今こそメインストリームへ――稀代の異端児・キタニタツヤの思考を探る。

キタニタツヤ | 2019.09.25

 ネット発アーティストが活躍する2019年の音楽シーン。そんななか、アグレッシブな活動を繰り広げているのが1996年生まれの気鋭のシンガーソングライター、キタニタツヤだ。9月25日、新境地を切り開く待望の1stミニアルバム『Seven Girls’ H(e)avens』をリリース。“ヘブン”=「天国、安寧の場所」と“ヘイブン”=「避難所」のダブルミーニングなテーマ設定だという。R&Bテイストを持つ、空間の広がりを感じさせる次世代ロックサウンドは、キタニにしか書けないポップかつハードボイルドな独自の世界観だ。sajou no hanaのメンバーでもあり、ヨルシカのサポートメンバーや、多岐にわたる楽曲提供活動などにも注目したい。令和時代を開拓する新しい才能に話を訊いてみた。

“Seven Girls’ H(e)avens”Official Album Trailer

EMTG:前作アルバム『I DO (NOT) LOVE YOU.』と比べ、歌詞や空間の使い方やリズムなど、大きな変化を感じました。
キタニ:「Sad Girl」という曲を2月に店舗限定のシングルでリリースしました。それまで、新作アルバムのコンセプトとかは考えていなかったですが、「Sad Girl」ができた時に、音楽性や歌詞の面で変化を感じられたんです。前のアルバムは自分の主観で自分の想いを歌っていました。でも、今回はコンセプチュアルな作品にしたいなと、第3者視点から考えたことを歌にしました。サウンドも前のアルバムとは変わりましたね。「こんなのキタニタツヤじゃないや!」ってファンの方に怒られるかなって思ったんですけど、いい反応をいただけて。新しいリスナー層へも広がる手応えを感じました。

Sad Girl(Official Music Video)

EMTG:歌詞の作り方も変わりました?
キタニ:「Sad Girl」以降、前作とは作り方を変えてますね。それこそ性についてであったり、自傷行為であったり、生活の中での逃げ場みたいなものがテーマになっていて。そんなことってほかにもいっぱいありそうだなって、アルバムのテーマを“ヘブン”=「天国、安寧の場所」と“ヘイブン”=「避難所」という言葉で表しました。日常生活において溜め込んだストレスや苦しさを逃がすための場所をテーマに、7つの物語を作ってコンセプトアルバムにしてみました。
EMTG:歌詞もグサっとくるところがありつつ、ジャンルやサウンド感の広がりなど、より遠くまで届く作品になったと思います。
キタニ:大衆性を獲得したいなと思っています。絶対にメインストリームを目指したいんですよ。独りよがりにはなりたくないんです。
EMTG:音楽って、幼少期からの影響って大きい存在だと思うのですが、大衆性を考えると時代感ってヒットの要素で重要だと思います。そんな意味で、今作のサウンドセンスに時代感を強く感じました。
キタニ:意識してないかといったら嘘になるんですけど、そんなに今の時代のサウンドには執着してないです。その時々のやりたいことを表現しているだけなので。わりと自然にこんなサウンドにたどり着きました。
EMTG:キタニさんといえば、今はまた違いますがボカロPを出自にされている要素があり、“ネット発ミュージシャン”という肩書きがついて回ることをどう思っていますか? 今の時代、どんなアーティストもYouTubeを使うしストリーミングサービスで配信するし、もはや誰もが“ネット発ミュージシャン”なのだと思うのですが。
キタニ:ネットは最初から普通にあったツールですね。“ネット発ミュージシャン”というイメージを自分では持ってないです。それこそ、バンドも高校生の頃から大学4年までずっとライブハウスでやってましたから。なので“ライブハウス発”でもありますよね(笑)。自分としては両方同じ重さで並行してやってきたつもりです。
EMTG:キタニさんの音楽的なルーツは?
キタニ:音楽を好きになったはじまりは、小学生の頃に聴いたアジカン(ASIAN KUNG-FU GENERATION)の「遥か彼方」ですね。それから、タワレコに行って「タワレコメン」の中からCDをディグったりしてました。で、ネットの環境が整い始めたら『ニコニコ動画』でボカロランキングをチェックしたりYouTubeで音楽を探したり。Apple MusicやSpotifyも最初の頃から使ってましたね。
EMTG:バンドをやってみたいと思ったきっかけは?
キタニ:中学の時に、似たようなバンドを好きなのがふたりいて、「高校に上がったら3人でバンドやろう」って話していたんです。その後、軽音楽部に入ってベーシストをやりつつ、自宅では曲を作り始めたりして。
EMTG:歌詞のユニークさ、シンガーソングライターとしてのセンスの良さ、リリック(歌詞)の構築の仕方にキタニさんらしさを感じているのですが。
キタニ:うれしいです。でも、歌詞に関しての影響は自分でもわからないですね。特定の何かを読み込んだ経験もないし。逆に曲はいろんな音楽を聴いているなかで、ふと浮かんでくるんですよ。メロディーとコードから始めて、アレンジはあとで付けて。ヒット曲はメロディーが絶対だと思っています。メインストリームを目指したいので。日本国内だと、どれだけサウンドがかっこよくても作詞作曲の段階が大事なんですよね。まずはそこを突き詰めたいなって。編曲家としての仕事をやっていることもあって、アレンジを後付けすることには慣れているんですよ。
EMTG:洋楽界隈からの影響は?
キタニ:聴いているのは洋楽ばっかりかもしれないです。アルバムを作っていた時期だと、影響を受けたのはニューヨーク出身のLauvかな。めちゃくちゃ好きですね。
EMTG:キタニさんが嫉妬するぐらいすごいなと思った日本のアーティストっています?
キタニ:米津玄師さんとKing Gnuはすごいなと思います。あと、星野源さんも好きですね。新しいサウンドをやっているのに独りよがりではないところがすごいなと。作詞作曲の時点でとてもJ-POPなんですよ。そのうえで、新しいサウンドを表現されていて。自分もそうでありたいなと思っています。
EMTG:今回、『Seven Girls’ H(e)avens』が素晴らしい作品で。1曲目「Stoned Child」はダンサブルかつグルーヴィーで、キレのいいロックチューンとしての主張もあり、歌詞での飛ばしっぷりにも惹かれました。
キタニ:コンセプトとして、それぞれテーマはあるんですけど、酔っ払いの歌を書きたかったんです。自己憐憫と酒という逃げ場ですね。歌詞で《不幸自慢とアルコール》って、そのまま書いてるんですけど。でも、批判的にはなりたくなくて。自己憐憫と酒はクソの役にも立たないけど、ないとやってられないよなって。サウンド面では一緒に踊れる要素、誰が聴いても退屈にならない音楽であることを大事にしています。

Stoned Child(Official Music Video)

EMTG:2曲目は一変して「花の香(ハナノカ)」というポップなナンバー。
キタニ:日本文学のイメージがあって。ちょっとエッチぃ恋というか。何かに恋い焦がれるような言葉で。それで、ちょっと和っぽいメロディーになって。でも、サウンドで琴とか和のテイストが露骨に入る感じは嫌で、まったく別の方向に、でも静かな曲がいいなって音数は減らして。
EMTG:楽曲ごとの差異がきっちりあらわれているにもかかわらず、ミニアルバムとして聴くとトータルで楽しめるのが『Seven Girls’ H(e)avens』の面白いポイントですね。
キタニ:ああ、それなら良かったです。そこが懸念点だったというか。でも、同じような曲は作りたくないんですよ。
EMTG:作りたい方向性の曲が多岐に渡るということですね。3曲目「トリガーハッピー」は、王道感あるダンスミュージックなセンスで。
キタニ:メジャーな感じの音、チャラめな音にしたくて。
EMTG:4曲目は、今回のミニアルバムにおける軸となった「Sad Girl」。
キタニ:これがはじまりだったというか。これまでが、速い感じのギター主体なロックだったので一変させました。トラップっぽい、音が808(RolandのドラムマシンTR-808)のサウンドで、ドラムが打ち込みでベースはシンセでギターはほとんど鳴ってないし、BPMは遅いし。歌詞の書き方も違うし。でも、ファンの方が受け入れてくれたのがうれしかったですね。それもあって、ミニアルバムでは今の方向へ進むことができました。
EMTG:“ネット発ミュージシャン”って、例えば『ニコニコ動画』でコメントや再生回数など、第3者視点に晒されるじゃないですか? でも、そこで賛否を評価されるからこそ成長スピードが早いのかなと思っていて。
キタニ:そうかもしれません。誰よりもフィードバックを気にしている人種なんでしょうね。それは“ネット発ミュージシャン”の特徴かも。そういう面はあるかもしれないです。それこそ、かつて『ニコニコ動画』にはボカロ音楽のランキングがあって、自分が作った曲と常に上位の曲を聴き比べながら気にしてましたから(笑)。
EMTG:2019年の今、そんな指標ってあったりしますか?
キタニ:メインストリームでチャート1位を獲りたいですね。お茶の間になりたいんですよ。ネオ星野源になりたいし、世界でいったらThe 1975のマシュー・ヒーリーに憧れます。好き勝手やっているように見えてちゃんとポップネスを獲得している感じ。お茶の間であり、老若男女みんな好きみたいな。それがひとつの指標になるかな。
EMTG:5曲目「君のつづき」はめちゃJ-POPライクなナンバーで。でも、インタビューでお話を伺っているとポップセンスというコンテキスト(文脈)でつながってくる感じで。
キタニ:ど直球なJ-POPライクなメロディーですよね。サウンドは、その反対側にいこうと頑張ったみたいな。
EMTG:邦画の青春映画のエンディング・シーンにもハマりそう。何か浮かんだ作品なんてあります?
キタニ:それはないですね。でも、エンタメ映画は好きなんです。大衆映画の特徴なのかもしれないけど、最後いい方向な感動のカタルシスに持っていくじゃないですか? 最後まで主人公が救われないような映画の、苦い読後感ではなく。まぁ、そういうのも好きなんですけど、自分は映画だったらハッピーエンドがいいですよね。自分の人生だってそうだし。誰かの人生もそうあってほしいし。
EMTG:6曲目「穴の開いた生活」では、イントロダクションのコーラスワークが印象的で。
キタニ:あのコーラスは、昔編曲をさせてもらった熊木杏里さんというアーティストがいて。そのとき泣ける系のバラードがあって。でも、サウンド的に僕はひねくれているので、アンチJ-POPな面があって。泣ける=ストリングスを入れましょう、というのは嫌だったんですよ。じゃあ、その代わりとしてコーラスを入れてみて。その手法が自分的に気に入っていて、今回取り入れてみました。
EMTG:ラストはビッグアンセム、7曲目「クラブ・アンリアリティ」。この曲が最高すぎて。それこそ、この曲が存在するからこそ様々なベクトルを持つ楽曲の集合体であるミニアルバムが締まるというか。この曲へ向かってきた作品なのかなって。
キタニ:「Sad Girl」の次にできた曲で。自分の方向はこれだろうなって。ファンクっぽくて一緒に歌えそうで、サビにフックとなる言葉があって、それがわかりやすいもので。で、曲を知らない人でも身体全体で楽しめる曲を作りたいと思っていました。「Sad Girl」と「クラブ・アンリアリティ」が、『Seven Girls’ H(e)avens』の軸ですね。

クラブ・アンリアリティ(Official Music Video)

EMTG:《たったひとつの逃げ場所なんだ/それぞれの悲しみが許されてる/死んでみるのはまた今度/何して遊ぼうか?/クラブ・アンリアリティで》というフレーズがパワーワードすぎて胸に刺さります。
キタニ:SNSで死にたがりというか、死にたいっていつも言っている人たちっていると思うんです。そういう言葉を容認してくれるのがSNSのいいところだと思っていて。でも、最後はやっぱり前を向きたいよねって。最近の僕は前向きなんです。世の中、いろんな問題があって悩んでいる人がたくさんいると思うんですが、この曲を聴いた人が「肩の力を抜いてみよう」って思ってくれたらうれしいなって。
EMTG:よくわかります。そして、10月4日には渋谷WWWで自主企画「キタニタツヤ Presents“Hugs Vol.1”」を、odolとPELICAN FANCLUBを招いて開催するという。
キタニ:純粋に好きなアーティストと一緒にやれるのがうれしいです。ライブはずっとメインとしてやっているので。作品も、ライブ前提で作っているし、一緒にお客さんと歌えたらうれしいですね。

【取材・文:ふくりゅう(音楽コンシェルジュ)】

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リリース情報

Seven Girls’ H(e)avens

Seven Girls’ H(e)avens

2019年09月25日

Emo,Alternative&Cool.

01.Stoned Child
02.花の香
03.トリガーハッピー
04.Sad Girl
05.君のつづき
06.穴の空いた生活
07.クラブ・アンリアリティ

お知らせ

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CONTROL PS4
アルファベットで「CONTROL PS4」と調べました。『CONTROL』という超自然現象を扱うアクション・アドベンチャー・ゲームです。北米ではリリースされているんですけど、日本語版が12月に出るんですよ。超能力で戦う洋ゲーで、めっちゃ楽しみです。ゲームは人並みにやってますね。普段、仕事でパソコンに向かっているので、「ちょっとヤメヤメ」って時にPS4やDSでゲームしてます。手頃な気分転換になるので好きですね。



■ライブ情報

キタニタツヤ Presents“Hugs Vol.1”
10/04(金) 東京 渋谷WWW X
w) odol/PELICAN FANCLUB

ササクレクト × WOMB LIVE“THREEMAN”
11/26(火) 東京 渋谷WOMB LIVE
w) 4s4ki/Ghost like girlfriend

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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