手嶌 葵 月9ドラマの主題歌「明日への手紙」は、聞き手に寄り添う優しい気持ちでいっぱいの作品

手嶌葵 | 2016.02.09

 フジテレビ系月9ドラマ「いつかこの恋を思い出してきっと泣いてしまう」の主題歌「明日への手紙」を歌う手嶌葵。<元気でいますか/大事な人はできましたか/いつか夢は叶いますか/この道の先で>という手紙を読むような歌い出し、麦の穂が揺れる情景描写、過去を振り返りながらも前向きに明日を夢見る姿勢……。1通の手紙をキーワードに、北海道から上京してくるヒロインを取り巻く青春群像劇となっているドラマのために書き下ろしたように密接なつながりを感じさせるが、実は、既発アルバムに収録されていた曲をドラマ用にリアレンジし、歌も録り直した楽曲だという。映画が大好きでテレビにはあまり出ない彼女と、お茶の間の代表であるテレビドラマを結びつけた縁は何なのか。この契機に、ファンタジーの住人のように思われがちな彼女の素顔に少しでも触れられたらと思う。

EMTG:まず、月9ドラマの主題歌に起用されることになった心境から聞かせてください。
手嶌:映画でデビューしたんですけど、テレビは一番身近にあるもので、さらに月9!というところで(笑)、私のスタッフも驚くと同時にとても喜んでいて。今まで私のことをご存じなかった方をはじめ、いろんな方に耳にしていただけるチャンスを頂けたと思っているので、とても嬉しいです。
EMTG:今回、ドラマ用にアレンジも変えて新録していますが、元々は2014年7月にリリースした10枚目のアルバム『Ren’dez-vous』に収録されていた曲なんですよね。
手嶌:そうですね。以前から交流のあった池田綾子さんが、私に対する優しい気持ちをぎゅっと詰め込んで作ってくださった曲だったので、アルバムの中では他の曲とは違う、ちょっと独特の雰囲気を持った曲だったんですね。でも、本当に美しい、いい曲だからということで収録した曲でしたし、メインで押していた曲でもなかったので、『よくぞ見つけてくださった!』という感じです。今となっては、ここに来るために入れたのかなって思ってるくらいですね。
EMTG:他のアルバム曲と違った雰囲気というのは?
手嶌:ある意味、『Ren’dez-vous』というアルバムは、本編のない映画音楽のようなつもりで作ったので、私のファンタジーの中の映画の曲というイメージだったんですね。でも、この曲だけ現実感があって。私の幼いころ……ティーンエイジャーだったころの思い出が、現実としてぐっと前に出てきていて。特に、綾子さんからは<もがきながら>という強い言葉を歌わせてもいいかな? と聞かれたんですけど、私なりに本当にもがきながら、デビューから今まで歌い続けてきたという思いがあったので、綾子さんが考えた以上に、その言葉にぐさっときたんですね。ずっとへらへらしてるイメージがあるかもしれないんですが、私の“現実”がここにあるなと感じて。
EMTG:へらへらしてるイメージはないですけど(笑)、マイペースにブレずに活動し続けてるように見えてます。まっすぐに堂々と歌ってるようにも感じますし。
手嶌:全然そんなことないんですよ(苦笑)。すごい緊張しいですし、いつも足が震えてますし。いつも、どうしようと思いながら歌ってるんですね。皆さんのイメージを壊すわけではないですけど、私の本当の部分を少し出してくださってる。私なりに悩んでいて。迷いながら揺れながら歩いているんだっていうことが、この歌で皆さんに伝わるといいなと思いましたね。綾子さんには本当に感謝してます。
EMTG:きっと実在感が薄いんですよね。スクリーンの中から聞こえてくる歌声の人というか。
手嶌:コンサートをやると、よく『本当にいたんですね』って言われるんですよね(笑)。でも、私もこの曲と同じように悩んでるし、揺れてるし。頑張って前に進もうとしてて。だから、『います! 私も現実です!!』っていうことを伝える、とてもいいチャンスだと思ってます。
EMTG:(笑)楽曲から連想したティーンエイジャーの頃の思い出というのは?
手嶌:この曲を最初に頂いた時に、小学校の卒業式の時に埋めたタイムカプセルの事を思い出したんですね。大人になってから、またみんなで集まって開けたら……私は何を入れたか覚えてなかったんですけど、歌の発表会でみんなで歌った楽譜が入ってたんですね。そこで、小さい時から歌が好きだっていう気持ちがあったんだな、今の仕事につながってるんだなと思って。<いつか夢は叶いますか?>という歌詞の言葉を見た時に、そのことを思い出したので、アルバムのレコーディングでは12?3歳の時に気持ちに戻って歌ってましたね。
EMTG:あの頃の自分に向かって、今の自分が訥々と歌ってるイメージですよね。ドラマバージョンではどんなアプローチで臨みました?
手嶌:5歳くらいプラスして、もう少し大人になってから悩んでたこととか、自分に勇気がなくて挑戦できないこととか、頭の中でいろんなことをぐるぐる考えた時のことを思い出してました。17歳や18歳の頃の自分を思い出すと恥ずかしいことになるんですけど……。
EMTG:ちょうど10年前ですよね。デビューに向けた準備をしてた時期です。
手嶌:私なりにトンガってましたね(笑)。周りの同級生たちよりは大人と深くかかわり合うことが濃くなっていて。歌がお仕事になるかもしれないという現実にちょっとびっくりしながら。大人はなんなんだろうと思っていて。
EMTG:あはははは。不信感や反発がありました?
手嶌:泣きながらデモを作ったことを思い出したりしながら、ちょっと切なかったけど、楽しかった気もするなと思ったりしました。1つの見方しかできなかったから、大人って……と感じることが多かったと思うんですけど、あの頃は、それでいいんだと思いますよね。今、当時の音源を聴くと、とても素直で。音程やリズムが合ってないだろうが、気にしないで歌ってる。綺麗に歌おうということよりも、この歌が好きであるっていうことをすごく感じるんですよね。その素直さがとてもいいなと思うし、あの頃はあの頃で、あの歌い方をしていてよかったんじゃないかなって、今はすごく思います。
EMTG:だからこそ、アカペラになっている<人は迷いながら揺れながら/歩いていく>というパートが説得力を持って聴き手の胸に響くんだと思います。
手嶌:一番緊張したところなんですけど、普段はあまり言葉にして口に出さないじゃないですか。迷ってるんだとか、不安だとか、怖がってるんだっていうことはなかなか言えないと思うんですね。だから、もしもみなさんがこの歌を歌ってくださるのであれば、自分の気持ちを吐露して欲しいですし、自分が発している声を自分の耳でちゃんと聞きながら歌って頂けたらいいなと思いますね。
EMTG:また、ドラマは上京してきた若者たちが、東京で困難にぶつかりながらも必死で前向きに生きていく姿も描かれています。ちなみに葵さんは東京での一人暮らしの経験はありますか?
手嶌:一瞬だけあったんですけど、くじけてしまいました(笑)。私自身が歌いたいなと思える気持ちをチャージするためには博多弁と福岡のご飯が必要なんだなっていうことがよく分かりました。
EMTG:言葉と食べ物?
手嶌:そうですね。母が作ってくれるご飯やがめ煮、外に食べに行く時の豚バラとか。本当にちょっとしたものなんですけど、博多弁の雰囲気と一緒に食べるということが私にとってはとっても大切で必要なものなんだなっていうことがわかったので、無理しなくていいのではないかな、と。やっぱり留まり続けることってすごく努力が必要だし、いろんなものを我慢しないといけない。我慢して我慢して、辛い気持ちからふっと気づいたら慣れているっていう。そのスパンが短い人もいるし長い人もいるけど、ふと気づくと東京人になってるっていう。私は今も故郷にとどまり続けていますけど、新しい場所で夢に向かって何かに挑戦するという気持ちはよくわかるし、ドラマの登場人物である健気で優しい子たちやドラマを見ている方々に優しく寄り添えたらなと思いますね。

【取材・文:永堀アツオ】

tag一覧 シングル 女性ボーカル 手嶌葵

リリース情報

ink

ink

発売日: 2020年10月07日

価格: ¥ 1,500(本体)+税

レーベル: littleHEARTS.Music

収録曲

01.ink
02.Fear
03.空蝉

リリース情報

明日への手紙

明日への手紙

2016年02月10日

ビクターエンタテインメント

1. 明日への手紙
2. 輝きの庭~I’m not alone~
3. Can’t Help Falling In Love (Live)
4. 明日への手紙 (instrumental)

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十二夜
ウィリアム・シェイクスピアの『十二夜』が好きなんですね。旅をしていた兄妹の船が難破してしまって、妹だけが浜辺に打ち上げられるんですね。妹は女一人で生きていくために男装して、お兄ちゃんに成り代わって生きるんです。でも、実はお兄ちゃんも生きていて…っていう、喜劇のような悲劇になってて。私も昔から男の子になりたくて、顔がそっくりの兄もいるんです。どこか似てるところがあるからなのか、昔から好きな話で。確か映画もあったなと思って検索したんですけど、DVDが廃盤になっていて。中古盤は高くて買えないや……と思って断念しました。


■ライブ情報

「Premium meets Premium 2016」手嶌葵&池田綾子
2016年2月17日(水)浜離宮朝日ホール

Love FM Festival
2016/03/13(日)福岡市役所前ふれあい広場

ペンギンと音楽の夜~Penguin Meets Music~
2016/03/14(月)すみだ水族館

※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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