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ポップしなないで、自身最大規模の企画ライブ『ポップしなないでpresents.「冗談」』

ポップしなないで | 2019.03.29

『ポップしなないでpresents.「冗談」』のトップバッターとして登場したのは、現代音楽のエッセンスをポップスに昇華した音楽性が話題となっているMaison book girl。変拍子、大胆な展開を遂げるサウンドと、それに呼応した幻想的なダンス、ドラマチックなライティングによって生み出された空間は、深く引き込まれずにはいられない美しい刺激の結晶であった。昨年の11月にリリースされた最新アルバム『yume』の収録曲の他、「rooms」や「karma」など、ライブでの定番となっている曲も盛り込まれていたセットリストは、初めて彼女たちの音楽に触れた人々への絶好の自己紹介にもなっていた。メンバーの和田輪は「魔法使いのマキちゃん」のMVに出演しているので、ポップしなないでのファンもこのグループに興味を持っている人は多かったと思うが、唯一無二のパフォーマンスを目の当たりにして、すっかり魅了されたのではないだろうか。

 続いて登場したのはWienners。1曲目「恋のバングラビート」がスタートするや否や、会場全体が圧倒的なエネルギーで染め上げられるのをまざまざと感じた。サイケデリックなメロディ、ハイテンションなダンスビート、エモーショナルなバンドサウンドが融合していたあの曲は、何と表現するのが良いのだろう? インドの娯楽映画、通称“ボリウッドムービー”に突然パンクバンドが現れて演奏を始めたかのような――とでも言うべき強烈な個性は、その後に届けられた曲でも様々な形で発揮されていた。「みなさんも好きなものってあるでしょ? ここに来てるってことは、音楽が大好きだと思うんです。今日のイベントに出てる4組、それぞれに違う音楽、それぞれに違う“好き”がある。その自分が思う“好き”っていうものを貫いていってください!」と、途中のMCで語っていた玉屋2060%(Vo & Gt)。このバンドの根本にある姿勢を再確認させられる印象的な言葉であった。

 3組目のバンドは、相対性理論のコンポーザーでもあった真部脩一(Gt)が新たなプロジェクトとして2017年に始動させた集団行動。楽器隊がスタンバイした後に現れた齋藤里菜(Vo)が「今晩は。集団行動の時間です」と挨拶したのを合図にスタートした1曲目は「SUPER MUSIC」。洗練されたポップミュージックでありつつ、グルーヴィーなバンドサウンドとしての魅力にも満ちていた彼らの音楽は、とにかく圧倒的な心地よさがあった。耳を傾けながら穏やかに身体を揺らしていた観客が漂わせていたムードは平和そのもの。スタンドマイクに向かいながら温かい歌声を響かせていた齋藤を中心としてステージ上で鮮やかに構築されたアンサンブルは、会場内を幸福感に溢れた空間にしていた。ラストを飾った「バックシート・フェアウェル」の演奏が終了した瞬間、観客は一斉に拍手。とても贅沢な時間を過ごした感覚になるライブであった。

 最後にステージに登場したのは、このイベントの主催者であるポップしなないで。SEが流れる中、やる気満々の様子が窺われる軽やかな足取りで登場したボーカルのかめがい、ドラムのかわむら。そして、手早く準備を済ませた彼らが、最初に届けたのは「魔法使いのマキちゃん」だった。歌とラップを融合させた表現スタイルが、まず何と言っても刺激的。言葉を溢れ返らせる歌唱スタイルは、“ポエトリーリーディング的”とも言える独特さでファンタジー映画のような物語性を醸し出していた。「ようこそ! 楽しんで帰ってね」とかめがいが挨拶をして2曲目「エレ樫」へと突入すると、ますますキラキラした昂揚感で包まれていった会場内。華やかではあるが、切なさも湛えているメロディは、耳を傾けていた観客各々の胸の内に美しい風景を浮かび上がらせていたのではないだろうか。

「ライブハウスに初めて来た人が今日のライブを観たら、いろんな人がいるんだなって思うんだろうね。我々が出てほしいと思った3組の共通項を見つけてくれたら嬉しい。みんなかっこいいから」(かわむら)。「そうだね。私なんてMaison book girlの和田ちゃんとチェキ撮っちゃったし(笑)。初チェキ。前から2番目に並んだ」(かめがい)――2人がリラックスしながら言葉を交わし合っていた最初のインターバル。「我々も本当はWiennersみたいに“みんなー!”って言って手を挙げたりしたいんだけど、手がふさがってる(笑)」(かわむら)。「でも、手を挙げられないとか言ってるけど、サビで盛り上がれる新曲を持ってきましたよ」(かめがい)というやり取りを経てスタートした「救われ升」は、観客の打ち鳴らす力強い手拍子も加わり、爽やかな熱気を生んでいた。

「Creation」を披露した後のMCでは、新しく発売されたオリジナルグッズのポーチをかめがいが紹介。「女性は買ったら全員モテる。モテアイテムだから(笑)」と言って、観客の和やかな笑いを誘っていた。そして、「言うとおり、神さま」の演奏がスタート。穏やかなイントロを経て、一気に瑞々しい躍動感を帯びる展開にワクワクさせられた。観客は居ても立ってもいられない様子で手拍子。まっすぐに語りかけるように届けられた歌声、ラップは、演劇の一幕のようなドラマチックさを帯びていた。

 本編は4月12日に配信が始まる新曲「丑三キャットウォーク」で締めくくられたが、観客の歓声に応えて行われたアンコール。6月29日に新宿LOFTで『ポップしなないでpresents. 「そそげ!ドンペリ」』が開催されることが発表されて、観客は大喜びしていた。「ライブハウスに来てくれたこととか、これからも来てくれるかもしれないっていうことが、すごく嬉しい。ありがとうございます。みなさんも我々も明日死ぬかもしれないタイプの人たち(笑)。“4月12日と6月29日までは死なないでください!”っていう曲を最後にやろうと思います」と、かわむらが言って、ラストに届けられたのは「ノストラ」。ステージ上の2人が実に楽しそうな表情を浮かべながら演奏していた姿が印象的だった。エンディングを迎えた瞬間、観客は一斉に拍手喝采。深々とお辞儀をしてステージを去ったかめがいとかわむらを心から讃えていた。こうして終演を迎えた『ポップしなないでpresents.「冗談」』。新鮮な刺激をたくさん噛み締めることができたイベントであった。各グループのファンは、新しいお気に入りの音楽を発見したのではないだろうか。

【撮影:稲垣 謙一】
【取材・文:田中 大】

tag一覧 ライブ ポップしなないで Maison book girl 集団行動 Winners

リリース情報

CDはもう売れない

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2018年10月24日

KINGAN RECORDS

1 言うとおり、神さま
2 魔法使いのマキちゃん
3 砂漠の惑星
4 bedroom sound system
5 フルーツサンドとポテサラ

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