パスピエの6thシングル「永すぎた春/ハイパーリアリスト」完成

パスピエ | 2016.07.27

 4月にリリースされた5thシングル「ヨアケマエ」に続き、早くも6thシングル「永すぎた春/ハイパーリアリスト」が完成! 和テイストのメロディと、きらびやかなバンドサウンドが絶妙な融合を果たしている「永すぎた春」。印象的な音色と優美なメロディが絡み合う「ハイパーリアリスト」。どちらのタイトル曲も刺激的だ。新曲を次々放っている他、メンバーの素顔を表に出すようにもなるなど、2016年に入ってから新たな世界へと積極的に踏み出している印象がするパスピエ。新作に反映されている現在地点、見つめている未来、改めて浮き彫りとなっている彼らの本質とは? 成田ハネダ(Key)、大胡田なつき(Vo)に語ってもらった。

EMTG:「永すぎた春」は、最近のパスピエが、より明確に打ち出すようになった和のテイストを表現した曲として聴きました。
成田:おっしゃる通り「和」は打ち出していきたいので、その部分は採り入れています。歌詞や出来上がったジャケットも含めて「和」+「ニューウェイヴ」という軸がある作品ができたと思っています。パスピエがもともと持っていた「ちょっと昔の近未来感」みたいな部分が出ていますね。最先端のテクノロジーによるものではない雰囲気というか。
EMTG:「レトロフューチャー」みたいなテイストですかね?
成田:それは、まさに近いニュアンスだと思います。シンセサイザー、ギターサウンド、大胡田の声質が醸し出す非現実的な世界観、メロディの和なテイストとかの肉体感は、そういうものに通ずると思いますので。
EMTG:大胡田さんは、この曲をどのように膨らませていきました?
大胡田:最初に聴いた時に『娑婆ラバ』の次に出る曲なんだろうなと感じました。あと、この前の「ヨアケマエ」のタイトルも小説から来ているんですけど、「永すぎた春」もそうなんですよ。
EMTG:三島由紀夫ですか?
大胡田:はい。成田さんから提案されたんで。私ももともと三島さんの小説が好きだったので、「これにしましょう」と膨らませていきました。歌の一行目と最後で言っていることが逆になっているんですよね(歌いだしの《儚いものこそが、美しいものであった》が、最後の一行では《美しいものこそが、儚いものであった》となっている)。「人生の春みたいな時期って、過ぎると見方が変わっていたりするよなあ」っていうのを歌全体の流れで表現したいと思っていました。
EMTG:成田さんが「永すぎた春」というワードを提案した理由は?
成田:どうやって「ニューウェイヴ」と「和」を融合させるかを考えた時に、何かキャッチーな言葉があった方が、説得力があるものになるだろうなと思ったんです。
EMTG:三島由紀夫の「永すぎた春」まだ読んでないんですよ。恋愛小説だから、なんとなく手にしないままで。
大胡田:私もそうだったんです(笑)。歌詞を書いた時点ではまだ読んでいなかったので、「永すぎた春」というワードから自分の思う世界を広げていきました。
EMTG:何かしらの別れを経た人物の切ない心情を想像して聴きました。
大胡田:《行かないで 永すぎた春よ》ですから、何かしらが行っちゃっているんでしょうね。青春時代とか恋愛が盛んな時期を過ぎて……っていう歌です。
EMTG:パスピエのみなさんは、まだまだ青春真っ只中ですよね?
大胡田:どうなんでしょう?(笑)。
成田:壮年期?(笑)。まあ、この曲、いろいろイメージを膨らませて聴いて頂けたらと思います。ズシッと来るワードが散りばめられていますので。
EMTG:メロディもグッと来ます。
成田:ありがとうございます。ずっとストックで貯めていたメロディの中に頭の中で反芻していたものがあって。それを広げていってこの曲になりました。自分の中でずっと残っていたメロディだったので、その素材を活かすためにはむしろ装飾し過ぎない方がいいんだろうなと考えていました。だから目まぐるしい展開とかはしないで、地続きで聴けるものになっていると思います。
EMTG:祭囃子っぽい「鯔背(いなせ)」な感じがあるのも独特な味わいですよ。
成田:そういう部分も夏に出すシングルとしての意義を含んでいるのかなと思います。音楽を共有したいし、共有して欲しいという想いもあるので。「ヨアケマエ」もそうだったんですけど、パスピエは「遅いけど上がれる」みたいなものを今年のテーマにしていて。BPMは速くないんだけど、別の部分で乗せるっていうのを「永すぎた春」でも意識していました。
EMTG:雄大に高鳴っていくのが気持ちいいです。ワクワクしますよ。
大胡田:私もこの曲、すごく好きなんです。踊りながら歌って、大分気持ちよくなっています(笑)。
EMTG:ライヴでの踊り、どんどんパワーアップしていますよね?
大胡田:たくさん動く余裕が、ちょっとずつ出てきたんでしょうかね。ステージの隅から隅までを感じたいなと思うようにもなっていますし。
成田:大胡田のそういう「肉体性や歌詞/キャラクターと声質」という逆説感とか、いろんな「ねじれ」がパスピエらしさなんでしょうね。
EMTG:「ねじれ」って、いいですね。パスピエの本質を表しているワードですよ。
成田:毎回狙って曲を書いているわけではないんですけど、そういう部分はあるんだと思います。
EMTG:ニューウェイヴ的なものに対する憧れを下地にしつつ、自分たちなりの新しい表現を提示している部分も、「ねじれ」と言えるのかも。
成田:ニュー・オーダーが来日したりはありますけど、ニューウェイヴをリアルで体験できなかった悔しさみたいなのはあるので、そういう部分を体現したというのは思っています。だからソフトシンセを使ったりは、ほとんどないんですよ。毎回、昔のアナログシンセを持って来たりしてレコーディングしていますから。
大胡田:私もニューウェイヴに限らず、ちょっと昔のものに惹かれるというのはあります。それは言葉にせよ、物にせよ。いろんな芸術家さんの話を聞くと、「自分よりちょっと前のものが黄金期だ」という方が多いんですよ。ないものねだりじゃないですけど、郷愁を求めるような感覚って、人間の遺伝子の中にあるのかもしれないですね。
EMTG:「ハイパーリアリスト」のイントロのシンセも、そういう部分を感じます。懐かしい80年代の雰囲気を感じますから。
成田:8ビットな感じですからね。ポップな曲なんですけど、そこにパスピエらしい「ねじれ」を入れたいなと思って選んだのが、あの音とメロディラインです。
EMTG:オルガンとシンセが入り混じっているのも独特な雰囲気を醸し出していると思います。
成田:あんまりオルガンとシンセを共存させることってないですからね。ピアノとシンセとか、オルガンとピアノはありますけど。オルガンとシンセは「面」というか「太さ」みたいなことを聴かせる楽器なので、そういうのを共存させるのは、この曲の音作りで頑張ったところです。
EMTG:「ハイパーリアリスト」も今回のシングルのタイトル曲ですね。
成田: はい。でも、両A面として考えて最初から作っていた曲ではないんです。「永すぎた春」をより良く見せるためにも、何か対になる曲があったらいいなあということを思っていて。仕上がってみると予想以上にポップなものになったので、両A面にすることにしました。
EMTG:歌詞に関しては、いかがですか?
大胡田:これは「手紙」とか「絵」とかの「描く」っていう部分に着目した歌詞です。タイトルを考えた時に、まず思い浮かんだのが「ハイパーリアリズム」。写真にどこまでも近いレベルで絵を描く一種のジャンルを指す言葉なんですけど。この歌とか自分たちの存在も、ハイパーリアリズムに近いのかなと。偽りの何かや嘘を表現しているわけではないんですし、私は「大胡田なつき」でありつつ「パスピエ」っていうバンドをやっている……ということを考えた時に、それってハイパーリアリズムに近いなと感じたんですよね。それで「ハイパーリアリスト」というタイトルをつけました。歌詞の中に「ハイパーリアリスト」っていうのは1回も出てこないんですけど、すごくこの歌を形容できていると思います。
EMTG:では、カップリング曲のお話に移りましょう。「REM」は、もしかしたら「レム睡眠」から来ているタイトルですか?
大胡田:そうです。
EMTG:アメリカのバンドのREMかと最初は思ったんですけど。
成田:なるほど(笑)。ロックサウンドと優美な音色を共存させている曲なので、これも「ねじれ」の表現ですね。
EMTG:浅い眠りのまどろみ感がサウンドと歌詞の両面から伝わってきます。
大胡田:この歌詞は、自分のことをそのまま描いた感じです。夜中の3時くらいに「ああ、どうなんだろう……」ってなることがあるじゃないですか。締め切りがあって、「寝たいけど寝れないなあ」みたいな。もの書いたり作ったりする人は、こういうのあるんだろうなっていう歌ですね(笑)。聴く人によっていろんな当てはまり方があると思うので、自由に聴いて頂ければと思います。
EMTG:そして、恒例となっているカバーは倉橋ヨエコさんの「今日も雨」。個人的にも大好きなシンガーなので、とても嬉しかったです。
成田:ヨエコさんはすごく個性的な声で独自の世界観を表現されていて、僕も好きなんです。ヨエコさん、いい声だよね?
大胡田:ほんとそうですね。私も倉橋さんがすごく好きで、よく聴いていたんですよ。「今日も雨」は原曲が素晴らしいですし、バンドサウンドも完成されているので、どう歌おうかいろいろ考えました。原曲とはまた違う形で、あの雨の感じを表現できたと思います。
EMTG:不思議な曲なんですよね。《泣き止んでみても 外はもっと雨》とか、後ろ向きにも見える描き方なのに、伝わってくるのは力強い覚悟ですから。
大胡田:ネガティヴと言えばネガティヴなのかもしれないですけど、ポジティヴなものがすごく入っている曲だと私も思います。
EMTG:こういう曲をカバーしてくださるのは、音楽ファンとして嬉しいです。
成田:有名な曲の良質なカバーは、僕らがやらなくても世の中にたくさんありますからね。僕らだからやれるカバーは、これからも模索したいです。「この曲をカバーしよう」と思って調べて、既にカバーしている人を見つけると、ちょっとヘコんだりもしますけど(笑)。
EMTG:(笑)では、そろそろインタビューを終わりましょう。このシングルをリリースして以降のパスピエに関しては、何かありますか?
成田:今年の11月にデビューしてから5周年になるんです。12月には東名阪のツアーがあるんですけど、会場がホールなんですよ。新しいパスピエを提示できるものにしたいなと思っています。

【取材・文:田中 大】

tag一覧 パスピエ

リリース情報

永すぎた春/ハイパーリアリスト(初回限定盤)

永すぎた春/ハイパーリアリスト(初回限定盤)

2016年07月27日

ワーナーミュージック・ジャパン

1 永すぎた春
2 ハイパーリアリスト
3 REM
4 今日も雨 *倉橋ヨエコのカバー

お知らせ

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■ライブ情報

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2016 in EZO
2016/08/12(金)・13(土)石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ

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2016/08/14(日)国営ひたち海浜公園

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2016/08/28(日)山梨県 山中湖交流プラザ きらら

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2016/09/17(土)福井フェニックスプラザ

J-WAVE "THE KINGS PLACE" LIVE Vol.11
2016/09/23(金)新木場 STUDIO COAST

HAKUOH FESTIVAL SPECIAL LIVE 2016
2016/10/30(日)白鴎大学 本キャンパス
※[鴎]正しくは区の中が品
※その他のライブ情報、詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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