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HOWL BE QUIET、ワンマンツアーファイナルで魅せた 飾らない“ありのまま”の姿とバンドとしての進化。

HOWL BE QUIET | 2017.08.28

 自分たちのパブリックイメージを打ち破るために、自由を獲得するために、メジャーデビュー以降もがき続けてきたHOWL BE QUIETの闘いが終わったなと思った。ハウルが今年5月にリリースしたメジャー初のフルアルバム『Mr. HOLIC』を携えて、全国7ヵ所で開催したワンマンツアー「Mr. HOLIC ~僕が虫で、君が男でも恋したいのです~ TOUR」のファイナル、赤坂BLITZだ。そこには、あらゆる束縛から解き放たれて、心のままに鳴らされるハウルの美しい音楽がいっぱいに溢れていた。そして、同時にフロアはその音楽を心から愛するお客さんでしっかりと埋め尽くされていた。昨年の渋谷クアトロと恵比寿リキッドルーム、そして、今年の赤坂BLITZ。少しずつ大きな会場に立ちながら、その器に相応しいバンドへと確実に進化しているHOWL BE QUIETがいた。 

 メンバーの登場SEで流れるザ・ビッグ・ピンクの「ドミノス」を打ち消すように、竹縄航太(Vo・Gt・Piano)が大きく息を吸い込んでピアノを弾き始める……というのは、アルバムリリースの前哨戦として開催したツアー「pre-HOLIC TOUR」の始まりによく似ていたが、あのときの「From Birdcage」ではなく、今回はアルバムからの新曲「ラブフェチ」でスタートした。「今日はよろしく!」。竹縄の声を合図に加わったバンドサウンドに誘われるように、フロアからは自然に手拍子が湧く。その高いテンションを維持したまま、「ギブアンドテイク」へ。怖いほど生々しい竹縄の恋愛観が詰まった『Mr. HOLIC』のなかでも、とくに象徴的だった2曲を冒頭に置いて、「今日はベタベタに、ドロドロに、まるで少女漫画の奇跡のような1日にしたいと思います」と語りかけた竹縄。それは、いよいよ見たことのないHOWL BE QUIETのライブが始まる、そう予感させるのに十分なオープニングだった。

 カラフルな照明がステージを照らし、シーケンスを多用したジャンル分け不能のポップナンバー「Wake We Up」では、フロントの黒木健志(Gt)と橋本佳紀(Ba)とが、ドラムの岩野亨(Dr)のほうに向き合いながらプレイをする姿も。この日のライブでは、これまで以上にメンバー同士が頻繁に視線を交わしながら、呼吸を合わせるように音を重ねて行くシーンが多かったように思う。すごくバンド感が増していた。「ウォーリー」では、ベースの橋本がギターに持ち変えて、岩野がエレドラを叩き、「クローバー」では竹縄がアコースティックギター1本で歌い出す。その楽曲が必要とする音像を鳴らすためにフレキシブルに楽器を変えながら、ライブはバンドの深い部分を浮き彫りにしながら進んでいった。

 なかでも鮮烈な印象を残したのは、中盤のハイライトになった「矛盾のおれ様」だった。ステージが真っ赤に染まるなか、竹縄がアコギ1本で情念を込めて歌い出した原曲にはないフレーズ。パーカッシブなリズムに、シンセベースをのせて、エレキギターが渋い唸り声をあげるサウンドは、スタイリッシュな印象のCD音源とは全く違う泥臭い曲に生まれ変わっていた。続けて、空間系のエフェクトによる浮遊感のあるイントロから突入したピアノバラード「GOOD BYE」へ。一方は『Mr. HOLIC』が象徴する剥き出しの感情を、もう一方は美しいままに、表裏一体の別れのバラードをつなぐ演出がハウルらしかった。

 MCでは何の前触れもなく、「男女の友情って信じますか? 僕はありえないと思う」と問いかけた竹縄。会場にはざわりと笑い声が起こったが、『Mr. HOLIC』という作品についてインタビューをしたときに、竹縄は“さし飲み”をするような作品と言っていた。心を曝け出して、飾らない自分のままを理解してもらうためのアルバムだと。だからこそ、この日はMCも終始ラフな雰囲気だったし、「さっきのMCで僕のこと嫌いになってない?」なんて、あとから心配になってしまうぐらいの親密なムードが漂っていた。

 そして、終盤には「サネカズラ」と「208」という、ハウルが最も得意とするピアノを基調としたバラードナンバーが用意されていた。音と音のあいだにある静寂すらも音楽の一部として届けるような繊細なバラードが本当に素晴らしかった。そして、あっと言う間に最後のMCへ。「アルバムツアーを回るのが初めてだったけど、こうやってたくさんの人に出迎えてもらって幸せ者です」と清々しい言葉を残すと、「ライブオアライブ」や「MONSTER WORLD」というアップテンポなナンバーを畳みかけ、クライマックスに向けてフロアを全力で盛り上げていった。本編の最後は「幸せになれよ!」という、竹縄の言葉と共に繰り出した「ファーストレディー」。この曲の最後に歌われる“僕が虫で、君が男でも恋したいのです”というフレーズは、今回のツアータイトルでもあり、竹縄航太そのものを表している。ちょっと重くて、痛いところもあるけど、なんだか憎めないファニーなやつ。そんなボーカリストの存在を誰よりも誇りに思い、その魅力をメンバー全員で打ち出そうとしたアルバム『Mr. HOLIC』ツアーの終わりに、その曲はあまりにも相応しかった。

 アンコールでは、橋本が「ライブハウスに5人ぐらいしか(お客さんが)いないときのことを思い出して……今日、これだけのお客さんがここに来てくれてるのは、本当に幸せです」と感慨深そうに語りかけた。すると、竹縄も「こいつら(メンバー)を高校から知ってるわけ。かれこれ10年一緒にやってる。本当に良いところも、悪いところもさ、“ぶっ倒すぞ!”みたいなところも共有してきた仲で。今はっしーも言ってたけど、お客さんがいないときから4人で話し合いながらやってきたから、本当にうれしいです」と言葉を重ねた。そして間もなく終わるライブを惜しみながら、「あー、なんか泣けてくるよね、泣く前に歌ってもいいですか?」と、最後に届けたのは、この日のハッピーを胸に刻みつけるような「レジスタンス」と「Dousite」。そのとき、ステージの際まで歩み出た黒木と橋本が、思い思いに体を動かしてハウルの音楽に身を委ねる1,200人のお客さんの姿を、しっかりと目に焼き付けるように眺める姿が印象的だった。

今回、赤坂BLITZに至るまでのツアーを成功させたことで、ここからのハウルは、獲得した自由を手に、音楽的な探求を深めながら、その精度をあげていく時期に入ると思う。広大な音楽という名の土壌をなんの足枷もなく軽やかに飛躍していくための準備がようやく整った。もしかしたら、この場所こそHOWL BE QUIETのスタートラインかもしれない。 

【取材・文:秦 理絵】
【撮影:山川 哲矢】

tag一覧 ライブ 男性ボーカル HOWL BE QUIET

リリース情報

Mr. HOLIC

Mr. HOLIC

2017年05月24日

ポニーキャニオン

01. ラブフェチ
02. MONSTER WORLD
03. ギブアンドテイク
04. にたものどうし
05. My name is...(ALBUM Ver.)
06. サネカズラ
07. PERFECT LOSER
08. Wake We Up
09. 矛盾のおれ様
10. Higher Climber
11. 208
12. ファーストレディー

お知らせ

■ライブ情報

Eggs presents FM802 MINAMI WHEEL 2017
10/07(土) 大阪ライブハウス20会場

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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