ドレスコーズの最新コンセプトアルバム『平凡』インタビュー

ドレスコーズ | 2017.02.28

 その人は言う。「答えがやっと見つかった」と。けれどもその人はこうも言う。「まったく全貌が見えていない」と。
ドレスコーズ5枚目のアルバムが発表される。コンセプトアルバムとなった本作のタイトルは『平凡』。ロックンロール・フォーマットを遠ざけ、気鋭のファンク・ミュージックをまとった新機軸ともいえるその作品は、「衝撃作」とも「問題作」とも受け取られることになるだろう。
ただひとつ明確にわかることは、「賽は投げられた」ということだ。

EMTG:今回はコンセプトアルバムということで、これまでとは違った達成感があると思うのですが。
志磨:音楽にはフィジカル的な魅力と、メンタル的な魅力のふたつがあって、今回、フィジカル面、構造的な強さに関しては、もの凄く達成感があるんですよ。達成感というか、すごいなと。音楽ファンとして手放しで「これはすごい演奏が録音できたぞ、いい曲が書けたぞ」っていうことには非常に達成感がある。基本的に音楽の魅力って構造やと思うんですよ。7割楽曲の構造で、残り2~3割がメッセージやったり、曲のもってる、思想とまではいわないけど、そういうのもが上乗せされてる。今回のアルバムが特殊なのは、それが綺麗に半分半分ぐらいなんじゃないかということなんです。で、いわゆるそういう思想的な部分、このアルバムのもってる情報量みたいなものが、あまりにも膨大すぎて、こっちは未達成感みたいなのがもの凄くて。何なのかが未だに自分でもわかってないんですよ。ここまで自分の手の及ばないアルバムを初めて作ったなっていう印象ですね。もはや音楽かどうかもわからないです。ただ、うまくいくと思ってなかった、それくらい無謀な挑戦だとも思ってたんですけど、1年くらいかけて定めたところに着地してる。作りたかったものが出来たって感じですね。
EMTG:メロディを作ってから歌詞を書いたのですか。「自動筆記のように」、って仰ってましたが。
志磨:メロディ書いてからですね。ただ歌詞の大元になるイメージっていうかコンセプトはずっと前からあったので、それを噛み砕いて、分解して、メロディにはめていく作業だったんですけど。歌詞はいくらでもでてきますね。
EMTG:意識的にこういう歌詞を書こうとしたというよりは、何かに憑かれたみたいな感じだったのですか。
志磨:自分の話じゃないってところが大きいんでしょうね。自分の内側から絞り出す、というよりは状況をただ羅列していくというような。だからいくらでも書けるんですよ。たとえば「棚があります、テレビがあります、椅子があります」って、見て言うだけなので、詩作ではないですよね。「まるでなんとかのようなテレビが」とかじゃなくてね。それだけだから何の苦労もいらないですよ。
EMTG:潜在的な意識の中にあって、ということではない。
志磨:いや、潜在的じゃないですね。僕の元々秘めたるっていうものじゃなくて、ずっと自分の中にあった疑問とか違和感とか、そういうものが、ずーっと溜まってたんですよ。実は小出しにしてたのかもしれないですけど。だから、ちょっとずつ漏れてはいたんですけど、それがようやくひとつの形になった、でもやるならこれくらいのコンセプトは必要だなと思って。相当の反動があるっていうのが自分にもわかってたので。だから、しっかり栓を抜かないとムチャクチャになってしまうなと思ったんですよね。腰を据えて「よし、出でよ」って感じでスポッと栓を抜いて出した、って感じでしょうか。パイプユニッシュ的な、「今日休みやし、パイプユニッシュしよう」って感じというか。それには結構時間かかるなっていう。
EMTG:変化を求めるとか、変わっていきたいから、という気持ちで作ったのではない。
志磨:じゃないと思います。もう「変わらざるを得ん」ってところまで放ったらかしましたね。
EMTG:この構想は「Hippies E.P.」の頃からあったのではないですか。
志磨:そうなんですよ、それがたぶん小出しってやつなんですよ。
EMTG:『オーディション』にも。
志磨:そうです、そうです。『1』は完全にアクシデントだったんですけど、「Hippies E.P.」、『オーディション』の時に漏れてはいましたね。でもそれが自分でもまだハッキリとはわかってなかったんですよ、どういう答えを求めてるのかっていうことが。その答えがやっと見つかったって感じなんです。
EMTG:『平凡』っていうコンセプトが最初にあったのですか。
志磨:そうです、もの凄くプレーンなものを作ろうとして『平凡』。今回、まったく奇を衒ってないんですよ。むしろ奇を衒ってるのはロックのほうじゃないですかね。とにかく僕らはいつも片手落ちだったってことなんですよ。何かを歌っているようで、もの凄く大事なことを歌っていなかったり、何かに熱中、熱狂してるようで、もの凄く刹那的だったり。それはそれでいいことですけどね。楽しいし、僕も大好きだし。
EMTG:はい。
志磨:だから今回やっと指向性が全方位に向いてるものができたというか。今までは単一指向っていうんですかね、もう一点にしか耳を向けていなかったし、そこからのメッセージしか受け取ろうとしなかったし、そこに向かってしか発せなかったし。アルバムに入っている「ストレンジャー」という曲の歌詞、「関わり合いのないところでだけ有名なぼくが」っていうのがそれに近いかもしれない。そういう意味で、360度の指向性をもったものが作れたんですよ!苦節20年、作曲を始めてから、ようやく辿り着きましてね。
EMTG:志磨さんといえば、ロックンローラーのイメージでしょう。
志磨:そうでしょう。ロックンロールって非常に便利なんですよ、言葉としてね。ロックンロールしてる状態ってね、どうとでもとれるので。「そんなことを言うなんてやっぱりロックンロールだぜ」って思う人もいるだろうし、単純に「ロックンロールっていう音楽ではないよね」っていうのも正しいですし。音楽的には違いますからね。
EMTG:ファンク・ミュージックを主体にしたのはどういう理由だったんですか。
志磨:それにもいくつか理由はありますけれども、最初は単純に、音楽的な興味がそっちに向かったんですね。リズムだったり、ビ―トっていうものに執着したほうがええなっていう危機感がありまして。1回1回吟味するみたいなビート、そのリズムを自分で掴みたい!って感じだったんですよ。リズムに対してのすごい探究心みたいなものが前からあったんですけど、放ったらかしにしてた。でもそれは一気にやらないとね。掃除です、掃除。大掃除。チョコチョコはできないですね。「アルバムのうちのこの曲だけ」とか、「1曲だけそういうのやってみた」とか、「ライヴのワンコーナーで」とかでは辿り着けないので。
EMTG:今回はドレスコーズではなく、ある架空のバンドが演奏している体なんだそうですね。
志磨:そう、さほど遠くない近未来みたいなところで演奏している人って感じですかね。職業歌手。僕に極めて似ている境遇の人っていうんですか。
EMTG:なぜそうしなければならなかったんでしょう。
志磨:それは僕から発するメッセージだとなると、要らぬ誤解を生むなと思ったんですよね。ひとつの設定として、これは現代でもないし、僕でもない。そう、つまりこれは「メッセージではない」っていうことが大事なんですよ。何かを訴えたいものではない、という。ただの状況を描写しただけや、という。その名の通り、自分のエゴを一切アルバムに入れたくなかったんですよ。個人的見解ってことにしたくなかったという感じ。
EMTG:社会的な視野に立っているのにも間違いないけれど。
志磨:そうなりますよね。だから俯瞰という感じ。自然とそうなりますね、やっぱり。だからメッセージではない。「の、ようなもの」ですよ。僕は一切、現状を悲観もしてないし、べつにそこに危機感を抱いてないし。抱いてるのは自分の創作。リズムとかね、ビートとか、そういうものにだけであって、自分がただ流れていくことに危機感はあるけれど別に世を憂いてもないし。だからこれを聴いて「みんな、目を覚ませ」みたいなことは1ミリも思わないですよ。
EMTG:主人公は達観もしてるけど、嘆いてもいるし悲しんでもいるし、時々顔を覗かせて、強烈なメッセージを放ったりもする。
志磨:けれどもそれは僕じゃない。
EMTG:「普通の人」にはなれたのでしょうか。
志磨:どうでしょうか。どうでしょうかねえ。
EMTG:このアルバムでも「普通を推奨してる」ことになっていますが。
志磨:なんでしょうねえ、ホントになんですかねえって思ってるんですよ、僕も。なんなんでしょうか?このアルバムは。でも、やっとここまでっていう感じですね。「Hippies E.P.」からやったらもう4年ぐらい考えてきたことなわけです。それはドレスコーズ始めた時からともいえるし。自分がリーダーであるっていう感じとか、自己表現…最初に言ったふたつのうちのメンタル的なものっていうんですかね、そういうものは音楽には絶対いらないって僕は思ってしまうんですよ。ほかの人のを聴く分にはまったくいいんですよ?まったく僕、ほかの人の言動とかほかの人の作る作品とかには、何も意見はないんですよ。ただ自分が作るものに関しては、そういう自分のエゴみたいなものをなんとか消したいなあとずっと思ってて。そう、それがやっと僕の形でできたなっていう。答えをひとつ見つけたんですよ。もの凄くハッキリとした意志をもってるんですけど、まったく全貌が見えないという。まだその一端しか見えてないアルバムですね。
EMTG:状況を並べただけと仰いましたが、アルバムの中の平凡くんは何か言わんとしてるわけですよね。
志磨:そうですね。でも、主人公の彼はタイムリ―プしてくるわけではない。デビッド・ボウイ的なというか。だから、何か我々に訴えてるわけでもないんですよ。トランプさんがどうやからっていう、そういうこともまったくない(笑)。「このアルバムが描いた通りになってしまってはまずいんだ」みたいな、そういうのがなくて。僕らも嘆くじゃないですか、普通に。「腰痛えなあ」とか「お給料、もうちょっと上がればなあ」とか「今の家は狭いなあ」とかなんでもいいんですけど、そういう感じで、やっぱり未来の人も嘆いてはいるんじゃないかという(笑)。
EMTG:コンセプトアルバムを発表する、なぜこのタイミングだったんでしょう。
志磨:なぜでしょうね。それもまたプレーンというかフラットなことなんですけど、今がそういう時代だからですよ。だからやっぱり、それをすくって作品にしますよね。どう考えてもそうです。僕がいちばん面白いなということを歌った、という意味での主観はいつもと同じ、かなあ。「平凡になりたくてなりたくてしょうがない」っていう。ファンクというのもすごくプレーンに見えますよね。ワン・コード、ワン・ビートで反復するっていう。だから全部の調和がすごくとれたんですよね。
EMTG:なるほど。
志磨:まあ、最初に懸念したのは「僕はなぜそんな社会的なことに今、興味がいってんだろう」ということ(笑)。こんな自己中心的な男がね、なんでそんな謎の視点からモノを語り出してるんだろうと思って。それがオモロイなあと思って。僕は物を集めたりするのが好きですが、そんなことみんなあんまりせえへんやろうなあと思ってたんですよね。そしたら「この先どうなっていくんかしらねえ」と思って。憂うでもなくね、危機やとも別に思わず。でも「何でもみんなでシェアしつつ、物を減らすという方にしか行かんわなあ」と思って。ここからなんかもの凄く新しいものが生まれて、みんながそっちに流れるというよりは、今まであったものを吟味していくっていうような?増やしつつね、増えた分は減らすような?断捨離っぽいイメージなんですけど。で、そういうのを「ふーん」と思って考えていくと、なんでしょうね、どうしても“全体主義”みたいなことになってきて。その、早い話、「僕はヒトラーと同じこと言うてへんかな」と思ったんですよ(笑)。恐ろしいなと思って。で、ヒトラーの本とか読んだりして。
EMTG:はい。
志磨:で、全体主義っていうのがまず非常にファンクに合ってるんですよ。ジェームス・ブラウンみたいに。あれはブレてはいけないから、みんながピシッと統制がとれてる。そういうのって、すごくファッショというか「ファシズムやなあ、ファンクって」と思って。そうこうしているうちに、最近考えてたものが頭の中でどんどん結合していって。これはとんでもないことだと。僕は今、とにかくもの凄い壮大なひとつのイメージの上にいるんじゃないかと。で、足元に「お、ファンクや」とかね、いろんなものが転がってた。自分が最近興味を持つものっていうんでしょうか。近代絵画や哲学とか、僕はそういう別々なものをひとつずつ見つけては拾っていってるつもりだったんですよ。これも面白い、これも面白いって言いながら。でもフッと去年、「これはもしかしたら、めちゃめちゃデカイ、一個の大陸の上に僕は立ってんじゃないか」みたいな気になってきたというんでしょうか。「これもしかしたら全部一個なんじゃん」と思って。バラバラじゃなくてね。「何かまったくひとつのイメージの上に僕は立ってる」と。でも果てが見えないんですよ、地平線という感じ。ただ、ロックンロールっていうところから遠いとこまで来たっていうのはわかってるんですよ、歩いてきたから。それはもう遥か向こう、そこからずーっと歩いてきましたから、面白いものがある方にね。そう、それでゾッとした。
EMTG:ゾッとした。
志磨:そう、たとえば化石とか発掘してて、なんかボコッと出てきたのがあって「お?太股あたりの骨かな」みたいな。そうしたら「あれ?もう一個出てきたよ」「もう一個出てきたよ」「これ、もしかして指なん?」「これは手なん?」ってなったら、めっちゃ怖いじゃないですか。「ひょっとしたらめっちゃデカイぞ、この生き物は!」みたいな感じ。ゾッとした。それが1年前くらい。で、それを組み上げたんですよ。それがこれ(アルバム)なんですよ。巨大すぎてビビってますね、自分で。やっぱりデカかったんや、という感じ。
EMTG:聴く人にとっても、聞きこんでいくうちに意味がわかってくるだろうし、意味が変わってくるだろうし、ちょっと理解に時間がかかりますよね。
志磨:でしょう!絶対そうでしょう!作るのに1年かかったってことは、聴くのにはもっと時間がかかると思いますよ、たぶん。
EMTG:「カッコいいアルバムですねー」っていうのは間違いないんですよ。
志磨:そう!それはね、僕が求めてる評価でもあるんですよ、もちろん。「めっちゃカッコよかった!」みたいな。「ですよね!」って思うし。レコーディングの時、思ってたし。「カーッコいい!演奏!」って。とにかくレコーディングはすごかったっていうのは声を大にして言いたい。
EMTG:アルバムが出てしばらくしてからの状況を見てみたいですね。
志磨:そう。ホントにそう思いますねえ。僕が何に警鐘を鳴らすでもなく、「なんとなくこうなっていくんじゃないかなあ」って思ってることなので2~3年後とかに「あら、あら、あら」ってなったら面白いですよね。「あら?これ『平凡』?もしかしたら今、聴くべきなんちゃうん?」みたいな(笑)。そうなったら嬉しいけれど、それくらい投げっぱなしですね、僕はもう。でも、アルバム買って1週間くらいワーッと聴いて、「わ、また次、誰それの新しいアルバム出るやん。やばー、聴かな」みたいな、そういう楽しみってあるじゃないですか。ポップ・カルチャーの。その中の1枚にもなりたいけれど、やっぱり僕は欲ばりなので、5年とか10年経って、僕が発見したみたいに、みんながゾッとなればいいなと思って出しますよ、このCDを僕は。
EMTG:なるほど。
志磨:近い未来…でも、もしかしたら今の話かもしれないレベル。そんなにおかしい話をしてないと思うんですよ。みんな薄々は思ってると思う、こういう時代になってるってことは。そういうのばっかり専門で考えている人たち、学者さんたちはもう5年10年前から言っているようなことを、僕は今さらそういうことを思うようになって。でも、やっぱり今だったなあとも思うし。それはデビッド・ボウイとか、プリンスもそうだし、そういう人たちが続いて亡くなったりとか、今の世相というのもあるし。
EMTG:こちらの立場からすると反省点も多いですね。
志磨:いやいやいや、ポップ・カルチャーというのはそういうもんですから。だからそれを「どうこうせえ」とも思わない、僕は。僕らがそういうのを望んだんですよ。毎日、すごいいい音楽が毎日発売されたら、それが無料で買えたら、最高じゃないですか。でもそんなことは無理でしたよね、今まで。でもそれがいつの間にか、ほぼ近い状況になってますから。今までアーカイブされてるものが、月ちょっと払えば毎日聴けるっていう。そういう夢のような状況を僕らはたぶん望んでたはずですよね。ただ、中古屋のワゴンで売られているようなアルバムの浮かばれなかった怨念を、僕は一心に背負ってこのアルバムにブチ込んだつもりですよ。
EMTG:…考えさせられますね。
志磨:そう、考えることがいっぱいあり過ぎて。だから「どうぞご勝手に」というか「ご自由にお使いください」という感じはありますね。僕が何かを訴えたいのではない。「だからもっと、みんなこうしようよ」ってのはないんですよ。「これ、どうなるんだろうか?」という感じ。「その果てには」っていうね。(甲本)ヒロトさんが言う「飽食の果て」ってやつですよね。すべてに飽きたその後に。でもね、ホントにフラットなものを作ったと思ってるんです。フラット過ぎて何も言うことがない。ただ、この作品を聴いて、どういう風にみんなが思うのか、というのを僕は聞きたいですね。

【取材・文:篠原美江】

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リリース情報

平凡 [通常盤Type B【CD+DVD】]

平凡 [通常盤Type B【CD+DVD】]

2017年03月01日

キングレコード

1.common式
2.平凡アンチ
3.マイノリティーの神様
4.人民ダンス
5.towaie
6.ストレンジャー
7.エゴサーチ&デストロイ
8.規律/訓練
9.静物
10.20世紀(さよならフリーダム)
11.アートvsデザイン
12.人間ビデオ

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■ライブ情報

the dresscodes 2017 “meme” TOUR
2017/03/17(金) 新潟GOLDEN PIGS RED STAGE
2017/03/18(土) 宮城SENDAI CLUB JUNK BOX
2017/03/20(月祝) 札幌PENNY LANE24
2017/03/25(土) 広島Cave Be
2017/03/26(日) 福岡BEAT STATION
2017/04/01(土) 愛知 名古屋CLUB QUATTRO
2017/04/02(日) 大阪BIG CAT
2017/04/09(日) 新木場studio COAST

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