幅広い音楽ルーツと独自の美学で感覚的に作り上げたPELICAN FANCLUB待望のメジャーデビュー作

PELICAN FANCLUB | 2018.11.06

 「少年たちはただカルチャーになりたいだけ」ーー直訳すると、そんなタイトルをつけた、PELICAN FANCLUBのメジャーデビューミニアルバム『Boys just want to be culture』がリリースされる。これまでインディーズ時代にリリースしてきた作品では、ドリームポップやシューゲイザー、ポストパンクなど、海外の音楽シーンから受けた影響を、独自の方法論で自分たちのロックへと昇華させてきた彼ら。今回の作品は、とにかく自分たちの感性を信じて、感覚的に作り上げた初めての作品だという。結果、収録された全8曲がバランスよく多方面に広がったことは、いかに彼らが幅広い音楽的なルーツをその根っこに持つかを如実に伝えるものだ。以下、ボーカルのエンドウアンリ(Vo&Gt)には、そんな今作の成り立ちについて訊いた。その独特の言葉の端々からエンドウ流の美学とバンド論が伝わればと思う。

EMTG:PELICAN FANCLUBだからこそ表現できるものは何なのか。それを全8曲にバランスよくパッケージした、デビュー作に相応しい1枚だと思いました。
エンドウ:でも、今回あんまりバランスとかは考えてないんですよね。
EMTG:そうなんですか?
エンドウ:いままでだったら、全部考えながら作ってたんですけど。
EMTG:前作『Home Electronics』は、特にそういう作品でしたね。
エンドウ:でも、今回は感覚的なものを大事にしたんです。いちばん最初に出したミニアルバムは6曲入りだったんですけど、それは「6」である必要性があったんですね。6曲の美しさがあった。でも、今回は乱数な感じがいい。気持ちも含めて。純粋に「これが気持ちいい」って思える感覚的な部分を大事にしました。
EMTG:むしろ整えない美学というか、偶然が生むものが良かった?
エンドウ:そう、自然な感じがいいなと思ったんですね。「木」みたいな感じですよね。“なんで年輪ってあんなかたちなの?”……いや、年輪には理由があるか。“なんで雲ってああいうかたちなの?”ぐらい、ランダムな感じがよかったんです。
EMTG:今回、感覚的なものを求めた理由はあるんですか?
エンドウ:いろいろなことが重なりましたね。メンバーの脱退もありましたし、メジャーっていうのもありましたし。あと、自分の生活において、制限することが多かったんですよ。何かを禁止すると、そこから解放されるときに自由を感じるんですよね。いままでは作品ごとにコンセプトがあったけど、それを外して、ただ自分が気持ちいいと感じる音階、ビートだけに頼って構築していくと、どうなるんだろう?っていうのが気になったんです。だから、そのときに気になるものに対して、共感覚で作った作品ですね。数学だったら、青色みたいなイメージが共感覚的に自分の中にはあって。それと同じように、いま自分が思ってる喜怒哀楽を表現するのは、こういう音だっていうことを大事にして作ったんです。
EMTG:ちなみに生活のなかで禁止しているものって何なんですか?
エンドウ:リリースの日まで、僕、コーヒーとお菓子を禁止してるんですよ。
EMTG:ダイエット……は必要ないですよね?
エンドウ:ダイエットとかじゃないんです。「なんで、こういうことをしてるの?」って、よく訊かれるんですけど、理由はないんですよね。何かを制限しているからこそ見えてくるものがあるんですよ。
EMTG:制限することで見えてくるものというのは?
エンドウ:うーん……末端から見たほうが、物事がわかるというか。音楽のジャンルもそうだと思うんですよね。全部のジャンルを知っているからこそ、この音楽はどういう立ち位置だっていうのがわかるじゃないですか。その逆もあると思うんですよ。自分はこういうジャンルが好きで、こういう音楽が好きだから、こういう性格で、とか。それをわかったうえで、何も制限をせずに作ることで、むしろ自分のルーツを出せる。そういうものが今回の作品には隠しきれずに出てると思うんですよ。意図的に計算しなかったことで、自分が潜在的にいいなと思えるものが自然に出てる、というか。
EMTG:禁欲しているぶん、音楽に対する欲望には忠実になれたってことですか?
エンドウ:そう、ここで大解放しました(笑)。
EMTG:今作がメジャーデビュー作であることは、作るうえで意識しましたか?
エンドウ:メジャーデビューを意識したというより、世界にいる生き物のなかで僕はひとりしかいないということを改めて考えました。
EMTG:そういうことを考えるようになったきっかけはあります?
エンドウ:いままで何枚か作ってきて、ジャンル的に多様性に富んでるとか、いろいろ言われるんですけど、もうジャンルは「エンドウ」でいいなと思ったんですよね。1曲ごとがどうとかじゃなくて、「PELICAN FANCLUBだよね、これ」って言われるアルバムにしたかったんです。だから、けっこう大袈裟な話に言えば……歴史上の人物になれるぐらい、唯一無二になりたいんですよ。
EMTG:でも、昔はエンドウくん、そういう熱いことを言わなかったですよね。
エンドウ:うん、たしかに。
EMTG:このあいだ、渋谷WWWのライブを見たときも思ったけど、バンドっていうものに対して、かなり意識が変わってきたと思うんですよ。なんと言うか、滾ってますよね。
エンドウ:うんうん、滾ってますね。それも禁じてるからこそ出るんですよ。誰でも経験してると思うけど、テスト期間中に何かを禁じられると、むしょうにゲームをしたくなったりする。それが僕にとっては、音楽をやること、ライブをやることなんです。
EMTG:いや、でも禁じてるからだけじゃないでしょ? そのメラメラした想いは。
エンドウ:たぶん……メンバーそれぞれのビジョンを明確に共有できたからだと思います。いま、メンバーが見てるものが一緒なんですよ。でもスタート地点は違うんですよね。みんなルーツは違うから。さっき「エンドウはひとりしかいない」って言ったように、カミヤマリョウタツ(Ba)も、シミズヒロフミ(Dr)もひとりしかいないから、それぞれの部門で輝きたいんです。で、メンバーが脱退したことで(※今年2月にギタリストが脱退)、僕はギターでも輝きたいと思うようになったんです。
EMTG:ギタリストが抜けたぶん、ライブでもサポートを入れないで、エンドウくんがギターボーカルとして、リードギターも演奏するようになってますもんね。
エンドウ:自分のなかではギターが勢いづいてますね。いまはもう歌以外の楽器は3つしかないから、それぞれが目立ちたい。そこに滾る部分があるんですよね。あんまり使いたくない言葉なんですけど、意識が高いんですよ、いま(笑)。探求心がすごい。だから、やりがいもあるし、生きがいになるし。バンドが人生のすべてになってるんです。
EMTG:うん。その感じ、ちゃんと伝わってます。
エンドウ:良かった(笑)。
EMTG:今作は3人のPELICAN FANCLUBとして初めて作った作品でもあるわけじゃないですか。そのせいか、すごくバンド感も強く出たなと思ってるんですけど。
エンドウ:ああ、わかります。結果として、いまの3人にピッタリの曲になったと思いますね。「Telepath Telepath」は、アマチュア時代のデモCDに入ってた楽曲ですけど、それがいまの3人にピッタリだったから収録するっていう経緯がありましたし。前作の『Home Electronics』だったら、けっこう音を重ねることもあったんですよ。今回も重ねてますけど、3人のベーシックな演奏感を崩さずに彩りを豊かにするっていう最低限の重ね方なんですよね。それが、いまのPELICAN FANCLUBがかっこよく見えるアレンジなんです。
EMTG:「Telepath Telepath」みたいな初期の曲を掘り返してみて、気づいたことはありましたか?
エンドウ:ものの捉え方がブレてないなと思いました。喜怒哀楽を感じたときに、わりと大きいものに例えるんですよね。昔の作品で言うと、「Luna Lunatic」とか「ガガ」とか。宇宙規模で捉えたいんですよ。なんで大きいものを対象物にするかって言うと、みんなが共通して知ってるものだから。誰のものでもないのがいいんですよね。誰も取り合わない。そういう存在って、すごいなと思う。でも、僕は太陽も私物化したいんです。それを歌詞に登場させることによって、ものにしてる感覚があるんですよね。宇宙の果てを想像すると、失神しそうになるというか、クラクラする。そういう感覚を共有したいんです。今作も、それに近いところはあると思いました。そういうところがブレないからこそ、今作はPELICAN FANCLUB、というか、エンドウという人間がわかる作品だなと思います。
EMTG:「Telepath Telepath」の≪地球でしか住めない生活は/さよならだ≫っていう歌詞なんかも、昔の「ダダガー・ダンダント」あたりを思い出しますしね。
エンドウ:似たようなことを歌ってるのだと、今作に「ヴァーチャルガールフレンド」という楽曲があるんですけど。画面越しの人ではない……キャラみたいなものにときめいてしまった気持ちを歌ったんです。それも対象物が無機物なわけですよね。それに恋してしまう事実って、ちょっと不気味に思ったんですよ。「何してるんだろう?」って。たとえば、いまAIが発達して、人型のリアルな機械と一緒に過ごせるようになったときに、それを壊さなきゃいけないってなったら、「壊したくない」っていう人も出てくると思うんです。
EMTG:スティーヴン・スピルバーグの近未来みたいな世界。
エンドウ:そうです、そうです。その前兆だと思っちゃって、書いたんですけど。その対象が、前作までは月とか地球だったんです。
EMTG:AIに象徴されるような、対・生身の人間ではないコミュニケーションに対して、どこか皮肉みたいなものを表現したい部分はあったんですか?
エンドウ:ありましたね。あんまり外に出ない時期があって。パソコンと向き合うことが多かったんですよ。僕はモノに対する愛着はきれいだと思うんですけど、どこか怖いなと思うところもあるんですよね。昔、「記憶について」っていう曲でも、目に見えないものを人のように扱っちゃうことへの怖さを書いたんですけど。そういう危機感もありつつ、ラブの対象が人ではないだけで、できた曲はラブソングだなと思うことが多いんです。僕は、人でないものに対しての愛も素敵だと思ってるわけですよ。ただ、それが当たり前になってるのが、不思議というか。だって、いまの小さい子って、引っ越しするのに、「Alexa(AIアシスタント)も引っ越すの?」って聞くらしいんですよ。完全にAlexaを人のように扱ってますよね。
EMTG:へえ、人と無機物の境目がないんですね。
エンドウ:そう、だから自分はそこに境目を感じてるわけだから、この自分が思った体験談を歌いたいなと思ったんです。それも感覚ですけどね。「こういうことを伝えたい」じゃなくて、「僕はこういうことを思ってる」っていうだけなので。
EMTG:話を訊いてて思ったんだけど、エンドウくんは、どうしてそんなに自分の感覚を信じて、曲を作ることができるんでしょう?
エンドウ:もともと僕はコンプレックスばかりで、自信がない部分が多いんですよ。鏡が嫌いで、部屋には絶対に鏡を置かないんです。そういうコンプレックスがあるなかで、自分を表現するときに、なにか説得できるだけの知識が必要だなと思ったんですよね。で、僕は音楽が好きなんだなって心から思うんですよ。そのジャンルだったら、金字塔となる作品を何枚か取り上げて、本を作れるぜ、ぐらい好きなジャンルがあるんです。
EMTG:その好きなジャンルもいっぱいあると思うけど、たとえば、いま話しながら思い浮かべてるのは?
エンドウ:コクトー・ツインズがいちばん好きですね。ジャンルっていうより、バンドですけど。何回も聴いてるのに、なんでこんなに毎回ゾッとするんだろう?っていうバンドが多いんですよ、僕が好きなのは。そういうのを好きな自分を知ってる。で、周りの同年代のバンドを見て、いろいろなバンドがいるのも知ってる。そのうえで、このバンドを好きな自分を誇れているんですよね。そうやって自分が崇拝するアーティストの美味しいところは全部押さえているつもりだから、僕が自然に生み出すものって、結局それなんですよ。
EMTG:ええ。
エンドウ:で、さっきの質問の「なんで信じられるのか?」っていうことへの答えで言うと、毎日作曲をして、昨日作ったものを今日聴いたりすると、「あ、自分ってこういうのが好きなんだ」っていうことが毎日起こるんです。ルーツ見え見えじゃん、とか(笑)。で、「なんで自分はこんな良い曲を作ったんだろう?」とも思うんですよ。それが自信になっていったんだと思いますね。最初は、「恥ずかしいものを作ったな」と思ったりもしたけど、直観的にいいと思うものをかたちにしていくことで、これは僕にしかできない発明だ、エンドウっていう人間はひとりしかいないっていうことを、信じられるようになったんです。
EMTG:なるほど。このメジャーデビューのタイミングで、それだけ自分を疑わずに作品を作れたのは、インディーズ時代に1枚1枚、試行錯誤してきた結果でもあるわけですね。
エンドウ:うん、その文脈はありますよね。それプラス、メンバーとの信頼関係を築き上げられたっていうのが、いちばん肝になってると思います。だから、今回はメンバー同士の良いところを知らしめたいんです。カミヤマとシミズのことを信頼して、この人たちの才能を知らせたいとも思ってる。それは、みんな三者三様に思ってるので。いまのPELICAN FANCLUBは、いままででいちばん良い状態なんじゃないかなと思います。

【取材・文:秦 理絵】

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リリース情報

Boys just want to be culture

Boys just want to be culture

2018年11月07日

Ki/oon Music

1.Telepath Telepath
2.ハイネ
3.ハッキング・ハックイーン
4.ヴァーチャルガールフレンド
5.アルミホイルを巻いて
6.VVAVE
7.to her
8.ノン・メリー

お知らせ

■ライブ情報

PELICAN FANCLUB TOUR 2018
11/09(金)福岡Queblick
11/11(日)香川DIME
11/14(水)愛知UPSET
11/15(木)大阪JANUS
11/17(土)広島4.14
11/19(月)宮城enn 2nd
11/26(月)北海道COLONY
11/29(木)金沢VAN VAN V4
12/05(水)東京SHIBUYA CLUB QUATTRO

マカロックツアーvol.6〜甘すぎた青春の忘レモン篇〜
11/16(金)神奈川横浜BBストリート
11/23(金)愛知名古屋ロックンロール

yo asa live event
12/13(木)東京下北沢THREE

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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