27(水)名古屋市芸術創造センター
4/29(金・祝)大阪ビジネスパーク円形ホール
4/30(土)東京国際フォーラム ホールC

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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