運命の人とは赤い糸で結ばれているものだ。物心ついた頃から生活の中に刷り込まれたことば。その格言はいまだに覆されていないようで、TVや雑誌、漫画に小説、様々なものに大前提として掲げられている。では、と捻くれ者の私は思ってしまう。では、運命でない人とは何色の糸で結ばれているのだろう。

人はひとりで生きていくことなどできない。それは勿論、そのままの意味のことばでもあるし、そもそも私たちはたったひとりになることなどできないのだ。人が人から生まれる以上、人は人に触れずに生きることができない。生まれた瞬間から身体には無数の糸と、一本の赤い糸が伸びているのだ。

人との間に糸を結ぶ私たちは、誰とも結ばないという選択肢は無いものの、誰と結ぶかを選ぶことができる。その時手に握った糸が何色なのかは分からない。赤色の糸のつもりがそうではなかったり、何の気なしに結んだ糸が赤色であったことに気付いたりする。気付かないまま赤色の糸を切ってしまうこともある。

私は私なりに選んだ相手と糸を結び、数本の糸を切り、いつのまにか切れていた糸を知り、これまでを暮らしてきた。

TVでは桜が咲き乱れる遊歩道を映しながら、春のことを出逢いの季節と呼んでいる。毎年咲いては散る桜を見て人は美しいという。刹那的なものに人は美しさを感じるのだ。それはきっと人がまた刹那的なものであるからで、桜はやがて散るからこそ咲き誇る姿を美しいと呼ぶ。誰もが出逢いの季節に喜びながらも、同時に思い出す別れがあることと似ている。

運命の相手と繋ぐ赤い糸。ことば通り赤で描かれることが多い。運命でない相手と繋ぐ糸はほとんどが目に見えない。つまり恐らくは無色透明なのだろう。ただ私は思うのだ。人はその目にも映らない無色透明の糸にこそ生かされていると。

そもそも運命の赤い糸という言葉が気に入らない。運命だとか奇跡だとか呼ばれるものは考えようによってはすべてということばと同じ意味を持つと思うのだ。仮にすべての運命の中の選りすぐりのひとつを真の運命と呼ぶのだとしても、やはり私は頷けない。無色透明の糸の中にも運命の糸はあると思うからだ。

運命の赤い糸は人生において大きな柱となる。心を支えるたったひとつの大きな柱だ。ただそれと同じだけ運命の無色透明の糸が支える心もある。たったひとつと限らないこの糸が赤い糸を守ることもある。

詰まる所、そのすべての糸が運命の糸だと思ってやまないのだ。すべてが赤い糸であり、すべてが無色透明の糸なのだ。私と誰かを繋ぐ役割は同じで、それ以上も以下もないと、私は思うのだ。

テーマ「糸遊(@__no___limit)」

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