中田裕二、“厚み”をもたせた6thアルバム『thickness』インタビュー

中田裕二 | 2017.03.22

 中田裕二のオリジナルアルバム6作目『thickness』は、音の厚さではなく経験を積んだことで増していく歌の力や人間味といったものを表したという。今まで以上に変化に富んだアレンジで彩られているが、どの曲でも中田裕二の歌としか言いようのない歌が艶を放っている。故郷である熊本の被災に思いを寄せながら歩み出したという本作について、じっくり語ってもらった。

EMTG:先行シングル「ただひとつの太陽」を2016年4月にリリースした頃に、すでに新曲を書き溜めていたとか?
中田裕二:曲は書き溜めていたんですけど、結局その頃のものはほとんど使わなかったんです。このアルバムに入っているのは、去年の後半ぐらいに一気に作っちゃった気がします。
EMTG:それは何か気持ちの変化とかあってですか?
中田:ライブも多かったりしたんですが、熊本地震があったので……。それで落ち込んだ期間が長かったりとか。あまりクリエイティブなモードにスイッチが入らなかった。
EMTG:<TOUR 16 “LIBERTY”>最終日の中野サンプラザが熊本地震の直後でしたね。
中田:そうなんです。それでライブがあまり自分の思うような感じにできなくて。しばらくそれを引きずってましたね。シングルになった「IT’S SO EASY」は、気持ちをどう前向きに持っていこうかというところで、ちょっと悩みましたけど、これが出来て気持ちを切り替えることができましたね。
EMTG:その辺りからアルバムの方向性が見えてきた感じでしょうか。
中田:そうですね。ビンテージソウル的なアプローチでいこうというのはざっくり決めていたんですけど、具体的な内容に関しては、11月ぐらいからどどっと出来た。それでレコーディングは年末年始に一気にやった感じですね。
EMTG:では一曲ずつうかがっていきましょう。まず「femme fatale」は、どこからこういうイメージが生まれたんでしょう。
中田:これは、煙の中から浮かび上がってくる女。運命の女という意味ですけど、ジミ・ヘンドリックスの映画を観てて。ジミヘンとアイズリー・ブラザーズと歌謡曲を掛け合わせたような曲が欲しいなと思ってたのが、きっかけですね。ソウルと、そこにちょっとロックギタリストが入ってきて、みたいな。あとフィリーソウル的なメロディックな弦は、デモ段階からシンセで入れてましたね。
EMTG:中田さんが思う運命の女はどんな人ですか?
中田:たぶん一生わからないですね(笑)。わからないからいろいろ書けるんだと思います。断定してはいけないものですね。女ってこういうものだ、というふうに言いきれない不思議な存在だと思います。
EMTG:2曲目の「静かなる三日月」は中田さんには珍しいカントリータッチで新鮮です。
中田:エンニオ・モリコーネが好きでよく聴くんです。彼は映画「ニュー・シネマ・パラダイス」が有名だけど、ウエスタン系の曲をよく作ってるじゃないですか。
EMTG:モリコーネはイタリア西部劇の大家ですもんね。
中田:はい、その感じをやってみたいというのがあって。自分のくどい声にも合うかなと思ってやってみたら、すごくしっくりきましたね。この曲が出来てから、アルバムの作業がスムーズに進みました。方向性が見えたというか。その気にさせてくれた一曲ですね。
EMTG:3曲目は、アフター・パーティではなくて「ラフター・パーティー」。
中田:今のパリピ病の人たちに向けた歌詞がすごいひねくれた歌詞なので(笑)。
EMTG:中田さん自身はどうなんですか?パリピ?
中田:全然苦手です。ハロウィンとか大嫌いです(笑)。この曲は最近のアメリカンポップスな雰囲気も取り入れたかったんですね。だから結構打ち込みが多かったりとか。この曲がいちばんアルバムの中だと今っぽいのかな。
EMTG:次は「IT’S SO EASY」。さっきおっしゃった、熊本の皆さんへのお気持ちを?
中田:直接的なメッセージを歌っているわけじゃないんですけど、ああいう時期ってみんな無理しちゃうんで。ちゃんとしなきゃ、頑張らなきゃって。そういう気持ちを、ふっとほぐしてあげられたらなって思って。もうちょっと気楽にしていいですよって。歌詞は悩みましたけどね。あまりダイレクトにならないように。でも離れ過ぎても伝わらないし。冒頭の歌詞が書けた時に、ああ書けたなと思って。俺の曲って複雑な曲が多いんで、最近のテーマとしては、どれだけシンプルにできるかというところもあって。この曲が出来たときに、ああ全然シンプルでいいんだなって再確認できた曲ですね。
EMTG:次が「何故に今は在る」。哲学的なタイトルですが。
中田:(笑)これは、思いきり70年代的なフォークがやりたくて。で久々に、ド歌謡を作ってみようと思いまして。男の女々しさとかを歌ってみました。
EMTG:そういうところで思い浮かべるフォークの先輩というと?
中田:さだまさしさんですね。
EMTG:6曲目「Deeper」は本作のリードトラック。
中田:このアルバムを説明するメインの一曲ということで。自分としては冒険だったんです。ここまでシンプルな音作りをするというのが。ビートもずっと同じだし、曲の展開もそんなにないし。あとはムードと、質感で持っていくというところで。やっとこの境地にいけたかなという気がしましたね。いつもはどんどん音を積んでいくやり方ですけど、ぐっと抑えて抑えて、やりきれた気がします。
EMTG:後半にジャジーなトランペットが入ってきてかっこいいですね。
中田:昨年の“ジャジー・エクスペリエンス”というツアーに参加していただいた田中 充さんというトランペットの方に、マイルス(・デイヴィス)でお願いします、と(笑)。バッチリやっていただきました。
EMTG:これがアルバムを代表するとすれば、音を削ぎ落としたところに、この作品の色があると思っていいでしょうか。
中田:テーマとしてありますね。日本の音楽シーン的には、どんどん音が増えていってる感じがするので。逆に自分は減らしていきたい、研ぎ澄ましていきたい。年齢的にも、そこでちゃんと戦えるようにならないといけないなという意識が強くて。アルバム全体を通して、引き算をいかにするかというところに重点を置きました。
EMTG:弾き語りや、初回限定盤の特典映像としても収録される“ジャジー・エクスペリエンス”でのライブなど、歌と対峙する機会が多いことも影響していますか。
中田:そうですね、弾き語りとかジャジーとかやっていく中で自信をつかんでいったところはあると思いますね。バンドサウンドで、大きい音でやっちゃえばごまかしきくところもあるんですけど、ごまかしきかないところで、ここ何年か修行を続けてた……そういう部分がこのアルバムに活きてるかなと。
EMTG:修行ですか?
中田:修行でしたね。本当の意味でひとりで完結できるというところまでは、正直、バンドのときはまったくそういうのできなかったし。ソロの初めの頃もできなくて試行錯誤してたんですけど、最近になってやっと形になってきたのかなという気がします。
EMTG:その成果が実った作品の曲の話に戻りましょう。7曲目「リビルド」はロックなサウンドで。
中田:これはエレキギターを久々に買って、リフのロックを作ってみようかなと思って始めたら楽しくて、流れで作っちゃった感じです。久々にテンポの速い8ビートをやったんで、結構しんどかったです(笑)。若い人なら得意なんだろうけど、この曲のレコーディングメンバーも基本みんな16ビートの横ノリの人たちで、僕も横ノリのほうが歌うの得意なんで、レコーディングが大変でした(笑)。でも、そういう人たちが演奏してるんで、8ビートだけど独特の跳ねたグルーヴが出ていて気に入ってます。コーラスも70年代後半ぐらいの、ハードロックグループがやってるような、分厚いコーラスをあえて入れてみようとか、シンプルなようで意外と遊んでいたりしています。
EMTG:「ただひとつの太陽」は、冒頭に話したように1年近く前にリリースされたシングルで、前作『LIBERTY』からあまり間をおかずに出ています。
中田:次のモードになってますよというのを伝えたくて作ったんです。『LIBERTY』は音数も多いし情報量が多くて、シンプルではないアルバムだったんですね。でも次は意識がシンプルな方に向かっていて、「ただひとつの太陽」みたいな曲を聴いてもらって、ああこの人もう次の動きを始めてるんだなというのを知ってほしかった。『BACK TO MELLOW』『LIBERTY』が、わかりやすく中田裕二流AORみたいな作りをしたので、それは二枚出してひと段落したというか。次はビンテージソウルみたいなものにスタンダードな歌謡曲を乗っけてみる、みたいなテーマが何となく見えていて。
EMTG:そこは、曲作りが中断しても変わらず、むしろそぎ落とす方向に落ち着いていったんですね。
中田:そうですね、ちゃんといい具合に収まってくれたと思います。この曲がアルバムの中で馴染んでいるというのが、それを証明してくれているのかなと思います。
EMTG:続く「ギミー・ナウ」はお着替えを求める危なげなラブソングですが。
中田:(笑)そうですね。弾き語りですぐ出来た曲なんですけど、ファンクなのかポップスなのか、ジャンル分けしにくいけど、でも俺っぽい曲だなと思いながら作りました。
EMTG:「愛に気づけよ」は軽快なポップスですが、片思いの歌?
中田:アルバムが“thickness=厚み”という意味なので仕方ないんですけど、重めの暗い曲が多いというか。ちょっと軽やかでハッピーな曲も欲しいなと、ちょっと懐かしい60年代のモータウンぽい曲を入れてみようかなと。
EMTG:最後は「THE OPERATION」。シングルでリリースされていますけど、この曲をここに持ってきたのは意味があるのかなと思いました。
中田:『LIBERTY』に入っていてもおかしくなかったかなと思うAORの流れを汲んだ曲ですけど、歌詞は次のモードに切り替わりますよという意味もあって、アルバムの最後がふさわしいんじゃないかなと。曲を並べていたら自然にここに落ち着きました。
EMTG:アルバムタイトルは厚みという意味ですが、それは音のことではなくて?
中田:そうですね。いっぱいこう、実際に音をたくさん重ねているという厚さではなく、今まで何枚もアルバム出して、いろいろチャレンジしてきたこととか、そういう積み重ねで出来た分厚さ、表現の分厚さみたいなところでの、『thickness』ですね。

【取材・文:今井智子】

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リリース情報

thickness

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2017年03月22日

テイチクエンタテインメント

1. femme fatale
2. 静かなる三日月
3. ラフター・パーティー
4. IT’S SO EASY
5. 何故に今は在る
6. Deeper
7. リビルド
8. ただひとつの太陽
9. ギミー・ナウ
10. 愛に気づけよ
11. THE OPERATION

お知らせ

■コメント動画



■ライブ情報

TOUR 17 “thickness”
03/25(土) 神戸 SLOPE
03/29(水) HEAVEN’S ROCK さいたま新都心 VJ-3
04/01(土) 熊本 B.9 V1
04/02(日) 福岡 イムズホール
04/08(土) 横浜 関内ホール
04/15(土) 仙台 PIT
04/22(土) 札幌 Zepp Sapporo
04/29(土・祝) 名古屋 芸術創造センター
05/13(土) 静岡 UMBER
05/27(土) 大阪 サンケイホールブリーゼ
05/28(日) 東京 昭和女子大学人見記念講堂

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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