THE BACK HORN、宇多田ヒカルとの共同プロデュースで誕生した「あなたが待ってる」。

THE BACK HORN | 2017.03.06

 宇多田ヒカルが共同プロデュース、コーラスで参加したTHE BACK HORNの新曲「あなたが待ってる」はリリース前から大きな話題になっているが、単なる話題作にとどまらない名曲だ。アーティストとしてお互いを理解し、持てる力を発揮し気持ちをひとつにして完成させたこの曲は、強さと優しさに溢れている。この共同プロデュースはどのように始まり、実りに至ったのか。ボーカルの山田将司とギターの菅波栄純に話してもらった。

EMTG:山田さんは10年前に宇多田さんの4作目『ULTRA BLUE』収録の「One Night Magic feat. Yamada Masashi」に参加していますよね。
山田将司:宇多田さんがTHE BACK HORNを知ってくれて、ライブにも足を運んでくれて。それで誘ってもらったんですよ。ほかの人の作品に参加するのは初めてだったので、すごい緊張してて、あまり覚えてないんですけど(笑)。
菅波栄純:当時、俺たちは『太陽の中の生活』のレコーディング中で、スタジオでその話を聞いて「すげえ!」って盛り上がった。俺はそれまで、普通に宇多田さんの作品を聴いてるだけだったけど、その話があってからアーティストとして掘り下げて聴き込みました。歌詞の深い表現とか、本当にすごくて。ここまでのことをポップシーンでやってる人がいるんだ、と自分もケツ叩かれた気がしたし、もっとバリバリやってかないといけない、新しい表現を追求しなきゃって思わされました。
山田:当時はTHE BACK HORNと宇多田さんで一緒に飲みに行ったりしたこともあるけど、その後はそういう機会もなくて。だから今回10年ぶりに会った感じですね。
EMTG:菅波さんが、曲を作っていたら宇多田さんのコーラスが聴こえたそうですね。宇多田さんはNHK連続テレビ小説「とと姉ちゃん」の主題歌「花束を君に」、アルバム『Fantôme』の大ヒットで非常に注目されていますが。
菅波:曲を作っていたのはその朝ドラが始まった頃かな。“運命開歌”のツアーをやってた時期で、メロディを書いてたら、サビのところで宇多田さんと将司の声が重なって聴こえてきちゃって。そう思ったら聴きたくてしょうがないのがミュージシャンの性で(笑)。バンドにデモとして持っていったときに、宇多田さんの声が聴こえてしまっている、だからこの曲は宇多田さんの参加がなかったらお蔵入りでもいいからって、わけわかんない感じで提案して(笑)。
山田:何言ってんの、無理でしょって(笑)。でも聴こえたって言われたら、まあわかるというか……。実現したらすごいし俺も聴きたいし、とりあえずオファーだけしてみようって。
菅波:それでスタッフに連絡取ってもらって、将司の仮歌を入れて歌詞も半分ぐらいあるデモテイクを送ったら、向こうから「やる」って返ってきて。しかも、「やるんだったらがっつりやろう」って言ってくれて。鍵盤とかストリングスを入れるイメージはあったから、このアレンジしてもらえるかなというところと、歌詞も完成してなかったから一緒に考えてもらえるとありがたいっていうのを提案して。そしたら宇多田さんもアルバムのリリースがあって忙しいのに、ストリングスと鍵盤のアレンジしてくれたデモを送って来てくれて“すげえ!”と思いました。歌詞も、この曲のテーマとかまったく説明してなかったんですけど、かなり汲み取ってくれててこの完成型に近い形で送られてきて、そのへんの感受性がすごいなと思いました。それを元に、スタジオでレコーディングに入って詰めていって。
EMTG:歌詞はどんなふうに共作したんですか?
菅波:テーマを共有して深いところで合わせたところもあるし、“ただの男女の話にしたら男の行動をどう思う?”とか“女だったらどう思う?”みたいにお互いの立場から話しして、そこはリアリティないから変えようとか調整したり。宇多田さんの作品って一人称が女性目線だけじゃないじゃないですか。“男の人はこうよね”みたいなのが当たっててびっくりした(笑)。
EMTG:THE BACK HORNに女性的な要素が入るのは新鮮なのでは?
菅波:楽しかった。これも可能性あるなと思いましたね。男女で共作ってあまり見かけたことないなと思って。でも男女でやるといいことばっかりだなと思った。男女ということをおいても、宇多田さんは作家として人間として、すごいということに興奮しましたよ。すごい人と共作してるんだなって。
EMTG:実際にスタジオで一緒に作業していてどうでした?
山田:普段とちょっと違いましたね、やっぱり。メンバ-4人では作れない空気になってましたね。ほどほどの緊張感と、全員でいい作品を作るというところに向かう空気感。
EMTG:歌入れは?
山田:せっかくだから歌のディレクションを任せたいんだって言ったら、「え~? 私やったことないよ」って。でも「じゃあ頑張ってやってみる」って言ってくれて。俺が何テイクか歌って、それに対してどう思ったかとか、こうしたほうがいいというのがあったら言ってもらって。力の入れ方だったり、ちょっとした語尾の感じとか、本当にボーカリストじゃないとコメントできないようなことをいっぱい言ってくれて。この曲は俺なら優しく歌ったと思うんだけど、もう少し強く歌ってみようかってアドバイスもらって、この感じになったんです。
EMTG:終盤で、オクターブ下げて歌うところがありますよね。こんな歌い方は初めてじゃないかなと思ったのですが、これも宇多田さんのアイデア?
山田:それは最初から栄純が。ここまで低いのは初めてかもしれない。
菅波:将司の声として、聴いてみたかった部分。話しかけるのと歌うのと中間ぐらいの歌唱って、どうやったら出来るのかなと思って。普段って近い距離じゃないと低い声で喋らないじゃないですか。そういう、関係の親密さというか。それで思いついてやってみたらすさまじく低くて(笑)。でも印象的な場面になりましたね。
EMTG:肝心の宇多田さんとのコーラスはどうでしたか。
山田:栄純が、「ヒカルちゃんが歌ってくれなかったらやんなくてもいい」って言ってたのが、ついにその歌が乗ったときの、「うわ、やべえ! 実現したんじゃね?」みたいなあの瞬間の……。
菅波:わかるよ、その感動。実際の音楽が生まれたという感動はもちろん大きいですけど、夢が叶ったみたいなことっていうのは、やっぱりありましたね。
EMTG:夢が叶って曲が完成した今、どう感じていますか。
菅波:これ、聴き飽きないだろうなと思う。宇多田さんが入ったことで、シンプルだけど凝ったアレンジになっているので。宇多田さんプロデュースの意味合いが、音に刻まれてる感じがしますね。
EMTG:カップリングの「始まりの歌」と、いろんな意味で対照的というか、2曲が対になっているような気もしました。
菅波:「あなたが待ってる」は目の前に大切な人がいるのもいいんだけど、待ってると思うだけであったかくなるという感覚が面白いなと思って。思い出すだけで元気をもらうようなことってあるじゃないですか。この世にいない人のことでも、思い出して心があったかくなるってこともある。「始まりの歌」は、何度経験しても別れを乗り越えられない自分がいて、悟りを開いたりなんか全然できないっていうか、ずっと引きずってたり――これも人の気持ちのリアルなものだなと思って、そういう気持ちを書きたくて作りました。生きてるとか生きてないとかじゃなくて、“その人が心の中に存在していること”という意味では、「あなたが待ってる」と「始まりの歌」は繋がってるところがある。「始まりの歌」というタイトルはマツ(ドラムの松田晋二)のアイデアで。すごいナイスアイデアと思いましたね。今は進めない状態でもそれは過程で、その先に何かが待ってるみたいなニュアンスが、タイトルで表現できたと思います。

【取材・文:今井智子】

tag一覧 シングル 男性ボーカル THE BACK HORN 宇多田ヒカル

リリース情報

あなたが待ってる

あなたが待ってる

2017年02月22日

ビクターエンタテインメント

1. あなたが待ってる
2. 始まりの歌

お知らせ

■コメント動画



■ライブ情報

[菅波栄純・岡峰光舟]YOKOHAMA MEETING VOL.31
03/09(木) 横浜 THUMBS UP

ACIDMAN 20th Anniversary 2man tour
03/11(土) いわき市文化センター

Music Art Tokyo
03/12(日) 新木場 STUDIO COAST

HAPPY JACK 2017
03/18(土) ・19(日)
熊本B.9V1・V2・V3 / Django / ぺいあのPLUS’

KYO-MEI対バンライブ
03/21(火) 名古屋ダイアモンドホール
04/12(水) UMEDA CLUB QUATTRO
04/14(金) 高松MONSTER
04/15(土) 松山サロンキティ
04/27(木) 長野club JUNK BOX
04/28(金) 富山MAIRO
05/17(水) HEAVEN’S ROCK さいたま新都心 VJ-3
05/24(水) 川崎CLUB CITTA’
05/31(水) 川崎CLUB CITTA’

[山田将司]Age Factory presents『EGUMI特別編』
04/08(土) 奈良県 生駒RHEB GATE

[山田将司]東京カランコロン『東京再起動ツアー ワンマ ソフェスin大阪 〜外でーないとフィーバー☆〜』
04/22(土) 大阪・服部緑地野外音楽堂

I ROCKS 2017 stand by LACCO TOWER
04/22(土) 23(日)
群馬音楽センター

ARABAKI ROCK FEST.17
04/29(土・祝) 30(日)
みちのく公園北地区 エコキャンプみちのく

rockin’on presents JAPAN JAM 2017
05/04(木・祝) 05(金・祝) 06(土)
千葉市蘇我スポーツ公園(千葉市中央区)

SUGA SHIKAO 20th ANNIVERSARY『スガフェス!~20年に一度のミラクルフェス~』
05/06(土) さいたまスーパーアリーナ

UNISON SQUARE GARDEN「fun time HOLIDAY 6」
05/12(金) なんばHatch

ACIDMAN 20th Anniversary 2man tour
05/14(日) Zepp Sapporo

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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