ビッケブランカ、メジャー1stシングル「ウララ」で自身初の春うた謡う

ビッケブランカ | 2018.04.17

「何を言ってるかがはっきりパーン!とわかる、ダサいぐらいに伝わるっていうことを目指した」という本作は、その1曲で世の中が染まってしまうほどの影響力や存在感を放つ歌謡曲が次々と生まれた、昭和という時代へのオマージュとなる作品だ。アルバム「FEARLESS」で見せた強烈な個性と才能を振りかざすことなく、どれだけシンプルに、真っ直ぐ、リスナーの耳に届けて心を奪っていくか――。シンガーソングライターとしてまたひとつ新しい扉を開け(軽やかに!)、もはや独走態勢に入ったと言っても過言ではないビッケブランカに、新作にまつわるアレコレを聞いてみた。

EMTG:今回は初めてのシングルということですが、表題曲の「ウララ」は季節感がかなり意識されていますね。
ビッケブランカ:昔は季節に密着したものを結構やっていたんですが、アルバム『FEARLESS』でそこから離れて音楽性に寄ってたので、もうちょっと自分らしいふれ合いやすいテーマ――サウンドがどうとかその根っこがどうとかじゃなくて、日常との親和性があるようなものをというところで、リリースする季節と一致させてみました。
EMTG:MVの世界観にも表れていましたが、ちょっと昭和テイストというか、いわゆるあの時代の歌謡曲が持っていたエネルギーみたいなものを感じました。
ビッケブランカ:そんなに重く感じないとしても、やっぱり記念すべき1枚目のシングルですからね。リード曲は特に、振り返った時に自分として恥ずかしくないもの、出来るだけのことはしておきたいなと思ってました。歌詞も、ふわっとした意味ありげなものじゃなくて、何を言ってるかがはっきりパーン!とわかる、ダサいぐらいに伝わるっていうことを目指したんです。そういう意味での正解がたくさんあるのが、僕にとっては昭和の時代の音楽で。たとえば「(歌いながら)また君に~恋してる~」のようなストレートな言葉が、結局いちばん胸に届くんですよ。それを、もう1回この時代に体現してみたかったっていうのはありました。
EMTG:生まれたのは平成元年でしたっけ?
ビッケブランカ:62年なので昭和の最後です。でも父親がフォークが好きで、フォークデュオの風、そこからソロになった伊勢正三さん、あとイルカさんとかとかいつも聴いてたんで、その時代の感覚はもう小さい時から刷り込まれてるんですよね。歌謡曲でいうと「木綿のハンカチーフ」の太田裕美さんとか、キャンディーズとか、ピンクレディーとか。当時子供だった自分にも意味がわかるようなものこそ素晴らしい、みたいなところから今回の歌詞は着想しました。
EMTG:「ウララ」は聴けば必ず春をイメージ出来るような歌ですが、よく見ると具体的な春の景色ってほぼ描写されてないんですよね。
ビッケブランカ:そうなんです。サビで歌っているのも、漢字ではなく”はる風”って表記になってるし。もちろん”春の風”かもしれないし、胸を”張る”風なのかもしれない。空が”晴れる”風とか、シャツがその風をはらんで帆のように張ってるってことかもしれない。いろんな風であれっていうことで、そういう表記にしたんです。最後の”春らしく笑顔で”ってところで初めて春が出てくるんですけどね。そこだけです。そういう歌詞の部分と、エレキギターの歪んだ汚い音を入れてないのが今回のこだわりです。アコギでジャカジャカやって、軽快でしなやかに聴こえるようにしてみました
EMTG:”去年のことは忘れませんか”という一節からは、先ほど名前の挙がったキャンディーズの「春一番」のニュアンスが伝わってきますね。
ビッケブランカ:実は僕、キャンディーズって詳しくは知らなかったんです。ディレクターから「春一番」を教えてもらって映像を見たんですけど、その時は曲よりも何よりもスーちゃん(田中好子さん)がこんな可愛い人がおんの! と(笑)。すぐ調べたんですけど、亡くなってるじゃないですか。やっぱりスターだったなと思いました。だけど俺の中での出会いと別れが早過ぎて、辛くて辛くて(笑)。
EMTG:お察しします(笑)。でも「春一番」は本当にいい曲ですよね。まさにさっき言われたストレートにものいう感じで。
ビッケブランカ:たぶん、あの時代って今ほど日本語の数が多くなかったんですよね。たとえば嫌な気分やしつこい人のことを「鬱陶しい」と言うけど、今は「ウザい」とも言うじゃないですか。「萌え」なんていうのは本当に最近出来た言葉。それに、サザンオールスターズがテレビで「勝手にシンドバッド」を歌った時に、何を言ってるか聞き取れないって苦情が来たのをきっかけに歌詞のテロップが出るようになったそうですけど、ということは、それ以前の歌はテロップなしで伝わる言葉じゃなきゃいけなかったと思うんですよね。つまりシンプルで、スッと入ってくる言葉じゃないとテレビではやっていけなかったから、当時の歌は”残る”し”強い”んだろうなって僕は思うんです。
EMTG:それくらいじゃないと、発信することすら出来なかったと。
ビッケブランカ:そうそう。それぐらい強い言葉じゃないと、発信するにふさわしくなかったんでしょうね。今はなんとなくの雰囲気で歌ってもテレビならテロップが入るからわかるけど、なかったらきっと、そんなの何言ってるか全然分かんないですよ。
EMTG:たしかに。でもこの曲は、言葉がしっかり伝わって来ます。
ビッケブランカ:サビの《おもひでひとつ/大人になって/去年のことは忘れませんか》。ここ。これなんですよ。「去年のことは」ってサビで言っちゃうなんて、ちょっとダサいわけですよ。今の時代の人間からしたら。僕からしても、もうちょっと捻れやって思う(笑)。でもこれが、捻らない良さなんですよ。
EMTG:耳を奪われます。
ビッケブランカ:そのぐらいのものにしたかったんです。でも正直、僕よりちょっと下の世代の人たちになってくると、この言葉が耳に届いたとしても「…で?」ってなっちゃう可能性もあると思うんですよ。もっと斜に構えた言葉とか、なんか意味ありげみたいなものの方が、(心にまで)入っていきやすいんだろうなって。耳に付くことと、(心にまで)入っていくことは別ですからね。この曲はここまでわかりやすい言葉とか表現をしているのでいろんな方の耳に付くといいなと思うけど、そこから先に入ってもらわなきゃ困るというか。「こういう言葉がみんなの中に入ることこそ素晴らしい」ってことに、また気付いてほしいんです。これ、伝わるかな(笑)!?
EMTG:斜に構えたほうの例えが書けたら、伝えやすいんですけど(笑)。
ビッケブランカ:(笑)。
EMTG:ちなみにこれ、完成して最初に聴かせたのはどなたですか?
ビッケブランカ:オカンですかね。デモの段階は全然ダメって言ってましたけど、完成したら「最高!今こんな曲書ける人、他にいない!」って言ってました(笑)。デモの段階ではいろんなこと言ってくるんですよ。ここはもっと伸ばせとか、ここは音程が取りづらいとか。オカンは音楽やっている訳ではないけど、音楽が好きで、僕に洋楽を教えた人。音楽の知識がないからこそ、一聴した印象をポーンと言ってくるから一番ためになる意見だったりはするんですよ。
EMTG:そんな風に、この「ウララ」がいろんな人の心を動かしていくといいなと思います。ではカップリングについても聞きたいのですが「今ここで逢えたら」も春の季節を描いた楽曲ですね。
ビッケブランカ:作ったのは19歳の時でした。歌詞も拙いし、ピアノも弾き始めなので簡単なことしかしてないのに、途中で突然ロックになったり、2回転調したりして訳分かんない(笑)。でも、あの時のデモをどこもいじれなかったんです。歌詞を書き換えるとアレンジの拙さが目立ってくる。ピアノを弾き直したら、歌詞の拙さが目立ってくる。均整がすごく取れてたんですよ、デモの段階のものが。なので、当時やっていたことそのまんまでリレコーディングしました。
EMTG:「Black Rover」はアニメ「ブラッククローバー」の主題歌として書き下ろされたものですね。
ビッケブランカ:アニメ側から出されたオーダーが、<ギターロックで、疾走感があって、悲壮感があるもの>だったんです。最終的に出来たものは(オーダーどおりに制作したので)あまりにもビッケブランカっぽくないということで、レコード会社的にはちょっとどうなんだろうって感じだったんですね。ものすごいギターロックだし、今までにないくらいの悲壮感だし。でもビッケブランカらしさなんてどうやったって出せるんだから、これでお願いしますって提出したんです。結局それでOKが出たんですが、今度は逆に、本当にこれでいいんですか!? ピアノマンなのに、僕らの意見のせいでビッケブランカさんらしさが失われてませんか!? と言っていただいて(笑)。ここはもう、全部忘れて好きなように作ってください! ってことになりまして。
EMTG:まさかそんな展開になるとは(笑)。
ビッケブランカ:10日あるのに4日で2パターンも出してくれたこと、ここまでオーダーに寄せてくれたその心意気だけで充分だということで、誠心誠意向き合った結果、先方も誠心誠意応えてくれたんです。それでピアノイントロになり、間奏にもピアノが出てくるけど、敬意を込めてギターもちゃんと鳴っている。しっかり期待に応えることで、先方もらしさを尊重してくれるという最高な過程を経て完成したんです。歌詞も、アニメを通して語る自分の思いとかではなく、アニメが表現していること、アニメが言いたいことを代弁するように書いていきました。
EMTG:「Get Physical」はMVも撮ったんですよね。
ビッケブランカ:自分で監督したんですけど、今回は画のかわいさで見せる感じ。使っている小道具は全部自分の家から持ってきたんですよ。テニスラケットもクッションもクマのぬいぐるみもXboxも(笑)。細かいところまで是非見てみてください。

【取材・文:山田邦子】

リリース情報

ウララ

ウララ

2018年04月18日

avex trax

1.ウララ
2.Get Physical
3.Black Rover
4.今ここで逢えたら

お知らせ

■コメント動画




■ライブ情報

ビッケブランカ ULALA TOUR 2018
06/29(金)[東京]SHIBUYA TSUTAYA O-EAST
06/23(土)[大阪]梅田Shangri-La
06/22(金)[愛知]名古屋ReNY limited
06/15(金)[福岡]福岡BEAT STATION
06/08(金)[宮城]仙台enn 2nd
06/01(金)[北海道]札幌cube garden

VIVA LA ROCK 2018
05/04(金)さいたまスーパーアリーナ

TOKYO CUTTING EDGE vol.01 supported by J-WAVE SONAR MUSIC
04/19(木)SHIBUYA TSUTAYA O-WEST

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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