中田裕二 8th Album『Sanctuary』

中田裕二 | 2019.05.14

EMTG:前作『NOBODY KNOWS』リリース直後から曲の準備をして新作に望んだそうですが、アルバム・タイトル『Sanctuary』と同題の曲は、それ以前からあったそうですね。
中田裕二:そうなんです。「サンクチュアリ」という曲は3年ぐらい前にあって、レコーディングも半分ぐらいしていたんですけど、その当時のアルバムには、なぜだか合わなかったんですね。なぜかしばらく蔵に入っていて(笑)。
EMTG:今回ようやく日の目を見てアルバム・タイトルにもなったのは?
中田:今回のアルバムのコンセプトである「聖域」は、この曲から来ているんですけど、このアルバムの雰囲気にぴったりの言葉だなと思って。どこにもない、自分だけの、自分らしくいられる場所、といったイメージが、アルバム全体としてあったので。
EMTG:それは中田さんご自身のことですか?
中田:個人的にもですし、世の中的にも、自分の空間が作りづらい時代だなあと思って。
EMTG:中田さんのサンクチュアリは、どういう場所でしょう?
中田:僕のサンクチュアリは居酒屋なんです(笑)。一番心落ち着ける場所ですね。ヴァーチャルな空間じゃなくて、人間たちが集う、とてもアナログな場所。
EMTG:今お話を伺っているのは有楽町ですが、この辺りとか新橋とかも居酒屋さん多いですよね。
中田:大好きです、しょっちゅう来ますよ。
EMTG:そうなんですか!お洒落なバーとかで飲んでいるようなイメージを勝手に抱いていましたが。
中田:そういうお店もたまに行きますけど、緊張します(笑)
EMTG:サンクチュアリ、聖域というと、入ってはいけない場所のようなイメージもありますね。このアルバムは、そういったイメージで描かれたんでしょうか。
中田:曲は、君だけが僕のサンクチュアリ、みたいな書き方をしているんですけど、そこまでこだわったわけではなくて。作品の中心がこの曲というわけでもなく、むしろきっかけというか。
EMTG:サンクチュアリという言葉から作品の全体像が生まれていったんですね。
中田:そうですね。今って、どんどん情報がプライベートに立ち入ってくるじゃないですか。その中で、誰も知らない、立ち入れない場所、自分の絶対的な居場所を確保するのが難しい時代だなと思うんです。だからこそ、そういう聖域が欲しい。「サンクチュアリ」はそういう感じの曲なんです。それがアルバムの世界観と繋がったんですね。
EMTG:アルバム『Sanctuary』のテーマの一つに”リリシズム(叙情性)”があるそうですが、叙情性は中田さんの楽曲には普遍的にあるものだと思えます。”サンクチュアリ”が、現代社会の一面をシリアスに描いているからこそ、それを伝えるために叙情性に重きを置かれたのでは?
中田:そうですね、リアルな社会性みたいなメッセージは書けないんですよ、性格的に。何か人間の温もりを感じたいところがあるのかもしれない。伝えたいことはあるけれど、それをダイレクトに表現するのではなく、ムードとか空気感で伝えたいんですね。人間のいるところにいたいというか。世の中どんどんアナログな感じがなくなっているので。
EMTG:中田さんが大切にしているコンサートは究極なアナログ空間ですし。
中田:そうですね、あれはなくならないですね。やっぱり、体感しないと実感できない、というのは人間の面白いところだなと思います。
EMTG:ところで、アルバム収録曲の中で「誰の所為」は昨年末のライブで演奏されていましたね。
中田:あの曲は実際ライブでやってみてからレコーディングしたんです。曲って、実際演奏してみないとわからないことも多くて。演奏して歌ってみると、”ああここはちょっと長いな”とか、”この部分はもうちょっと展開つけたほうがいいかな”とか、見えてくることがありますね。「誰の所為」も、ライブ後にスタジオにみんなで入って、結構詰めました。
EMTG:この曲も含め3曲が、ライブでのバンドの皆さん(奥野真哉/Kb、白根賢一/Dr、平泉光司/Gt、隅倉弘至/Ba)とのレコーディングです。
中田:曲を作っている段階で、これは絶対バンドで生演奏だなとか思ったり、実際ライブで演奏してて、このバンドでレコーディングしたいねって話していて。この3曲は、バンドのグルーヴを生かした曲にしようとそこを意識しながら作りました。
EMTG:「レールのない列車」は、ちょっとブルージーなロックで、このバンドらしいサウンドですね。
中田:あのバンドだから自然とそうなっちゃうんですけど、この曲を書いていた時に、60年代後半のローリング・ストーンズ、『Let It Bleed』とかをよく聴いていて。あの時代の質感で録ってみたいと思って。ギター・アレンジとかは俺が弾いたら雰囲気が出ないなと思って、完全に平泉さんにお任せで。スライド・ギターとかブルージーなフレーズとか、平泉さんの方がその辺の知識があるから。
EMTG:歌から列車であてのない旅をする人たちを連想しました。
中田:そういうイメージです。人生は旅だし、はっきりした行き先とか目的が決まっているわけでもない。でも乗らないと始まらない。
EMTG:列車で進み続ける人生ですか。
中田:列車って自分で自由にコースは選べないじゃないですか。 それで、たくさんの人が乗っている。それが生きていくという感じに似てるかな。決して一人では生きていけないし、みんな何らかの乗り物に乗ってる。でもレールが用意されているわけではないから、どこに行くかわからない。
EMTG:伺うと深い歌ですね。バンドではもう1曲「幻を突き止めて(Album Mix)」。
中田:これは、ロックですね。現代をどうサヴァイヴしていくか、みたいな曲です。今は、みんながいいって言ってるから、自分もいいと言わなきゃいけないみたいな同調圧力があるでしょう。そういうものに縛られないで、それぞれのスタイルでいいのになと思う。昭和はそういう時代だったと思うし、流行はあったけど、流行を作っていたのは縛られない人たちで、それぞれ個性的だったなという気がするんですよね。
EMTG:もはや昭和から平成を経て令和ですから、社会も変わりましたね。
中田:もう少し自分の現実を肯定してあげることが必要かなと。そのための”サンクチュアリ”が必要だなと思うんですよ。
EMTG:テーマは一貫してますね。今作は他に、先行シングル曲「ランナー」と、冒頭から話題の「サンクチュアリ」は、別のリズム隊(小松シゲル/Dr、SOKUSAI/Ba)とのレコーディングだそうで。
中田:両方とも、曲のフィーリングにこのお二人のコンビネーションが合うなと思ったので。
EMTG:「ランナー」は、ご友人が東京マラソンに参加したことから生まれた曲だとか。
中田:そう、実際に見に行って感動して。プロの選手よりも市民ランナーの方が悲喜こもごもで、人生ってマラソンだなあと思って、言葉が浮かんできたんです。
EMTG:ラップ調の歌が新鮮ですが、あのスタイルはどのように生まれたんですか。
中田:自然と、弾き語りをやってる流れですよね。シンプルなかたちの面白さってあるなと思って。ラップ系だと打ち込みでトラック作ってるものが多いじゃないですか。それを敢えてアコースティック・ファンクなバンドでやったら面白いなと思って。
EMTG:ああいうラップ調だと、歌詞の書き方も変わりますか。
中田:言葉遊びができるんですよね。リズムに細かく縛られないんで、語るような感じで。メロディに乗っけるとちょっと変に聞こえる言葉も、ビートとして刻めば成立るす面白さがあるなと思って。
EMTG:韻を踏んだりすると、歌詞を考える思考回路が普段の曲つくりと変わるのかなと思いますが。
中田:そうですね、普段使わない言葉が使えたりしますね。言葉が自由になれるなと思います。起承転結もしっかり考えなくても、投げっぱなしでもいい。これも、人生はマラソンのように、それぞれのコースを走って行く。一番大事なのは勝ち負けじゃなくて、自分のコースを走りきれるかどうか。そんなことを感じながら見ていたので、人の生き方と結びついて広がって言った感じですね。
EMTG:他にTOMI YOさんと制作した曲が5曲。TOMIさんは前作から参加されていますね。
中田:TOMIさんとは世代も近いので、聴いてきた音楽が似ていて意思疎通がしやすいというか。新しい音楽でも聴いているのが似ていたりするので、コミュニケーションがとりやすいですね。二人だけで、細かくやりとりしながら作業を進められました。
EMTG:1曲目「フラストレーション」の冒頭にSEのような一節がありますが?
中田:あれは俺が後から足したんです。アナログ・シンセで遊んでみました(笑)。ちょっとモヤモヤ感を表現したかったんですよ、この時代の。みんなプライバシーを叩き売りしてるなーって。芸能人が自分の部屋を公開したり、なんでしなきゃいけないんだろうって。
EMTG:それはご自身の話ですか?
中田:いや僕はプライベートと自分の音楽は関係ないと思ってるし、僕のお客さんは、あまり興味がないと思います。ずっとそうやってきてるからだと思いますけど。
EMTG:「月の憂い」は音を抑えた素敵なバラードですね。
中田:ありがとうございます。曲だけだと歌謡曲調なんで、それをちょっと洋楽的なアレンジで組み合わせてみたいなと。
EMTG:「テンション」は対照的にテンション高い曲ですが、このビートも跳ねてる感じが80年代ぽくて面白いですね。
中田:時代的にはその辺の設定でやってます(笑)。こっちも恋の歌なんですけど全然雰囲気違って、軽快にテンション上がってる感じで(笑)。
EMTG:「ONLY I KNOW」は前作の『NOBODY KNOWS』と繋がりがあるようにも思えました。
中田:それはないんですけど、とにかく自己肯定みたいな、自分でいいと思ったことはいいんだよ、人が良い悪いじゃないという、所も凄い大事かなというのは全体的にそういう部分が必ず入ってる気がします。
EMTG:最後の「終わらないこの旅を」は滲みるバラードで、結婚式とかに歌えたらいいなと思いました。
中田:それは嬉しいですね。過去にとらわれないで流れに乗って生きていこう、結果を出そうとか形にしようとか、そういう目に見えることを求めがちですけど、全部が変わりゆくもの移ろいゆくものだから、急いで結果を出さなくていい、それよりも一瞬一瞬を大切にすることで、先につながって行く、というつもりで書きました。
EMTG:どの曲もライブで聴くのが楽しみです。
中田:5月16日から<TOUR 19"Sanctuary">が始まるので、各地の会場で楽しんでいただけると思います。

【取材・文:今井 智子】

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リリース情報

Sanctuary

Sanctuary

2019年05月15日

テイチクエンタテインメント

01. フラストレーション
02. ランナー(Album Mix)
03. 誰の所為
04. 月の憂い
05. テンション
06. 幻を突き止めて(Album Mix)
07. レールのない列車
08. ONLY I KNOW
09. サンクチュアリ
10. 終わらないこの旅を

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日本酒ソーダ割り

 日本酒をソーダで割るところがあるんですよ。銀座1丁目に酒屋さんがあるんですけど、そこで飲んだら美味しかったので。家でもやってみようと思って、どれぐらいの割合がいいのか、どんなお酒が合うのか、調べてたんです。味によって合わなかったりするから。作ってみたんですけど、ベストの配合はまだ探り中ですね。発砲系の日本酒とまた違って、もっとさっぱりしてるんですよ。
 年末の日本橋三井ホールでのライブはステージ上でワイン飲んでますけど、あれはホールが用意してくれて。昨年くらいから最多出演数記録を更新し続けているので、差し入れしていただいてるんです。どこのホールでも飲んでるわけじゃありません。家にワインセラーなんてありませんから(笑)。 お酒全般好きなので、日によってワインだったり日本酒だったり。だいたい毎晩飲んでるので、少し減らさないとなーとは思ってるんですけどね。



■ライブ情報

TOUR 19“Sanctuary”
5/16(木) 埼玉:HEAVEN’S ROCK さいたま新都心VJ-3
5/18(土) 神戸:VARIT.
5/19(日) 名古屋:ダイアモンドホール
5/25(土) 福岡:スカラエスパシオ
6/1(土) 大阪:なんばHatch
6/2(日) 静岡:SOUND SHOWER ark
6/8(土) 広島:クラブクアトロ
6/15(土) 東京:EX THEATER ROPPONGI
6/22(土) 仙台:darwin
6/23(日) 横浜:ランドマークホール
6/30(日) 札幌:cube garden

中田裕二の謡うロマン街道 ※弾き語り公演
5/26(日) 熊本:早川倉庫
6/9(日) 岡山:蔭凉寺
6/29(土) 函館:函館山山頂展望台ホール クレモナ
7/6(土) 高松:玉藻公園 披雲閣
7/7(日) 松山:宝厳寺 本堂

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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