Charisma.com、あらたな扉を開いたニューアルバム『not not me』インタビュー

Charisma.com | 2017.03.21

 昨年11月に公開した模擬記者会見動画で、“OLやめます”宣言をしたCharisma.com。メジャー初フルアルバムとなる『not not me』は、OL、エレクトロ、メガネ……といろんなものを脱ぎ捨て、新境地を開拓した意欲作となった。プロデューサー陣もほとんどが初顔で、しかも個性派揃い。PABLO a.k.a WTF!?、Cibo Matto、ALI-KICK、西寺郷太(NONA REEVES)、ハマ・オカモト(OKAMOTO’S)、社長(SOIL&“PIMP”SESSIONS)といった俊英たちと、ポップなブギーからスウィンギンなベースミュージック、ニューウェイブ風からニュージャックスウィング風、ロックテイストからトロピカルハウステイストまで、実に多彩な音を聴かせる。これは進化どころじゃない。言うなれば新化。新しく化けたCharisma.comの世界は、鋭さを増し、とてつもなくきらめいている。

EMTG:OLという肩書きが外れたからか、新作は歌詞のトピックがより幅広くなりましたね。
MCいつか:確かに会社のことだけじゃなくなりましたね。会社勤めしてなくてもわかる話というか、歌うことが身近な日常生活になったというか。
DJゴンチ:学生の方でも自分に当てはめられるような歌詞があるんじゃないかって思います。
EMTG:もそも“OLやめます”宣言はどんな意向からだったんですか?
いつか:こういうインタビューやメディアに出させていただくときに「現役OLさんなんですよね」って言われることが多くて。でも、私はもう会社を辞めたし、最後には「それについてあんまり言うことないんです」みたいな感じで相手を困らせちゃったりしてたんですよ(笑)。だったら、ここでちゃんと宣言してけじめをつけようと。
ゴンチ:実際、会社を休むことが多くなっていましたしね。
EMTG:歌詞を書くときにOL縛りがそろそろキツくなってきたっていうようなところもあったんですか?
いつか:すごくキツいなってことはなかったんですけど、何をするにもOLが枕詞についちゃう感じが窮屈だったっていうのは、正直あります。
EMTG:音楽性より“OL”が先行しちゃってた。
いつか:そうですね。じゃあ、OLっていう肩書きがなくなったらメディアに取り上げてもらえないんじゃないかとか。そこで勝負したくないっていう思いはありました。
EMTG:今回はどんな気持ちでアルバム制作に臨んだんですか?
いつか:今までと違うサウンド。そこしか目指してないです。
EMTG:実際、劇的と言っていいくらい音が変わりましたね。
いつか:前回の『愛泥C』を作り終えた後に“もう次、このままじゃマズイかも”と思って。手癖が強くなってきている感じがあって、それがCharisma.comらしさなのかもしれないんですけど、そろそろ幅を見せていかないとなって思ったんです。
EMTG:本当に多彩なプロデューサー陣ですが、全体的にどんなサウンドを求めていたんですか?
いつか:全員にお話したのは生楽器を入れたいと。それでちょっとバンドサウンド寄りにしたいって。あと音数を抜きたいっていう話もしました。
EMTG:結果、4つ打ちやエレクトロ系はメチャクチャ減りましたね。広い意味でファンクっぽい感じの音が増えた。
いつか:そうですね。それもちょっと言ったかも。「ファンクっぽいの、好きです」って。
EMTG:ゴンチさんは今回のサウンドにどんな印象を持ちましたか?
ゴンチ:私はちょっと静かな曲が好きなんです。だから「not not me」のトラックは、本当いいなと思いました。あと「Like it」とか「Lunch time funk」とかライブで盛り上がりそうな曲もあるなって。
EMTG:“not not me”というアルバムタイトルにはどんな意味があるんですか?
いつか:今の世の中、「私です」ってなかなか言えないんだなと思うんです。
EMTG:どういうことですか?
いつか:SNSとかを見ていると、ハッシュタグつけて自虐的に言っているんだけど、求めているのは“いや、そんなことないよ”って事じゃないですか。例えば“#すっぴんでごめんね”みたいな。それって自虐しているようだけど、本心では、すっぴんをかわいいって言ってほしいっていうことじゃないですか。しかも“ごめんね”とも思ってないという…。
EMTG:なるほど。
いつか:でも、本当は“ごめんね”じゃないですか(笑)。
EMTG:ややこしい(笑)。
いつか:自分でも少しは気付いているんですよ、すっぴんがかわいくないぞっていうことに。だったら“#ワタシすげえブスだよね”っていうハッシュタグをつければいいのに、なんだその遠回しに否定してほしいみたいな言い方はって。そういうふうに、否定から入っていって“でも、それって要は私です”っていうニュアンスを言葉にしたくて。それで“not not me”にしたんです。
EMTG:二重否定で“私”になる。
いつか:そう。今の世の中は否定から入っていってると思うんですよ。“そんなことないよね?”って投げかけて“そんなことないよ”を待ってる。そういう表現なんです、これは。
EMTG:リード曲「#hashdark」もそういうことを歌ったんですか?
いつか:モロに今言ったことです。“そんな自虐的にハッシュタグつけなくても”っていう。
そういうのを、日頃かっこいいなと思ってた先輩がやりだした実体験があって。私、あの人からいろんなこと学んだんだけどなぁって。そういうのはいかがなものかっていう。そんな歌です。
ゴンチ:この曲を聴いたとき、いっちゃんはSNSに対して思うところがあるんだな、それが根本にあるんだなっていうのがすごく伝わってきました(笑)。1作目から一貫してSNSに対することを曲にしているんで。
いつか:人生の途中っていうか、ある程度人間性が形成されてからSNSというものが出てきたから、それに対する拒絶反応みたいなのがすごくあるんですよ。だから、ついつい文句を言いたくなっちゃうんです。“またこれ~?”みたいな(笑)。
EMTG:「#hashdark」は、ポップで切ないデジタルファンクっていう感じですね。プロデュースはPABLO a.k.a. WTF!?さん。
いつか:PABLOくんは会ったことがなかったんですけど、私、BOMIちゃんが好きで。彼女の「Y.O.U」とか「さよならミゼラブル」を聴いて、お願いすることを決めたんです。変則的なモノを作る方だなと思って、一緒にやってみたいなって。このトラックに今までのような歌詞を乗っけてもチグハグになっちゃう感じがあったから、必然的に切ない感じになっていったところがありますね。
EMTG:今回はいろんなことにチャレンジしていますが、ラッパーとしていちばんチャレンジだったのはどの曲ですか?
いつか:ALI-KICKさんと作った「意地easy」です。この感じのテンポは今までなかったし、レコーディング中に初めて「そのラップのハメ方、1個手前でこの言葉を言ったらもうちょっとレイドバックした感じになるよ」っていう指示を受けて、ちょっとテンション上がりました。「まだ私のびしろある、うれしい!」と思って(笑)。
EMTG:ハマ・オカモトさんとの「classic glasses」はベースとラップだけでできてる斬新な構造ですね。
いつか:これは私からハマくんに「ベースとラップだけで作りたい」って話をしたんです。そしたらハマくんに「先にパンチラインとか、ラップのフロウをほしい」って言われて、これは困ったぞ、やったことないぞと思って(笑)。それから、適当に自分でビートを打って、そこにラップを乗せてハマくんに投げて。これはセッション的に作ったんで、本番のレコーディングのときにみるみるカタチになっていった感じです。
EMTG:この曲に出てくる♪罵詈雑言 Life goes on♪は最高のパンチラインでした。
いつか:ありがとうございます。今年の頭にタイに行ったんですけど、たまたまプーケットの空港で光浦(靖子)さんに会って。そのとき光浦さんが「タイ人に向かって罵詈雑言だったんだよね」みたいなことを言ってたんです。で、言葉の意味をよくよく調べてみたら、悪口言ってるみたいな意味で、いい言葉だなと思って(笑)。いつも悪口を言っている、みたいな表現にしたいなと考えたときに、あのフレーズが浮かんだんです。だからこれは、「inspired by 光浦靖子」(笑)。
EMTG:けど、いっちゃんのキャラクターを代弁するようなパンチラインだよね。“悪口言いまくって人生いきていく”みたいな(笑)。
いつか:そうそう(笑)。
EMTG:では、ゴンチが選ぶ、本作のいっちゃんのパンチライン、ナイスフレーズは?
ゴンチ:フレーズじゃないけど、テーマでいうと「婿においで」がいちばん面白かったです。
こんなこと私には言えない、言えないって。
いつか:PUNPEEさんが加山(雄三)さんの「お嫁においで」をリミックスしていたじゃないですか。
EMTG:ってことは、こっちはinspired by PUNPEE?
いつか:そう。その逆だと思って。「婿においで」もいいんじゃない? と思って。
EMTG:実際、いっちゃんはこんなふうに思っているの?
いつか:私はどっちでもいいと思ってるんです。でも、周りに嫁にいきたい子が多すぎるんです。いつまで経ってもプリンセス、みたいな。それが嫌だ(笑)。そんなに結婚したいんだったら、婿にもらっちゃえばいいじゃんって思うんです。そうすればすぐ結婚できるだろうに、なんで王子を待ってるの? みたいな。それに付き合ってる人、全然王子じゃないよ? みたいな。
EMTG:毒づくなぁ(笑)。
いつか:あはは。でもそれが嫌で。
EMTG:でも、女性は“結婚”というより“お嫁さん”ファーストなんじゃないの? ウェディングドレスを着たい願望がまずあるというか。
いつか:そうなんだろうけど、それが古いなと思って。要は結婚じゃないですか。
EMTG:いや、だから“要は”っていうことじゃなくてさ(笑)。
いつか:あはは。私、結果を先に見ちゃうから(笑)。結果、結婚じゃないですか。
EMTG:ゴンチはそのへんどう思ってるんですか?
ゴンチ:私は“嫁に行く”っていう考えしかなかったから、そういうものだと思っています。
それが当たり前っていうか。
いつか:その当たり前は受け入れているのに、他の当たり前のことを知らない人も多いじゃないですか。逆に、こんなに新しいモノが世の中に溢れていて、新しいコスメだ、新しいスイーツだって言ってて、なんで結婚だけ新しい感覚を採り入れられないの?って。Twitterやる、Facebookやる、Instagramやる……そういう新しいのはどんどん吸収していくのに、なんで結婚に限って違うんだろう?って。
EMTG:そんないっちゃんに刺激されて、ゴンチの結婚観が変わったりも?
ゴンチ:いいえ。こういうスタイルもありなんだなって思いますけど、私は「婿においで」とはなかなか言えないです。「婿に来い」って言えるくらいになるって、結構強くないといけないじゃないですか。
いつか:いや、強さじゃないですよ、そこは。自分は「婿においで」って言えないのに、相手に「嫁においで」って言わせようとする。おかしいじゃない。自分が言えないことを相手に言わせるなんて。
ゴンチ:えーーーーっ!?
いつか:ほら。だからゴンチは結婚自体わかってないんですよ(笑)。
ゴンチ:うそ? そうなのかなぁ……(苦笑)。
EMTG:じゃあ、ゴンチが好きないっちゃんが出てる曲はどれですか?
ゴンチ:好きないっちゃんは「メキメキmore」の最後。♪でもきっとおそらく誰より幸せになるのはあなたです♪っていう一行に、ありがとうございますって思いました。
いつか:キモチワルイ(笑)。
ゴンチ:あはは。でも、そう思う人は絶対にいるだろうなって。
EMTG:タラレバばかり言ってうだつのあがらない女子へのエール曲だしね。
ゴンチ:そう。こう言われることによってちょっと救われるなっていう女性は多いんじゃないかなって思うんですよね。

【取材・文:猪又 孝】

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リリース情報

not not me

not not me

2017年03月22日

ワーナーミュージック・ジャパン

01. #hashdark
02. Like it
03. YAJIUMA DANCE
04. 意地easy
05. Lunch time funk
06. classic glasses
07. だったらshow me
08. 婿においで
09. メキメキmore
10. Chicken boom
11. not not me

お知らせ

■コメント動画




■ライブ情報

Charisma.comワンマンツアー2017
03/25(土) 北海道 札幌sound lab mole
04/01(土) 愛知 名古屋E.L.L.
04/07(金) 大阪 心斎橋BIGCAT
04/09(日) 宮城 仙台enn 2nd
04/22(土) 広島 Backbeat
04/30(日) 福岡 Beat Station
05/03(祝・水) 東京 赤坂 BLITZ(ツアーファイナル)

ARABAKI ROCK FEST.17
04/29(土) - 04/30(日)
みちのく公園北地区 エコキャンプみちのく

YATSUI FESTIVAL! 2017
06/17(土) - 06/18(日)
渋谷 12会場

MIYAVI NTT Docomo presents MIYAVI 15th Anniversary Live ”NEO TOKYO 15”
06/24(土) 渋谷WWW

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