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3月から行われたツアー「LOOKING FOR THE MAGIC Tour 2019」東京・豊洲PIT公演

GLIM SPANKY | 2019.07.02

 GLIM SPANKYが「LOOKING FOR THE MAGIC Tour 2019」ツアー・ファイナルを、6月8日に豊洲PITで迎えた。オール・スタンディングのフロアを埋めつくしたオーディエンスとともに、松尾レミ(Vo,G)と亀本寛貴(Gt)は最高の時間を過ごした。

 オーセンティック・ロックを鳴らす二人のファンには大人が多かったが、この日は松尾のようにファッショナブルな若い女性も少なくなく、またこのツアーはキッズ・エリアが設けられたこともあり親子連れも多い。様々な世代の人たちが騒めくフロアに流れた「4 Dimensional Desert」は、二人が「ライブのオープニングに使えるような曲を」と作った曲で、最新作『LOOKING FOR THE MAGIC』の1曲目になっている。ゆったりした手拍子とギターの音が、早くも怪しげな世界を感じさせ、このライブが思いがけないところへ導いてくれることを予感させた。バンドのメンバーに続きステージに現れた亀本は両手をあげて歓声に応え、松尾も手をあげながらギターを持ちセンターに立った。亀本のギターから始まったオープニング・ナンバーは「Love Is There」。サイケデリックなライティングの中で歌う松尾の柔らかな歌声は、シェイクスピアの「真夏の夜の夢」でパックが撒き散らす媚薬のよう。だが、甘くなんかない素敵な夢がここから始まるのだ。

「TV Show」「END ROLL」とエッジの効いたアップテンポな曲で温度を上げていき、「怒りをくれよ」「愚か者たち」とドラマや映画でおなじみになった曲でオーディエンスを沸かせる。歌いながら松尾が「TOKYO!」と叫ぶと、フロアから一斉に腕が突き上げられた。リリース時はタイアップの印象があったとしても今ではそれ以上に彼らの曲。怒りをエネルギーに進むパワーや未来は自分で選ぶという強い気持ちを、彼らの歌は呼び覚ましてくれる。明確なメッセージを持った曲を自分たちのものにしてきた強さを感じさせた。

 これらの曲の間に、初めて立ったPITのステージから亀本は「大きいですね。今日でツアー27本目なんですよ」とフロアを見渡し、松尾は「みんな見えるから」と声をかける。3月からスタートしたこのツアーを改めて噛み締めているようだった。松尾のアカペラから始まった「闇に目を凝らせば」で、心地よい浮遊感に包み込んだかと思うと、イントロのハイトーンのコーラスが覚醒させる「ハートが冷める前に」で更にサイケデリックなサウンドで酔わせる。ステージ両サイドと背景にある白幕に映し出されるカラフルな映像やオイルライティングが曲のイメージを増幅し、ツアーでスケール感を増した演奏が心臓の鼓動と呼応した。

 サイケデリックな「The Trip」では背景に太陽に輝くピラミッドのようなものが現れ、亀本が前に出てご機嫌なギターソロを聴かせた。「The Flowers」「In the air」と最新作からの曲が続くと、バンドとの息のあった演奏が松尾の歌を引き立てた。かどしゅんたろう(Dr)、栗原大(Ba)、ゴメスこと中込陽大(Key)の3人とは何度もツアーを重ねてきたが、また強い絆で結ばれたように思う。松尾と亀本が曲に込めたものを受け止めステージで大きく描いていく阿吽の呼吸というべきものが確かにあった。フロアとも今までにない一体感が生まれていたのは言うまでもない。「褒めろよ」のタフなイントロにフロアから一斉に腕が突き上げられた。

 「たくさんの皆さんありがとうございます。席ないけど窮屈じゃないですか」と亀本が言うと「きついよ」などと声が返る。彼の親しみやすいキャラに和んだところで松尾が口を開いた。「実家にいた頃、土曜の朝が好きだった。少し遅く目を覚ますと、母がパンを焼く香り、オレンジジュースを絞る香りが漂ってきて、庭に父が赤いソファを出してレコードプレイヤーで『小さな恋のメロディ』の、ビー・ジーズの「メロディ・フェア」をかけてる。そう言う朝のゆったりした空間がとても好きだったんです。ひとそれぞれ好きな朝があると思うんですけど、そんな心地いい朝を思い浮かべながら聴いていただけるといいなと思って作りました」と、アコギを持って歌い出した「Hello Sunshine」。映画のワンシーンのような松尾の幸せな空気が漂ってくるような曲だった。

 歌い終わった松尾は、バンドを始めようと思った中学生の頃に友達と観たDVD『ウッドストック』の思い出から、今年が69年に開催されたウッドストック・ミュージック&アートフェスティバルから50周年になると気づいて、やりたかった曲がある、と「ミュージック・フリーク」。サイケデリックな色合いの映像が曲の浮遊感を受け止めた。松尾のルーツを伝えるMCと、思い出に結びついた曲がGLIM SPANKYの核になっているものを伝えてきた。その前のMCでもお洒落にキメてきたオーディエンスを見やりながら「みんな自分の好きなファッションでアイデンティティを爆発させながらくるのがロックのライブだと思う。そう言う音楽仲間たちが周りにいてくれて最高だなと毎回思います」と彼女の根幹を伝えてきた。

「All Of Us」は、そんな彼女の懐の深さを感じさせる曲だ。ライトがフロアも照らし、二人とともに未来を祈る。「NEXT ONE」ではフロアからイントロのハンドクラップが起こり、ミラーボールが回ったダンサブルな「To The Music」では松尾がマイクを差し出すと「オオーオーオー」とシンガロング。フロアが一段と大きく揺れた。そして追加公演が7月7日の新木場STUDIO COASTで行われることを告知して「今日がファイナル。打ち上げみたいな感じで来てください」と言った松尾が「みんなは私たちのロック仲間、目の前にいるロックキッズに送ります」と、大きく息を吸って歌い出した「大人になったら」。夢を打ち砕くようなことを言った大人に、何が“大人になったらわかるのかい?”と問いかけていたこの曲が、自分が感じて信じてきたロックへの確信を込めた歌となって響いた。

 そんな思いを吐露するように松尾は、昨年の武道館後に最新作のモチーフとなったLAのサルベーション・マウンテンへの旅の思い出を話した。長い貨物列車に遭遇した時、「希望や期待を詰め込んで走って行く、それは私たちの人生と同じ。辿り着く場所はあるけど、それがどこかわからない」。そのイメージから生まれた曲が「Looking For The Magic」。「ロックは音だけじゃなくて、ファッションやアート、文学などいろいろなカルチャーと一緒になって生まれている。いろいろなものと一緒になって、新しいカルチャーを作っていけたら。GLIM SPANKYもそういう気持ちでやっている。仲間がいて幸せです」。メキシコに向かうフリーウェイのような景色の映像をバックに松尾が伸びやかに歌った「Looking For The Magic」は、大地を走る4WDさながらに力強く進んだ。

 アンコールは亀本がスライド・ギターでニュアンスを加えた「話をしよう」から旅に誘う「いざメキシコへ」。「ありがとう、東京!」と松尾が叫んで始まったラストの「アイスタンドアローン」は、孤高でも進見続ける彼らの指針となる曲。そんな彼らの志に呼応するオーディエンスから大きな拍手が送られた。

 7月7日の新木場STUDIO COASTでの再会を呼びかけ、新作に向けレコーディング中であることを告げて、名残惜しむようにギターピックを投げたりしながら松尾と亀本はステージを降りた。次に彼らに会う時が楽しみになるフィナーレだった。

【取材・文:今井智子】
【撮影:鳥居洋介】

tag一覧 ライブ 女性ボーカル GLIM SPANKY

リリース情報

Tiny Bird

Tiny Bird

2019年07月07日

ユニバーサルミュージック

01.Tiny Bird

セットリスト

LOOKING FOR THE MAGIC Tour 2019
2019.6.8@豊洲PIT

  1. 01.Love Is There
  2. 02.TV Show
  3. 03.END ROLL
  4. 04.怒りをくれよ
  5. 05.愚か者たち
  6. 06.闇に目を凝らせば
  7. 07.ハートが冷める前に
  8. 08.The Trip
  9. 09.The Flowers
  10. 10.In the air
  11. 11.褒めろよ
  12. 12.Hello Sunshine
  13. 13.ミュージック・フリーク
  14. 14.All Of Us
  15. 15.NEXT ONE
  16. 16.To The Music
  17. 17.大人になったら
  18. 18.Looking For The Magic
  19. 【ENCORE】
  20. EN 01. 話をしよう
  21. EN 02. いざメキシコへ
  22. EN 03. アイスタンドアローン

お知らせ

■ライブ情報


LOOKING FOR THE MAGIC Tour 2019 “EXTRA SHOW”
07/07(日)新木場STUDIO COAST


京都大作戦2019〜倍返しです!喰らいな祭〜
07/06(土)京都府立山城総合運動公園 太陽が丘特設野外ステージ

FUJI ROCK FESTIVAL ’19
07/26(金)~28(日)
新潟県湯沢町苗場スキー場

NAGANO CLUB JUNK BOX 20th Anniversary「COUNTER ROCK!!!!!」
08/08(木)長野CLUB JUNK BOX オハラ☆ブレイク ’19夏
08/10(土)猪苗代湖畔 天神浜

rockin’on presents ROCK IN JAPAN FESTIVAL 2019
08/11(日・祝)国営ひたち海浜公園

RISING SUN ROCK FESTIVAL 2019 in EZO
08/17(土)石狩湾新港樽川ふ頭横野外特設ステージ

SUMMER SONIC 2019
08/16(金)~18(日)舞洲SONIC PARK

WILD BUNCH FEST. 2019
08/24(土)山口きらら博記念公園

Sky Jamboree 2019 〜one pray in nagasaki〜
08/25(日)長崎市 稲佐山公園野外ステージ

FM FUKUI BEAT PHOENIX 2019
09/16(月)福井フェニックスプラザ

THE GREAT SATSUMANIAN HESTIVAL 2019
10/06(日)鹿児島県鹿児島市・桜島多目的広場&溶岩グラウンド

※その他のライブ情報・詳細はオフィシャルサイトをご覧ください。

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