でんぱ組.inc 全国ホールツアー「UHHA! YAAA!! TOUR!!! 2019」の追加公演として、Zepp DiverCity TOKYOで2日間に亘って行われた「UHHA! YAAA!! TOUR!!! 2019 SPECIAL』。“If you want to be happy, be.”というサブタイトルが掲げられていた1日目の模様をレポートする。

　オープニング映像が流れて、観客が一斉に掲げた色とりどりのサイリウム。古川未鈴、相沢梨紗、成瀬瑛美、藤咲彩音、鹿目凛、根本凪がステージに飛び出し、観客を煽ると、「UHHA! YAAA!! UHHA! YAAA!! UHHA! YAAA!!」という野性的なコールが、激しさを増した。そして、「いのちのよろこび」がスタートするや否や、会場全体が桁外れの絶頂感で満たされて仰天！続いて、「でんぱれーどJAPAN」と「プレシャスサマー」も披露されたことによって、早くもライブの佳境に突入したかのような凄まじい熱気が広がった。

　6人の自己紹介を挟んで、強力な曲たちがさらに連発されていった。ステージに並べた椅子のフォーメーションを目まぐるしく変化させながら繰り広げるパフォーマンスが、とても印象的だった「子♡丑♡寅♡卯♡辰♡巳♡」を経て、「Dear☆Stageへようこそ♡」と「待ちぼうけ銀河ステーション」「キラキラチューン」も披露されたが、個性的な動きを取り入れつつ、シャープな切れ味にも満ちているダンス、絶妙なコンビネーションを発揮する6人の歌声は、心底我々をワクワクさせてくれた。先ほど披露された「プレシャスサマー」の中で、《この宇宙を救うのはやっぱやっぱでんぱ組.inc！》と歌われているが、本当にそのようなキラキラした力を感じた人が、たくさんいたのではないだろうか。

　「UHHA! YAAA!! TOUR!!! 2019」は、様々な新しい試みが盛り込まれていて、各公演に足を運んだ観客を毎回沸かせていた。斬新な企画のひとつとして大好評だったのが“でんでんメモリー”という、メンバーが各地の名所を巡る映像を流すコーナー。この日の映像では、鹿目と根本が、お台場の観光スポットを紹介してくれた。アクアシティお台場、お台場たこ焼きミュージアム、観覧車などを楽しむ映像の中で、特に異彩を放っていたのは、うんこミュージアムであった。「これ、未鈴さんにどう？」という感じで、詳述はあまり気が進まない物体を彼女へのおみやげとして選んだ鹿目と根本。その物体は、実際に古川に渡されたそうだが、「家に転がってて……どうしていいかわからない。なんか、捨てたらショックを受けるかなと（笑）」という困惑気味の言葉を聞いて、観客は大爆笑していた。

　「このツアー、自分たちでコンセプトとか、セトリを決めました。でんぱ組.incが、ちょっと避けてた道というか、“聴かせるコーナー”的なものを少し用意しておりますので、ぜひみなさんに聴いてもらいたいと思います」という古川の言葉の後にスタートしたブロックは、これまでのライブでは、あまり体感したことのないタイプのスタイリッシュな雰囲気であった。披露されたのは「形而上学的、魔法」「ユメ射す明日へ」「あした地球がこなごなになっても」。6人それぞれの歌声をじっくりと堪能させてくれたひと時を経て、さらにもうひとつのコーナーが用意されていた。“ファンラブコーナー”と名付けられていたこの企画は、ツイッターに寄せられたファンからのリクエスト曲を、スペシャルバージョンで披露。「ORANGE RIUM」をフル尺で届けてくれたのだが、現在の6人体制になってから、この曲をライブで歌うのは初めてだったらしい。歌い終えた後、彼女たちは、とても感慨深そうな表情を浮かべていた。

　「ボン・デ・フェスタ」が、夏の太陽を呼び戻したかのような熱気を渦巻かせた後、「バリ3共和国」と「ギラメタスでんぱスターズ」も披露されて、再び圧倒的なエネルギーで包まれた会場内。そして、やはり「でんでんぱっしょん」の盛り上がりは、とにかく凄まじかった。スタートする直前の6人のフォーメーションで、何が始まるのかを瞬時に察して、歓声を上げた観客。イントロが流れると、全身で興奮を露わにした人々によって、フロアが心地よく震えた。そんな風景を眺めながら、それぞれのイメージカラーのリボンを鮮やかに波打たせつつ歌い踊ったメンバーたちが、とても眩しかった。

　「ホールツアーが終わっても、こうしてスペシャル公演をやらせていただけるのって、本当にありがたい話。みんながいつも来てくれるからです。ありがとうございます！」と、メンバーを代表して感謝の気持ちを観客に伝えた古川。「みなさんの強い気持ちを、私たちの強い愛でお返ししたいと思います！」という言葉を添えて届けられた「強い気持ち・強い愛」は、とても温かい空間を作り上げていた。そして、本編を締め括ったのは「秋の葉の原っぱで」。終盤に差し掛かったところで全員がイヤモニを外して、生声のアカペラで響かせた歌が、とても綺麗だった。

　アンコールを求める歓声と手拍子に応えて、ステージにひとりで現れた古川。「みなさん、アンコールをありがとうございます。ここで……」と言ってから、言葉を詰まらせた彼女を見て、大切な発表が始まることを察した観客の間に緊張が走った。「ここで私からみなさんに伝えたいことがあります。私は、“アイドルになりたい”という、その一心で秋葉原に飛び込んで、もう14年が経って、そして、でんぱ組.incになって10年が経ちました。嬉しいことも、楽しいこともすっごいたくさんあって。でも、それだけじゃなくてですね、ほんとに悲しいこととか、悔しいことも、すごいたくさん経験しました。長い時間の中で、こうやって生きてきて、ひとつ、大きな決断をしました………………………………」。かなり長い沈黙が流れた間、観客は一切声を発することなく耳を傾けていた。「私、古川未鈴は、結婚します」――この言葉を聞いて皆の間で湧き起こった驚きの感情が、瞬く間に祝福へと転じた、あの時のような独特な空気の波動は、過去に味わったことがない……。フロア全体が古川のイメージカラーである赤色のサイリウムの光で一気に染まり、万雷の拍手と「おめでとう！」という声が上がった。

　暫くの間、その場にうずくまって、涙を流しながら観客の気持ちを受け止めた古川は、立ち上がって再びマイクに向かった。他人のことにまったく興味がなくて、思いやりにも欠けていた自分自身を振り返った彼女。しかし、でんぱ組.incの活動を始めてから応援してくれるファンに出会い、大きく変わることができたのだという。「やっぱり、気持ちとか愛みたいな、そういうのが一番大事なんだなっていうのをみんなが教えてくれました」。そして、その次の言葉は、あの場にいたファンにとって震えるくらい嬉しかったはずだ。「これからも、でんぱ組.incとしての古川未鈴を、どうぞよろしくお願いします！」――彼女は、とても晴れやかな笑顔を浮かべて、そう言ってくれた。

　古川の独唱からスタートした新曲「私のことを愛してくれた沢山の人達へ」は、自分を変えてくれたすべての人たちへの感謝の気持ちで溢れていた。途中でステージ袖から勢いよく飛び出してきて、彼女に抱きついた相沢、成瀬、藤咲、鹿目、根本。6人全員で歌いながら明るい笑顔を交し合っていた姿は、でんぱ組.incが本当にかけがえのないグループであることを、心の底から感じさせてくれた。そして、12月7日「でんぱ組.inc 幕張ジャンボリーコンサート 電波大宴会 幕張懐石 ～でんぱを添えて～」、12月8日「でんぱ組.inc 幕張ジャンボリーコンサートDEMPARTY 幕張式フルコース ～ア・ラ・でんぱ～」――年末に行われる公演の告知が大喝采を浴びた後、「さらなる未来に向かって！」という言葉と共にスタートしたラストの曲は「Future Diver」。でんぱ組.incが、これからも素晴らしい活動を繰り広げるに違いないと、強く確信させてくれる圧倒的なパフォーマンスであった。

　現役アイドルの結婚発表という異例の出来事があったこのライブ。どのような反応があるのかまったくわからず、メンバーたちは、とても不安だったらしい。あんなにも祝福で満ち溢れるとは、スタッフも含めて誰も予想していなかったのではないだろうか。アイドルの現場として、全宇宙に胸を張れるくらい美しいものを、でんぱ組.incが地道な活動の中で作り上げていたことの何よりもの証明だったと言えよう。そして、古川未鈴の活動が、一点の曇りもないひたむきな情熱で裏打ちされていることを、多くのファンが心から認めているという事実も、あのような空間が生まれた大きな理由として挙げておくべきだろう。この公演は“伝説のライブ”として、今後も語り継がれていくに違いない。