THE NOVEMBERS、過去の総括ではなく未来への布石としてのベストアルバム『Before Today』をリリース

THE NOVEMBERS | 2017.09.11

 ベスト盤とは既発曲をコンパイルするものだが、それは過去を共有していない人にとって新しい未来となるものだ。結成12年目を迎え初のベスト盤『Before Today』をリリースするTHE NOVEMBERS。11という数字にこだわる彼らは、過去の総括ではなく未来への布石として、今この作品をリリースした。自分たちにとって重要な曲を12曲ずつ収録した2枚のディスクが物語るのは、ダークなサイケデリアを描きながらポップにしてエレガンス、内省から生まれる叫びや抑制されたエナジーが美しく共存する彼らの12年だ。これまで彼らと歩んできた人たちに、そして初めて彼らと出会った人たちへ、小林祐介(Vo、Gt)は穏やかに語りかける。「いい未来で会いましょう」。

EMTG:12年目にベスト盤をリリースとは、ちょっと珍しいですね。普通は10周年とかです。
小林祐介:僕たちにとって10という数字はあまり大したことがなくて、11の方が大切だったので(笑)。11周年だったんですけど、周年というタイミングは過去をまとめるより新しい可能性を示す時だと思ったのが昨年で、11月11日には11周年を記念して新木場スタジオコーストでライブを行いました。それをしっかりやりきって、新しいムードとかエネルギーを持って周年を終えることができたので、過去の曲を一緒に未来へ連れて行こうという気持ちで、ベスト盤を組むことにしたんです。
EMTG:未来への第一歩。この24曲の、選曲の基準といったものはありましたか。
小林:単純に、ライブでよく演奏する、自分たちのステージで重要になっている曲とか、ちょっとした節目や特別な時にやる曲とか。あとはメンバーそれぞれ思い入れが強いものとか。リード曲とか推し曲をコンパイルした作品ではなくて、自分たちの意思を持って提示できるものを、このタイミングで出すのはいいんじゃないかと思ったんです。よくライブに来た人から”どのCDから買ったらいいですか”とか、”今日やった曲は何ですか”とか言われることがあって。そういう人たちが買いやすいベスト盤があるといいかなと。
EMTG:この24曲で描くTHE NOVEMBERS像は?
小林:僕らもようやくそれを考え始めた時期です。これまで自分たちがどう映っているか、どう映りたいかはあったと思うんですけど、それは僕たちだけの話であって。昔だったら、こう見られたいとかこういう風に映りたいという欲があったと思うんです。自分が美しいと思うものを作りたいだけなのに、いつの間にか顕示欲や虚栄心を持ってしまっていたり。でもそれがあまりない作品になったなあと。本当に重要なことは、と考えていくと雑念がなくなってフラットになっていくから。新作の『ハレルヤ』がフラットだったので、こう見られたいというより、自分はこう生きていこうと思うというか。そういうモードで、ベスト盤にも臨めたのがよかったんじゃないかな。
EMTG:DISC1、2は、それぞれテーマがあったりしますか。
小林:共通してるのは、新しい曲から始まって過去に遡っていく。1枚で1本のライブのセットリストのようになったらいいなと思って組みました。音楽的なバランスは、激しいと言われる曲とか、しっかり聴かせるような特徴がある曲、そういうもののバランスとかは多少考えたりしました。改めて気づいたのは、ライブだと激しいところとかに着目してもらえたり、自分たちもそこに重きを置いていたりするんですけど、意外とそんなにラウドな曲は多くないなって。全部を見渡した時に、ポピュラリティを持たないポップな曲が多いなって思いました。自分たちは別に激しさのために生まれてきたわけではなかったんだなって、それは美しさの一要素なだけであって。自分たちを時系列に関係なくテーブルの上に並べてみて思ったことですね。
EMTG:新しい曲から過去に遡る、これには何か意味が?
小林:懐かしさから入るベスト盤は好きじゃないので。幼いところから始まると、結婚式の余興ムービーみたいになっちゃう(笑)。それはそれでジーンときちゃうんですけど、この目的はジーンとさせることじゃないので。今が一番カッコいいと思っているので、そこからあんなこともあったなと振り返る方がいいかなと。その方が初めて僕らの楽曲を聴く人もいいんじゃないかなと思う。
EMTG:オリジナル曲だけでなくカヴァーもありますね。
小林:dipの「human flow」は、まるで自分たちの曲のように、年に何回も演奏してるんです。この曲はdipのトリビュート盤(『dip tribute ~9faces~』)に入ってるんですけど、このカヴァーを聴いて僕たちに興味を持ってくれる先輩ミュージシャンとかライターの方もいたりして、僕たちもこの曲を境に変わり始めたんです。
EMTG:2曲だけ、新たに録音し直していますが、それにも理由が?
小林:「最近あなたの暮らしはどう」っていう1st EPの頃の曲は、良くも悪くも幼さとか未熟さが音源に反映されていた。それも良さではあると思うんですけど、それを大事にしてしまうと、過去の自分たちのモノマネみたいなことをやり始めるというか、幼い自分を演じ始めるというか。未熟な自分を美しいと言い張らなくちゃいけないとか。そうじゃなくて、三十半ばの大人になって同じ歌詞を歌うなら、どういう形が美しいんだろうと思って、そういうのをアレンジに落とし込んだところはありますね。その歌詞を書いた当時の自分と全然違うところにいるけど、その人がいいと思って進んだ未来に自分がいる、というつもりで作り直した感じです。もう1曲の「dysphoria」は単純に音源の気合が足りないなと思って(笑)。その当時なりの、ちょっとしたはったりとかでガッと迫力がある感じとか、ラウドな感じとかを演出しようという意図は見えたんですけど、今見ると甘いぞって。対バンを僕らも経験したので、Borisとかdipとかもそうですけど、周りには強者がいっぱいいるんだぞって。そういう経験を経て、その曲を演奏するともっとソリッドに、鋼のような感じでやりたいとか、そういうところが反映された気がします。
EMTG:他はオリジナルのままで、全12曲ずつになっています。
小林:最初、11曲ずつ2枚組にしようと思ったんです。でも、そこにプラス何か現状のモードというものをつけた方が、作品として優れているんじゃないかと思って。そうしたら特にやり直したいなと思っていた2曲がぱっと浮かんだので、それを入れることにしました。
EMTG:限定盤はゴージャスな仕様になるそうですね。
小林:今までの全歌詞と、メンバーそれぞれの、作品ごとのコメント。セルフライナーノーツというほど音楽的なことは書いていないんですが、回想録みたいな感じで書いたものが入って、文庫本になりました。
EMTG:限定発売だった11周年記念ライブの映像作品『美しい日』の一般販売も同時に開始されますね。
小林:そうなんです。クラウドファンディングで製作して、ライブハウスの直販まではやってたいたんですが、ちゃんとお店にも並ぶようになりました。
EMTG:ベスト盤に収録した24曲で、自分たちの12年をどう振り返りますか。
小林:今思えば、すごく無邪気にやってこれたなと思う。いろんなバンドが経験してくるであろうしがらみとか、ちょっとした壁というか、音楽を無邪気に続けていけないような苦悩が誰しもあると思うですけど、僕らはありがたいことに、仲間とかお客さんに恵まれているというか、自分たちのやりたいようにやってこれて。むしろ、これからそういう壁とかに挑戦していくんだろうなと思いますね。無邪気にやってこれたと自覚しちゃうと、無邪気でいられなくなっちゃうんですよ。子供が、自分が子供じゃないと思う瞬間ってそれかなと思う。ただ無邪気にやっていくだけだと、ここで未来が止まる。無邪気に突き進む未来は確かにあるんですけど、自分たちは本当により良い未来があるなら、少なくとも、もっとたくさんの人の心に届くような未来に行けたらと思う。そういう未来を創造することを第一歩にしていきたいなと思っています。
EMTG:10月からは全国ツアーが始まりますね。
小林:この1年、11周年のライブとかメンバーそれぞれのプロデュース公演とか、先日の品川グローリアチャペルでのライブとか、ちょっと特別なワンマンが続けてこれたんですね。そのまとめになるようなツアーができたらいいなと思っています。ライブそのものにも新しい可能性をどんどん見出していきたいので。今が一番カッコいいと思えるライブになると思います。赤坂BLITZは、ちょっと特別な編成になる予定です。いい未来で会いましょう。

【取材・文:今井 智子】

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リリース情報

Before Today

Before Today

2017年09月13日

MAGNIPH / Hostess

【Disc1】
1.Romance
2.美しい火
3.Blood Music.1985
4.鉄の夢
5.human flow(dip cover)
6.Flower of life
7.きれいな海へ
8.mer
9.Misstopia
10.はじまりの教会
11.こわれる
12.最近あなたの暮らしはどう(Before Today ver.)

【Disc2】
1.黒い虹
2.Xeno
3.dogma
4.Sky Crawlers
5.keep me keep me keep me
6.GIFT
7.再生の朝
8.永遠の複製
9.dysphoria(Before Today ver.)
10.アマレット
11.バースデイ
12.今日も生きたね

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ASKA
昨年、ブログを公開して話題になったじゃないですか。
その時は、昔の有名な曲を歌っている有名な人ぐらいにしか思っていなかったんですけど、面白がってブログを読んでいるうちに、この人の歌が聴きたいと思って、聴いたらもう大好きになってしまって。
曲も歌詞も素晴らしい。単純なラブソングだと思った曲が、自分自身の尊厳に対しての歌だったり。もはやこの一年半で普通のファンになってますね(笑)。僕とは全然タイプが違うけど、ボーカリストとしての理想かもしれない。


■ライブ情報

TOUR - Before Today -
10/06(金) 札幌DUCE
10/19(木) 高松DIME
10/21(土) 広島CAVE-BE
10/22(日) 福岡graf
10/27(金) 梅田Shangri-la
10/29(日) 池下CLUB UPSET
11/02(木祝前)仙台enn 2nd
11/03(金祝) GOLDEN PIGS BLACK
11/08(水) 赤坂BLITZ

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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