中田裕二、最新作『NOBODY KNOWS』で新境地開く

中田裕二 | 2018.04.10

 3月21日にリリースされた中田裕二の7作目『NOBODY KNOWS』は、バリエーションに富んだ曲で歌を聴かせる意欲作だ。新たな自分を見せたかったというだけに、新鮮な味わいはたっぷり。しかも大人が楽しめる隠し味もあり、「18禁の歌声」の名に恥じない作品に仕上がっている。「誰も知らないけど、こっちにいいものがあるよ」といった意味を込めて『NOBODY KNOWS』と名付けたという新作には、彼の思いがたっぷり詰め込まれているようだ。

EMTG:中田さんの作品はコンセプチュアルなものが多かったと思うのですが、今回はもしテーマがあるとすれば"バリエーション"なのかと思いました。
中田裕二:まさにそうですね。新境地というか、新しい中田裕二を見せていこうというテーマがありました。ずっとセルフ・プロデュースでやってきたんですけど、今回はひとと共同作業したり、アレンジもお願いしたりして、作り方を根本的に変えたりしましたね。そうすることで、ひとから見た自分の良さとか、自分の武器をどう引き出してもらうか、みたいなところが見えました。
EMTG:発見はありましたか。
中田:結構いろんなアレンジに合う声なんだなと思いました(笑)。対応力があるのかな。
EMTG:その中で、アレンジャーのTOMI YOさんとのコンビネーションが新鮮です。
中田:TOMIさんとは初めてなんですけど、TOMIさんは玉置浩二さんのアレンジを結構やっていて、僕は玉置さん大好きなんでアルバムのクレジットで名前を見ていて気になっていたんです。同世代だし、一緒にやったら面白いものが作れるんじゃないかなと思って、お願いしました。
EMTG:実際にレコーディングをして、いかがでしたか。
中田:すごく歌を重視する方なので、その辺の意思疎通はすごく取れましたね。「Nobody Knows」とか二人だけで作ってるんですけど、でも全然コンパクトに聴こえない。壮大な仕上がりになりました。
EMTG:バンド編成の曲では、奥野真哉さん(Kb)や白根賢一さん(Ds)などお馴染みのメンバーもいますが。
中田:初めましてのひとも多かったんですよ。キリンジのお二人(楠均:Ds 千ヶ崎学:Ba)とか。だから、結構新鮮な気持ちで録れました。
EMTG:楽曲制作の段階から、新たな試みをと考えていたんでしょうか。
中田:そうですね。歌詞とかメロディーもちょっと変えたり。今回、メッセージ・ソングが多いんですよ。僕、わりとメッセージ・ソングって書かないんですけど。恋愛の歌が多かったんで。今回は、生きるとは? 人生とは? みたいな曲が、比較的多めかな。
EMTG:メッセージ性は1曲目「Nobody Knows」から明確にありますね。生きづらいひとへのエールのように思いました。
中田:自分もどっちかというと世の中の波に乗れないタイプなので(笑)。でも今の時代、大きな流れに流されやすいというか、けっこう苦しい気持ちのひとも多いと思うんですね。そういうところも代弁したいというのもありますし。もともとロック・バンドあがりなんで、気持ち的にはどこかアンチな部分がずっと燻っていて。そこは基本的に変わらないですね。納得いかないところは、ちゃんと表現していくというか。
EMTG:子供へのエールを歌う歌はたくさんありますが、大人の社会もパワハラとかあって、大人も大変です。
中田:そうですよね。大人の方が背負ってるものが多いから。そういう人たちに、エールというか共有することができたらいいなと。90年代ぐらいまでは大人の背中を押す歌が多かったと思うんですよ。僕が大好きなCHAGE and ASKAとかそうだったと思うんです。大人の応援歌というか。そういうのが今なくなってきちゃってるので、そこは担いたいなあと思うんですけど。
EMTG:どの曲にもそうしたメッセージ性が織り込まれているんでしょうか。
中田:どこか皮肉めいた言い回しだったりね。タイプは全曲違うんですけど、今の空気の居心地の悪さとか、そこに対する何がしかの言葉は入れていますね。
EMTG:「ロータス」は綺麗な春の歌と思いましたが、蓮の花が咲くのは夏ですよね。
中田:これはロータスが持っている不思議な感じ、いろいろ悟った感じがあの花にあるなと思って、日本の美みたいなのを表現したかったんですね。
EMTG:確かにちょっとオリエンタルな感じがします。
中田:こういう楽曲はコンスタントに作っておきたいなあと思って。ロキシーミュージックの『アヴァロン』みたいなね。
EMTG:TOMIさんとの楽曲には、デヴィッド・ボウイやピーター・ゲイブリエルなどの、80~90年代の打ち込み感に通じるものがありますね。
中田:そうですね。TOMIさんとは同世代なんで、音選びをしながら何となくわかる(笑)。80年代のバンドあがりのシンガーの変身の仕方がいい意味で極端というか、バンドの頃を引きずらない。あの辺は凄い参考にしてます。
EMTG:「BLACK SUGAR」はバンド編成ですけど、やはり80年代的な印象があります。
中田:これはニール・ヤングだったりレッド・ツエッペリンだったり。そういう埃っぽいロック、もともと好きだし、最近中古レコードばかり聴いてるんですよ。そうしたらフォーク・ロックみたいなものに惹かれるようになって。このアルバム、意外にアコギを弾いている曲が多いんですよ。それはその趣味が出たかなという感じ。
EMTG:それとまた違いますが、「傘はいらない」はバート・バカラック的なイメージですね。
中田:(笑)まさにそうです。バカラックぽい曲やってみたいなって、昔から憧れてて。作家系の人たちの音楽が凄い好きで、ミッシェル・ルグランとかポール・モーリアとか、イージー・リスニング大好きなんで、一度やってみたかったんです(笑)。だからホーンズもバカラック風に低めの音でアレンジして。
EMTG:「静かな朝」は、中田さんらしいタッチで。
中田:R&Bのビートにシャンソン乗っけたらどうなるのかなと実験してみた曲ですね。凄い独特な雰囲気になって面白かったですね。
EMTG:「マレダロ」は挑戦的な歌ですね。
中田:教祖誕生みたいな(笑)。ロックンロールってそういう部分があるなと。ちょっと宗教的というか。そういうのを、ちょっとユーモアを交えて歌った曲です。歌詞が面白いんで歌ってて楽しいんですよ。この曲は昨年末のライブでも演奏したんですけど、今のバンドの勢いが出てると思います。
EMTG:「むせかえる夜」はイントロのスパニッシュ風ギターが中田さん。
中田:はい、指が痛くて一番しんどかったです(笑)。これは初期のジプシー・キングスみたいなことをやりたくて。あと生楽器で激しい曲をやるというのが楽しくて。アコースティック・ギターとかガット・ギターって幅広いというか、凄い繊細な感じもできるし情熱な感じも、エレキ・ギター以上に出せる。昔からラテン、好きなんですよね。ラテンと歌謡曲の親和性みたいなのって凄いあるなと思って。今までもちょくちょく作ってきてるんですけど、どこかエレキ入ってたりするんですけど、今回は全部アコースティック楽器、みたいな感じでいこうと。
EMTG:ラストの「オールウェイズ」ではハープも吹いて。
中田:頑張りました(笑)。最近はステージもちょっと吹いてますけど、レコーディングでは初めてでした。フレーズがなかなか決まらなくて、いっぱい吹いて辛かったです(笑)。この曲も自分の中のフォーク・ブームが来てるかなと。歌詞も日常感というか、日々を生きてる人に向けた曲になってます。
EMTG:打ち込みの「NOBODY KNOWS」で始まりカントリーフォーク調の「オールウェイズ」で終わる、改めてこの作品の触れ幅の広さを感じます。
中田:もっとやってもいいかなと思うぐらい。最近はいろんなタイプの曲をやらないとアルバムを作ってる気がしない(笑)。井上陽水さんや玉置浩二さん、ASKAさんとか、自分が好きなレジェンドの方はみんな振れ幅が広いので、それが普通というのもありました。みなさん、ジャンルがないんですよ。自分もどんどんそうなっていきたいなと思っていて。歌声がもう、どうしてもくどい感じになっちゃうんで(笑)、歌えば自分らしさは作れるのかなっていうところまでは来たような気がするんで。あとはどんだけいろんなタイプの曲を生んでいくかですね。
EMTG:ところで、この作品が完成するまでのドキュメンタリー映像作品『WHEEL TRACKS』がリリースされますね。
中田:ライブ映像は結構作ってきたんで、そうじゃないものを作ってみようということで。前作からの1年、どういう活動をしてこのアルバムにつながったか、見るとよくわかる。インタビューが多いんですよ。僕だけじゃなくてメンバーも。みんながどういう気持ちでこの作品を作っていったかがよくわかる内容になってます。

【取材・文:今井智子】




中田裕二
ドキュメンタリーDVD「WHEEL TRACKS」


WHEEL TRACKS
2018年4月25日(水)発売 TEBI-48513 / ¥4,500+税 / DVD

レア映像が満載、中田裕二 初のドキュメンタリーDVD

2017年3月に発売されたアルバム『thickness』の制作開始から最新アルバム『NOBODY KNOWS』の制作に至る、約1年間の軌跡を追ったドキュメンタリー作品となる本作は、レコーディングスタジオでの様子をはじめ、2017年の全国ツアー《TOUR 17 "thickness"》でのオフショットや同ツアーファイナルの東京・昭和女子大学人見記念講堂公演、中田の "ホーム" としてファンにはおなじみの東京・日本橋三井ホールでの恒例年末公演、これまでも映像化の要望が多かった弾き語りライブツアー《中田裕二の謡うロマン街道》京都・紫明会館公演の模様などがダイジェストで収録されるほか、椿屋四重奏時代の楽曲「幻惑」のセルフ・カヴァー含めた計3曲の撮り下ろしスタジオライブ、さらには自身の来し方行く末を語る最新インタビューなど、これまで公開されていないレア映像がふんだんに盛り込まれた見応えある内容。

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リリース情報

NOBODY KNOWS

NOBODY KNOWS

2018年03月21日

テイチクエンタテインメント

01.Nobody Knows
02.正体
03.ロータス
04.BLACK SUGAR
05.傘はいらない
06.静かな朝
07.マレダロ
08.CITY SLIDE
09.むせかえる夜
10.オールウェイズ

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お知らせ

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■ライブ情報

TOUR 18 “Nobody Knows"
05/10(木) 埼玉 HEAVEN’S ROCK さいたま新都心 VJ-3
05/12(土) 福岡 イムズホール
05/13(日) 熊本 B.9 V1
05/18(金) 京都 KYOTO MUSE
05/19(土) 静岡 SOUND SHOWER ark
05/26(土) 仙台 Rensa
06/10(日) 札幌 PENNY LANE 24
06/15(金) 大阪 BIG CAT
06/16(土) 名古屋 Electric Lady Land
06/28(木) 広島 クラブクアトロ
06/02(土) 東京 マイナビBLITZ赤坂
06/30(土) 鹿児島 CAPARVO HALL
06/09(土) 帯広 MEGA STONE
07/01(日) 福岡 イムズホール

"中田裕二の謡うロマン街道"
*中田単独による弾き語りツアー

06/23(土)沖縄 TopNote
07/07(土)松山 宝厳寺 本堂

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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