クリープハイプ、菅田将暉主演映画『帝一の國』の主題歌「イト」は、ポップと狂気が交錯するキラーチューンに。

クリープハイプ | 2017.05.02

 クリープハイプのニューシングル「イト」は、菅田将暉主演の映画『帝一の國』主題歌として書き下ろされたナンバー。華やかなホーンセクションを取り入れたポップなサウンド、そして、操り人形の“糸”と生き抜く戦略としての“意図”のダブルミーニングが込められた歌詞がひとつになったこの曲には、クリープハイプのアンビバレンツな表現スタイルが高い精度で表現されている。アルバム『世界観』、作品集『もうすぐ着くから待っててね』を経て、このバンドの音楽性はさらに深みを増しているようだ。
 今回はメンバー全員にインタビュー。「イト」の制作を軸にしながら、現在のバンドのモード、音楽に対するスタンスの変化について語ってもらった。

EMTG:アルバム『世界観』を伴った全国ツアー「熱闘世界観」、そして、今年2月には作品集『もうすぐ着くから待っててね』がリリースされるなど、途切れなく活動が続いてますね。
尾崎世界観(Vo・Gt):はい。ツアーが終わったあと、すぐに作品集の制作に入りました。「次はこういう感じで」という方向性みたいなものはなくて、やりながら自然と決まっていきましたね。
EMTG:ひとつひとつ曲を積み重ねることで、自ずとの次の方向性も見えてくると。前作『もうすぐ着くから待っててね』からも、丁寧に楽曲に向き合っていると感じられました。
尾崎:(音楽的にも)いろんなことができるようになって、幅が広がったんです。どのタイミングでそうなったかはわからないけど、外からの刺激を取り入れたことで、バンドの自力も上がってるんじゃないかなと思います。作品に対する反響も良くて、ちゃんと届いている実感もあります。
長谷川カオナシ(Ba):アルバム『世界観』のリアクションもすごく良かったんです。「5%」でトラックメイカーの方に制作をお願いしたり、「鬼」もいままでとは違うアプローチでアレンジをして。作品集も「前作に負けてはいけない」と思っていたので、ギリギリまでアレンジやレコーディングをしていた印象があります。
小川幸慈(Gt):1曲1曲にしっかり力を注げているし、クリープハイプらしさをしっかり持ったまま、新しいアプローチでやっている感じですね。
小泉拓(Dr):うん。その結果、ふり幅が広がったんだと思います。
EMTG:なるほど。そういえば前作の作品集のときは、あまりインタビューを受けてなかったようですが。
尾崎:それも思うこところがあって。当たり前のように取材を受けて、音楽の話をしてきたんですけど、前回は「あまり詳しく説明をしないで、まずは聴いてもらいたい」と思ったんです。特に深い意味はないんですけど、曲を作って、レコーディングをして、インタビューを受けるという流れを変えてみたくて。そうすることで取材してもらえるありがたさもわかりました。
EMTG:流れのなかで活動するのではなく、一度立ち止まって考えるタイミングだったのかも。では、新曲「イト」について。この曲、ボーカルのメロディが素晴らしいですね。
尾崎:自分でもそう思っています。ここ何年か、(歌のメロディに関して)もっと突き抜ける感覚を探してたんですけど、「イト」のサビのメロディをひねり出したときは「あ、これだ」という手応えが久々にあって。「何とか無事に出来て良かった」ではなくて「いいのが出来た!」という感覚というか……それこそインタビューでは言葉にできないんですけど。スタジオでメンバーと合わせたときも、すごく良かったんです。Bメロでキーがいきなり変わるんですけど、それも馴染んでいたし。あれは転調してるのかな?
長谷川:たぶんそうですね。
尾崎:それも『世界観』というアルバムがあったから出来たことだと思うんです。アレンジもいろんなことをやったから、キーがいきなり変わることにも抵抗がなくなったというか。「ここで転調するのはおかしい」とマジメに考え過ぎないで、「これもいいな」と思えるかどうかですよね、大事なのは。やっぱりそういうタイミングだったんだと思います。いままで普通にやってきたことにも「本当にそうなのかな?」と考え直してみるという。
EMTG:それによって新しい手触りの曲が生まれるわけですからね。
尾崎:同じことを続けていたら、聴いてるほうも作ってる側も飽きちゃうので。食べ物だったら「伝統の味を守る」ということに価値があるけど、音楽はそうじゃないというか…。飽きさせないで、なおかつ結果を出さなければいけないのは大変ですけどね。
EMTG:「イト」のアレンジも“らしさ”と“新しさ”が混ざっていて。
長谷川:僕らも“いいメロディだな”と思ったので、丁寧に作っていきました。4人でスタジオに入って、そこで作ったデモをもとにして、それぞれが持ち帰ってフレーズを入れました。
小川:スタジオの熱量もしっかり入っているし、それを家で再確認しながらリフやフレーズを考えて。すごくいいやり方だったと思います。クリープハイプらしさもすごくあるし、細かい部分のこだわりも詰め込めましたね。
小泉:楽曲の音像がイメージしやすかったですね。ドラムのフィルなども、自分の手癖にはないものを提案してもらったり、新しいこともいろいろやれたと思います。
EMTG:「イト」は映画『帝一の國』の主題歌。歌詞も映画のストーリーに沿ってるんですか?
尾崎:そうですね。なかなか書けなかったんですけど、レーベルのディレクターから「操り人形の糸のイメージ」という提案があって、それをもとに書いていきました。歌詞の書き方も少しずつ変わってきてるんですよ。以前は「これだけの気持ちを歌詞に込めているのに、全然届かない」と悩んでいたんですけど、小説だったり、いろいろと文章を書かせてもらう機会が増えて、自分の気持ちをそっちに詰め込むようになったことで、歌詞に関しては「メロディに合わせた言葉を書こう」と思えるようになりました。
EMTG:“歌詞はあくまでも歌詞”と割り切れるようになった?
尾崎:はい。前は1行の歌詞の前後に5行分くらいの意味を込めてましたからね。そんなの伝わるはずないなって気付きました(笑)。いまはそこまでやり過ぎていないし、できるだけシンプルにしたいと思っているんです。ベテランの司会者も、ムダなことをやらないって言うじゃないですか。放送時間の尺しか収録しないという(笑)。
EMTG:カップリング曲についても聞かせてください。まず「月の逆襲」はカオナシさんの作詞・作曲によるナンバー。
長谷川:尾崎さんがやっているラジオ番組で“曲を投稿する”コーナーがあって、僕も参加することになったんです。すごく嬉しかったし、リスナーのみなさんに対しては、僕たちからのプレゼンテーションでもあり、プレゼントにもなるのかなと。
尾崎:この曲を聴いたとき「すごくいいな」と思ったんです。バンドの曲として書いてもらうとどうしても力が入ってしまうというか、「こういうものが求められてるんじゃないかな」と考えてしまう気がするんですよ。(今後、カオナシに対して)「こういう企画があるんだけど、やってくれない?」とウソをつけば、いい曲がどんどん出来るかもしれません(笑)。
EMTG:確かにバンドの曲を書くのはプレッシャーがかかるかもしれないですね。楽しんでやるっていう雰囲気でもなさそうだし。
尾崎:楽しむというのは難しいですね。仕事としてやってるわけだから、もともと楽しむつもりもないので。「音を楽しむと書いて、音楽ですよ」というのは自分には当てはまりません。
小川:ダメなんだ(笑)。
尾崎:それとは別の幸せもありますからね。曲が伝わったときの喜びとか。
EMTG:3曲目の「君が猫で僕が犬」はフォーキーな手触りの楽曲ですね。
尾崎:もともとは僕が弾き語りで歌っていた曲なんです。8年くらい前に作ったんですけど、カオナシが引っ張り出してきてくれて。
長谷川:すごく好きな曲なんですよ。歌詞もまったく変わってないんですけど、いま聴いても素晴らしいなと思います。今日気付いたんですけど、この曲もBメロでキーが変わるんです。「イト」と同じような感じで転調していて。
EMTG:最後に、3月から4月にかけて行われたモバイル会員限定ツアー「『秘宝館』 ~満開栗の花~」の手応えについて教えてもらえますか?(仙台公演のみ5月11日に振替)
尾崎:昔の曲を結構やったんです。懐かしいなと思ったし、「こういう感覚、確かにあったな」という実感もあって。演奏するのは大変なんですけどね。
小川:「どんなフレーズを弾いてたかな?」って思い出さなくちゃいけないので(笑)。けっこうムチャをしてるんですよ。歌の裏でずっとメロディを弾いてるんだけど、上手く絡み合ってなかったり。
EMTG:その時期だから生まれた発想なんでしょうね、それも。いまも新曲は書いてますか?
尾崎:少しずつやっています。特に休みもないし、繋がっている感じなんですよね、ずっと。

【取材・文:森 朋之】

tag一覧 シングル 男性ボーカル クリープハイプ

リリース情報

イト

イト

2017年04月26日

ユニバーサルシグマ

1. イト
2. 月の逆襲
3. 君が猫で僕が犬

お知らせ

■ライブ情報

VIVA LA ROCK 2017
05/03(水) さいたまスーパーアリーナ

rockin’on presents JAPAN JAM 2017
05/05(金) 千葉市蘇我スポーツ公園

尾崎世界観の日 特別篇 2017
05/07(日) 上野恩賜公園水上音楽堂

クリープハイプモバイル会員限定ツアー「秘宝館」〜満開栗の花〜(宮城)
05/11(木) darwin(仙台)

百万石音楽祭〜ミリオンロックフェスティバル〜2017
06/03(土) 石川県産業展示館
06/04(日) 石川県産業展示館

UNISON SQUARE GARDEN「fun time HOLIDAY 6」
06/07(水) Zepp Tokyo

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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