パノラマパナマタウン「型に嵌めずに等身大で表現した」2ndアルバム

パノラマパナマタウン | 2016.09.16

 MASH A&RとRO69JACKという人気バンドの登竜門ともなった二大新人オーディションでダブル優勝を勝ち取った神戸発の4人組ロックバンド、パノラマパナマタウン。彼らが初の全国流通盤『SHINKAICHI』からわずか半年ぶりの2ndミニアルバム『PROPOSE』をリリースする。ガレージロックを基調としたシンプルなグルーヴにのせた攻撃的なフロウというパノパナのオリジナリティを強く打ち出した今作は、前作以上に不敵で鋭利なロックアルバムに仕上がった。まだ知名度は低い。だが、バンドのソングライティングを手がける岩渕想太(Vo・G)はそれも承知で「今回、僕は万人受けするアルバムは作らなくていいと思った」と言う。ありのままの衝動や怒りを発信することで、型に嵌らないロックを鳴らすパノパナからのプロポーズ。受けるか、拒むかはその耳で判断してほしい。

EMTG:まずパッと聴いたときに、前作『SHINKAICHI』よりもラップの比重が多くなってて。パノラマパナマタウンの音楽性がよりシャープになったと思いました。
岩渕:前回『SHINKAICHI』を出したときに、いろんな人に「次作はどっちでいくの?」みたいな感じのことを言われたんですよ。歌モノにして丸くなるのか(ラップで攻めるのか)。それが悔しかったんです。「いや、こんなもんじゃない」という気持ちがあって。前作の『SHINKAICHI』は新しいロックのスタンダードを作るために、ある程度コンセプトに沿って丁寧に作ったから、5曲がまとまって聴こえた作品だったと思うんですね。
EMTG:あのときは、タイトルにもなってる(神戸の)新開地みたいな新旧入り混じった街が好きだから、そういう雑多なものを肯定した音楽という意味で、ガレージロックであったり、ヒップホップ、ファンクを混ぜ合わせた作品を作ったという話を訊きましたね。
岩渕:そうですね。だからバランスは良いんです。でも、今回はもっと純粋に「これがやりたいことだ!」っていうのを率直に出していったんです。結果として自分のなかでは今回はちょっと取っ散らかしてみようっていうイメージでしたね。
EMTG:あ、そうなんだ。逆にわたしは取っ散らかってるとは感じてなくて。前作よりも1曲1曲が鋭くて研ぎ澄まされると思ったし、そういう点ではまとまってるなと。
岩渕:なるほど。鋭いっていうところで一貫してる感じですか?
EMTG:そうそう。
岩渕:それは僕たちが、ここ(音楽シーン)で何をやらなくちゃいけないのかが見えてきたからですかね。僕たちだけにしか出せないものっていうのは、ふつうなら丸くして削ぎ落とされてしまうような部分を、あえて削ぎ落とさないようにすることだと思うんです。トゲトゲしさを殺しちゃいけないというか。だから今回、僕は万人受けするアルバムは作らなくていいかなと思ったんです。
EMTG:なるほど。その言葉、久しぶりに聞いた。
岩渕:ゼロ年代邦楽ロックでよく言われてたような言い方ですよね。そういうインタビューもよく読んでたんです。でも本当に今回は届くべく人にちゃんと届くアルバムにしたいなと思ってるんですよ。タイトルを「PROPOSE」にしたのも、とにかくプロポーズをばらまいて、それを受け取ってくれる人に届いたらいいなって思ったからで。丸くして、おべっかを使って、万人に受け入れてもらおうっていうのは考えてない作品ですね。
EMTG:いま岩渕くんが話してくれたことはメンバーで話し合ったりしたんですか?
田村夢希(Dr):プロポーズっていうタイトルに決めるたときにそういう話をしました。
岩渕:アルバムに入れる曲が大体決まった段階で、僕のなかでは「PROPOSE」にしたいっていうのはあったんですよ。それでメンバーに「“プロポーズ”にしたいんです」っていう、ちょっと恥ずかしい話を車の後ろの席から……。
田野明彦(B):全然そっけない感じで言ってた(笑)。でも、純粋に良いなと思いましたね。言葉のキャッチーさと、ポップさと裏腹にこういう攻めた感じの作品だから。
EMTG:たしかに“プロポーズ”というタイトルだと、ラブソングが入っているんじゃないかと思うけれど、実際にはそうではないですからね。
岩渕:そういう気持ち悪いことをしたいんですよ。こういう表現をプロポーズと呼ぶのが、僕らの強みじゃないかなっていうのがあって。
浪越康平(G):僕は最初このタイミングで次のアルバムを出すのことがあんまり腑に落ちてなかったんです。半年前に出したアルバム(『SHINKAICHI』)にもまだ力が残ってるというか。そのアルバムでちゃんと世の中に知ってもらいたいっていうのがあったから、急いでアルバムを出す必要はないと思ってたんですね。でも“プロポーズ”っていうタイトルを(岩渕が)考えてきて、その理由を聴いたときに「出す意味があるな」と思って。いま、僕らはそんなに知名度もなくて、たくさんの人にこの作品が聴かれるわけじゃなくても、後々(リスナーが)このアルバムに辿り着いたときに、僕らがこういう初期衝動で音楽をやってたんだっていうことに気づいてほしい。だから、いまのままの激しさとか汗が見える感じを詰め込みたいなと思ったんです。
EMTG:なるほど。今作の制作は初めて東京で行なったそうですね。
田野:ずっと4人でウィークリーマンションの1室に5泊ぐらいしたんです。思ったよりも嫌じゃなかったですね(笑)。
岩渕:僕、めちゃくちゃ起きるのが遅いんですよ。レコーディングの最終日に12時ぐらいに起きたんです。その日は3時からレコーディングだったんですけど。そしたら浪越と夢希がふたりでカレーを作ってて、田野が部屋を掃除してて。あらゆることが終わってる状態で僕は起きて。「あ、ありがとう」っていう。そんな共同生活でした(笑)。
EMTG:共同生活をしながら、レコーディングするのは初めてですよね?
岩渕:そうですね。だから家に帰ってからも、ある程度4人で話す時間があったし、今日のあれはどういう方向に持っていくかとか、どのアレンジでいくかっていうのを、家でも考えることができたんです。そういうのはデカかかったと思います。その期間は本当にがっちりアルバムに向き合えたから、バンドのグルーヴも出たんじゃないかと思いますね。
EMTG:曲作り、レコーディングは順調でしたか?
岩渕:てこずった曲とスッといった曲が極端なんですよ。2曲目の「シェルター」は最初のほうに録ったんですけど、手こずった曲ですね。ライブでもやってたから骨組みはできてたんですけど、それを音源にしたときにどういう方向にも味付けができるなと思ったんです。ポップにもできるし、インダストリアルなポストパンク的にもできるし。でも浪越のイントロのギターの音色ができたときにポンッと決まった感じがありました。
浪越:あのイントロは軸となるフレーズがあって、そこにどういう味付けをしていくかっていうので悩んだんです。そこに高い音を重ねるのか、オルガンっぽい音にするのか、みたいな試行錯誤があり。最終的には弦を緩めて1オクターブ下の太い音を重ねてますね。
EMTG:パノパナの曲ってギターのリフが印象的な曲が本当に多いじゃないですか。「シェルター」もだし、「Elephant(in the room) 」とか「ホワイトアウト」とか。パノパナの曲におけるギターの役割って、浪越くんはどういうふうに考えてます?
浪越:「シェルター」に関しては、(岩渕が)リフから持ってきて作った曲なのでわからないんですけど、他の曲に関して言うと、パノパナの歌って叫びであったり、ラップであったりっていう、もちろんメロディ的な感じの曲もあるんですけど、そこが中心ではないので。僕のリフが(リスナーの)頭に残ればキャッチーさとしては良いのかなと思ってます。
EMTG:だから「Elephant(in the room) 」なんて、音数が少ないし、拍子に対する語りの切れ目とかも変なのに、すごくキャッチーに成立してるのはギターのおかげかも。
岩渕:この曲とかはレコーディングのときにいちばん悩んだ曲ですね。僕らはいままでの曲づくりでも、あれも入れて、これも入れてっていう足し算でやってたんですけど、この曲ではこれだけ音数少なくしていったときに何が残るか、どう成り立たせるかっていうセンスとの闘いだったんです。ボーカルを拍から外していったら、本来は不快感が残るじゃないですか。でもそれをうまい塩梅にパッケージしたいなと思ったんです。
EMTG:逆に順調にできた曲はどれですか?
岩渕:「Gaffe(読み:ガッフェ)」かな。いちばん最近できた曲なんです。今回、実は古い曲も多くて。結成して半年ぐらいで作った「MOMO」とか、2年前ぐらいにできた「Elephant(in the room) 」と「ホワイトアウト」。そこから、いちばん新しい曲が「Gaffe」なんです。時系列的には長い期間のアルバムなんですね。そういうなかで「Gaffe」は迷いがなかったというか。歌詞がバンドの決意表明でもあるから、あんまり音も増やさないで4人でガッと録りました。
EMTG:《意味のない気持ちをそっと殺すことは 自分史に残る大虐殺だと思え》っていう強い言葉も使ってますね。自分の意志はきちんと発信しなければいけないっていうことを歌ってて。それはアルバム全体からも感じました。
岩渕:「Gaffe」っていうのは失言っていう意味なんです。なんで人間が失言しちゃいけないかって言ったら、それは型に嵌めなきゃいけないからだと思うんです。「なんで、あんなことを言ってしまったんだろう」って後から反省するのも、その言葉が社会において、はみ出してるからだし。だから、このアルバム自体が「失言」なんですよ。後から自分で聞くと、「言ってしまった!」ってことになるように作ってあるんです。っていうのは、僕らはいま大学4年生で、いまからミュージシャンとして社会に出ていくんですけど、周りを見ると社会という型に嵌っていく人もいるんです。でも、それが正解っていうこともありますよね。だから、いま僕らが歌えることは、型に嵌めないことがかっこいいっていうこと。それが等身大なんですよ。アルバムを通したメッセージはないけれど、そういうことが全曲に通じてるのかなと、後から思ったりしましたね。
EMTG:歌詞には、わかりやすいものだけが許容されたり、一過性の流行に対して、アンチテーゼとなるような、社会への怒りや疑問もテーマになってますね。
岩渕:常にそういうことを考えてるんです。素直に何かを出そうと思ったときに、そういう怒りとか疑問みたいな感情がいちばん上の層にあるんですよ。ふだんはギリ言い出せないラインにあるんですけど。いまの社会に対して「このままいっちゃうとまずいぞ、お前ら」みたいなところは歌わなきゃいけないと思ってます。
EMTG:そういうことを散々言っておいて、最後の「MOMO」では《言いたいことは特にないが 曲ができたから歌詞を書くことにするよ》って歌うから、どんだけ捻くれてるのかと。
岩渕:あははは!最後にこの歌詞ができたときに、気持ち良いなと思いましたね(笑)。でも、それって本当にそうなんですよ。僕はメッセージから曲を作らないんです。音楽ができて、そのメロディとか風景に沿った、僕のなかのテーマを結びつけてるだけなので。だから本当に言いたいことはあんまりないんです。
EMTG:と、本人は言ってるけれども(笑)、『PROPOSE』は、いまの20代前半の若者の主張がしっかりと詰まってる作品だし、かっこいいロックアルバムが完成したと思います。
岩渕:僕らのありのままのトゲトゲしさ、荒々らしさを詰め込むことには大成功したので、あとはこの『PROPOSE』がどれだけ届くか、どういうレスポンスが返ってくるのか、ですね。結局、僕らにとってこれは前置きなので。
EMTG:パノラマパナマタウンという物語の前置きに過ぎないということ?
岩渕:まだまだ曲はたくさんありますから。
EMTG:この前置きを経て、いまバンドはどんな展望を抱いてますか?
岩渕:パノラマパナマタウンがフェスのメインステージに立って、みんなこれを聴いてるみたいになったら、最高だなと思うんですよ。こういう熱量を込めたものがのし上がっていくっていう光景を見たいんです。だから、届くべき人に届けばいいっていうのは、今回のアルバムで思うことなんですけど、届くべく人が全員になるようにしていきたい。アンダーグラウンドでは終わりたくないので。メインストリームで僕らがバーンとやって、よくわからないけどみんなが熱狂してるとか。いまみたいに画一的にお客さんがみんなで同じフリをするんじゃなくて、ライブではみんなが自由にやって、お酒を飲んでる人もいたら、暴れてる人もいていいと思う。そのぐらい音楽に熱狂できる時代を作りたいんです。

【取材・文:秦理絵】

tag一覧 男性ボーカル パノラマパナマタウン

リリース情報

PROPOSE

PROPOSE

2016年09月21日

MASH A&R

01 Gaffe
02 シェルター
03 Elephant(in the room)
04 ホワイトアウト
05 MOMO

お知らせ

■コメント動画



■ライブ情報

パノラマパナマタウンのPROPOSE ツアー
2016/10/22(土) music zoo KOBE 太陽と虎
2016/11/04(金) 下北沢SHELTER

Getting Better〜20th Anniversary Party"ROCK THE BEST TOUR"
2016/09/17(土) 名古屋DIAMOND HALL

Eggs presents TOKYO CALLING 2016
2016/09/18(日) 新宿ライブハウス

J-WAVE TOKYO REAL-EYES ”LIVE SUPERNOVA” vol.112
2016/09/21(水) 渋谷 TSUTAYA O-NEST

Date fm “MEGA★ROCKS 2016”
2016/10/01(土) ※出演場所は後日発表になります。

MINAMI WHEEL 2016
2016/10/09(日) ※出演場所は後日発表になります。

THE ORAL CIGARETTES唇対バンTOUR 2016 〜キラーチューン祭り巡業行脚の巻〜
2016/11/01(火) LIVE rise SHUNAN
2016/11/03(木・祝) 倉敷 REDBOX

SPACE SHOWER NEW FORCE vol.2
2016/11/11(金) 渋谷WWW X

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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