ユアネスが紡ぐ物語で描かれた「死生観」とは――『ES』徹底解剖インタビュー

ユアネス | 2019.11.20

 ユアネスの音楽はどこまでも奥が深い。タイトルに絡めた遊び心、ポエトリーリーディングやインタールードを織り交ぜながら紡ぐストーリーと、それが作品を跨いでつながる連続性。バンドのソングライティングを手がける古閑翔平(Gt)が仕掛けたギミックの数々は、聴けば聴くほど新しい発見がある。11月20日にリリースされる最新EP『ES』もそういう作品だ。これまでミニアルバム『Ctrl+Z』、EP『Shift』という2枚をひとつの作品としたように、今作『ES』も、次の作品につながる布石が随所に施されているという。今作のコンセプトは、「人は花のようである」という死生観。そこに根付く過去との葛藤は、やがてひとつの結末へと辿り着く。日常と思想とが静かに熱く溶け合う『ES』について、メンバー全員に訊いた。

EMTG:今年は、前作EP『Shift』のリリースツアーに始まり、mol-74とのスプリットツアー、秋の自主企画ライブ「情景」と、精力的にライブを重ねる1年になりましたね。
田中雄大(Ba):今まで行けなかったところでたくさんライブをしましたね。
小野貴寛(Dr):初めてモルカルとの2マンをやったり、それ以外でも、LAMP IN TERREN、Halo at 四畳半、アイビー(Ivy to Fraudulent Game)、ネクライトーキーとか、いろいろなバンドと2マンライブさせてもらって。やっとバンド生活にも慣れてきたというか(笑)。
田中:僕らよりも先にバンドを始めたような人たちと一緒にライブをする機会も多かったんですけど、少しは立ち向かえているなっていう気持ちが出来上がりつつありますね。
EMTG:昔よりも自分たちのライブに自信が持てるようになったと。
田中:だいぶ冷静にはなってきたかな。お客さんの反応にこだわってた時期もあったんですよ。もちろん僕らはそこまで激しい曲調でもないから、手を挙げたりっていうのはなくていいんですけど。どうしても「お客さん、怖がってないかな?」って不安だったんです。でも、今では自分たちの音楽がかっこいいっていう自信があるから、余計なことを考えずに、ちゃんと集中して演奏できるようになりましたね。
小野:うん。堂々と演奏できるようになってると思います。
EMTG:『Shift』のインタビューのとき、「さらに続編があるんですか?」って聞いたら、「まだ言えません」って言ってたんですけど。当時、すでに今作『ES』のことを考えていたんですか?
古閑翔平(Gt):そうですね。『Shift』が出たときから、『ES』を出すことは考えてました。だから、『Shift』のトレイラーでは、映像の中に『ES』のタイトルをサブリミナルで入れたりしたんです。
ユアネス「Shift」Trailer Movie
EMTG:今作も、「あなたは嘘をつく」っていうポエトリーリーディングの語りで始まり、パソコンのキーボードのタイトルとか、暗号っぽいインスト曲とか、これまでの作品を踏襲した構成になってますね。
古閑:元々(初の全国流通盤である)『Ctrl+Z』を出したときは、こういうスタイルで出すっていうのもチャレンジみたいな感じだったんですけど。そこから『Ctrl+Z』と『Shift』を1枚の作品として聴いてもらうために同じ構成で作ったことで、これが自分のスタイルだなって実感したんです。
EMTG:これが自分たちらしさだって実感できるのは、リスナーの反応も大きいんじゃないですか?
古閑:僕たちの意図をちゃんと感じ取ってくれてるんですよね。
田中:ちょっと関係ないですけど、最近、『Ctrl+Z』に収録されてる「雨の通り道」っていう語りの音源が、カラオケで配信されてるんですよ。
小野:そうそう(笑)。ツイッターとかで、「雨の通り道」の続きに違うアーティストさんの曲をつないだりしてて。そういう楽しみ方も生み出されてるみたいです。
古閑:「変化に気づかない」(『Shift』の1曲目に収録されているポエトリーリーディング音源)から、クリープハイプの曲が始まる、みたいな。自分たちでシナリオを作る感じになってて面白いですよね。
田中:そういうのも革命的じゃないですか。だから、今回の作品も、まず古閑からトラックリストをもらったときに、「読めないタイトルはSEかな?」とか、「1曲目は語りかな?」とか予想できるんですよ。で、実際に完成したときに間違いなかったなと思う。しかも、ポエトリーリーディングなしで「ES」から入るのでは世界観が全然違うんです。このかたちを作り上げたのは、ひとつの功績だなと思いますね。
EMTG:こんなふうに自分たちの音楽が聴かれるなんて、予想してなかったでしょう?
古閑:まったく。
小野:うちのギターの発明だなと思います(笑)。
EMTG:今回、アルバムのテーマとして、「ES」(エス)を掲げてますけど、日本語で言うと、自我とかエゴと呼ばれるものですよね。どういう意図でつけたんですか?
古閑:誰もが持っている心情というか、意図してないけど心に秘めてる感情を「エス」という言葉でまとめてるんですね。それが僕の中では「死生観」っていうものとつながってるんです。
EMTG:というと?
古閑:元々僕自身よくそういうことを考えるタイプなんです。「いつ死ぬんだろう?」とか、「誰々が死んだらどうなるんだろう?」とか。そういう死に対して、自分が何かを表現したいと思ったときに生まれたのが、今年の1月にワンマンで披露した新曲だったんですね。この曲ができて、今まで僕らは過ぎた日々に対して歌ってたんですけど、これからの自分たちは、死と向き合うことだっていうのが、『Shift』の次の作品としてハマるなと思ったんです。
EMTG:その象徴になるのが、「紫苑」という曲ですよね。
ユアネス「紫苑」Official Music Video
古閑:僕が表現したかった死生観として、「人が花のようだ」っていうテーマがあったから、花の曲を書きたいと思ったんですよね。それで、「どんな曲にしようか?」と思ったときに、「紫苑」はワンマンで披露した新曲のコード進行とリフを全部そのまま使って、メロディだけが違う曲にしたんです。
EMTG:人間が花と重なるのは、どういうときに感じるんですか?
古閑:歌詞でも《誰しもが 感情に 背を向いて/気づけば 枯れ果てる 花のようだ》って表現してるんですけど。太陽のほうを向かずに枯れていく花もあるように、人間も、自分の周りにちゃんと温かい感情があるのに、そこに背を向けている。その姿勢が花のようだなって思うんです。あと、《ずっと快晴じゃ心は枯れ果ててしまう》とも書いたんですけど、人間も、ずっと満たされた状態だと、それもまた枯れてしまう。雨の日があるからこそ生きられるっていうのを表現したかったんです。
EMTG:その花が具体的に「紫苑」であるのは、何か意味があるんですか?
古閑:「紫苑」には“追憶”とか“君を忘れない”とか、そういう意味があって、『今昔物語』にも出てくるんです。ふたりの兄弟がいて、毎年、死んでしまったお父さんの墓参りに行ってたんですけど、お兄ちゃんは「お父さんを忘れて、前を向いて生きていきたい」、弟は「ずっとお父さんを思って生きたい」って言って、別々の道を歩いていくことになるんです。それで、お兄ちゃんは萱草(かんぞう)っていう忘れ草を供えて、弟は想い草である紫苑を供えるんですよ。その後、お兄ちゃんは墓参りをしなくなるんですけど、弟は、道に咲いてる紫苑を見るたびに、お父さんのことを思い出してて。そしたら、お父さんの守護霊が現れて、弟に「幸せな未来を約束しよう」って言って、弟が幸せになる。その話が面白いなと思ったんですよね。
EMTG:へえ。そういうところから、「忘れるべきか」とか「忘れずにいるべきか」という葛藤も今作のひとつのテーマになっているんですね。忘れることも人生だし……。
古閑:忘れずに生きていく道もありますからね。
EMTG:で、そのひとつの答えを、「風景の一部」で歌おうとしてる気がしました。
古閑:そうですね。この曲で終わることで、作品としてひとつのまとまりが出たのかなと思います。
田中:「風景の一部」は、一見、曲調だけ聴いたら、普通に幸せな1日を過ごして、夕方、家路に向かっている人の歌にも聞こえるんですよ。でも、そこに辿り着くまでに、ちゃんと自分を納得できるまで悩んだっていう経緯があるから、いろいろな人が共感できるんじゃないかなと思います。
EMTG:ここまで歌詞の話を聞いてきましたけど、今作はサウンド面でも新しいことをやろうとしていますよね。「CAPSLOCK」なんかは大胆にサンプリング音源を入れてたり。
古閑:いろいろなソフトを手に入れて、新しいサウンドを表現できるようになったんですよね。最近、劇伴音楽に興味があるんですが、それをいきなりユアネスの作品に入れると変化が大きくなってしまうので、その要素を少しだけ入れてます。
EMTG:前作までと比べると、全体的にスローテンポな曲調が多い作品になっているように感じましたけど、黒川くんはボーカリストとして心がけたことはありましたか?
黒川侑司(Vo/Gt):スローテンポなぶん、言葉がより際立ってきますし、今回は歌詞の内容的にも、僕の声色ひとつで楽曲の色が変わってくるので、感情表現の仕方とか、静かに葛藤している熱量みたいなものを大切にしたいなと思って挑みました。
EMTG:小野くん、田中くんはプレイヤーとして、チャレンジしたことはあります?
小野:前作までは、機械的かつ人間的な部分を出そうと思ってたんですよ。だから、クレッシェンド(だんだん強くすること)を均等に上げてたんですけど、今作は、より人間的にしたいと思ったんです。感情って溜まったものが一気に爆発するじゃないですか。だから今回、最初はクレッシェンドを抑えて、一気に感情を爆発するように表現したんです。聞き比べると、「CAPSLOCK」は打ち込み寄りで、「紫苑」とか「風景の一部」は人間っぽくなってますね。
田中:僕は、今回はザ・ベーシストみたいな気持ちで弾きました。今までの流れで言うと、『Ctrl+Z』では実験的な音色とかフレーズを導入して、『Shift』ではバンドサウンドの中でドライブしてるんですけど、『ES』に関しては、人間の体で言うと、血液がまわってるようなイメージですね。
EMTG:派手さはないけれど、しっかりと低音を支えるベースというか。
田中:そういう感じです。
EMTG:ユアネスって歌詞の世界観に注目されることが多いバンドだと思うけど、今作は確実に個々のプレイヤーとしての表現力が増していることを感じる作品になったと思います。
古閑:やっぱりバンドとして常に進化しなきゃいけないですからね。これから会場が大きくなるにつれてサウンドも広がっていくから、今までのアプローチだけでは伝わらない部分も出てくると思うんですよ。そのためには打ち込みに寄り添うドラムだったり、音数が少ないベースを弾く覚悟が必要になるときもある。そういうことも考えなきゃいけないなとは思ってます。
EMTG:年明けからは『ES』を引っさげたワンマンツアーが開催されます。ファイナルはバンド最大キャパとなる恵比寿LIQUIDROOMですが、どんなツアーにしたいと思いますか?
黒川:会場の大きさだったり、人の数っていうのは、僕個人としては正直そんなに重要ではなくて……まあ重要ではあるんですけど(笑)。それ以前に、まずは僕たちにちょっとでも興味を持って新しくライブに来てくれる人たちだったり、いつもとは違う何かを期待して来てくれる人たちが、肩の力を抜いて楽しめるような、そんなライブを作れたらいいなと思います。

【取材・文:秦理絵】

tag一覧 ユアネス シングル 男性ボーカル

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リリース情報

ES

ES

2019年11月20日

HIP LAND MUSIC

01.あなたは嘘をつく
02.ES
03.紫苑
04.ZQ5QEBS
05.CAPS LOCK
06.風景の一部

お知らせ

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https://Yourness.lnk.to/_ES/



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■ライブ情報

ユアネス One Man Live Tour 2020 "ES"
2020/1/11(土)福岡 BEAT STATION
2020/1/12(日)広島 SECOND CRUTCH
2020/1/18(土)新潟 CLUB RIVERST
2020/1/19(日)宮城 MACANA
2020/1/25(土)北海道 cube garden
2020/2/1(土)大阪 Umeda CLUB QUATTRO
2020/2/2(日)愛知 Nagoya CLUB QUATTRO
2020/2/16(日)東京 恵比寿LIQUIDROOM


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2019/12/25(水)大阪 インテックス大阪

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2019/12/29(日)千葉 幕張メッセ国際展示場1~11ホール、イベントホール

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