来年メジャーデビューを控えた湯木慧が語る、ニューアルバム『蘇生』

湯木慧 | 2018.10.22

 来年メジャーデビューすることを発表した湯木慧が、インディーズ最後となる作品を作り上げた。タイトルは『蘇生』。現在は廃盤となり、入手困難となっている自主制作盤の音源のリメイクを軸に、ライブで披露されている未収録曲などを収めたアルバムだ。アコースティックバージョン、弾き語り、そして湯木 慧本人が敬愛する5人のクリエイタ――MI8k、Picon、Sasanomaly、Yamato Kasai(from Mili)、佐藤洋介とのコラボレーション。蘇生されたのは廃盤になったCDの音源だけでなく、彼女自身の感情の蘇生でもあったという本作の制作過程を聞いた。

EMTG:ニューアルバム『蘇生』、素晴らしかったです。
湯木慧:ありがとうございます。じつは来年メジャーデビューすることが決まったのですが、その前に、廃盤になった3枚の自主制作盤の音源も含めて、もう一度自分が作ってきた音楽にきちんと向き合っておきたいなと思って作ったのがこのアルバムなんです。これまでに発表した音源をいろんなクリエイターの方と一緒にリメイクしたり、弾き語りアレンジにしたりしてみました。
EMTG:こういった形の作品は、そもそも出したいと思っていたんですか?
湯木慧:デビューの話が決まる前から、考えてはいました。今年6月に20歳になったんですが、10代の総集編として何かしらの形で出せたらいいなって。
EMTG:単純に、廃盤になった音源の蘇生という意味だけではないそうですね。
湯木慧:はい。高校を卒業して、進学して、今は音楽の活動だけになったんですけど、以前は当たり前のようにあった感情の作用っていうものがなくなってしまったんです。学校に行けばいろんなことを感じて曲になってたし、出会いや別れもたくさんあって、そこからも自然と曲が生まれてた。感じたことを素直に曲にしていることが当たり前のような毎日だったけど、それがなくなって、自分がどうやって曲を作っていたかわからなくなってしまったんです。すごくモヤモヤしてた。やらなきゃいけないこともあるし、インプットしに行かなきゃいけないっていうのはわかってたけど、ずっと靄がかかったような感じだったんです。それで、実はこのアルバムのレコーディングの真っ只中だったんですが、2週間くらい大分に行ったんですよ。そこであったいろんなことによって、自分の感情も蘇生したんです。
EMTG:大分には、湯木さんの親戚のお家があるんでしたね。
湯木慧:実際に泊まっていたのはそこじゃないんですが、いろんな出会いや気付きがありました。今までもそのモヤモヤを晴らすために、少しずつやってはいたんです。留学のための交流会に通ったり、そこで知り合った海外の子と話したり、新しい友達が出来たりもしたんだけど、それくらいの行動じゃ何とも思えなくて。こうじゃないなぁって、またさらにモヤモヤしたりしてたんです。でもこの2週間は、本当に大きかった。実際に曲も出来たんですけど、曲を作ることが大事だったわけじゃなくて、”気付く”ことが大事だったんですよ。そのことに気付かされたんです。
EMTG:というと?
湯木慧:今回行ったところは、もう第2の故郷と言えるくらい大事な場所になったんですね。過疎化が進んでいる村だったけど、地域の人達がみんな親や兄弟のように接してくれて、いつも私の帰りを待っていてくれていたんです。すごく大切だと思えるような人達と出会えた。私の感情が揺さぶられるのは、そして私の中でエネルギーが生まれてくる源は、こういうことなんだって気付けたんです。そういう出会いをこれからもしていかないといけないだ。じゃあ、そのためには?――感情を取り戻さなきゃって、焦って留学センターに行ってみるとかそういうことじゃなかったんですよね。
EMTG:なるほど。
湯木慧:でも考えてみたら、今まではそういう出会いを”しよう”とか”しなきゃ”じゃなかったんですよ。自然と出来てたんだってことにも気付いたんです。その感情の変化はすごく大きかった。取り戻したとか蘇ったとかじゃなく、ただ気付いただけなのかもしれないけど、私にとってはこれも蘇生だったなと思ったんです。
EMTG:その後、アルバムの制作に戻ったんですよね?
湯木慧:はい。後半に収録されている弾き語りの曲を録り終わって大分に行き、帰ってきてから、前半にあるアレンジャーさん達との曲に取り掛かりました。だから今回の弾き語りの曲って、それがいい悪いじゃなく、ちゃんとモヤモヤした感じが歌に残ってるんですよね。だけど大分で蘇生して、心の持ちようが変わったことも前半の歌にしっかり出てる。音源の蘇生であり、感情の蘇生でもあるんですが、湯木慧としての蘇生も目に見えて出来ているCDになったなと思いました。
EMTG:アルバム前半に収録されている楽曲は、湯木さんが注目しているクリエイターの方とのコラボレーションになっていますね。
湯木慧:今までは自分である程度まで打ち込みで形にして、アレンジャーさんに膨らませていただくことが多かったんですが、アーティストとアーティストという立場で一緒に作るということをしてみたかったんです。すでに一度音源として形になっているものを第2の形にするため、アレンジャーさんを誰にするか考えてマッチングさせるというのも創作のひとつだなと思ったので、自分で考えて決めてオファーさせていただきました。ひとりひとりにお手紙を書いたんですけど、細かいことを指示出来るほどの技術もないので、愛だけを伝えて(笑)。曲のコンセプトやどうして生まれたかというようなことはお伝えしましたが、あとはもうお任せして出来上がってきたのが今回のアレンジなんです。
EMTG:5人5様の個性がしっかり音に表れています。
湯木慧:あえて、デコボコな感じにしたかったんですよ。これまでは2人のアレンジャーさんと作ってたので、1枚通して聴きやすい感じになってたと思うんです。ミックスも全曲同じ方だったので、すごくまとまりがあった。でも今回はアレンジャーさんもミックスの方も違うから、廃材置き場じゃないですけど、ゴチャゴチャいろんなものがあったらいい感じになるんじゃないかなと思ってたんです。曲によってはアレンジャーさんがボーカルのレコーディングに立ち会ってくださったということもありますが、自分も大分で蘇生した後だったので、結果的には歌にもこれまでにない、いろんな表情が出てると思います。
EMTG:湯木さんが19歳の誕生日に作った「存在証明」(※ここでは「ソンザイショウメイー弾き語り」)も、全然違う気持ちだったのでは?
湯木慧:違いました。曲を作った時は自分の中でいろんなものが沸沸としてる中でのレコーディングだったんですが、学校もやめて、20歳になって、いろいろと経た後の感情で歌うと、歌詞に込めてた思いも、歌い方も、全然違ってました。どの曲もそうだけど、今の自分が歌う歌というものを感じながらのレコーディングでしたね。もっと感情的に!もっと伝える!ではなく、少しだけ視野を広くして、包むように、寄りそうように、そんな風にも歌えるようになった気がします。
EMTG:細かく聴いていくと、元の音源とは歌詞が少し変わっている部分もありますね。
湯木慧:たとえば「イチゴイチエ」は、アルバム「決めるのは“今の僕”、生きるのは“明後日の僕ら”」では<少しだけ勇気出して 今、ありがとう>と歌っているんですが、ここでは<あなたに今伝えよう ただありがとう>になっているんです。これは、この曲を書いた時の最初の歌詞。「カゲ」も少し変わってます。
EMTG:リメイクしたり、歌い方を変えたり、歌詞を変えたり。いい意味で、曲との距離感が取れるようになったのかなと感じました。
湯木慧:そうかもしれないです(笑)。以前は音楽としてどうとかより、生み出した時の沸沸とした感情だけで「うぉーっ!」ってなってたけど(笑)、学校をやめて、沸沸と湧き上がるものがなくなった。モヤモヤしてたけど、いいタイミングで蘇生出来て、周りを見られるようになったんですよね。視野が広がった。自分の作ったものとの距離感も取れるようになったんです。生み出すという感情を見失って不安だったけど、だからこそ出来たこの作品を、今「いいじゃん!」って思えてる自分がいる。モヤモヤの中で迎えた実際の誕生日よりも、このアルバムを作れてやっと本当の20歳になれた気がするし、メジャーデビューという次なるステージへ、自分自身を送り出せるような作品を作れたと思います。

【取材・文:山田邦子】

tag一覧 アルバム 女性ボーカル 湯木慧

リリース情報

蘇生

蘇生

2018年10月17日

living,dining&kitchen Records

1.キズグチ reborn by MI8k
2.ニンゲンサマ reborn by Picon
3.キオク reborn by Sasanomaly
4.カゲ reborn by Yamato Kasai(from Mili)
5.ミチシルべ reborn by Yosuke Sato
6.ソンザイショウメイ - 弾き語り -
7.ヒガンバナ - アコースティック -
8.ナナジュウヨンオクノセカイ - 弾き語り -
9.モウジョウミャク - アコースティック -
10.イチゴイチエ - 弾き語り -
[BONUS TRACK] ハートレス - 路地裏録音 -

お知らせ

■ライブ情報

アルバム"蘇生"リリース記念 アコースティックインストアミニライブ
10/26(金) タワーレコード新宿

ワンマン個展ライブ「残骸の呼吸〜大阪編〜」
11/24(土)Bodaiju Cafe(ボダイジュカフェ)

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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