パノラマパナマタウンの真骨頂「リフとラップ」を貫いた、彼らの「面白い」が詰まった最新作『GINGAKEI』

パノラマパナマタウン | 2019.11.21

 パノラマパナマタウンが吹っ切れた。それは、『GINGAKEI』=銀河系という突き抜けたアルバムのタイトル、「どーん!」という擬音語が聞こえてきそうな痛快なアーティスト写真にも表れているが、いまの4人は、まるでバンド結成初期の大学時代のように、ひたすら自由に、自分たちの「面白い!」を突き詰めるモードに入っている。ヒップホップ主流のシーンの流れも汲み、ロックバンドの枠を超えて完成させた今作は、彼らの真骨頂であるリフとラップ、あるいはループという制約以外はすべて自由。打ち込みを多用した軽快なサウンドアプローチが際立つ実験的な1枚になった。そんななか、フロントマン岩渕想太が書く、世間の当たり前に抗う歌詞の反骨精神は健在。その鋭利さはいっそう研ぎ澄まされている。

EMTG:今回、いろいろな意味で吹っ切れましたね。本人たちを前にして言っていいのかわからないけど、アー写は良い意味でダサかっこいいし、音源もめちゃくちゃ自由じゃないですか。
岩渕想太(Vo/Gt):そうなんですよ。この感じがけっこういろんな人に「変わったね」って言われるんですけど、自分たちでは自然体なんですよね。
浪越康平(Gt):逆にいままで斜に構えてたというか。
田村夢希(Dr):自分たちでは好き放題やっちゃっただけなんです。
タノ アキヒコ(Ba):いま振り返ると、(2017年4月に)上京したぐらいから、どんどんバンドに余裕がなくなってたんです。結成当初は「おもしろいからやっちゃおうぜ」っていうノリだったのに、かっこいいほうにいこうとして、グラグラしちゃったんですよ。
岩渕:でもいまは自分たちっていう人間を素直に出したら、こうなるっていう感じですね。
EMTG:どんどん余裕がなくなったのは「売れたい」とか、そういう気持ちから?
岩渕:と言うよりも、「バンドってこうじゃないとダメなんじゃないか」って自分たちで型にハメてたんだと思います。
EMTG:それが吹っ切れたのは、何がきっかけだったんですか?
浪越:僕が思うには、(前作アルバム『情熱とユーモア』に収録されている)「めちゃめちゃ生きてる」のミュージックビデオを撮ったときですね。あの曲は歌詞も素直じゃないですか。そこで、かっこつけすぎない自分たちを出せたのが大きかったんですよ。
岩渕:あと、『情熱とユーモア』を引っさげたライブで、ちゃんと自分たちが面白いと思ったものに対して、お客さんが熱狂してくれてたんです。逆に、斜に構えて作ったものはそんなに刺さらない。それもあって、自分らが面白くなくなるような要素を全部取り除いていったら、めちゃくちゃ面白い4人が出てきたっていう感じですね。
EMTG:って考えると、今回のミニアルバムはバンドにとって原点回帰に近いのかもしれないですね。ただただ自分たちが面白いと思うものを突き詰めるっていう意味で。
岩渕:あ、ホントそのとおりですね。今回は「リフとラップで勝負する」っていうところ以外は、自由に攻めるっていう作り方だったんですよ。前作の『情熱とユーモア』は考えすぎて複雑になっちゃったり、奇を衒おうとしたところもあって、シンプルさが欠けてたのかなっていうところがあったから。それをメンバーとも話して、今回は、逆に自分たちが信じられるリフとラップだけあったら、それで十分じゃないかって思ったんです。
EMTG:メンバー全員すんなりその結論に納得できたんですか? いままでのケースだと、けっこう浪越くんあたりが異論を唱えることが多かった気がするけど。
浪越:すんなり……ではなかったですね(笑)。
タノ:けっこう「僕 対 浪越」みたいな話し合いだったよね。
浪越:このアルバムのなかで、最初にできたのが「ずっとマイペース」だったんですけど、たしかに「リフとラップ」っていう意味では、いままでのパノラマパナマタウンっぽいけど、僕がイメージする像とは違うなと思って、抵抗があったんです。もっとギターが前に出て、しっかりバンドサウンドなのが理想だと思ってたから。でも、ピアノとかリズムもリフのひとつとして解釈できるようになって、「リフとラップ」の振り幅が広がったんですよね。
EMTG:要するに、メインの楽器がギターだけじゃなくてもよくなったと。
浪越:そう。僕は、アルバムをひとつのテーマでまとめようとしてたんですけど、タノは「いろいろな曲があっていいんじゃないか」って言ってたんです。で、それを、岩渕が「リフとラップ」っていう制約だけは守って、他は自由にしようってまとめてくれたんです。
タノ:もともと僕も「Dive to Mars」にピアノを入れたり、「HEAT ADDICTION ~灼熱中毒~」でホーンを入れることには抵抗がありましたけどね。弾いてない人の音がライブで流れることへの抵抗はあったけど、今回、「リフとラップ」っていう制約を設けることで、逆に他は自由にできるっていう心境になったんです。その縛りのなかで、それぞれがどう自分を生かすか、曲を良くするかを考えられるようになったのが良かったと思います。
EMTG:それにしても、ほとんどの曲でドラムが打ち込みなのが驚きました。
田村:「エイリアン」と「目立ちたくないMIND」以外は打ち込みですからね。
タノ:作る段階からビートマシンでデモを作って、音色からイメージを膨らませることが多いんです。単純に、いま自分がやりたいことが生ドラムじゃないんですよね。聴いてる音楽が、どんどんヒップホップになってる影響だと思うんですけど。曲のノリを継続させるためにマシーン感を出したくて。ライブでは人力でやると思うんですけど。
EMTG:そのあたり、夢希くんはドラマーとして、どんなふうに感じてます?
田村:さっきタノと浪越で争ったって話がありましたけど、僕も最初は生のバンド感を大事にしたいっていう浪越側だったんですよ。でも、いまの時代にロックバンドというものを、どう捉えるかを考えたときに、今回のアルバムで、バンドとして新しい方向性に舵を切るならば、「じゃあ、打ち込みでもいっか」って感じですね。
タノ:だから、これからもずっと生音でやらないっていうわけじゃなくて。今回は「ずっとマイペース」で始まったから、打ち込み要素が多いアルバムになったんです。
浪越:今回、打ち込みの曲には、タノとか岩渕が聴いてるような、最近の面白いサウンドを生かしてるけど、逆に「エイリアン」みたいなバンドサウンドの曲では、60年代とかの古いものを、ちゃんと新しい音楽として聴かせたいっていうこともやってて。打ち込みは打ち込み、バンドはバンドっていうのをわけて作ることも心がけてますね。
EMTG:これだけ自由度の高い作品を作るうえでは、いまの時代のロックバンドとして何を表現するべきかという部分まで、メンバーで話し合う必要があったんでしょうね。
田村:そうですね。やっぱり葛藤はありますよね。
岩渕:そういうのを踏まえたうえで、今回は、ループにラップをのせるっていうヒップホップ的なニュアンスも突き詰めたんです。ギターのリフもあえて機械でループして。でも、サビ裏のフレーズだったり、ギターソロでは、ロックバンドっぽく生にするっていうアプローチにして。(リスナーに)刺したい部分だけ、僕のボーカルとギターを生にすることで、そこがより強く伝わるんじゃないかって想いがあるんです。
EMTG:打ち込みが多くなった結果、今回は全体的に軽やかな作風だなと思ったんですけど、そのあたりは意識してたんですか?
岩渕:そこが今回いちばん意識したところなんですよ。前回の『情熱とユーモア』では言いたいことを言ったぶん、カロリーが高くなったんです。全部聴いた人にはわかるけど、聴かせるまでに労力がいる、みたいなところがあったので。もっとみんなに伝わるものにしたくて、ライブにしろ、音源にしろ、気軽に楽しめるものにしたかったんです。
EMTG:そういう意味では、今回、タノくん作曲のナンバーが多いのも自然な流れかもしれないですね。もともと岩渕くんがメインソングライターだった頃のパノパナって、ダークな曲調が多かったけど、タノくんは明るい曲を作るのが得意じゃないですか。
岩渕:そう、今回は明るいものがほしかったから、タノの存在は大きかった。
浪越:このアルバムを作り終えて、メンバーが得意な楽曲の方向性も見えてきましたね。
岩渕:たしかに。今回、最初のほうに『GINGAKEI』っていうアルバムのタイトルができて、そこからリフとラップ、ループっていうテーマも決まったから、あとは、そのイメージに沿って、タノがいろいろな曲を作るっていう道筋があった感じですね。
EMTG:唯一、アルバムのオープニングを飾る「Dive to Mars」だけは、浪越くんの作曲ですけど。まさにギタリストが作ったっていうのが顕著な曲だなと思いました。
浪越:アルバムを作っていくなかで、自分たちの中心に据えられる曲がないなと思ってたんです。ギターが真ん中にあって、どっしりしたラップを聴かせる曲がほしい。っていうときに、タノが「そういうのは浪越が得意なんじゃないか」って言ってくれて、作った曲ですね。
岩渕:あと、遅いビートで踊れる曲がほしいっていうのもあったんです。ビースティ・ボーイズとかRun-DMCとかを参考にして、ヒップホップ的に楽しませる曲です。
EMTG:歌詞のテーマは「未知の世界に飛び込んでいく」ということだと思いますけど、「火星」というキーワードがキャッチーですよね。
岩渕:このあたりは『情熱とユーモア』を作り終えたあと、ヒップホップ的なストレートな表現があったうえで、ロックバンド的な比喩っぽい表現を入れることで、いろいろな人が想像できるようにしたら面白いんじゃない?って、浪越が言ってくれたことが大きいですね。火星っていう未知の世界に飛び込むっていうことが、まさにいまの自分たちを表してるんです。一時期は守りに入ったり、自分たちの枠に固まってたところもあったけど、知らないところに飛び込もうぜっていう。それを自分たちにも歌いたかったんですよね。
EMTG:岩渕くんのツイッターでは、「ただ火星にいきたい曲」っていう紹介もしてたけど、ちゃんとバンドの決意とも言えるメッセージがある。
岩渕:それも、いままでだったら、ツイッターでも全部細かく説明しようとしてたんですよ。でも、いまは表面に出ていくものを全部軽薄にしていこうと思ってるんです(笑)。こういうインタビューを読んでくれる人には、ちゃんとした意味も伝わると思うんですけど。
浪越:表向きは力抜けた感じにしてるんですよね。
EMTG:その言い方で表現すると、「Chopstick Bad!!!」は、「ただ箸の持ち方を怒る曲」ですね。初めて聴いたとき、笑いましたよ。
タノ:この曲を作る段階で、もう明るい曲は出し切れたなと思って、逆に悪くて汚い感じの曲を作りたくなったんです。シンセベースを買って、いろいろ遊んでるうちに、もうベースを生で弾く曲じゃなくていいから、バンドから遠い曲にしようと思って、飛び道具的な音を入れて。サビも歌謡曲っぽくするんじゃなくて、「ヘイ!」っていう掛け声だけ。それができて、岩渕を家に呼んで、「なんかつけてよ」って言ったら、「Chopstick Bad!!!」って言い出したんです。それが妙にかっこよかったんですよね。
岩渕:これは、さっき言った、遅いビートの曲を作りたかったうちの、タノが作ったバージョンですね。「GINGAKEI」もなんですけど、「Chopstick Bad!!!」も、単純に自分が言いたい言葉だっただけなんです。最近、自分に自信がでてきたら、そういう直感を信じられるようになってて。逆に、そこから膨らませて、どんなことを言えるのかを考えるのがすごく楽しかった。自分のなかでは言いたいことを言えた歌詞ですね。
EMTG:「箸のしつけもなっとらん男にワシの娘はやらん!」っていうセリフが面白いけど、これも宇宙から見たら、地球人の常識っておかしいじゃん、みたいなことですよね。
岩渕:最近、細かいことをあげつらうというか、みんな怒りたがりだなと思うんですよ。それって人によってポイントが違うじゃないですか。お父さんは、箸の持ち方で怒るかもしれないけど、違う国から見たら、そんなの全然わからない。宇宙から見たら、ちっぽけなことかもしれないし。いまは萎縮する時代というか、伸び伸び生きづらいなと思ってて。せせこましいものに対して、抗っていくのが今回の歌詞のテーマですね。もっとラフに、楽しくやりたいことをやりたいし、笑顔になったらいいなと思うんですよね。
EMTG:ええ、それをストレートに歌っているのがラストの「GINGAKEI」ですね。
岩渕:そうです、それを最後に言えたのがよかったんです。
EMTG:結局、じっくり歌詞を聴くと、伝えようとするメッセージの鋭さとか重さは、『情熱とユーモア』から変わってないような気もしました。
岩渕:うん、言いたいことはまったく変わってないと思います。「めちゃめちゃ生きてる」から出発した、「ちゃんと人間として生きていたい」っていうことを歌ってるんです。ただ、そのなかでも、今回は、萎縮との闘いですね。どんな人でも銀河系ぐらいでデカい想像力を持ってるし、なんでも作れるっていうことを言いたくて。
タノ:サウンドの幅は広がってるけど、僕らの根底には、岩渕の言葉を広げるバンドにしたいっていうのは変わらずにあるんですよ。岩渕っていう人間自体、一本筋が通ってるから。それはこれからも貫いていきたいです。
EMTG:なるほど。今日の話を聞いて、ここからパノパナが次のフェーズに進んでいくために、いまは自分たちでも実験的なことを重ねているような時期なのかなと思いました。
岩渕:うん、たしかにそうかもしれない。
田村:だから、僕らも次の作品が楽しみなんですよ。今回、バンドサウンドから離れたのも、「リフとラップ」っていうコンセプトがあるのも初めてだったから、本当に実験的な要素が多いんです。これを聴いて、今後への期待感も高めてもらえたらと思います。
岩渕:実は、すでに次のタイトルも浮かんでるので(笑)。

【取材・文:秦理絵】

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リリース情報

GINGAKEI

GINGAKEI

2019年11月13日

A-Sketch

01.Dive to Mars
02.目立ちたくないMIND
03.ずっとマイペース
04.Chopstick Bad!!!
05.HEAT ADDICTION 〜灼熱中毒〜
06.エイリアン
07.GINGAKEI

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■ライブ情報

銀河探索TOUR 2019-2020
[2019]
11/15(金)名古屋SPADE BOX
11/16(土) 高松TOONICE
11/30(土) 広島 CAVE-BE
12/01(日) 福岡 DRUM SON
12/06(金) 金沢vanvanV4
12/13(金) 札幌SOUND CRUE
12/15(日) 仙台LIVE HOUSE enn 2 nd
[2020]
01/13(月祝) 大阪BIGCAT
01/19(日) 恵比寿LIQUIDROOM

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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