秋山黄色の才能はどこから生まれ、どこへ向かうのか――最新曲「夕暮れに映して」からひもとく

秋山黄色 | 2019.08.16

 秋山黄色が、「夕暮れに映して」を配信でリリースした。弾むリズムの中を、ピアノやストリングスがきらめく、極上のポップチューンだ。さらに、そこにファズの音色や、《時間を金に変えた/金をお酒に変えた》などという歌詞があることで、優れたソングライターというところに留まらない、人間・秋山黄色の人間臭い魅力もにじみ出ている。最近では、フェスも含めて、ライブでもアグレッシブなパフォーマンスを披露している秋山黄色。小さな宅録部屋から大舞台へと飛び出した若き才能は、どこへ向かうのか?徹底的に訊いた。

EMTG:「夕暮れに映して」は、ポップというだけではなく、ピアノなど、キラッキラな音色がとことん盛り込まれている楽曲ですよね。
秋山:もともと、アコギとストリングスまでは入れる予定だったんです。エレキギターは後から増えて。明るくしたいっていう気分があったんですよね。冒頭のギターができたんで、そこからA、B、Cメロって作って、ああいうふうになりました。ピアノに関しては、弾きたいっていう時期があったんです。っていうか、エレキギターがいろんな事情で家にない日が多かったんで、アコギに触っていて。そうすると、ウソみたいに太い弦を張っているので、指が痛くなって。そうすると、ピアノしか行く場所がないというか。で、今、結構上手になったんですけど。この曲も、アコギを録った後にピアノに行ったから、こうなったっていう。
EMTG:気持ちはもちろん、物理的なところがあったんですね。
秋山:僕が明るくなったとかではなく……こういう曲って2、3曲あるんですよ。スッタカスッタカみたいなハネ気味なリズムの曲。だから、個人的には意外ではないんです。自分で作っていて楽しいジャンルの中に、こういうのはあるから。
EMTG:エッジィでシャープな「やさぐれカイドー」を作っている秋山さんから出てくるからこそ、こういった曲調がよりポップに感じられるんですよね。
秋山:僕、極端なんですよね。中途半端になるのが、一番よくないっていうか。今、すごくありがたいことに、「(自分の)何の曲が好き?」って訊くと、人によってばらけるようになってきたので、こういうやり方がいいのかなって。「やさぐれカイドー」が好きな人は「クラッカー・シャドー」が好きだし、「とうこうのはて」が好きな人は「クソフラペチーノ」が好きだし。そういう(方向性が)何本かないといけなくて。あと、自分っぽさと曲調を切り離して考えないと、絶対に中間のものができちゃう。こういうポップな曲を作ろうって思って、自分らしさを客観視したフレーズを入れようとすると、ちゃんと切り離せていないと、どっちつかずになっちゃうから。今回は、俺が作る必要性を感じないぐらいのレベルの爽やかさになっていたので、歪んだギターを入れたんですけど。今の世の中は、コード進行とかが飽和しているから、オリジナリティってなくないか?っていう世界に突入していて、そうすると歌詞にしかオリジナリティが出なくなっちゃう。僕は、それは嫌なので。ちゃんと(曲にも)らしさが見えないと。ただ、らしさを入れるのと、曲調を寄せるっていうことは違うので、今回は部分的に入れられたことで納得いっています。まあ、歪んだギターがあろうがなかろうが、僕っぽかったらOKなんですけどね。
EMTG:歌詞だけに頼らない、ということですよね。
秋山:それでは、作詞家になってしまうので。コード進行は同じで、歌詞だけ違うって……今、ほとんどの音楽がそうなってきているんですけど。オリジナルのコード進行って、ほとんど存在しないというか。音色も、日本のセオリーや海外の流行があって、オリジナルの音楽って、理屈で言うと何年もしないうちになくなるはずなので。だから、今のうちに、自分らしさを延長している結果がこうなんだと思います。
EMTG:世の中に流れに抗う方法のひとつというか。
秋山:それを理屈で考えると、変な曲を作るっていうことになりますけど、それはポピュリズムに反してくるし、僕はお金が欲しいので。だから、1曲の中で出せる自分らしさと、楽しんでもらえる比率を考えて、今回は、ファズの歪みを入れることで、爽やかな曲調を崩さずに自分らしさを出したっていう。あとは、楽しくないと意味がないので。同じ曲をずっと作っていても飽きちゃうから。
EMTG:売れたい、でも楽しいことをしたいっていう、ふたつのバランスがとれるようになってきたんじゃないんですか?
秋山:そうですね。そこに悩んでいた時期が、かなりあったので。やっぱ、NUMBER GIRLっていう存在がデカくて。一般的にはポピュラーなバンドじゃないけど、音楽的に古く感じないし、そういうことは現実的に可能なんだなって思う。好きなことをやっているかどうかは、本人に訊いていないのでわからないけど、少なくとも大衆的な意見を考慮して曲を変えたりはしていないと感じられるし。あと、僕、ニコニコ動画が好きだったんですけど、(個人的に)面白いイメージがなかった人が、YouTubeに移行しただけで、手が届かないような存在になるのを見て。魂を売るっていう考え方になりやすいカルチャーを見てきているというか。やっぱり、納得できない数字を持っている人って、世の中にはいるけれど、尖り続けることが楽しいのか?って考えた時に、俺は意外とお金をもらうことを伴った方が楽しいなと思って。楽しいと思えるかどうかが大事なんですけど。
EMTG:そう言いつつ、ファズやこういう歌詞を入れる人間臭さは、ニコ動やNUMBER GIRLといった先人たちを見て培われたものですよね。
秋山:そうですね。次の世代は、それよりもすごいことをやる義務があるので。あと、曲を作る楽しさって、音を重ねていくこととかにあるんですけど、最終的にはライブで演奏しなきゃいけない、そうすると自分が弾くラインは1本だけなので、そこでコードだけ弾くのは面白くないっていうことで、フレーズが独特なものになっているんだと思います。だから、肝としているフレーズは見えなきゃなっていうことで、いっぱい音は鳴っていますけど、らしさは見えるはずなので、たくさん聴いてほしいですね。
EMTG:それって、歌詞に関しても言えることですよね。《時間を金に変えた/金をお酒に変えた》っていう歌い出しにインパクトがあるけれど、大事なことは《どんなに転んでいた思い出だって 俺なんだぜ》とか、もっと先にあると思う。
秋山:ああ、すごくわかりづらい構図なんですけど、1番の終わりの《愚かでどうしようもない恋だってあるんだぜ》までが時系列的に後で、2番からが時系列的に前になるんですよ。2番から恋愛のフレーズが多いんですけど、僕らしいフレーズは1番なんですよね。こうした理由っていうのも、1番で聴くのをやめる人って多いですよね。ちゃんとした時系列にすると、完全に恋愛の曲に捉えられるんで。この歌詞で言うと、恋愛は原因で。どっちかって言うと歌詞は、原因の部分やスピード感がある部分の方が共感されるし、詩として読めるんですけど、個人的に今まで「センスあるね」って言われてきた表現が先にあった方が、裏切りが少ないかなと。こういう曲調だし、急にポップスを出してきたと思われるかもしれないから。これも、バランスの話なんですけど。明るい曲だからってそれだけじゃないんだねっていうのが、自分の今までの系譜にもあるし。こういうふうに、好きになる部分がいっぱいあるといいかなって。自分の曲は、ピンポイントで「ここが好き」って言われることが多くて。「イントロが好き」とか、「このイェイっていうところが好き」とか。かなり、耳がいい人が聴いてくれていると思うんです。だからこの曲も、パッと聴きでいいなって思う人もいて欲しいし、歌詞がいいって言ってくれる人もいて欲しい。
EMTG:たしかに、いろんなアンテナに触れるところがある楽曲だと思います。特に、10代に聴いてほしいと思えるような切実さがありますよね。
秋山:すごく聴いてほしいですね。歌詞は実体験から書いているので。聴いてくれる人の年齢を制限する気はないんですけど、(若い子に)届きやすいだろうなとは思います。僕、曲の振り幅が多重人格みたいだって言っていただけるんですけど、そういうことって人を傷つけかねないので、考えてやらないといけないんですよね。「やさぐれカイドー」を最初に出しているんですけど、いろんな曲を作ると、これを聴いて好きになってくれた人を置き去りにすることになりかねないので、深く共感させてしまう歌詞だし。そういうことをやった責任を持つというか、あまり裏切らないようにしたい。自分の経験から歌詞を書いていると、裏切りづらいんですけど、爽やかな曲を作ると、自分らしさを入れる必要が出てくるんですね。売れたい気持ちと、楽しみたい気持ちと、裏切りたくない気持ち。曲を作る時には、常にそれらの気持ちがあります。

【取材・文:高橋美穂】





秋山黄色『夕暮れに映して』

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リリース情報

夕暮れに映して

夕暮れに映して

2019年08月09日

SPACE SHOWER MUSIC

01.夕暮れに映して

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オクラの栄養素

最近、体力をつけなきゃいけないと思って、食べるものを変えているんですけど。オクラ、よく食べるので、食べすぎはどうなんだろう?って思って。そうしたら、食べると便秘が治るって書いてあったんですけど、同じページに、食べると便秘になるって書いてあって。それで、人を信じられなくなりました(笑)。



■配信情報

↓「夕暮れに映して」配信ダウンロードはこちら
https://akiyamakiro.lnk.to/yugureniutsushite



■ライブ情報

秋山黄色 1st ONE MAN LIVE『登校の果て』
09/28(土) TSUTAYA O-Crest

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MEGA★ROCKS 2019
10/05(土) 仙台11会場

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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