“言葉にならずに吐き出される溜息を言葉にした”ハルカトミユキの3rdアルバム『溜息の断面図』

ハルカトミユキ | 2017.06.27

 言葉にならずに吐き出される溜息を言葉にした、という『溜息の断面図』は、ハルカトミユキというユニットが新しい形で響くアルバムだ。全12曲中4曲を、前作『LOVELESS/ARTLESS』で軌道にのった “ミユキ(Key・Cho)の曲にハルカ(Vo・Gt)が詞をつけ歌う”というスタイルを一歩進めて作った。共作によって見出した新しいハルカトミユキは、激しい怒りや孤独、絶望の向こうに見いだす希望を、わらべうたからアグレッシヴなロックに優しいバラードと変化に富んだ曲に乗せて歌う。インディーズ・デビュー5年目に見つめ直す2人の原点、そして3度目となる日比谷野外音楽堂でのライヴという次の目標。その軸になる『溜息の断面図』について、2人にじっくり語ってもらった。

EMTG:前作『LOVELESS/ARTLESS』から10ヶ月で新作完成ですね。『溜息の断面図』はハルカトミユキらしいタイトルですが、どういうイメージでつけたんでしょう?
ハルカ:溜息って言葉にならないもので、言葉にできないから、みんな溜息をついて済ましてしまう。自分でもなぜ溜息をついているのか説明できない感情を言葉にしてあげたい、歌にしたいという思いがあって。何か違和感とかを感じた時に、それを言葉にしてもらえるってすごく嬉しいし強く救われる。それが何か自分でも分からないから、言葉で言えないから、その感情がないことにしたり、言葉で訴えられないから何も考えてないと思いこませてしまう。そうやって諦めていくうちに、どんどん自分の世界が狭くなっていったり、自分の感情が“寂しい”も“辛い”も全部“悲しい”になってしまう。それってすごく辛いことだから、そうじゃないよって言ってあげたいし。それを言葉にしていくことが私にとっての歌だなという気持ちがあります。
EMTG:このタイトルと曲を聴いた印象から“生きづらさ”みたいなものがテーマのように思えました。
ハルカ:たぶん年齢とかもあると思うんですけど、27歳になって今までの悩みとはまた違う感じで、今何を歌おうとか何を書きたいかということに、かつてない悩み方をしていたなと思います。20代の終わりにさしかかっていく中で、10代より更に難しい思春期というか。今も“青いままの春”だなと。
EMTG:10ヶ月での制作はスムーズだったと思いましたが、悩みもあったり?
ハルカ:2月にインディーズ・デビュー5周年のツアーがあって、そこで披露する新曲を年末から作っていたんですが、いまいち私が作曲面で乗り切らないところがあって。ライヴはミユキが作った曲に私が詞を乗せて披露したんです。アルバム作りを始めたのは年明けで、まだそこから抜け出せない感じがあって。悩みが続いてました。
EMTG:それを抜け出すきっかけみたいのはあったんですか?
ハルカ:そうですね。前作は初めてミユキが半分ぐらい作曲をやって、それに助けられていた部分が大きかったんですね。もう一つ悩んでいたのが、初期の頃は誰も彼も敵だというような感覚があって、それが原動力にもなってたんですけど、大人になるにつれて薄れていくし、当然感謝の気持ちも出てくるし、でもそれによって自分が弱くなったような気持ちもあったんですよね。作品を作る上でも弱くなって、自分のアイデンティティが揺らぐような感じがして。でも新作を作ろうってなった時に、一旦それを排除したんです。そうしたら書きやすくなった。前みたいに怒っていいし、とか思ったら書きたいことがいっぱい出てきて。振り切ったのは大きかったですね。
EMTG:今回も、4曲ミユキさんが作曲していますが、前作とタッチが変わっている気がします。
ミユキ:ああ、そうですね。前作はほぼ初めて作ったのでメロディを意識してて。強いメロディとかライヴで盛り上がる曲とか。たぶんそのせいで言葉をあまり意識してなかったから、ハルカは歌詞を作る上で苦しんだんです。今回は2月の5周年のツアーも含めて、攻めていかなきゃと漠然と思っていて。振り返った時に、ハルカトミユキのコアな部分、怒りとか不満とか、そういうものをちゃんと見て、現実と向き合った上で希望があるという、そこをちゃんと考えたいなと思って。そういう言葉が出てくるような曲にしたかったし、メロディにしたかったというのがあったんです。今回は前回に比べて悩み方も違ったと思うし、言葉もカチッと嵌まった。よくハルカが言っている、怒りの中にも激しく怒ってるのと、ハルカは青い焔っていってたんですけど冷たく怒るのと、もう狂っちゃって豹変しちゃうみたいな、3種類ぐらいの怒りが見えて、それを曲にしようと思いました。
EMTG:ミユキさんの曲にハルカさんが反応してくる期待みたいなものもあったんですね。
ミユキ:「終わりの始まり」とかは特に、ステージでカッコよくギターを抱えて歌ってる姿を想像しながら作りました。あと、去年は舞台をハルカがやったことで、ライヴのパフォーマンスもすごく幅広くなって、歌う前に朗読をしたり、セリフのように語ったりすることもあったので、その表現力を生かした曲もできると思ってました。
ハルカ:だいぶ書きやすかったですね。自分の曲に近いような感覚で書けたのもあったし。出来上がったのを聞いて自分が作ったと勘違いした曲もあったぐらい、カチッとかけたので。そこはミユキが寄り添ってくれたのかな。ハルカに寄り添ってくれたというより、ハルカトミユキに寄り添ってくれたのかもしれない。「終わりと始まり」とかは、私の言いたいこととかがワーッと歌えるんだけど、私じゃ書けない曲だったりして。そこはうまいことミユキが、私の言葉を引っ張り上げるための型を用意してくれたという感覚はありますね。
EMTG:すごい洞察力のある曲なんですね。それは5年一緒に作ってきた実績もあるからでしょうか。
ハルカ:やっと寄り添う気になったみたいですね、ミユキは(笑)。変な意味じゃなく頼れるし、楽になるわけじゃないけど、集中力を増して歌詞も書けるなとか。理想的な形にやっとなったなとは思います。自分が書きやすいように書くだけじゃなくて、ミユキの曲に嵌めるために引き出しが必要になったりとか。ミユキの曲に詞を書くことで、自分の詞の書き方も広がる。
EMTG:『溜息の断面図』の中で、特に自分で気に入っている曲はありますか?
ハルカ:私は「近眼のゾンビ」。これは歌詞を書いていても痛快で、“言ってやった!”という感覚です。プロットというか、とりあえず思いついたことをひたすら打ち込んでいったら、すごい量になって。その時の言葉が出てくる感じとか出てくる感情が、この曲にはすごくあって。すごく言いたいことがあったんだなって改めて思った曲でした。
ミユキ:私は「終わりの始まり」か「WILL(Ending Note)」ですね。コアな部分、怒りとかを表現できたというのが私の中で大きい。デビューする前に2人で組んだ時から、バンドに憧れてたけど2人でしか組めなくて、”バンドに負けない!”と思いながらやってたとか、全員敵だと思って、とにかく自分が一番かっこいいと思ってやってた時期とか。何の邪魔もなく攻めきってた。大人になって、その時とは違うかもしれないけど、どこか似たものを、あの時頭に描いていたものを、ようやく形にできた。ハルカはずっとそれをやってきたけど、私はようやく出来たので、自分の思い入れは一番大きいですね。
EMTG:新しいハルカトミユキが『溜息の断面図』なんですね。9月に決まった3度目の日比谷野音で新曲を聴くのが楽しみです。
ハルカ:野音はすごく好きな場所です。最初は私たちの歌に野音は合うのかなって思ったんですけど、野音でしか伝えられない歌、歌え得ない歌を感じてもらえると思います。それをたくさんの人と共有したいし、それが野音という場所で表現できるのは大きいし、目指すところなのかなと思います。
ミユキ:前は、私たちのお客さんは盛り上がることを求めてないんじゃないかと思ってたんですけど、47都道府県を回って、自分の楽しさを伝えてみようと思ってやってみたら、意外に求められてるというのに気づいて(笑)。もちろん本来は言葉を伝える部分なのでそこは固めるんですけど、自分が素直に楽しんでる気持ちを出したら、お客さんも壁をなくして開放的になる。歌を邪魔しない程度に(笑)私も楽しみたいと思います。

【取材・文:今井智子】

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リリース情報

溜息の断面図

溜息の断面図

2017年06月28日

Sony Music Associated Records

1.わらべうた
2.Stand Up, Baby
3.Sunny, Cloudy
4.終わりの始まり
5.Fairy Trash Tale
6.WILL(Ending Note)
7.宝物
8.近眼のゾンビ
9.インスタントラブ
10.僕は街を出てゆく
11.嵐の舟
12.種を蒔く人

お知らせ

■ライブ情報

アルバム レコ発 3days
06/28(水) SHIBUYA WWW X
06/29(木) SHIBUYA WWW
06/30(金) SHIBUYA CLUB QUATTRO

+5th Anniversary SPECIAL
09/02(土) 日比谷野外大音楽堂

Acoustic two man LIVE "ハルカトミユキ×新山詩織"
07/12(水) 代官山LOOP

OTODAMA SEA STUDIO 2017
〜BEACH MUSIC 2017〜

07/15(土) OTODAMA SEA STUDIO

ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2017
08/12(土) 茨城・国営ひたち海浜公園

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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