バンドの可能性を広げた2016年を経て、パスピエが生み出した『&DNA』とは。

パスピエ | 2017.01.23

 熱いバンドサウンドとサイバーなシンセサイザーの融合、クラブミュージックの人力による再構築とも言うべきスリル、どこか懐かしさを感じるメロディ、想像力を掻き立てる幻想的な世界……4thフルアルバム『&DNA』は、パスピエの唯一無二の魅力を様々な角度から体感することができる一枚だ。3rdフルアルバム『娑婆ラバ』から今作までの間には、初の日本武道館公演、精力的なシングルのリリース、ホールツアー、メンバーの素顔を示しての活動など、新鮮な出来事と変化がいくつもあった。このような日々を経て完成された『&DNA』の背景にあるものとは? 成田ハネダ(keyboard)と大胡田なつき(Vocal)に語ってもらった。

EMTG:前作の『娑婆ラバ』から『&DNA』の間には、いろんな変化がありましたよね。
成田ハネダ:そうですね。『娑婆ラバ』で今までやってきたことを完結させたというのもありましたし、2016年は新しい試みを見せたいなというのを思っていたんです。音楽面に関してもそうですし、僕らのビジュアルを解禁したのも、新しい試みのひとつだったんですよね。そういう1年だったので、今回のアルバムが散らかった印象のものにならなきゃいいなと思っていたんですけど、むしろグラデーション感があることで、聴きやすいものになったのかなと感じています。
EMTG:この1年くらいの間でサウンド面に関して意識的に追求したことは、どんなことでした?
成田:トラックとバンドの融合ということですかね。僕らは同期とかは使わないバンドなので、それをいかに人力で表現するかという挑戦は、この1年くらいの間にすごくしていました。正確に言うと2015年くらいからちょっとずつ挑戦していたことなんですけど、今回は現在のパスピエができるものとして、良い形でまとまったと思います。
EMTG:大胡田さんは、今回のアルバムの制作にあたって何か考えていたことは?
大胡田なつき:作る前は特になかったですけど、「ヨアケマエ」を作った時点で“2016年も、今までとはまた違った形のパスピエになっていきそうだなあ”というのを感じてました。「ヨアケマエ」って、何が今までと違ったんですかね……?
成田:まず、シングルとして出す曲で、このテンポ感は今までになかったと思う。あと、「ヨアケマエ」はサビのメロディに音を詰め込んでいるので、聴こえ方も今までとは違った感じだったのかもしれないね。
大胡田:なるほど。
EMTG:これは個人的な印象ですけど、今回のアルバムは80年代のポップス感とか、ニューウェイブ的なテイストも色濃いのかなと感じたんです。どう思います?
成田:メロディラインというよりも、サビの大胡田の歌い方によるものもあるのかもしれないです。「DISTANCE」とか「ハイパーリアリスト」とか「永すぎた春」もそうですけど、サビで白玉とか、伸ばす音を使っているんですよ。それがあって、おっしゃるような印象に繋がっているのかもしれないですね。
EMTG:歌詞で描いている内容からも、懐かしいポップス的なものを感じました。例えば「やまない声」は、ウェットな感情を生々しく描いていますし。
大胡田:こういうのはサウンドに引っ張られて出てきたというのもあるでしょうし、“暗めな内容は、最終的に明るくしなきゃ”とか、あまり考えなくなったというのもあります。俯いた姿も、そのまま描写できるようになりました。
成田:僕らの世代って歌謡曲とリンクしやすい最後の世代かもしれないですね。
EMTG:80年代の歌謡曲ってサウンド面にニューウェイブの影響が少なからずあったじゃないですか。例えば「ああ、無情」は、そういう部分が出ている曲だと思います。
成田:僕らのバンド編成でやれることの中でいちばん親和性が高いのがニューウェイブだと僕は思っているんです。そしてニューウェイブって間口が広くて、どこともリンクできるんですよね。ウチのメンバーのルーツは各々違いますけど、そういうのをまとめてくれるのがニューウェイブなのかもしれないです。あと、今回、エンジニアさんとのやり取りとかも通して、“新しいパスピエの在り方”みたいなのをいろいろ見つけられました。
EMTG:その、“新しいパスピエの在り方”って例えば?
成田:今までの僕らは素顔を出していなかったですし、“実体がない”という匿名性を強みしていた部分もあると思うんです。バンドなんだけどキーボードやコーラスをたくさん入れたり、実験的なことをやりやすいところがあったんですよね。でも、2016年に入って顔を見せるようになり、“改めてバンドサウンドを見せていこう”ってなったんですよ。メンバーの心持ちが変わったなかで素直に自分たちなりのやり方で表現できたのが、今回のアルバムなんだと思います。
EMTG:顔を出すようになったというのは、創作面にも少なからず影響を及ぼしたんですね。
大胡田:歌詞の面でもそれはあります。“人間になったからこういうことも書いちゃおうかな”っていう(笑)。「ああ、無情」とか「やまない声」が、今までになかった感じなのは、そういうことも影響したんだと思います。“大胡田ってこういう人なんだ”って思ってもらえるので、書けるようになった歌詞です。
EMTG:「おいしい関係」も、そういう曲じゃないですか?
大胡田:そうだと思います。
EMTG:「おいしい関係」は、“料理番組のテーマソングみたいだな”っていうほのぼのしたものを感じたんですよ。
成田:こういう具体的なシチュエーションとかに喩えて描くことは、あまりなかったのかもしれないですね。“漠然とした大きな世界”とか“内面”とかを描いたものは、なんとなくわかるっていう曲になりますけど、「おいしい関係」みたいな曲は具体的なものがいろいろ出てくるので、面白い感じになったと思っています。
EMTG:でも、具体的に示し過ぎない作風も、引き続き発揮されていますよね。「スーパーカー」や「夜の子供」とか、ちょっと怖いおとぎ話みたいな幻想性に浸れる曲は、パスピエだからこそ味わえる異世界だなと思いました。
大胡田:何も考えずに雰囲気で自分の世界を描ける歌詞も欲しくなるんですよね。
成田:得体が知れないというのは、大胡田の専売特許ですから(笑)。そういう大胡田から生まれる“違和感”みたいな面白さがありつつ、聴き手を引き込めるフックみたいなのも必要だと思っていて。小説とかは読み返したりできますけど、音楽って時間芸術ですから、どんどん過ぎ去っていくんですよ。だから、“いかに耳を傾けたくなるような言葉を入れるか?”も大事なんだと思います。
EMTG:あと、今回もシンセサイザーの音が良いですね。毎回のことですけど、ヴィンテージシンセもいろいろ使っているんですよね?
成田:はい。ソフトシンセは、ほぼ使わないんです。このアルバムでキーボードは十数台使っています。例えば「ハイパーリアリスト」も、アナログシンセを使っていますから。
EMTG:古き良きものを取り入れつつ、21世紀の最先端の音を表現するパスピエ節って、こういう曲からまさに感じます。
成田:ありがとうございます。僕がキーボードで出したい音は80’sですけど、大胡田の声質は全然80’sじゃないですからね。狙っているわけでもないんですけど、そこから生まれる面白さもあるんだと思います。
大胡田:“私の声は、パスピエの中で使いやすい”というのも感じています。このメンバーの音に乗ってちょうどいいのかなっていうバランスですね。
成田:ギターが2本いるバンドじゃないというのも、独特なバランスに繋がっているんだと思います。ギターがリードやメロを弾いているとき、キーボードはバッキングを弾くというのも、パスピエの面白さかもしれないです。3ピースのロックの良さもありますけど、“3ピースじゃできないことをやってやろう”っていうのはあります。
EMTG:「マイ・フィクション」や「DISTANCE」とか、かなり独特な味付けですけど、ちゃんと肉体的なロックバンドのサウンドになっているのが面白いですね。
成田:実験的なことをするほど“バンド”っていうよりも“グループ”とか“ユニット”っていうくくりのものになっていくと思っていて。でも、僕らの場合は“バンド”っていうバッグボーンを大事にしている部分があるんですよね。だから「マイ・フィクション」や「DISTANCE」みたいなサウンドをやりつつも、完全に打ち込みの曲は、今後も出てこないのかもしれないです。
EMTG:“デジタルっぽさがあるけど人力”っていう作風に代表されるような“時空を超えた多彩なカルチャーのリンク”みたいな味付け加減は、やっぱりパスピエの音楽性の魅力のひとつですよ。
成田:以前もお話ししたことがあると思うんですけど、僕はバブル期とか80年代の文化に憧れがあるんです。“あの時代に実際に生活したらどんな気分なんだろうな?”っていう。それはパスピエのサウンドに繋がっているのかもしれないですね。
大胡田:私は着物で普通に生活している世界に憧れがありますから。着物をよく着ていたことがあるんですけど、今の世界で生活する上ですごく不便で(笑)。昔のものに対する憧れは、たしかにパスピエに反映されていることなのかもしれないです。
成田:でも、過去のカルチャーに対する憧れは、これから向き合わなきゃいけない壁でもあるんだと思います。カルチャーには過去のリバイバルがあったりしますけど、1周しないと見えてこない世界があると思っていて。そういう中で新しいものを更新し続ける難しさって、あるんですよ。80’sと現代の組み合わせとか、いろんな発見を提示する中で、ちゃんと更新したものを表現することが大事なんだと思います。
EMTG:パスピエってすごく革新性があるバンドですけど、そういう皆さんが武道館でワンマンライブをしたり、今みたいな支持を受けるようになったことに関しては、改めてどんなことを感じます?
成田:こういうのを目指してやってきたのは事実ですけど、それは“半分本気、半分夢”みたいな感じだったんです。だから“ほんとにできたんだな”っていう(笑)。半分夢見心地の経験から吸収して、またさらにやっていきたいですね。まだやっていないこと、やれることってたくさんあると思っていますから。
大胡田:ジャケットに関しても、まだまだ面白いことができるでしょうからね。今回は図形とかと組み合わせたんですけど、“絵と何かを組み合わせる”みたいなことは、今後、さらにやってみたいなと思っています。顔を出してMVも撮れるようになりましたし、自分の絵のほうも進化させていきたいです。
EMTG:そういえば今回、『&DNA』というタイトルが久しぶりに回文じゃないですか(2011年にリリースした1stアルバム『わたし開花したわ』以降、『ONOMIMONO』『演出家出演』……と、回文のタイトルが続いていた)。これに関しては、何か理由があったんですか?
大胡田:『わたし開花したわ』から5年経ったというのもあったので、久しぶりに回文にしてみました、という感じです。DNA自体に回文構造があるらしいんですよ。だから『&DNA』というタイトルは、良かったなと思っています。でも、DNAの回文構造についてさっき調べたけど、よくわからなかったです(笑)。

【取材・文:田中 大】

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リリース情報

&DNA[初回限定盤]

&DNA[初回限定盤]

2017年01月25日

ワーナーミュージック・ジャパン

disc.1 [CD]
1. 永すぎた春
2. やまない声
3. DISTANCE
4. ハイパーリアリスト
5. ああ、無情
6. メーデー
7. マイ・フィクション
8. スーパーカー
9. 夜の子供
10. おいしい関係
11. ラストダンス
12. ヨアケマエ

disc.2 [DVD] MUSIC CLIPS *初回限定盤のみ
1. 電波ジャック
2. トロイメライ
3. プラスティックガール
4. デモクラシークレット
5. 脳内戦争
6. フィーバー
7. 最終電車 featuring 泉まくら(FragmentのREMIX)
8. S.S
9. とおりゃんせ
10. MATATABISTEP
11. トーキョーシティ・アンダーグラウンド
12. 七色の少年
13. 贅沢ないいわけ (lyric video)
14. トキノワ
15. 裏の裏
16. つくり囃子
17. ヨアケマエ
18. 永すぎた春
19. ハイパーリアリスト
20. メーデー

お知らせ

■マイ検索ワード

成田ハネダ
M-1グランプリ
お笑いが好きなんですけど、M-1グランプリが名古屋でのライブと同じ日だったんですよ。結果が気になって調べちゃいました。

大胡田なつき
パリンドローム
“回文構造”っていう意味で、主にDNAの回文構造を指す言葉として使われているらしいです。いろいろ調べたんですけど、DNAは専門外すぎて説明を読んですぐわかるほど簡単じゃないですね(笑)。説明している文章を読んでも「ふーん……」という感じでした(笑)。


■ライブ情報

パスピエ TOUR 2017 “DANDANANDDNA”
2017/03/03(金) 川崎 CLUB CITTA’
2017/03/05(日) 埼玉 HEAVEN’S ROCK さいたま新都心 VJ-3
2017/03/11(土) 高松 DIME
2017/03/12(日) 滋賀 U☆STONE
2017/03/17(金) 仙台 Rensa
2017/03/20(月・祝) 柏 PALOOZA
2017/03/24(金) 札幌 PENNY LANE 24
2017/03/26(日) 高崎 club FLEEZ
2017/03/31(金) 名古屋 DIAMOND HALL
2017/04/01(土) 大阪 なんば Hatch
2017/04/06(木) 金沢 AZ
2017/04/07(金) 新潟 LOTS
2017/04/12(水) 神戸 VARIT.
2017/04/13(木) 広島 SECOND CRUCH
2017/04/15(土) 福岡 DRUM LOGOS
2017/04/16(日) 長崎 DRUM Be-7
2017/05/07(日) 東京 NHKホール

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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