the engy、メジャー1stミニアルバム『Talking about a Talk』

the engy | 2019.11.08

 新鮮な音楽を求めているリスナーを中心として、支持層を着々と拡大しているthe engyが、メジャー1stミニアルバム『Talking about a Talk』を完成させた。ブルース、ソウル、ファンク、R&Bなどに通ずるブラックミュージック的なフィーリングを渦巻かせつつ、ロックも背景にあることが窺われるアグレッシブさも煌めかせるこのバンドの魅力を、存分に体感できる1枚だ。山路洸至(Vocal / Guitar / Programming)に、作品に込めた想いと創作への情熱を語ってもらった。

EMTG:どういう作品にしたいと思っていました?
山路:レコーディングの拠点を東京に移して、音響などすごく良い環境で制作させてもらったんですよね。だから「音の重なり」みたいなのが上手く出るようなサウンドにしたいというのが、まずありました。あと、今までの作品はいい曲ができたら録っていく感じだったんですけど、今回は“talk”というテーマを据えました。作品全体にテーマ性を持たせたかったので。
EMTG:サウンドの構築美がすごいですよね。
山路:ありがとうございます。今までのレコーディングで一番自分の中で納得できなかったのが、頭の中で鳴ってる音じゃなかったという点なんです。それは録った時のちょっとした空気感の差だったり、ギターとドラムの空気感が合わなかったりっていうことなんですけど。そういう部分を全部エンジニアさんと相談して作っていきました。
EMTG:メジャーの制作環境は、そういう追求をする上で、とてもいいですよね?
山路:はい。もともとメジャーに来たかったのも、「かっこいい曲を作りたい」というバンドとしての目標があるからなんです。エンジニアさんからもたくさん教えていただけて楽しかったです。相談したことに対応するために機材を買って用意してくださったり。「この曲って、なんでこういう音なんですか?」とか、質問責めにもしました(笑)。
EMTG:(笑)どんな発見がありました?
山路:僕は今までiPadの音源とかを使っていたので、「この音って、いい音なんだろうか?」っていう迷いがずっとあったんです。でも、「どんな音も使い方次第。安っぽい音がかっこよく聞こえる時もある」ってエンジニアさんに言われて、はっ!としました。「自分の勘を信用していいんだ」と思えたので。
EMTG:そういう制作環境になった結果だと思いますが、いい曲がたくさん生まれましたね。例えば、「Have a little talk」は、とても胸に深く迫ってくるものがあります。
山路:ありがとうございます。この曲は最初、ゴスペルっぽい感じで始まって、最後にバンドサウンドっぽいものになっていくんです。終盤でロックバンドっぽい感じを出したくなっちゃって。
EMTG:こういうことをやりたくなった背景は、何かあったんですか?
山路:配信で出した「Touch me」とかは緻密に積み上げていく意識で作ってたんですけど、そんな頃にFall Out Boyとかアメリカのバンドを聴いたら、悔しいんですけど、適当そうに見えてめちゃくちゃかっこいいんですよ(笑)。「この感じって、忘れたらあかんなあ」と思って、枠からはみ出ることを恐れずにやる姿勢の大切さを再認識したんです。「Have a little talk」は、まさにそういうところから生まれた曲ですね。
EMTG:the engyは、もともとそういう面も持っているバンドですよね。だから音源を聴いてからライブに行ったお客さんが、「こんなに激しさもあるバンドなんだ!」って驚くわけじゃないですか。
山路:そうですね。やっぱりテンションが上がったら、そのテンションに従うっていうのがロックバンドなのかなと思います。「やったったらええねん」っていう姿勢は大事です。
EMTG:「Have a little talk」は、作品全体のテーマにもなっている“talk”について、まさに描いている曲でもありますね。
山路:はい。「言葉はいらない」って言うことが結構あるじゃないですか。僕は、そういうのがあまり好きではなくて。「言葉はいらない」っていうのは言葉で改めて言っているし、言葉で言っていることによって「言葉はいらない」って確認できるわけですから。そういうことをこの歌には込めています。
EMTG:言葉が生むコミュニケーションは、文字通りの意味では必ずしも終わらないですよね?
山路:そうなんです。今回のテーマとしている“talk”って、広い意味での対話。例えば、「こっち来んといて」っていうのは、会話が終わっているようにも見えるけど、それに対して何かしらの感情が起こるという意味で対話となっているじゃないですか。対話、会話って上手くいったりいかなかったりするけど、「対話する、話し合うっていうところから人間は逃れられへんのかな?」っていうところを描いてるのが、今回の作品です。
EMTG:山路さんは、「こういうものを作りたい」というビジョンを常にものすごく明確に持っているという印象ですけど、ご自身ではどう思います?
山路:僕は「自分で考えて曲を作ってる」っていう感覚がないんです。「そもそもそういう曲がこの世にはあって、自分がその曲を作る番がたまたま巡ってきたから作る」っていう感覚なんですよね。
EMTG:この世に漂っている音楽のイメージを具現化する役割を託されている感覚?
山路:それとも違いますね。よく「音楽に助けられてる」っていう方々がいますけど、僕は「音楽にかじりついて、振り落とされへんようにしてる」っていう感覚の方が強いですし。だから音楽の方から僕に働きかけてる感じはなくて、「こういうのってないのか?」って自分から探しに行くものなんですよね。
EMTG:曲を一緒に形にするメンバーのみなさんとのコミュニケーションに関しては、何か変化してきています?
山路:昔より信頼してもらえるようになったかもしれません。曲作りで、あまり揉めなくなりましたから。
EMTG:昔は、よく揉めてたんですか?
山路:はい(笑)。なあなあにして終わるのが嫌だという感覚は、昔からあったので。100%納得した上でフレーズを弾いてほしいんです。僕の伝え方も前よりは上手くなったと思いますので、今はすごく楽しく曲作りができています。
EMTG:「Sick enough to dance」も、充実した制作だったことが伝わってくる曲です。ものすごく気持ちいい音が鳴っていますから。

the engy - Sick enough to dance
山路:この曲は、レコーディングが楽しかったんですよ。実は、スネアの音は電話回線を通して録ったんです。
EMTG:どういうことですか?
山路:The 1975が、スネアをiPhoneで録ったという話を聞いたので、「おもろいな」と思って、それを越えてみたくなったんです。
EMTG:みなさんは、どんな録り方をしたんでしょう?
山路:一旦、携帯で録って、そこから出てくる音をイヤホンジャックで拾って録ったんです。音って「高い」と「低い」だけじゃなくて、「近い」と「遠い」っていう印象の積み重ねも大事なんですよ。「近い音」は原音寄りのものなんですけど、空気感を挟んだ「遠くにある音」を重ねると、お互いの音が被らないんです。そういうのが楽しくなり過ぎて困っちゃってるんですが(笑)。
EMTG:(笑)。他の曲でも、いろいろな試みをしていそうですね?
山路:しましたね。“talk”っていうテーマですから、声ネタもいろいろ入れてますし。
EMTG:例えば、「At all」は、コーラスがすごく凝っていますし、ガヤっぽい声も入っているじゃないですか。
山路:はい。メインボーカルはスタジオで録ったんですけど、それ以外の素材の中には僕が部屋で録ったものもあります。あと、偶然やってみたら、良い感じになることもありました。「At all」の最後のギターは、消しゴムで弾いたんですよ。柔らかいもので弾いて出す音のニュアンスがほしくて、「この部屋で一番柔らかいものを探そう!」ってなって、消しゴムで弾いたら一発OK(笑)。
EMTG:(笑)。そういう超アナログなことをやっている一方で、「Hey」や「I told you how」とか、打ち込み、プログラミングの要素が入った曲もあるのが、今作の面白さです。
山路:パソコンを買ったので、ゆっくり打ち込みの作業ができるようになったんです。
EMTG:今までパソコンを使っていなかったというのは、意外です。
山路:ずっとiPadでやってたんですよ。iPadを机に置いて作業すると、ほんと首が痛くなって。「首の後ろ辺りが割れて新しい自分が出てくるんじゃないか?」ってなって、セミの幼虫の気持ちがわかりました(笑)。
EMTG:(笑)。あと、これは「Sick enough to dance」を聴いて改めて感じたことですけど、the engyが鳴らすダンサブルなサウンドは、開放的な明るいダンスというより、どこか悲しみや痛みが滲むところがありますよね?
山路:そうですね。知り合いの会社員は、すごくオシャレな音楽に詳しいんですけど、その理由を訊いたら、「朝出勤する時に、この電車の中で一番オシャレな音楽を聴いてると思わないと、もう耐えられない」って言ったんです。その話を聞いて、「そういう意味でのオシャレって大切だな」と思いましたし、そういう意味での「ダンス」を表現したのが、「Sick enough to dance」ですね。the engyがブラックミュージックっぽいって言われる理由は、そこにもあるのかもしれないです。この曲に込めた「ここでダンスしないとやばい!」っていうような衝動は、抑圧されていた黒人から生まれたブルースやジャズと通ずるものが、もしかしたらあるのかもしれないので。
EMTG:我々日本人と黒人の文化的背景はもちろん大きく異なるわけですけど、抑圧された感情から生まれるエネルギーって、根底では重なるものがあるでしょうね。
山路:そうですね。僕のオヤジは憂歌団が好きで、僕も小っちゃい頃から聴いてたんですけど、そういうところから吸収したものも、もしかしたらあるのかもしれないです。そうやっていろいろ吸収することによって消えてしまう何かがあるとしても、それは個性ではないという感覚もあるんですよね。
EMTG:オリジナリティって、何もないところから突然芽吹くものではないですよね。
山路:僕もそう思います。「オリジナリティとは、今まで聴いてきたものをどうリスペクトするか?」なのかなと。「リスペクトしているアーティストの要素をどんどん取り入れていって、それをどう組み合わせていくのか?」っていうところにオリジナリティは存在すると思ってます。そういうことを踏まえた上で、「吸収してきたものを今の文脈で鳴らすには、どうしたらいいのか?」を常に考えることが必要なんです。
EMTG:やはりthe engyは、緻密に作る部分と、「こういうのって、すごくいい!」っていう衝動的な部分の両方があるバンドということみたいですね。
山路:そうなんだと思います。なんかわからないんですけど、ライブを観てる時に、「ステージに上がってきて何かやれよ!」って急に言われて、ちょっとくらい何かできないと恥ずかしいっていう感覚が、昔からあるんですよ。だから「the engyは、ギターさえあればライブできるんで」っていう感じでいたいという部分も、ずっと持ってるんですよね。

【取材・文:田中 大】

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リリース情報

Talking about a Talk

Talking about a Talk

2019年10月30日

ビクターエンタテインメント

01.At all
02.Still there?
03.Sick enough to dance
04.In my head
05.Touch me
06.Hey,
07.I told you how
08.Have a little talk

お知らせ

■マイ検索ワード

山路洸至(Vo/Gt)
知覚過敏 肩こり
肩こりがすごくひどくなってくると、めっちゃ知覚過敏になってくるんですよ。もしかしたらそれぞれ関係があるのかな?と思って調べました。でも……難しい漢字が多くて(笑)。全然いらん「知覚過敏とは?」っていう説明ばっかり出てきて、調べるのは断念しました。



■ライブ情報

ONEMAN LIVE「Talking about a Talk」
11/25(月) 渋谷 WWW
12/03(火) 心斎橋Pangea

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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