吉澤嘉代子、満を持して完成させた“絶対的”なアルバム『屋根裏獣』をリリース

吉澤嘉代子 | 2017.03.13

 昨年、サンボマスターやザ・プーチンズ、岡崎体育らとコラボレーションしたミニアルバム『吉澤嘉代子とうつくしい人たち』を携えて行われたツアーファイナル(追加公演)で、「次回作はバーン!!って感じの濃いものにしたいと思ってます」と語っていた吉澤嘉代子。ついに完成したそのアルバム『屋根裏獣』は、少女時代を描いた1stアルバム『箒星図鑑』(2015年)、日常の絶景を見つめた2ndアルバム『東京絶景』(2016年)に続く、初期三部作の集大成的熱量を放つ作品だ。OKAMOTO’Sのハマ・オカモトがアレンジとサウンドプロデュースを手掛け、世武裕子がピアノで参加した「ユートピア」、ラッパーのACEが運転手役で出演するMVも話題の「地獄タクシー」など全10曲。「絶対的なアルバムにしたかった」と語る本作完成までの経緯を聞いた。

EMTG:初期三部作の集大成的アルバム「屋根裏獣」、本当に素晴らしかったです。ご自身でも、かなり手ごたえを感じてるんじゃないですか?
吉澤:そうですね。初期三部作の集大成ってちょっと壮大ですけど(笑)、デビュー前、すでにどんなテーマでどんな曲を入れようかっていうのは考えていたので、それが今回の3枚目である「屋根裏獣」になったってことなんです。最初から、3枚目にはこれまで作ったものの中でも特に好きな曲を入れようと考えてました。好きな曲というのは傾向。つまり、物語性の強い曲のことです。なので今回は、主人公が人魚だったり子供だったり奥さんだったり、ちょっと奇天烈な、自分とはかけ離れた主人公像の舞台設定があるものを意識して選曲しましたね。
EMTG:今自分とはかけ離れたって言われましたが、聴いてる側の脳内では、人魚も、カフェテリアで注文を取りに来るのも、三日月のブランコに揺られてるのも、10曲全部が吉澤嘉代子で映像化されてるんですけどね。つまり、吉澤嘉代子劇場(笑)。
吉澤:本当ですか、すごい。それ、私も見てみたいです。
EMTG:(笑)。
吉澤:でも本当は、6曲入りのミニアルバムとして作りたいなって勝手に思ってたんです。「ユートピア」、「人魚」、「カフェテリア」、「屋根裏」、「ぶらんこ乗り」、それと「一角獣」。完全に、自分が好きな曲だけのアルバムを作るぞって。私は主人公像が明確な曲が好きで、自分が何かに変身出来るっていうのが好きだから。でもそこからフルアルバムにすることになったので、デビュー後にこの3枚目に入れようと思って作ってた曲の中から、こういう要素も入れたいなって思うものを選んだんです。ちょっと事件性があったりするのもいいかな、とか。
EMTG:事件性(笑)!それは今回のリード曲でもある「地獄タクシー」のことですね(笑)!!
吉澤:そうです(笑)。そういえば「地獄タクシー」のミックスとかを確認してた時に、アレンジをしてくれたsugarbeansさんが、「この曲をリード曲にするって、ヤバいね」って言ってて。あぁ、たしかにこういう怖いお話で、MVとかもひょっとしたら放送規制に引っかかるかもしれないみたいな曲をリード曲に出来るなんて、すごい自由にやらせてもらってるなって思いました。
EMTG:しかし地獄の釜の底なんて言葉、若いのによく知ってましたね。
吉澤:何で知ってたんだろう?地獄と言えば釜、ですよね。この曲、キャンペーンで福岡に行った時のことがきっかけなんです。タクシーで空港まで向かったんですけど、その時ちょっとうつらうつらしてたんですね。そしたら運転手さんが、一緒に乗ってたプロモーターさんに「あなたと一番奥まで行って戻って来る覚悟ですけど、いいですか」みたいなことをおっしゃったんですよ。そしたらプロモーターさんが「はい、お願いします」って。私、「え?どういうこと!?何、その会話!」ってなって(笑)。
EMTG:眠気も吹っ飛ぶ会話ですね(笑)。
吉澤:その「一番奥」っていうのを想像した時に、地獄の釜の底が浮かんだんです。覚悟があるかとか、本当は言ってなかったのかもしれないけど、この人と地獄の釜の底まで行ってもいいかもしれないと思ったんですよね。結局その後で、「ANAだと」と「あなたと」を聞き間違えただけだって知るんですけど、もうイメージが浮かんでしまってたんで。じゃあ地獄ってどんな場所なんだろうって考えたりして、もう瞬間に異世界に切り替わるみたいな感じだったんですよね。そのタクシーの中で、自分が何者かになったかのような感覚になったというか。
EMTG:うわ、ゾクゾクする瞬間ですね。じゃあもう、一気に曲が出来たみたいな?
吉澤:前作(『東京絶景』)の中に「movie」っていう曲があるんですけど、あれは地獄とはどんな場所かってことを書いた曲なんですね。作ったのは、そっちが先なんです。でも「地獄タクシー」ってタイトルでも作りたいなと思っていて、ずっと頭の中で考えてたんです。……やっぱり歌詞とメロディーが、自分にとって最高なところで合わさった時に曲を作りたいから。
EMTG:焦らず、タイミングを待ったんですね。
吉澤:出来ないのに、完璧主義なんです。周りには、もっと楽に作りなよって言われるけど。
EMTG:昨年、コラボレーション・ミニアルバム「吉澤嘉代子とうつくしい人たち」でいろんな方と一緒に制作したことはどう影響してますか?
吉澤:すごくいい刺激になりましたけど、今まで気にしてなかったことを気にするようになったりして…。さらにがんじがらめに。
EMTG:あら(笑)。
吉澤:もちろん最初にこういう曲を作りたい!と思った時のワクワク感とか、酔いしれる感じっていうのはずっと変わらないんだけど、特に今回は、自分の中で絶対的なアルバムを作りたいっていう気持ちが強かったから、すごいこれまで以上にがんじがらめになってたんですよね。気負い過ぎてた。
EMTG:絶対的なアルバム?
吉澤:はい。こういう言い方でいいのかわからないけど、第一に自分が好きなことだけやろうと思っていて。今までは「こういう聴かれ方をするから、こういう風に見せよう」とか「こういうの、喜んでもらえるかな」とか思うところもあったんだけど、3枚目はそういうことはやめようと。”自分”が納得いくものを絶対に作るぞって気持ちですね。だから詞曲も全部自分が書いたものだけを選んだし。歌詞も、折り合いを付けるってことをやめようと思ってました。もしこれでクビになっちゃったり、誰かに嫌われたりしても、そういうの気にしないで作ろうって。…まぁ、気にはしたんですけど。
EMTG:なるほど、でもそれくらいの気持ちで。
吉澤:そうやって自分が本当にグッとくるものをやらせてもらえるチャンスが出来たんだから、間違いたくないって思いながらの制作だったんです。こだわりがある分、時間もかかっちゃったりするから、果たしてこれは本当に完成するのか、今の自分の力で出来るのかっていう不安もありました。それに、自分はこの作品を本当に好きだと思えるだろうかって不安も。
EMTG:自分で作っているのに?
吉澤:自分の考えてるものを100点でやっていかないと耐えられない、このためにやってきたんだからっていうのがあったから。結局頭がいっぱいいっぱいになっちゃって、途中で少しお休みをいただくことにもなったんですけど。
EMTG:そうだったんですね。
吉澤:音楽は好みだから人によってはつまんないって言われるかもしれないけど、私にとっては、これ以上自分の好みでは作れないかもって思ってます。ひょっとしたらこの言葉を撤回するくらい好きなものを作れる日がまた来るのかもしれないけど、今は…うん、とても好きなアルバムが作れたと思っています。
EMTG:吉澤さんのお話を聞いていると、こうやりたい、もっと言うとこう生きたいみたいなところまで明確に見えてるんだろうなと思いました。
吉澤:こうやりたいというのがすごくあるというより、こうやらないと壊れるみたいなのがあるんです。恐怖心というか。全然計画性とかなくていつもめちゃくちゃだけど、曲に関しては、こうしたいっていうのがすごく強いから、死ぬまでにその気持ちをどんどん薄めていきたいんですよね。
EMTG:薄めたい??
吉澤:もう「何でもOK!」くらいになって、自分から解放されたい。10年後、20年後、どんな人になってるんだろう?ちゃんとしてたいな。
EMTG:ちゃんとって(笑)。
吉澤:でも子供の頃から考えるとどんどん楽にはなってるから、これからもたぶん楽になっていくんじゃないかとは思ってるんですけどね。
EMTG:子供の頃のことが大きいんですね。
吉澤:はい。確かに。かなり大きく影響してます。曲を作ると、その執着がどんどん形になって保存されて安心する分、現実には解放されていって、荷物がどんどん少なくなっていく。荷物が少なくなると、また新しいものを持って歩ける。だから曲を作ってるのかなと思います。
EMTG:今回もまたひとつ、形になりました。
吉澤:子供の頃に拠り所にしてた物語とかを、今度は――今やってることがそうなんですけど、それを商品にして、それを武器にして、外の世界と戦うっていうことをしてるんです。曲自体は物語だったりしてメッセージ性があるわけじゃないけど、例えば、学校とか家族の中で上手くやっていけてなくても、何かこう、出口はあって。曲の中でも言ってる「何度でも生まれ変われる」っていうのを、子供だった頃の自分にはもう伝えられないけど、似ているような子には、まだ今、届けられるんじゃないかって思っているんです。そう伝えられるんじゃないかって。
EMTG:ツアーも楽しみにしてます。
吉澤:はい、(ツアー)やるぞって決めたし。最後までがんばります。

【取材・文:山田 邦子】

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リリース情報

屋根裏獣

屋根裏獣

2017年03月15日

日本クラウン

1.ユートピア
2.人魚
3.カフェテリア
4.ねえ中学生
5.屋根裏
6.えらばれし子供たちの密話
7.地獄タクシー
8.麻婆
9.ぶらんこ乗り
10.一角獣

お知らせ

■コメント動画



■ライブ情報

獣ツアー2017
04/29(土) 岡山CRAZYMAMA KINGDOM
05/04(木) 仙台darwin
05/07(日) 東京国際フォーラム ホールC
05/13(土) 福岡 BEAT STATION
05/14(日) 大阪 なんばHacth
05/19(金) 名古屋市芸術創造センター

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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