Ghost like girlfriend ファーストフルアルバム『Version』

Ghost like girlfriend | 2019.06.14

 岡林健勝によるソロ・プロジェクト・Ghost like girlfriendが、1stフルアルバム『Version』を完成させた。ゲストミュージシャンとして常田大希(King Gnu)、大井一彌、神谷洵平、土器大洋(ex. LILI LIMIT)などが参加。ミニアルバム『WEAKNESS』『WITNESS』『WINDNESS』でも発揮されていた多彩さが一層深まっている作品だ。そして、多くの人にとって思い当たるものがあるはずの感覚が、様々な形で鮮やかに表現されている点にも注目させられる。この独特な作風、鋭い描写力は、どのようにして生まれているのか? 本人に語ってもらった。

EMTG:作品の全体像に関して、何か考えていたことはありましたか?
岡林:最初にアルバムを『Version』と名付けるところから始めたんです。このタイトルですので、「いろんな曲を収録する」ということを決めて、「どういうバランスだったらいいのかな?」という設計図を描きました。
EMTG:どの曲も、すごく独特な持ち味がありますね。
岡林:ありがとうございます。王道でありたいという気持ちもありながら、邪道も走らなきゃいけないっていう姿勢が僕の中にあるんです。他の人と同じことをやっていたら、こうして作品を出させていただけることはできないとも思うので。だから感覚的なことや、他の人がやっていないようなことを歌にするっていうのが、僕の基本的なテーマになっているんですよね。
EMTG:他の人がやっていないようなことでありつつ、王道感もあるGhost like girlfriendの音楽って、「健やかにグレている」というのが僕の印象なんですけど。
岡林:「健やかにグレている」っていいですね(笑)。そうなんだと思います。ひねくれて歩くのをやめるのではなくて、だからこそ行ける所まで歩いて行きたいという気持ちが、作品を重ねる毎に強くなっていますので。
EMTG:ユニークな作風ではあるんですけど、どの曲もポップミュージックですよね?
岡林:そうなんだと思います。作品を出すというのは、一生残るものを作るということでもあるので、自分がどういう年齢、状況になっても歌えて、聴けるものでもありたいんです。僕にとってずっと飽きない基本のフォーマットってJ-POPですから、自分の音楽もそうありたいなと思いながら作っています。
EMTG:ものすごく大雑把な質問にはなってしまいますけど、J-POPの魅力とは、何だと思っています?
岡林:聴いて一発でわかるっていうことですかね。あと、洋楽って「聴くもの」であるのに対して、J-POPって「歌うもの」っていう感覚が僕の中にあるんです。洋楽も聴く分には楽しいんですけど、J-POPは「これ、わかる!」ってなるし、歌いたいと思ったらすぐに歌えるんですよね。
EMTG:「これ、わかる!」っていうのは、Ghost like girlfriendの音楽にもすごくありますよね。例えば「Last Haze」で描かれている「全力で生きたい」という気持ちは、リアルなメッセージとしてもストレートに迫ってきます。
岡林:僕、去年の11月に病院をいくつか回って、MRIの検査を受けたりしていたんです。「死んでもおかしくはないな」と思うくらい体調を崩していたので。でも、それはちょっとしたストレス性のもので、「治せますよ」って呆気なく言われるようなものだったんですよね。「もう終るんだ」って思っていたのに「続きはありますよ」と言われた感覚になって、「Last Haze」で歌ってるように、《明日死んでも良いなんて全て叶うまで無しにしようぜ》って思いました。「Last Haze」を作るところから、このアルバムは始まったので、全体的にそういう気持ちや人生観が詰まったものにもなったのかなと思っています。
EMTG:「Last Haze」は、今年の元旦に完成させたんですよね?
岡林:はい。去年の11月の半ばに1コーラスだけ作ったら多幸感や幕開け感が出てきたので、「これは年明けに作るべきだ」と思って、敢えて温存しておいたんです。元旦にとりかかって、その日の内に完成させました。
EMTG:「ここから始まる」というイメージがすごく浮かぶ曲でもあります。
岡林:一からのスタートではなくて、ある程度道を歩いてきて、くたびれている中での、「でも、また最初から」という感じですね。
EMTG:岡林さんは、描写したいイメージを的確な言葉やモチーフを使って表現することにも長けていますね。例えば「sands」も、「砂」で喩えて表現していることによって、すごくテーマが伝わるものになっていますから。
岡林:ありがとうございます。これは、「何かを待つのではなくて、自分から選ぶことが必要なんだ」という曲なんですけど、そういうことを描くのに適切なものを探す中で見つけたのが「砂」だったんです。作り始めた時は感覚的に出てきたものでも、後になって理に適った言葉選びだったなと思うことは、よくあります。
EMTG:「burgundy blood」も、見事ですね。《血の色が大人びている》という部分がありますが、ちゃんと生きることができていない悶々とした状況って、確かに血の色が本来の色じゃないような感覚だよなと、聴きながら感じました。
岡林:この曲は、今、この時代を生きる中で感じ取ったものを曲にしています。血の通った会話が、どこでもなかなか成立していないような気がするので。
EMTG:「girlfriend」も、すごくいいですね。《思い出は化け物》って、まさにその通りじゃないですか。
岡林:これは自分の顔と姿を出して活動する前のロゴを見ながら作った曲なんです。
EMTG:ゴーストに抱えられている姿をシンプルな線で描いたロゴですよね?
岡林:そうです。だから「girlfriend」は、Ghost like girlfriendがどういう歌を歌うのかを集約したいというのもありました。そこで思い浮かんだのは、「思い出や過去って、変えられないってよく言われるけど、変わる気がするけどなあ」ということだったんです。
EMTG:思い出って、結構、無意識の内に美化したり、書き換えたりしていますよね?
岡林:はい。暗い思い出も、時を重ねることによって「暗い思い出だったな」というものになりますし。起こったこと自体は変えられないとしても、捉え方はその後の生き方次第で変わるんですよね。そういうことを描きたかったですし、歌っていて気持ちいいメロディ、自分にしかできない言葉選びをすごく意識した楽曲でもあります。
EMTG:曲を聴いたリスナーから「この歌のこの感じ、すごくわかります」という反応をもらうことは多いんじゃないですか?
岡林:そうですね。知ってくださって間もない方々は、アレンジとかメロディを褒めてくださるんですけど、じっくり聴いてお手紙とかをくださる方々は歌詞についておっしゃることが多いんです。
EMTG: Ghost like girlfriendの名前がたくさんの人に知られたきっかけとなった「fallin’」も、歌詞が抜群の切れ味でしたよね。僕は《大抵の壁はまるで閉じた瞼みたいだ》というところが、すごく好きなんです。能動的に壊せる壁を瞼で喩えるって、斬新ですけど、「なるほど!たしかにそういう感じだよな」って思いますから。
岡林:この言葉も、すっと出てきたんですよね。書いてみて、自分でも「そうだよな」って思うことができました。「これしかないだろうな」と思って書いた歌詞が、時間が経ってからも自分でそう思えて、評価してくださる方々がいるというのは、「やってきていることが間違いではなかった」という証明にもなっている気がします。
EMTG:「fallin’」の時点で、現在に通ずる作風がかなり確立されていたということでもあるんじゃないでしょうか?
岡林:そうですね。昨日思い出したんですけど……僕は「J-POPをやっていこう」と思って曲作りを始めたんですけど、それにあたって自分の中に設けたルールは、「なるべく日本語を使おう」「片仮名英語は使わない」というものだったんです。「このワードじゃないもので、なおかつ日本語だと、どれだろう?」と探っていくと、誰もやっていないような表現に辿り着くというか。だからおっしゃっていただいたような作風って、最初から設けていたルールのおかげでもあるのかもしれないですね。
EMTG:Ghost like girlfriendという名前にも通ずることかもしれないですけど、形のない感情や感覚を表現するというのは、音楽活動の主要な柱としていることですよね?
岡林:そうですね。自分がリスナーとしても惹かれていた音楽って、自分が抱えている何かが言語化されたものでしたから。まだどの音楽でも言っていなくて、自分に重くのしかかっている気持ちって、たくさんあるんですよ。それを言語化することで、自分が欲しかった音楽は生まれるし、もしかしたら「これ、わかります」って言ってくれる人が現れてくれるかもしれない。そういう想像をしたところから、自分の音楽は始まっているんだと思います。
EMTG:適切な表現なのかはわからないですけど、Ghost like girlfriendの音楽とは「あるあるネタ」みたいなところもあるんですかね?
岡林:そうですね(笑)。昔、レイザーラモンRGさんがラジオで「Mr.Childrenさんが人気があるのは、恋愛あるあるを歌っているから。誰よりもあるあるが強い」っておっしゃっていて、なるほどと思ったんです。自分はどういうことに長けているのか、まだよくわからないんですけど、もしかしたらそういうあるあるみたいなことは、自分にとってのそういうものなのかもしれないなと思っています。自分に深く潜りながら見つけた「誰も言っていないようなことや気持ち」っていうのをさり気なく提示するというのは、曲作りを始めた頃からやっているんですよね。
EMTG:そういう「なるほど!この感じわかる!」という感覚が様々な形で描かれつつ、サウンドも多種多様なのが今回のアルバムですね。例えば、「Midnight Rendez-Vous」とか、ダンスミュージックとしても、とても気持ちいいじゃないですか。
岡林:これ、僕の中でとんねるずさんの「嵐のマッチョマン」が元ネタになっているんです。あの曲もディスコじゃないですか。
EMTG:意外な元ネタです(笑)。夜中に沸き立つ感情が、すごく描写されていますよね?
岡林:はい。夜中ってみんなが寝静まっていて、何か頑張ったことにも日が当らないで、「何のためにやっているんだろう?」って虚しくなりがちですけど、その努力はいつか報われるんだっていうことを歌っている楽曲でもあります。
EMTG:このアルバムで、より広い世界へと飛び出すわけですが、どのような心境ですか?
岡林:すごく自信があるアルバムですけど、あくまで「始まり」ですね。これが基準だと思っていただきたいです。「この曲、次までとっておけばよかったな」というようなことも思うんですけど(笑)。でも、自分が持っていたアイディアを全部注ぎ込んだので、次を楽しみに思っていただけるような作品になっていたら嬉しいです。達成感があるようでないんですよ。自分でも「次が待ち受けている!」って感じることができていますから。
EMTG:まだまだ成長期で反抗期ということですかね?
岡林:はい。健やかにグレ続けながらやっていきます(笑)。

【取材・文:田中 大】

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リリース情報

Version

Version

2019年06月19日

ユニバーサルミュージック

01.Last Haze
02.girlfriend
03.Midnight Rendez-Vous
04.sands
05.pink
06.あれから動けない
07.shut it up
08.burgundy blood
09.Under the umbrella
10.fallin’
11.feel in loud

お知らせ

■コメント動画




■ライブ情報

Tour Virgin
7/1(月) 東京 LIQUIDROOM
7/4(木) 大阪 Shangri-La

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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