THE ORAL CIGARETTES 曲が吹き出すというミラクルが起こったニューアルバム

THE ORAL CIGARETTES | 2018.06.13

 制作を諦めようと思ったら曲が降ってきた……それがTHE ORAL CIGARETTESの新作『Kisses and Kills』!
昨年の秋、メッセージ性の高い「ReI」という曲を発表したTHE ORAL CIGARETTES。これは2011年の東日本大震災について、バンドのソングライティングを担当する山中拓也(Vo・Gt)が自身の思いをぶつけたもの。大きなテーマに向き合う姿勢にはバンドの成長や自信が感じられた。その曲がニューアルバムにどんな影響を与えるのか……と思っていたのだが、最新アルバム『Kisses and Kills』を聴く限り、完全に別ベクトルの内容になったと確信。彼らの持ち味である“毒”は残しながらも、ライブを意識したアグレッシヴなサウンドと洗練されたメロディーが融合し、クセのある曲も絶妙にまとめられていたのだ。まさに“今のオーラル”が詰まったアルバムと言えるだろう。今回は、まさかの曲が吹き出すというミラクルが起った制作の裏側に迫ってみた。

EMTG:昨年の秋にライブで「ReI」という大きなテーマの曲が披露されてから、大きな反響がありましたね。ひょっとしたら、その後の制作に大きな影響があるかと思ったら、ニューアルバム『Kisses and Kills』を聴く限り、キッチリ分けて作られたのかなと。
山中:もうまったく別ですね。「ReI」に関しては『ReI-project』を立ち上げているので「ReI」は「ReI」っていう感じなんです。ただ、あの曲からはいろんなヒントをもらっていて、絶対にアルバムの最後に置きたいとは思ってました。そこからテーマを考えた時に、やっぱり未来のことを歌いたいっていう思いは「ReI」からもらったと思います。
EMTG:やはりそうでしたか。というのも、『Kisses and Kills』の収録曲の中にはオーラルらしい“闇”ソングもありましたからね。ただ、どれも非常にキャッチーに仕上がっている印象がありまして。去年、シングル「トナリアウ/ONE’S AGAIN」以降、拓也くんが吹っ切れたような感覚があったんで、曲もどんどんわき出たのかなと思ったわけですよ。
山中:……って思うんですね、やっぱり。
EMTG:あれ? 実際は違うんですか?
山中:実はアルバムに入っている曲達を作った制作期間はメッチャ短いんですよ。でも、そこに至る前までに生まれた曲が、全部ボツになったんです。
EMTG:なんと!
山中:全然納得がいかなくて。12月中旬くらいから本格的に作り始めて、1月中旬までのあいだに結構ボツになりましたね。メンバーにも聴かせてない曲が何曲もあって。その時点ではすごく難産やったんですよ。
中西雅哉(Dr):一歩踏み出した時点で気づく感じでしたね。拓也が“こんな感じで作りたいんやけど、何かイマイチやねんな”って言うんで“こんなアレンジどう?”ってアイデアをだしても“あ~、なるほどね~”って、なんか腑に落ちんみたいな反応で(苦笑)。あ、これはハマってないんやなって。
あきらかにあきら(Ba):中にはトータル6分くらいの曲で、前奏が2分くらいあって……みたいなカオスなのもありました(苦笑)。
全員:(大爆笑)。
鈴木(Gt):あ、宇宙の音から入るやつ?
山中:あったな! わははははは!
EMTG:どんなボツ曲だったんだろう(笑)。
中西:スペーシーな音を入れようとして、そこがメッチャ長くなったんです(笑)。
山中:で、途中からロックになるっていうな。
EMTG:そのスペーシーな曲、気になります。
山中:まぁ、一生聴くことはないでしょうね(笑)。で、もう難産過ぎてしんどくなっちゃって、アルバムを諦めようと思って、パソコンの電源も全部切って、ギターも片付けて寝ようとしたんですよ。“ゴメン、みんな”って思いながら(苦笑)。そうしたら、このアルバムに入っている曲達がいきなり降ってくるという事態が起きて……。
EMTG:そんなことってあるんですか!
山中:それが1月末くらい。そこからは安産でしたね。
EMTG:なるほど。そのせいか、コンセプトどうこうじゃなく、今のオーラルから生まれた曲がランダムに詰め込まれたような印象でした。
山中:そうですね。でも、最初は降ってきた楽曲全部を具現化したら、クセが強すぎるかもって思ったんです。それが3、4、5曲目(=「PSYCHOPATH」「Ladies and Gentlemen」「What you want」)なんですよね。曲にまとまりはなかったけど、こういう曲が作りたいって思って。そもそも、曲が降ってきた時にアルバム構成まで見えてたんです。ただ、「リブロックアート」の位置にもともと置いていた曲は、すごくクセがある曲で、その曲だけは入らなかったんですけどね。
EMTG:そもそも、寝る前に完成形が全部仕上がるってすごい状況なんですけど。
山中:30分くらい布団の中でアタマで想像して、メンバーLINEに1曲目から10曲目まで曲名入れて“アルバムできた!”って送りました!
EMTG:脳内でね(笑)。
山中:そこから雅哉に電話して“何やってんの?”って。そしたら“今、メシ食い終わったけど”って言うから“だったらウチ来れるだろうから来て”って。
中西:ジャイアンや(笑)。僕は友達とご飯食べ終わって家に帰る途中だったんですよ。だから“あ、行きま~す”って。まぁ、“アルバムできた”って言われても、何もわからない状態で行ったんでね。そこからは拓也のアタマから出てくる者ものをカタチにするっていう感じで。
山中:そうなんですよ。俺、ドラムの音って、アタマの中では鳴ってるんですけど、どうやって具現化するかわからないから、雅哉を呼んで“ズンタンツクタンツーッチキチッダーン♪”って言うんですよ(苦笑)。で、それを打ち込んでもらう作業が必要なんですね。だから雅哉がいないと始まらないんです。
中西:だからよく拓也が“この曲のドラムが……”って言った時はもう携帯でそのまま録音するんですよ。もう感覚で言ってくるんで、その音声を録音するんです。
EMTG:そんな作業から楽曲達が仕上がっていくんですね。ちなみに、さっき拓也くんが3、4、5曲目はクセがあるって言ってましたが、個人的にはこの辺ってすごくオーラルらしいと思うんですよ。でも、毒はあっても洗練されている曲達だなとは思いました。例えば「PSYCHOPATH」なんて、サイコパスに憧れちゃってるみたいな部分を風刺していても、すごくスマートに聴かせているというか。
山中:あ……わかってるんですね!
EMTG:伝わってきましたよ。「容姿端麗な嘘」も、嘘が多い世の中に対して考えさせられたり。いろんなことを思っているんだなって、ちょっと感じました。
山中:うん、俺自身も思ってますね、いろいろと。
EMTG:思っていることをズバッと言えるのは音楽をやってくれている人の特権だと思うので、純粋にいいなぁって思いました。ところで、メンバー間で歌詞の話はあまりしないんですか?
鈴木:歌詞の話から入ることは滅多にないですけど、“この曲はこういう世界観やから”っていうのはきいてます。
EMTG:そういえば、ギターのフレーズがより洗練されてきたように感じましたが……。
鈴木:ホンマですか? 今回のアルバムでは音色の研究とか勉強は結構しましたね。
EMTG:あきらくんはプレイに関して成長したと感じたことはありますか?
あきら:リズム隊として、雅哉といっぱい引き算することを覚えたなって思ってます。デモの段階でもぶっ飛んでた楽曲……それこそ3、4、5曲目ですけど、そこで雅哉と“どうする? 俺ららしくいっぱい音を詰め込むか、思い切って曲に寄せるか?”って話して。で、やっぱり曲に寄せた方が面白そうだったんで、ふたりでスタジオにこもって練ってました。
EMTG:どうやら3、4、5曲目にすごく焦点が当たっていますが、ここで恒例の“自分的に気になるアルバム曲を1曲ピックアップ”……していただこうかと思います! では、まさやんから!
中西:4曲目の「Ladies and Gentlemen」が気になりますね。この曲はホントにシンプルなので、前までの僕やったらここまでシンプルにすることに不安を感じて、もっと手数を増やしちゃうんやろうなって思うんですよ。でも去年、拓也が聴いてきたようなHIPHOPとかいろいろ聴いて、シンプルな曲のカッコよさと、説得力って何やろうっていろいろ考えてたんです。拓也自身から出てきたものをナチュラルに具現化するスタンスに変えてた部分もあったからこそ、このシンプルさをカタチに出来たのかな。ある意味、引き算のレベルアップを学べました。なんですけど、レコーディングが終わった今の現状で、この曲の難しさをメチャクチャ痛感してて。
EMTG:自分でハードルを上げてしまったんですね。
中西:そうです。それを今、消化中です。
あきら:俺は「容姿端麗な嘘」かな。最近ライブでやり始めたんですけど、珍しくスラップ始まりっていうのもベーシストとして嬉しかったし、要所要所でいろんな要素が入っているんで、要チェックです♪
EMTG:急にラッパー風な(苦笑)。この曲、ライブで盛り上がるでしょうね。
あきら:そうですね。サビのかけ合いもあるし、すでに盛り上がってますよ!
鈴木:僕が気になっている曲は「リブロックアート」ですね。ギリギリまで試行錯誤していたし、アルバムに入るのかどうもわからなかったので。で、結局アルバムに入ることになって、デモからプリプロに入るタイミングで拓也からは“もっとリフを再構築して欲しい”って言われたんですね。でも、その場で考えたリフは採用されず。それって悔しいじゃないですか。だからレコーディング前日まで、パソコンでパターン作って拓也に送ったりして、ホントにギリギリまでやっていた思い出がつまった曲ですね。
EMTG:ギリギリまでやった結果、当日びしっと決められたわけですね。
鈴木:しかも「リブロックアート」のレコーディング当日、スタジオで隣に座っていたあきらが、“そこさ、こうタッピングいってみぃひん?”ってその場で言ってくれて。結構ムチャ言うなとは思ったけど、頑張って弾いてみました。
EMTG:そして、拓也くんは?
山中:「What you want」かな。何かを発明できたなって感じる曲ですね。サウンド的には洋楽を意識して作ったんです。だから、上に載せるメロディも洋楽の英語の歯切れのよさを乗せた方が気持ちいいんじゃないかと思って。でも、それは洋楽に任せておけばいいし、オーラルでこれをやる意味って何だろうって思ったら、メロディの哀愁をしっかり残した上でこのサウンドに乗せるべきかなと。結果、このメロディになったんです。なんかひとつ新しい音楽ができたんじゃないかなって思いました。オーラルでしか絶対作れないな、この曲って。ホントにより自由にって感じですね。
EMTG:さて、夏はすさまじくフェスのスケジュールが入ってまして。そのあと、アルバムを掲げたツアーが9月からスタートしますね。年末から来年にかけてはいよいよアリーナツアーも決まっていますが。
山中:まず、単純にワクワクしてます。アリーナツアーもあるし、ライブハウスシリーズも回ったことのない場所に行けたりするので。あと、『Kisses and Kills』は自分達のリミッターを外すために作った楽曲ばかりなので、ライブで自分らがどんなパフォーマンスできるのか楽しみだし、普通にライブって楽しいなって言って毎回終わる気がするんですよね。だから、いつもよりもっと自由に楽しくまわっていこうかなって思ってます。
EMTG:アリーナの締めくくりは3月17日の横浜アリーナですけど、横アリのイメージってどうですか?
山中:横浜アリーナって武道館の次のフェーズっていうイメージがあるし、武道館で終わらないバンドになってきたのかなって。
中西:横浜アリーナでライブをすると、その近辺の飲食店がその日のアーティストのイベントをやるじゃないですか。
EMTG:あ~、やりますね。半券持ってると安くなったり、アーティストの映像流したり。
中西:俺らの時もやってくれるのかな~って思って。それが楽しみです!

【取材・文:海江敦士】

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リリース情報

Kisses and Kills

Kisses and Kills

2018年06月13日

A-Sketch

01もういいかい?
02 BLACK MEMORY
03 PSYCHOPATH
04 Ladies and Gentlemen
05 What you want
06トナリアウ
07リブロックアート
08 容姿端麗な嘘
09 ONE’S AGAIN
10 ReI

お知らせ

■コメント動画




■ライブ情報

<Kisses and Kills Tour
Live house series 〜Directly to various places〜>

09/18(火)[東京]Zepp Tokyo
09/20(木)[愛知]Zepp Nagoya
09/21(金)[大阪]Zepp OsaBayside
10/7(日)[広島]BLUE LIVE 広島
10/9(火)[京都]KBSホール
10/11(木)[新潟]新潟LOTS
10/13(土)[富山]クロスランドおやべ
10/18(木)[宮城]仙台GIGS
10/20(土)[北海道]Zepp Sapporo
10/23(火)[秋田]秋田Club SWINDLE
10/27(土)[鳥取]米子コンベンションセンター BiG SHiP
10/29(月)[熊本]熊本B.9 V1
10/31(水)[山口]周南RISING HALL
11/1(木)[香川]高松festhalle
11/3(土)愛媛]松山市総合コミュニティセンター
11/5(月)福岡]福岡DRUM LOGOS

<Kisses and Kills Tour 2018-2019
Arena series 〜Directly in a wide place〜>

12/8(土)[愛知]日本ガイシホール
[2019]
01/26(土)[兵庫]神戸ワールド記念ホール
02/11(月)[福岡]福岡国際センター
03/17(日)[神奈川]横浜アリーナ

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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